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第3章 契約と運命
第188話 罪悪感の向こう側
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朝、椿は目が覚めると由紀子の隣にいた。彼女の白い肌が美しく、まだ眠る彼女の姿にドキッとする。
『ああ…流れと勢いでやっちゃった。綾香も由紀子さんのように気にしないよとは言ってくれてはいたけど、罪悪感は残るんだよなー…』
美しい青空とは裏腹に、椿の心には罪悪感の曇りが漂っていた。だが、その曇りもすぐに晴れていった。やはり、由紀子との心の繋がりに安心を覚えるのだろうか。椿はその安堵を自分の弱さだと認めつつも、彼女の存在に救われる思いだった。孤独感は薄れ、寂しさも和らいだ。これからは前を向いて進もう——椿はそう心に刻んだ。
その後、由紀子と共に彼女の家に必要な家具の調達を行った。椿の異空間魔法に重いものを収納し、次々と必要な物を買うと、新居はあっという間に華やかとなった。
「これからどうするの?由紀子さんが興味あるなら機構に入る?」
「うーん、私はできるだけ忍者であることを知られたくないからな~。しばらくゆっくりしたら、昨日の服屋さんで求人募集していたから、そこで働こうかなあ。あー、でも働きたくないなあ…」
由紀子はゴロリとベッドに横になり、手足をグッと伸ばして呟いた。
「椿さんはどうするの?…このままうちにいてもいいよ?」
「ありがとう。でも、そろそろ任務にも行かないといけないかな。時々遊びに来てもいい?」
「もちろん!」
こうして、椿は一人で契約管理官としての任務に戻ることにした。レイチェルを心配する彼は、簡単な任務のみに集中した。
その頃、霧ノ都――
ガシャン!
大きな壺が割れる音が響き渡る地下の城。
「屋毒が捕まったという情報が広まったおかげで都の商店が次々と閉じはじめているぞ!このままでは経済が終わるじゃないか!」
雷雨大名の目元には紫色のくまが浮かび上がり、長くて細い目は狂気に濁っていた。障子の隙間から漏れる灯火が、怒気に染まった顔を不気味に照らしていた。
「それだけではありません。各地で反乱の兆しが報告されています」
「わかっている!クソッタレが!朝霧への侵攻も道半ば!宝珠があるというのに、何一つうまくいかない!なぜだ!」
雷雨大名の部下は視線を地面に落とし、言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
隣室には、淡い煙草の香りと古びた紅茶の匂いが漂っていた。木の小卓に設えられた二客のティーカップ。ほのかに香るシナモンの香りが、張り詰めた屋敷の空気とは対照的に、そこだけ時間が緩やかに流れているようだった。
その中で、やせ細った老女――マリリーはサングラス越しに篝火の揺らぎを映しながら、薄気味悪く笑った。魔女のようなその姿は、ただそこに座っているだけで空気を歪ませる。
「宝珠・紫雲は、単なる魔力の源ではなく、独自の意思を持つ。魔力を欲する者すべてに力を与えるわけではなく、むしろ己が“ふさわしい”と判断した者にしかその真価を示さない。しかもその判断基準は常に曖昧で、人の徳でも知でもなく、宝珠自身の”気まぐれ”に左右されることすらある。伝説では、雫の国の正当な継承者のみが使用できると言われるが、そんなものは嘘っぱちさ。王位を望む者にその魔力の姿が見える理由は、紫雲が”野心”というエネルギーにのみ反応するからさ。このような性質から、紫雲は”わがままな魔力”と呼ばれる。人に仕えるのではなく、人を選び、試し、翻弄する――まるで宝珠自身が王であるかのようにな」
