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第4章 契約世界への挑戦
第243話 螺旋状の深窟
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「螺旋状の深窟――それは、地の底へ向かってすぼまる巨大な逆円錐。ちょうど、アイスのコーンを思わせる形だ。直径五キロ、底は知れぬその穴は、五つの階層に分かれ、深くなるにつれて魔力の濃度と危険も跳ね上がる、まさに命知らずの者たちの試練の地だ。
現在、私たちがいるのは第一階層。魔力濃度は地上よりわずかに高く、百五十程度。地上(百三十)に比べてやや肌がぴりつく感覚はあるが、それでも少し魔法に自信のある旅人や観光客で賑わっている。第一階層には数千人の住民が暮らしており、その多くは手先の器用なドワーフ族だ。深窟の北端には大きな洞穴があり、そこかららせん状に下っていく大道が次の階層へと続いている。
第一階の地面や壁には、ぽっかりと空いた複数の穴がある。これは単なる風通しではない。少しでも地上の光と空気を下層へ届けようという工夫の一環だ。ここには巡礼者だけでなく、商人や芸人、学者、果ては流れ者まで、さまざまな人々が集まってくる。とりわけ、火の精霊を祀る祠を目指す者にとって、この場所は出発点にして休息地でもある。
第二階層の魔力濃度は百八十。ここまでは交易も盛んで、商隊が日々行き来している。が、問題はその先――。
第三階層への道の途中から、魔力濃度は一気に三百を超え、凶暴な魔獣が現れ始める。並の魔法使いでは身を守ることも難しく、多くの旅人がここで引き返す。それでもなお進む者は、火の精霊への信仰を貫く巡礼者がほとんどだ。第三階層には巡礼者向けの簡素な宿や店が数軒あり、魔力濃度は最大三百七十。気温は百度を軽く超え、空気そのものが燃えているよう。
さらに下――第四階層では、魔力濃度は四百台へ突入。魔獣はさらに獰猛になり、熱気は四百度を超えて肌を焼くように襲いかかる。ここまで来られるのは、もはや高位の魔法使いか、命を捨てた巡礼者のみ。ほとんどの者がここで挫折するか命を落とす。
そして、最終階層――第五階層。魔力濃度は五百を超え、熱はさらに激しさを増し、地そのものが燃えているかのようだ。進むほどに空気は重く、訓練が不十分な者の体内の魔力は暴れ出す。それでも、精霊の祠を目指す者は歩みを止めない。ようやく辿り着いた先にあるのが、火の精霊様を祀る神聖なる祠。そこは魔力濃度六百八十という、もはや常人の立ち入りを拒む領域である。
祈る者にふさわしい力と覚悟がなければ、この深窟の底には立てない。
――と、いうわけ。ちなみに、私はこれまで第四階層まではたどり着いているけど、祠のある第五階層にはまだたどり着けていないの。今回こそ、祠でお参りをするのが私の目標」
リゼは決意を秘めた瞳でそう話すと、綾香はごくりと息をのんだ。すると、ゴルフが低い声でつぶやいた。
「やはりなかなか厳しそうですね。俺たちは、まずは四階層を目指します。その先に行くのが難しそうであれば、撤退しますので、よろしくお願いします」
「ああ、懸命だな。いきなり四階層まで行ける奴もいるが、調子に乗って祠まで目指そうとして、五階層への道中で命を落とす奴らがとにかく多い。苦しいと思ったらすぐに撤退しろ。綾香、お前もだ」
「はい」
「しかし、綾香さんは若いのにすごいね。さすがは大火観一族だよ」とゴルフが綾香を見て言うと、茜が続けた。
「本当…。平均的には二十代後半から三十代半ばで初めて挑戦するものよ、ここの巡礼というものは」
「え、そうなんですか?」
「当たり前じゃない。魔力濃度への耐性訓練には時間がかかる。それに、体の成長が終わり切っていないと、体が異常な成長をすることがあるのよ」
綾香は、ふと、自分の大きくなった胸元に手を置いた。それは、豊かな胸を持つ山猫一族の遺伝によるものなのか、それとも魔力濃度によるものなのか、少し不安がよぎった。
『遺伝…だよね。それに、もう成長期は終わりのはず…。これ以上大きくならないといいなあ。動きにくいんだもん…』
依頼した予備の巡礼服を受け取りに店に来ていたゴルフと茜は一度宿に戻り、綾香の巡礼服ができ次第、合流することとなった。その間、リゼと綾香は町を散策し、二人は赤岩蜥蜴の干物、雨露草《あめつゆそう》、ドライフルーツ、クッキーやパンといった必要な食料を調達した。
