百万の契約

青いピアノ

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第3章 契約と運命

第156話 百合と真弓

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「百合!大丈夫!?」

椿が百合をそっと起こし、傷を確かめる。服は防御性能を施されていたはずが、ゴブリンの爪に無残に裂かれ、大きな胸が露わになり、下半身はかろうじて下着一枚が残るのみ。岩に囲まれた荒々しい地形が、彼女の無防備な柔らかな姿を冷酷に際立たせる。椿の心は、痛みで締め付けられた。

「ごめん、僕がそばにいれば…」

椿は白い契約管理官のコートを脱ぎ、百合に優しく着せ、抱きしめる。背後の岩壁が、二人の影を映す。

百合は放心状態で、涙をこぼし震えていた。椿もまた、静かに涙を流した。

ニヴィと真弓は遠くからその光景を見守るが、ニヴィがスキーの安否を気にかけ、二人は急いでスキーの元へ向かう。

スキーはゴブリンに襲われる寸前、ステファニーの氷山の襲撃で間一髪救われた。大半のゴブリンがその一撃で倒れ、残りはステファニーのレイピアで確実に仕留められた。

「かはっ!な、なんで人間がこれほどの魔力を!?」

最後のゴブリンが震えながら叫ぶと、ステファニーは冷たく答える。

「井の中の蛙って知ってる?私より強い人間なんて五万といるのよ」

氷のような眼差しで睨むと、ゴブリンは恐怖で気を失った。

「スキー!」
「ニヴィーーー!」

二人は駆け寄り、抱きしめる。

「…真弓さん、他のみんなは?」
「椿は無事だけど、百合が服を裂かれて精神的に参ってる…。かわいそうに…」
「そう…。ゴブリンを相手にする時、一番恐れることが…」
「幸い、服を破られ、触られただけみたいだけど…」
「それでも、辛いよね…」

その時、ドン!という轟音と共に火柱が上がった。岩の向こうで炎が揺らめく。

綾香だった。

四人が駆けつけると、遠方でレイチェルが風の魔法で綾香の火力を増幅し、ゴブリンを一掃していた。岩場に漂う焦げた匂いが、戦いの激しさを物語る。

「火遁・炎波」
「風よ、味方の火を助けたまえ」

三メートルの炎の波が、風に煽られ五メートルを超える巨大な炎となり、荒々しく燃え広がる。ゴブリンたちの魔力膜は一瞬で飲み込まれ、岩に黒焦げの跡を残した。

「綾香!レイチェル!百合が…!」

真弓の叫びに全員が驚き、椿と百合の元へ急ぐと抱き合う二人を見つけ、駆け寄った。

「みんな…」
「椿さん、捕まった女性たちを助けに向かいましょう」
「でも、百合は…」
「百合は私に任せて!」

真由美の力強い言葉に押され、椿はニヴィ、スキーと共に、ゴブリンに攫われかけた女たちを解放に向かった。


「…百合、大丈夫?」
「うん、なんとかね」

綾香の問いに、椿は気を落としながら答える。女たちを解放すると、歓声が岩場に響き渡る。中には涙ぐむ者もいた。

「すごいわ!あの手強いゴブリンたちを簡単に倒すなんて!」
「ありがとう、このままどうなることかと…!」

感謝の声に包まれながらも、椿の心は百合に留まる。

だが、意外にも百合は気力を取り戻していた。

「あの、くそゴブリンめー!!!絶対許さない!私の体は椿だけのものなのに、めちゃくちゃに触りやがって!!」

「は、ははは…。百合、大丈夫なの?」

「何?知らない犬に唇舐められたらそんなに落ち込む?ゴブリンなんてそんなもんだよ」

百合は腕を組み、綾香を睨む。岩場に響く彼女の声が、僅かに空気を和らげる。

その夜、簡素な柵を女たちと共に作り、交代で警備しながら一行は休息を取った。岩の隙間から漏れる風が、静かな緊張を運びながら。

多くの人が眠りにつく中、百合は一人、星空の下に座っていた。岩の冷たさが背中に染みる。真弓がそっと隣に腰を下ろす。

「何考えてるの?百合らしくもない…」
「うん…。この任務であまり役に立ててないなって、ふと思ってさ」
「そんなことないよ。的確に指示出してるじゃん。百合は強いし、みんな頼りにしてるよ?」
「そうかな…?今日だってミスして心配かけちゃって…」
「それも、ニヴィを心配してでしょ?百合のせいじゃないよ」
「うん…」
「何かあったら、なんでも言ってよね?私、ナナとばかりいたけど、三人とも友達でしょ?」
「ありがとう…」

百合は真弓の肩に頭を乗せる。星々の光が、岩に囲まれた二人の姿を静かに照らした。
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