百万の契約

青いピアノ

文字の大きさ
154 / 295
第3章 契約と運命

第150話 変わる魔力

しおりを挟む

「……見違えたわね」

サナエ医療担当官の目が、椿の全身を優しく、だが注意深く見つめていた。


「そう…ですかね。た、たしかに魔力は今までのものとは違うとはわかるんですが…」

「一見大した変化に見えなくても、内に秘めた力はまるで別物よ。あなたはまだその変化の大きさに気づいていないだけ。これまでもそうだったでしょう?長官級の敵を一撃で倒したと聞いたわ。それは、魔力の量と純度が高まって、術の威力を最大限に引き出すことができるようになったからよ」

「たしかに、そうですね…」

「他のみんなはどう?」

サナエは柔らかい口調で尋ね、百合の目を見つめた。

「新しい魔力のコントロールは難しいはずよ。でも、基本的なコツはもう掴んでいる。半日も練習すれば、すぐに自分のものにできると思うわ」

「はい…。なんだか、体が、心が、温かくなったような…不思議な感覚です」

サナエはにこりと笑って、回復したレイチェルに目を向けた。

「あなたはどうする?」

レイチェルは、しばらく考えた後、ゆっくりと口を開いた。

「私は…ごめんなさい。まだ…」

「そう…。いいのよ、焦らなくても」

「…はい」

新指揮官とサリュー管理官は既にそれぞれのテントの中で眠りについていた。一方で、メルスはサナエに「数値はきちんととれたそうです」と報告すると、荷物をしまい始めた。

「Bチームも大きく負傷しているようだわ。既にロコ執行官を除く全員が、ここに二回も戻ってきているみたい。私は、彼らの担当じゃないから聞いただけだけど。恐らくこの先も同じような強敵が待っているわ。十分に気をつけてね」

サナエが優しくそう言うと、魔法の札を一人一人の目を見つめながら手渡した。

椿たちは、お礼を述べると、札に魔力を込める。

既に太陽の光は遠くから漏れ始めていた。

パチパチ…と青白い光が空間に現れると、椿、百合、レイチェル、ステファニー、真弓は姿を消した。

岩陰の結界内で、綾香は「待ってたよ!」と笑顔で椿に抱きつくと、二ヴィとスキーを起こさないように、静かに、全員の無事を祝福した。

朝日が登ると、一行は次の地へと歩みを進めた。既に回復した綾香はグラベルから降りて、レイチェルと共に最後尾を歩く。

「レイチェルは、本当によかったの?儀式をやらなくて」
「…ええ、なんだか私は怖くて…」

レイチェルは朝焼けに光る白金の髪をかき分けながら、切ない響きで呟いた。

「怖い?何が…?」
「…多分、幼い頃に両親と結んだ契約を破ることがかな。幼少期に結んだ最初の契約の一つなの。私は、初めては結婚する人だってずっと思っていたの。契約が絶対だなんて思わなくなった今でも、ソレが美徳だと思っちゃうのかな」

彼女の言葉は朝日に溶け、光と影の狭間で揺れる心を映し出す。

「どうしたらいいのかな」

口元は笑みを浮かべ、眉は哀しみに寄せていた。

綾香は椿と過ごした夜を思い出し、半歩歩みを遅めた。

レイチェルの言葉に、自分のこれまでの言動を照らし合わせた。

「私は、自分に正直になっただけだよ!」

レイチェルの椿への想いと彼女の葛藤を知り、一瞬胸に棘が刺さった気がした。しかし、後悔はない。そう確信すると、レイチェルに追いつくように駆け寄った。綾香の笑顔に押されて、レイチェルは前を歩く椿の背中をそっと見つめた。

グラベルを中央において、右手に椿と真弓が新しくなった魔力に慣れる練習をしていた。歩みを進めながらも、器用に魔力をふわふわと動かす。時折椿が真弓を指導するように、手を触れる。その度に真弓は昨夜のことを思い出さざるを得なかった。

『ていうか、なんでこんなに平然としていられるのよ!?』

真弓は椿に悟られないようにこっそりと視線を彼の真剣な目に向けると頬を赤く染めた。

グラベルの左手には、ステファニーとスキーが横に並んで歩いている。スキーはステファニーをじっと見つめると軽やかな口調で言った。

「本当にすごい!みんな、別人のように変わった」
「そう?スキーは魔力探知が得意なのね」
「獣人はエルフよりも魔力探知が得意なんだよ。私はね、色のかかったモヤが見えるんだけど、人によっては抽象的なイメージとして見えたり、匂いで識別するの」
「へえ、私は何色?」
「うーんとね、青みがかった銀!みんなも銀っぽい色!ニヴィは黄色だけどね!」
「銀?へえ、銀か…。…スキーはすごいんだね」
「へへへへ…」

スキーは尻尾をしなやかに振った。

最前列を行くのは百合とニヴィ。二人は周囲を警戒しつつ、話をしながら歩みを進めている。

「…そういえば、ニヴィはどうして奴隷に?」
「…ああ、俺は赤唐と呼ばれる奴隷商人によって、霧ノ都の最前線基地に売り払われる予定だったんです。俺の魔力が開花したら、都が俺の力を欲しがったみたいなんです」
「開花…?」
「あ、そろそろですよ、次の地」

すると、何も無い荒れ地に一本の大きな木が現れた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

性転のへきれき

廣瀬純七
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...