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全てを知る者
101話 都市伝説へ
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「そういや、さっきのスキルは何なん? とりわけ効果を実感できないんだけどさ」
あぶねぇー、あぶねぇ、サトランの話題ですっかり忘れかけていた。
謎の呪文をかけられて穏やかにいられるほど、俺はメンタルモンスターじゃねぇての……。
「マイトさん、まずは30日ですよ」
天使のような微笑みを浮かべながら、悪魔のようなことをほざく聖女様。
この笑顔に、今までどれほどの老人たちが騙されたことか……。
フリーダイヤルという魔法で自分の所在を次元の狭間に隠し、30日間というパッシブスキルで、老人たちの思考を麻痺させる。
最終奥義、コレ・DE・イイヤを発動させるのが目的だろう。
これにより、世界は莫大なマネーパワーを得て動きだす。
もっとも、その世界というのが個人のユートピアを意味するのだが……残念なことに大衆浴場ではない!
れっきとした強欲豚の餌箱である。
確かにマネーはケツから手が出るほど大事だが……問題は、何の対価として得たのかだ。
誰かの笑顔のためなら喜ばしいのだが、稼ぐ側は効率を重視する。
皮肉なことに、双方が成立することは稀有なことだ。
これは人間の本質の問題だ。
苦せず、楽を得ようとする……それ自体は悪いことではなく、合理的だとも言える。
ただ、厄介のなのは楽と悪を履き違える輩が一定数いることだ。
そして、それが有効だと証明されれば後を追う者は絶たない。
学習機能本能を持つことが仇となり、心を置き去りしたまま先へと進んでしまう。
気づいた時にはもう、後戻りはできない。
あとは誤った道を突き進みながら、より多くの同類を巻き込み、自壊してゆくだけ……だ……。
こうして世界は歪んでゆく。人々から笑顔が消え、理不尽に対する憤りばかりの世の中に移り変わってしまう。
いや……正確には歪んでしまったか……。
このセカイは、俺の住んでいた世界とは違う。まだ、ちゃんと機能している。
彼女ような、悲しい犠牲者は出ていないはずだ……。
「マイトさん? どこか具合が悪いのですか? 顔色が優れませんわよ」
「いや、スマン。ここに向かう途中で、糞不味い寿司屋に立ち寄ったから、食あたりを起こしているのかもしれないな」
「なんだぁ、主も気づいたんか? あの、ワキ握り寿司に。見た瞬間、我は身の危険を感じてスルーしたのだが……まさか、入店していたとはな……かるく軽蔑するぞ」
「えっ……見直さないの?」
身から出たのはサビではなく鼻水だった。
適当なホラ話が、現実に存在するというショッキングな話。
都市伝説では、カメラ好きの大将が、いつ洗ったのかも分からない素手に消毒用のツバを吐きつけてシャリを取り、ホッカホカの脇でネタと一緒に握ってくれるそうだ。
聞いただけでも食欲を無くし、げんなりとしてくる。
本当に見つからなくて良かった……。
奴はきっと俺がここにやって来るのを知って先回りしていたのだろう。
いくら夜明け前に出店しようが、転移用便座を見つけられなかった時点でヨシユキの奴は負け確している。
「お前さん方、ここに何用じゃ……?」
一瞬にして息が止まりかけた。俺の肩にアゴをライドオンさせたババアが話しかけてきた。
こえっぇええ――!! こいつが巷で有名な恐怖体験という奴か……。
「あっ、ふっふ~!」ババアが耳に息を吹きかけてきたせいで変な声を出してしまった。
つーか、漉餡の女将さんじゃないか! 見つかっていけない相手にバレてしまった。
そして、体臭がキツイ……婆さんのくせに咽るほど甘ったるい臭いがする。
「やはり、そうであったか! ただのダルマにしては不自然過ぎたからのう。ワシャの目の黒いウチは誤魔化せんぞ」
すでにグラビアを解除し、人として生きていた俺を見て老婆をひたすら頷いていた。
着物の袖をポケット代わりに、自分の手を仕舞い込んでいる。
そこから、いつドスが出てくるのか? ヒヤヒヤしたが、俺たちをいきなり追い返すつもりはなさそうだ。
でなきゃ、小鳥ように人の肩を止まり木代わりなんかしないだろう。
そもそも、俺にショルダーは顔掛けハンガーじゃねぇぞ! いつまで寄りかかっているつもりだ。
「ふふっ……ババアよ。我が誰だと聞いたな? 我の名は――――「私たちはダンジョンを探索している冒険者です。実は、一晩泊めてくれる宿を探していたのですが……間違えて、こちらの敷地に入ってしまいました。すみません」
ナイスだ! シャル。魔王よ、お前はアウトだ!