紅茶を淹れる手を止めたエルルは、すっと細い指を動かして杖を立てかける。横顔にかかるピンクの髪が、ろうそくの明かりに照らされ、淡く光を帯びて揺れる。
「宝珠の影響で、性格が凶暴になった雷雨大名についていこうとする者はますます減りますね…。しかし、このまま
では雫の国を復興することは困難となりますが、いいのですか?」
エルルの声にはどこか無関心さが滲みながらも、かすかに哀れむような響きがあった。
「雫の国は…復活させるさ。ただ、まずは雷雨大名が宝珠によって自滅してからだろうね。もとから順番はどっちでもよかった。雷雨大名が雫の国を再建した後かする前か、そんなことはどうでもいい。宝珠によって狂った大名を私が討つことで、私が雫の国の頂点に立つのさ」
マリリーは乾いた唇を歪めて微笑み、ゆっくりと紅茶をすする。骨ばった指がカップを持つたび、ブレスレットの魔力の粒が静かに揺れて光った。
「雫の国はもともと侍たちの国。三百年続く世界戦争の中で、最近まで生き残っていた由緒正しい歴史ある国。魔法使いの私達が君主に選ばれますかね?」
「狂った大名を討つことで、私達が英雄となれば、選ばれる可能性は高まると思わないかい?侍たちに支持されれば、宝珠も私を正当な雫の国の継承者としてみなすだろうね、正当な継承者として認められて、とある祭壇に宝珠を納めると、人格は狂わされずに済む。その時、真の力が手に入る」
「うまくいきますかね…」
「うまくいくことを願うよ。雫の国は、これまで契約と誓約をうまく使い分けることで存続してきた。それが、誓約を重視しすぎた一部の侍と契約を重視しすぎた一部の忍びのせいで、崩壊した。雷雨大名のやつも契約と誓約をうまく使い分けて、異なる勢力をまとめあげてはいるが、それじゃあ、いかん。契約は絶対であるべきさ。ただし、契約管理機構《コードレジスト》は生ぬるいね。もっと呪術を活用して、契約違反者を即刻罰するくらいにしないと、この世界は永遠に争いが続く。そう思わんか?」
「まったく、その通りですね。機構の違反行為者への罰則はあまりにぬるい。従事者の数も少なすぎて、罰することすら十分にできていませんからね。それこそ、呪術を活用してさえいれば、機構も屋毒捕獲に苦労しなかったでしょうに…」
――そして、雷雨大名の怒号が再び隣の部屋で響いたが、部屋の中の二人には、まるで別の世界の出来事であるかのようだった。
『ああ…流れと勢いでやっちゃった。綾香も由紀子さんのように気にしないよとは言ってくれてはいたけど、罪悪感は残るんだよなー…』
美しい青空とは裏腹に、椿の心には罪悪感の曇りが漂っていた。だが、その曇りもすぐに晴れていった。やはり、由紀子との心の繋がりに安心を覚えるのだろうか。椿はその安堵を自分の弱さだと認めつつも、彼女の存在に救われる思いだった。孤独感は薄れ、寂しさも和らいだ。これからは前を向いて進もう——椿はそう心に刻んだ。
その後、由紀子と共に彼女の家に必要な家具の調達を行った。椿の異空間魔法に重いものを収納し、次々と必要な物を買うと、新居はあっという間に華やかとなった。
「これからどうするの?由紀子さんが興味あるなら機構に入る?」
「うーん、私はできるだけ忍者であることを知られたくないからな~。しばらくゆっくりしたら、昨日の服屋さんで求人募集していたから、そこで働こうかなあ。あー、でも働きたくないなあ…」
由紀子はゴロリとベッドに横になり、手足をグッと伸ばして呟いた。
「椿さんはどうするの?…このままうちにいてもいいよ?」
「ありがとう。でも、そろそろ任務にも行かないといけないかな。時々遊びに来てもいい?」
「もちろん!」
こうして、椿は一人で契約管理官としての任務に戻ることにした。レイチェルを心配する彼は、簡単な任務のみに集中した。
その頃、霧ノ都――
ガシャン!
