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第一話 早過ぎる発症

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 あれは8月の日曜日だった。
 午後から遊びに行く為、先に家事を済ませようと洗濯をしていた時だ。

「……あれ?」

 靴下を干そうとピンチハンガーに手を伸ばすが掴めない。

 ちゃんと見ていなかったのかな? とハンガーをしっかり見ながら改めて掴もうとする。
 それでもスカッとかわされてしまう。

 その後も何度か繰り返し、どうにか掴む事が出来た。
 どうやら実際の場所より下に向けて手を伸ばしているらしい。

 とりあえず原因はわかった。
 問題はどうしてそうなっているかだ。
 こんなのは生まれて初めてだ。

「……あっ」

 嫌な事が頭をよぎった。
 それは父親の事だ。

 父親は脳出血で亡くなっており、そもそも高血圧の家系である。
 そして俺も降圧剤を飲んでいるのだ。

「マジかよ……」

 何か非常事態が起きている。
 心臓がバクバクし始める。

 俺は最後にもう一度だけハンガーに手を伸ばしてみる。これでダメだったら…


 ……俺の手は空を切った。


「ダメだ!諦めた!」

 その瞬間、俺はスマホに手を伸ばし、即座に119番にかけて繋がった。
 これで、とりあえず最悪の事態は避けられると思っていた。

 しかし、問題はここからだった。

 救急隊から住所を聞かれた時、アパートの住所が一切頭に浮かばない。
 浮かぶのは実家の住所だけだ。

 なんだこれ? おかしい! なんだこれ!?

 とさらなる異常事態に俺は一気に混乱した。
 それに合わせるように頭がボーッとし始め、喋りにくくもなっている。

 やばい! このままでは
 救急隊はここに来れない!

 非常に焦った俺は当たりを見渡すと、近くに一通の葉書があった。

 ……これだ!

 俺は葉書に書かれてるアパートの住所を必死に読み上げたが、既に意識が混濁しており、その後の事はよく覚えていない。

 既に床に横たわっていて動く事も出来ず、おそらく目も瞑っていたのだろう。
 真っ暗な世界の中、全てが混乱していた。

 訳がわからない…… どうなってるんだ……

 しかし、その時とある「言葉」が俺の頭をよぎった。

 非常にハッキリ浮かんできた言葉。
 それは自分自身への問い。
 そしてその答えだった。


「これで終わりかな…… それでもいいかな」


 そう頭の中でつぶやいた直後、俺は完全に意識を失った。
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