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第3章 契約と運命
第155話 岩血のゴブリン
しおりを挟む岩血ゴブリンの群れが四つん這いで地を這うように突進し、砂塵を巻き上げ、鈍い地響きが辺りを震わせた。獰猛な咆哮とともに、鋭い爪と牙を剥き出し、椿たちのもとへと殺到する。
角笛を吹いたゴブリンが、攻撃を受ける寸前に空間移動魔法で瞬時に姿を消した。その残響が、まだ耳に残る。
「百合!どうする!?応戦するか!?」
「岩血ゴブリンは知能が低いですが、攻撃力とスピードは恐ろしいです!先手を取るしかありません!」
ニヴィの険しい叫びに押され、百合は素早くし攻撃の合図を送る。しかし、先手を打ったのはゴブリンだった。
「ぎひ!やれ!火の玉・二十連!」
「水の矢・六連!」
「風の刃・五連!」
「電気玉・十連!」
「泥団子・三十連!」
「先手を打たれた!皆、魔力膜を!三重魔障壁!!」
椿が急いで簡易結界を張るが、ゴブリンたちの猛攻に瞬く間に砕け散る。防ぎきれなかった魔法が、一同を容赦なく飲み込んだ。
バリン!
「きゃあ!」
「く…!」
「ただの魔障壁だが、硬かったぞ!?」
「人間にしてはな!」
やや大柄なゴブリンたちが、足を止めず両手を天に掲げる。
「古の盟約に従い、天空の扉は開かれん。地に満ちるは混沌、空には岩塊。重力は我が手に従い、星辰は道を譲らん。今こそ、天より砕け散る鉄槌となれ!天墜岩砕《てんついがんさい》!」
一瞬にして、椿たちの頭上が暗い影に覆われた。無数の岩石が空を埋め尽くし、轟音とともに降り注ぐ。空気が裂ける音が、死の予感を漂わせる。
ズズズン!!
間一髪、全員がその場を離れた。レイチェルは空間移動魔法でロバのグラベルを退避させるが、岩石の嵐は仲間たちを四方に散らせた。
「しまった…!岩のせいで合流が難しい…!」
椿は荒々しい岩場と砂塵の中で危機を瞬時に悟るが、ゴブリンたちは既に次の動きを見せていた。
「皆さん!無事ですか!?できる限り一人にならないように!」
ニヴィが叫び、魔力探知で仲間が散り散りになったことを察知する。焦りが声に滲む。
「くそ…!スキーも一人か!この岩が邪魔だ!!」
「女!女!女!」
ゴブリンたちは獲物を追い詰めるように散開し、一人一人を確実に仕留めにかかる。岩に閉ざされ、逃げ場を狭めていた。
「ちょっと!?知能低いんじゃないの!?なんでこんな戦略的なの?」
百合は杖を構え、息を整えながら臨戦態勢に入る。背後の岩壁が、彼女の背を冷たく押す。
スキーはゴブリンに狙われ、怯え縮こまる。岩の隙間から漏れる風が、彼女の震える髪を揺らす。
「まずい…!スキーちゃんと距離がある!」
ステファニーは急いでスキーに向かうが、岩の障害と距離に阻まれる。
「レイチェルは少し遠いな…。魔法を急いだせいなのかな…!」
綾香はクナイを握り、背後に感じるレイチェルの魔力を気にしながら、身構える。
「あああ…!やっちゃった!すごい変なところに飛んだわ!」
レイチェルは先ほど登った坂の上に飛ばされていた。綾香との距離は数百メートルはある。ゴブリンの遠吠えが、彼女の耳に届くと、緊張に心が張り詰められる。
椿は真っ先に真弓の元へ駆けつけるが、ゴブリンの影は既に迫っていた。
「真弓!」
「椿!よかった…!」
最初に攻撃を受けたのはニヴィだった。
「男だ!仕留めろ!魔獣の餌にしろ!」
「よしきた!火の玉・八連!」
「風の矢・三連!」
「泥の弾丸・十二連!」
ドオッ!
