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第3章 契約と運命
第199話 開戦準備
しおりを挟む機構所有の監獄の島。その島には古びた煉瓦造りの巨塔が海岸付近に堂々と建ち、島の近深く、いや、海底まで伸びている。世界的な大商人、屋毒はここに収容されている。
地下十八階、陽の光など到底届くはずもないこの監獄に門番の如く立ちはだかる巨大なカメレオンがのそのそと徘徊する。カメレオンは三人の足跡に気づくと、そっと姿をくらました。
蝋燭の炎が灯る薄暗い牢獄の中にコツコツと足音が響き渡る。
ジョン総監補佐、エレナ総監補佐、そして契約執行官長官の龍之介だ。
屋毒の牢屋は、その堅固な建物からは想像もつかない、極めて簡易なものであった。鉄格子の向こうには一人用の布団とトイレ用の穴があり、屋毒は地べたに足を組んで座っていた。
「おい、屋毒!雷雨大名の情報がほしい。奴は我ら契約管理機構《コードレジスト》を襲撃してくると思うか?お前たちの関係性はどこまで深い?」
ジョン総監補佐は持っていた槍でガンと牢屋を叩くと低い声で尋ねた。
「雷雨が俺を…?はっ!ありがた迷惑なこった!来るかもしれんが、俺は奴が好きじゃねぇ。お前らが俺をここに置いておきたくなかったとしても、俺はここに残るつもりだ」
「氷花元奴隷収容施設長も雷雨の行動予測は難しいようだ。お前なら何かわかると思ったんだが…」
エレナは手を組みながら尋ねた。
「お偉いさん方…。聞くが、この一連の流れをきちんと掴めているか?ある程度予想はできるものだと思うが…」
すると龍之介が口を開いた。
「お前に言われるまでもない。こちらとて、大方の予測はしてある。しかし、確証がほしい。それだけだ」
屋毒は不満そうな表情で話を始めた。
「俺は霧ノ都の経済を支えてきた男だぜ?仮に俺が雷雨の意思の範囲外でお前らの従事者を無理矢理奴隷にしたように、ヤツを裏切ったとしても、ヤツは俺と仲良くしたいはずだ。俺という存在は、ヤツの雫の国の復興という夢を支える大事なキーパーソンなわけだ。つまり、俺を取り返そうと動くのは自然だ。本来のヤツなら正面衝突は避けながら、戦略的に仕掛けてくるはずだ。ただ…」
そこまで述べると屋毒は一呼吸置いて三人を睨みつけるようにして言った。
「ヤツはすっかり宝珠に精神を狂わせられている。最早何をやっているのか、正常な判断ができていないはず。俺を取り返す手段が戦争であっても、不思議ではないな」
三人は核心をつかれたかのように力強くうなづいた。
同時刻、占い師カナレットの暮らす教会は、三十人ほどの防衛局の兵士、コードガードに囲まれていた。コードカードの兵士を率いるのはジョン総監補佐のかつての弟子、エノック執行官長官だ。
彼は黒い肌を持つ人間で、やや細身ながらも二メートル近くある高身長で、体躯のしっかりとした青年だ。黒の執行官用のコートを身につけ、真面目そうな表情の彼はジョンからの信頼が厚い。
「カナレット、お前を機構裏切りという契約違反によって連行する。大人しく出てきなさい」
彼の声は低いが透き通った綺麗な声をしている。その声に反応するかのうにしてカナレットが窓から顔を出した。すると彼女はエノックの横にいるジュニアを目にした。
「ジュニア…!やはりあなただったのね!私を監視していたのわ!」
「別に監視目的であんたのもとへ来たわけじゃないよ。もともとは、純粋な弟子入りのつもりだった!」
ジュニアは悔しそうに拳を握りしめると、かすかに震えていた。自分の予言の力をコントロールすることができると心の奥で喜んだ当時を思い出しながら彼は俯いた。
『エノック執行官にコードカードの魔法部隊か…。逃げられそうにもないわね…。こうなったら、一か八か…』
カナレットは両手をあげてゆっくりと正面の扉から姿を現すと、コードカードはあっという間に彼女を捕獲。この出来事は、翌朝の新聞に載るほど大きく報じられた。
「ジョン総監補佐。無事に対象を確保。準備が整い次第、監獄島へ向かいます」
エノックは右掌に刻印された契約印に話しかけると、ジョンが「了解。よくやった」と返事をした。
ジョンの横にいたエレナがその通信を聴いて呟く。
「いつ、雷雨大名が宣戦布告をしてもおかしくないな…。ハイアット家の一件で機構内部は一部混乱している。今はヤツにとって好機」
龍之介はうなづくと「戦争の準備が必要ですね」と返した。
すると、牢獄の廊下の奥から、金属が擦れる微かな音が聞こえた。警備の巡回か、それとも別の何かなのか。不吉な足音が近づいていることを否応なく感じさせた。
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