大きな壺が割れる音が響き渡る地下の城。
「屋毒が捕まったという情報が広まったおかげで都の商店が次々と閉じはじめているぞ!このままでは経済が終わるじゃないか!」
雷雨大名の目元には紫色のくまが浮かび上がり、長くて細い目は狂気に濁っていた。障子の隙間から漏れる灯火が、怒気に染まった顔を不気味に照らしていた。
「それだけではありません。各地で反乱の兆しが報告されています」
「わかっている!クソッタレが!朝霧への侵攻も道半ば!宝珠があるというのに、何一つうまくいかない!なぜだ!」
雷雨大名の部下は視線を地面に落とし、言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
隣室には、淡い煙草の香りと古びた紅茶の匂いが漂っていた。木の小卓に設えられた二客のティーカップ。ほのかに香るシナモンの香りが、張り詰めた屋敷の空気とは対照的に、そこだけ時間が緩やかに流れているようだった。
その中で、やせ細った老女――マリリーはサングラス越しに篝火の揺らぎを映しながら、薄気味悪く笑った。魔女のようなその姿は、ただそこに座っているだけで空気を歪ませる。
「宝珠・紫雲は、単なる魔力の源ではなく、独自の意思を持つ。魔力を欲する者すべてに力を与えるわけではなく、むしろ己が“ふさわしい”と判断した者にしかその真価を示さない。しかもその判断基準は常に曖昧で、人の徳でも知でもなく、宝珠自身の”気まぐれ”に左右されることすらある。伝説では、雫の国の正当な継承者のみが使用できると言われるが、そんなものは嘘っぱちさ。王位を望む者にその魔力の姿が見える理由は、紫雲が”野心”というエネルギーにのみ反応するからさ。このような性質から、紫雲は”わがままな魔力”と呼ばれる。人に仕えるのではなく、人を選び、試し、翻弄する――まるで宝珠自身が王であるかのようにな」
紅茶を淹れる手を止めたエルルは、すっと細い指を動かして杖を立てかける。横顔にかかるピンクの髪が、ろうそくの明かりに照らされ、淡く光を帯びて揺れる。
「宝珠の影響で、性格が凶暴になった雷雨大名についていこうとする者はますます減りますね…。しかし、このまま
では雫の国を復興することは困難となりますが、いいのですか?」
エルルの声にはどこか無関心さが滲みながらも、かすかに哀れむような響きがあった。
「雫の国は…復活させるさ。ただ、まずは雷雨大名が宝珠によって自滅してからだろうね。もとから順番はどっちでもよかった。雷雨大名が雫の国を再建した後かする前か、そんなことはどうでもいい。宝珠によって狂った大名を私が討つことで、私が雫の国の頂点に立つのさ」
マリリーは乾いた唇を歪めて微笑み、ゆっくりと紅茶をすする。骨ばった指がカップを持つたび、ブレスレットの魔力の粒が静かに揺れて光った。
「雫の国はもともと侍たちの国。三百年続く世界戦争の中で、最近まで生き残っていた由緒正しい歴史ある国。魔法使いの私達が君主に選ばれますかね?」
「狂った大名を討つことで、私達が英雄となれば、選ばれる可能性は高まると思わないかい?侍たちに支持されれば、宝珠も私を正当な雫の国の継承者としてみなすだろうね、正当な継承者として認められて、とある祭壇に宝珠を納めると、人格は狂わされずに済む。その時、真の力が手に入る」
「うまくいきますかね…」
「うまくいくことを願うよ。雫の国は、これまで契約と誓約をうまく使い分けることで存続してきた。それが、誓約を重視しすぎた一部の侍と契約を重視しすぎた一部の忍びのせいで、崩壊した。雷雨大名のやつも契約と誓約をうまく使い分けて、異なる勢力をまとめあげてはいるが、それじゃあ、いかん。契約は絶対であるべきさ。ただし、契約管理機構《コードレジスト》は生ぬるいね。もっと呪術を活用して、契約違反者を即刻罰するくらいにしないと、この世界は永遠に争いが続く。そう思わんか?」
「まったく、その通りですね。機構の違反行為者への罰則はあまりにぬるい。従事者の数も少なすぎて、罰することすら十分にできていませんからね。それこそ、呪術を活用してさえいれば、機構も屋毒捕獲に苦労しなかったでしょうに…」
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