ニヴィは膨大な魔力と優れたコントロールで魔力膜を張り、攻撃を防ぎ切る。だが、岩場に響くゴブリンの哄笑が、彼の焦りを煽る。
「く…!俺は攻撃魔法の大半を契約と誓約で使えないというのに!でも、やるしか…!!」
ニヴィは手を広げ、詠唱を開始。
「荒ぶる心に、静寂を。憎しみの楔に、安寧を。世界の調和を司る、聖なる光よ、ここに集え。一筋の矢となりて、迷いし魂を導き、争いの根を断ち切り、平和を紡ぎ出せ。鎮静の光矢!」
柔らかな光が収束し、尾の長い鳥のような美しい矢が放たれる。数体のゴブリンを貫くが、効果は薄い。岩の表面を滑る光が、虚しく消える。
「くそ!!聖属性魔法じゃ戦えない!!!」
ニヴィは膝を叩き、焦燥に駆られる。スキーの危機と自身の無力が、胸を締め付ける。
「ニヴィ…!?戦えないの?」
百合は戦闘に入り、電撃の球体を十二個放ち、ゴブリンの進路を塞ぐ。電気の轟音が、岩場に反響する。
「なら!私が助けに行く!!雷精の投げ槍!!!」
雷の槍がゴブリンたちを薙ぎ倒すが、一体が百合の胸に飛び込む。
ぼふっ!
「きゃあ!!」
「でけぇ!でけぇぞ!このおっばい!」
「ちょっと…変態!触らないで…!!」
百合はバランスを崩し、倒れ込む。杖が蹴飛ばされ、岩の隙間に消えると、次々とゴブリンたちが襲いかかった。ゴブリンたちの手が、彼女の服を引き裂く。
「ん!!ああ…!!やめて!!!誰か!」
ニヴィは魔障壁で身を守るのが精一杯。岩の影から響く百合の叫びが、彼の心を抉る。
「くそ!くそ!!」
一方、真弓は魔法で弓と矢を作り出す。
「私の新しい力、見せてあげる」
自信に満ちた笑みで詠唱。
「研ぎ澄まされし眼、定められし標的。光よ、最も微かな隙間を穿ち、急所を貫け。獲物の息の根を止め、存在を狩り尽くす一矢となれ。放たれよ、狩人の光矢!」
細く鋭い一本の光の矢が、二体のゴブリンを貫く。この矢は、光の矢と異なり、一度刺さると簡単には矢は消えず、傷口から光の魔法が血肉を焼き、ダメージを与え続ける。
「立てよ、光の柱群!」
椿が杖を掲げると、無数の光の柱がゴブリンたちを襲う。岩場に轟く衝撃音が、敵の悲鳴を掻き消す。
ズン!!
「ぐえ!」
「人間ごときがこの魔力はおかしいだろう!」
「真弓!百合とニヴィが危ない!ここを一気に終わらせる!」
「わかった!任せて!」
真弓は天に弓を向け、詠唱。
「遍《あまね》く空よ、我が弓に応えよ。無数の光の粒子、天より集い、矢と化せ。降り注げ、流星の如く、大地を穿つ光の霰となれ!光矢の霰《こうしのあられ》!」
空に光の点が現れ、矢となって降り注ぐ。岩場を無差別に貫く光の雨が、ゴブリンたちを圧倒する。
「蒼き光の柱群!!」
椿の蒼い光がゴブリンを焼き、ゴブリンの魔力を削る。真弓と椿は目の前の敵を撃破した。
「やめて!お…ぐふ!……んー!」
百合は服を裂かれ、恐怖に震える。ゴブリンの欲望が、彼女を追い詰める。岩の冷たい感触が、彼女の肌に突き刺さる。
突然、光が百合を包んだ。
「精霊の怒り」
椿の目は怒りに満ちていた。精霊の怒りはゴブリンたちを瞬時に焼き尽くしたが、怒りの対象ではない百合を守った。
レヴィを救ったのは真弓だった。
「光矢の霰《こうしのあられ》!」
豪雨のような光の矢がゴブリンたちを撃退し、ニヴィは一息ついた。
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