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第3章 契約と運命
第150話 変わる魔力
しおりを挟む「……見違えたわね」
サナエ医療担当官の目が、椿の全身を優しく、だが注意深く見つめていた。
「そう…ですかね。た、たしかに魔力は今までのものとは違うとはわかるんですが…」
「一見大した変化に見えなくても、内に秘めた力はまるで別物よ。あなたはまだその変化の大きさに気づいていないだけ。これまでもそうだったでしょう?長官級の敵を一撃で倒したと聞いたわ。それは、魔力の量と純度が高まって、術の威力を最大限に引き出すことができるようになったからよ」
「たしかに、そうですね…」
「他のみんなはどう?」
サナエは柔らかい口調で尋ね、百合の目を見つめた。
「新しい魔力のコントロールは難しいはずよ。でも、基本的なコツはもう掴んでいる。半日も練習すれば、すぐに自分のものにできると思うわ」
「はい…。なんだか、体が、心が、温かくなったような…不思議な感覚です」
サナエはにこりと笑って、回復したレイチェルに目を向けた。
「あなたはどうする?」
レイチェルは、しばらく考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「私は…ごめんなさい。まだ…」
「そう…。いいのよ、焦らなくても」
「…はい」
新指揮官とサリュー管理官は既にそれぞれのテントの中で眠りについていた。一方で、メルスはサナエに「数値はきちんととれたそうです」と報告すると、荷物をしまい始めた。
「Bチームも大きく負傷しているようだわ。既にロコ執行官を除く全員が、ここに二回も戻ってきているみたい。私は、彼らの担当じゃないから聞いただけだけど。恐らくこの先も同じような強敵が待っているわ。十分に気をつけてね」
サナエが優しくそう言うと、魔法の札を一人一人の目を見つめながら手渡した。
椿たちは、お礼を述べると、札に魔力を込める。
既に太陽の光は遠くから漏れ始めていた。
パチパチ…と青白い光が空間に現れると、椿、百合、レイチェル、ステファニー、真弓は姿を消した。
岩陰の結界内で、綾香は「待ってたよ!」と笑顔で椿に抱きつくと、二ヴィとスキーを起こさないように、静かに、全員の無事を祝福した。
朝日が登ると、一行は次の地へと歩みを進めた。既に回復した綾香はグラベルから降りて、レイチェルと共に最後尾を歩く。
「レイチェルは、本当によかったの?儀式をやらなくて」
「…ええ、なんだか私は怖くて…」
レイチェルは朝焼けに光る白金の髪をかき分けながら、切ない響きで呟いた。
「怖い?何が…?」
「…多分、幼い頃に両親と結んだ契約を破ることがかな。幼少期に結んだ最初の契約の一つなの。私は、初めては結婚する人だってずっと思っていたの。契約が絶対だなんて思わなくなった今でも、ソレが美徳だと思っちゃうのかな」
彼女の言葉は朝日に溶け、光と影の狭間で揺れる心を映し出す。
「どうしたらいいのかな」
口元は笑みを浮かべ、眉は哀しみに寄せていた。
綾香は椿と過ごした夜を思い出し、半歩歩みを遅めた。
レイチェルの言葉に、自分のこれまでの言動を照らし合わせた。
「私は、自分に正直になっただけだよ!」
レイチェルの椿への想いと彼女の葛藤を知り、一瞬胸に棘が刺さった気がした。しかし、後悔はない。そう確信すると、レイチェルに追いつくように駆け寄った。綾香の笑顔に押されて、レイチェルは前を歩く椿の背中をそっと見つめた。
グラベルを中央において、右手に椿と真弓が新しくなった魔力に慣れる練習をしていた。歩みを進めながらも、器用に魔力をふわふわと動かす。時折椿が真弓を指導するように、手を触れる。その度に真弓は昨夜のことを思い出さざるを得なかった。
『ていうか、なんでこんなに平然としていられるのよ!?』
真弓は椿に悟られないようにこっそりと視線を彼の真剣な目に向けると頬を赤く染めた。
グラベルの左手には、ステファニーとスキーが横に並んで歩いている。スキーはステファニーをじっと見つめると軽やかな口調で言った。
「本当にすごい!みんな、別人のように変わった」
「そう?スキーは魔力探知が得意なのね」
「獣人はエルフよりも魔力探知が得意なんだよ。私はね、色のかかったモヤが見えるんだけど、人によっては抽象的なイメージとして見えたり、匂いで識別するの」
「へえ、私は何色?」
「うーんとね、青みがかった銀!みんなも銀っぽい色!ニヴィは黄色だけどね!」
「銀?へえ、銀か…。…スキーはすごいんだね」
「へへへへ…」
スキーは尻尾をしなやかに振った。
最前列を行くのは百合とニヴィ。二人は周囲を警戒しつつ、話をしながら歩みを進めている。
「…そういえば、ニヴィはどうして奴隷に?」
「…ああ、俺は赤唐と呼ばれる奴隷商人によって、霧ノ都の最前線基地に売り払われる予定だったんです。俺の魔力が開花したら、都が俺の力を欲しがったみたいなんです」
「開花…?」
「あ、そろそろですよ、次の地」
すると、何も無い荒れ地に一本の大きな木が現れた。
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