聞かれていない上に、自ら魔王である素性を明かそうする辺りの抜けたところは平常運転だと感じる。
ハッキリ言って、知性のブレ幅が酷すぎて、いつやらかすのか? 予測がつかない。
「自己紹介なんて無意味さね。オメェーらの正体はお見通しよぉ……ワシャ、シズエ。この和菓子屋の店主さね」
無意味が三秒で無意味になった。
あぶねぇー、あぶねぇ、サトランの話題ですっかり忘れかけていた。
謎の呪文をかけられて穏やかにいられるほど、俺はメンタルモンスターじゃねぇての……。
「マイトさん、まずは30日ですよ」
天使のような微笑みを浮かべながら、悪魔のようなことをほざく聖女様。
この笑顔に、今までどれほどの老人たちが騙されたことか……。
フリーダイヤルという魔法で自分の所在を次元の狭間に隠し、30日間というパッシブスキルで、老人たちの思考を麻痺させる。
最終奥義、コレ・DE・イイヤを発動させるのが目的だろう。
これにより、世界は莫大なマネーパワーを得て動きだす。
もっとも、その世界というのが個人のユートピアを意味するのだが……残念なことに大衆浴場ではない!
れっきとした強欲豚の餌箱である。
確かにマネーはケツから手が出るほど大事だが……問題は、何の対価として得たのかだ。
誰かの笑顔のためなら喜ばしいのだが、稼ぐ側は効率を重視する。
皮肉なことに、双方が成立することは稀有なことだ。
これは人間の本質の問題だ。
苦せず、楽を得ようとする……それ自体は悪いことではなく、合理的だとも言える。
ただ、厄介のなのは楽と悪を履き違える輩が一定数いることだ。
そして、それが有効だと証明されれば後を追う者は絶たない。
学習機能本能を持つことが仇となり、心を置き去りしたまま先へと進んでしまう。
気づいた時にはもう、後戻りはできない。
あとは誤った道を突き進みながら、より多くの同類を巻き込み、自壊してゆくだけ……だ……。
こうして世界は歪んでゆく。人々から笑顔が消え、理不尽に対する憤りばかりの世の中に移り変わってしまう。
いや……正確には歪んでしまったか……。
このセカイは、俺の住んでいた世界とは違う。まだ、ちゃんと機能している。
彼女ような、悲しい犠牲者は出ていないはずだ……。
「マイトさん? どこか具合が悪いのですか? 顔色が優れませんわよ」
「いや、スマン。ここに向かう途中で、糞不味い寿司屋に立ち寄ったから、食あたりを起こしているのかもしれないな」
「なんだぁ、主も気づいたんか? あの、ワキ握り寿司に。見た瞬間、我は身の危険を感じてスルーしたのだが……まさか、入店していたとはな……かるく軽蔑するぞ」
「えっ……見直さないの?」
身から出たのはサビではなく鼻水だった。
適当なホラ話が、現実に存在するというショッキングな話。
都市伝説では、カメラ好きの大将が、いつ洗ったのかも分からない素手に消毒用のツバを吐きつけてシャリを取り、ホッカホカの脇でネタと一緒に握ってくれるそうだ。
聞いただけでも食欲を無くし、げんなりとしてくる。
本当に見つからなくて良かった……。
奴はきっと俺がここにやって来るのを知って先回りしていたのだろう。
いくら夜明け前に出店しようが、転移用便座を見つけられなかった時点でヨシユキの奴は負け確している。
「お前さん方、ここに何用じゃ……?」
一瞬にして息が止まりかけた。俺の肩にアゴをライドオンさせたババアが話しかけてきた。
こえっぇええ――!! こいつが巷で有名な恐怖体験という奴か……。
「あっ、ふっふ~!」ババアが耳に息を吹きかけてきたせいで変な声を出してしまった。
つーか、漉餡の女将さんじゃないか! 見つかっていけない相手にバレてしまった。
そして、体臭がキツイ……婆さんのくせに咽るほど甘ったるい臭いがする。
「やはり、そうであったか! ただのダルマにしては不自然過ぎたからのう。ワシャの目の黒いウチは誤魔化せんぞ」
すでにグラビアを解除し、人として生きていた俺を見て老婆をひたすら頷いていた。
着物の袖をポケット代わりに、自分の手を仕舞い込んでいる。
そこから、いつドスが出てくるのか? ヒヤヒヤしたが、俺たちをいきなり追い返すつもりはなさそうだ。
でなきゃ、小鳥ように人の肩を止まり木代わりなんかしないだろう。
そもそも、俺にショルダーは顔掛けハンガーじゃねぇぞ! いつまで寄りかかっているつもりだ。
「ふふっ……ババアよ。我が誰だと聞いたな? 我の名は――――「私たちはダンジョンを探索している冒険者です。実は、一晩泊めてくれる宿を探していたのですが……間違えて、こちらの敷地に入ってしまいました。すみません」
ナイスだ! シャル。魔王よ、お前はアウトだ!
聞かれていない上に、自ら魔王である素性を明かそうする辺りの抜けたところは平常運転だと感じる。
ハッキリ言って、知性のブレ幅が酷すぎて、いつやらかすのか? 予測がつかない。
「自己紹介なんて無意味さね。オメェーらの正体はお見通しよぉ……ワシャ、シズエ。この和菓子屋の店主さね」
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