「それと、巡礼者はこの先、魔法の杖とその代用品以外の武器は使用禁止だ。しまっておきな」とリゼが言うと、綾香は早速武器をまとめて「忍法・縛櫃《ばくひつ》」と呟いた。巻物を通して武器一式を格納した。
夕方になると、太陽の光が美しく反射し、影と光のコントラストの映える町となった。
「うわー、いい!すごくいいです!おばあちゃん!」
「ふふふ、そうかい。よかったよ。燃えにくいのに軽くて涼しい。最高級の素材だよ。良いのを選んだね」
マルメロは嬉しそうに笑うと目がますます細くなった。
「よし!この時間帯なら次の階層まで行ける!早速下に向かうとするか」とリゼが声高く言った。
第二階層へは、徒歩で四時間。途中、危険な生物に出会うこともなく、比較的安全だ。四人は北へ目指して移動した。
そこは想像よりもはるかに大きな入り口。巨大な穴を抜けると絶え間なく広がる洞窟。意外にも、明るい。道中旅人や商人と挨拶をしたり、会話をしながら進むとそこは既に第二階層だった。
「ここは上より少しこじんまりしているんだな」とのゴルフが興味深そうに辺りを見渡した。
「まあね。建物は密集していないし、大きな商店街もない。いくつか大きめの店と宿、あとはドワーフたちの個人宅があるだけだ。上は周辺の町との交易で栄えているけど、ここに来る人たちは巡礼関係者。さらに下に行くともっと賑わいは減る」
「だから上で食料を買っておいた方が良かったのか…」と綾香は呟いた。
「ドワーフの家ってこんなに大きいの…?家族が多いから…?私の家より大きいんだけど…」と茜が言うと三人は声をあげて笑った。
「さあ!あそこの宿だ!あそこなら個室がある」
そうして、四人は旅の疲れをゆっくりと休んだのであった。
現在、私たちがいるのは第一階層。魔力濃度は地上よりわずかに高く、百五十程度。地上(百三十)に比べてやや肌がぴりつく感覚はあるが、それでも少し魔法に自信のある旅人や観光客で賑わっている。第一階層には数千人の住民が暮らしており、その多くは手先の器用なドワーフ族だ。深窟の北端には大きな洞穴があり、そこかららせん状に下っていく大道が次の階層へと続いている。
第一階の地面や壁には、ぽっかりと空いた複数の穴がある。これは単なる風通しではない。少しでも地上の光と空気を下層へ届けようという工夫の一環だ。ここには巡礼者だけでなく、商人や芸人、学者、果ては流れ者まで、さまざまな人々が集まってくる。とりわけ、火の精霊を祀る祠を目指す者にとって、この場所は出発点にして休息地でもある。
第二階層の魔力濃度は百八十。ここまでは交易も盛んで、商隊が日々行き来している。が、問題はその先――。
第三階層への道の途中から、魔力濃度は一気に三百を超え、凶暴な魔獣が現れ始める。並の魔法使いでは身を守ることも難しく、多くの旅人がここで引き返す。それでもなお進む者は、火の精霊への信仰を貫く巡礼者がほとんどだ。第三階層には巡礼者向けの簡素な宿や店が数軒あり、魔力濃度は最大三百七十。気温は百度を軽く超え、空気そのものが燃えているよう。
さらに下――第四階層では、魔力濃度は四百台へ突入。魔獣はさらに獰猛になり、熱気は四百度を超えて肌を焼くように襲いかかる。ここまで来られるのは、もはや高位の魔法使いか、命を捨てた巡礼者のみ。ほとんどの者がここで挫折するか命を落とす。
そして、最終階層――第五階層。魔力濃度は五百を超え、熱はさらに激しさを増し、地そのものが燃えているかのようだ。進むほどに空気は重く、訓練が不十分な者の体内の魔力は暴れ出す。それでも、精霊の祠を目指す者は歩みを止めない。ようやく辿り着いた先にあるのが、火の精霊様を祀る神聖なる祠。そこは魔力濃度六百八十という、もはや常人の立ち入りを拒む領域である。
祈る者にふさわしい力と覚悟がなければ、この深窟の底には立てない。
――と、いうわけ。ちなみに、私はこれまで第四階層まではたどり着いているけど、祠のある第五階層にはまだたどり着けていないの。今回こそ、祠でお参りをするのが私の目標」
リゼは決意を秘めた瞳でそう話すと、綾香はごくりと息をのんだ。すると、ゴルフが低い声でつぶやいた。
「やはりなかなか厳しそうですね。俺たちは、まずは四階層を目指します。その先に行くのが難しそうであれば、撤退しますので、よろしくお願いします」
「ああ、懸命だな。いきなり四階層まで行ける奴もいるが、調子に乗って祠まで目指そうとして、五階層への道中で命を落とす奴らがとにかく多い。苦しいと思ったらすぐに撤退しろ。綾香、お前もだ」
「はい」
「しかし、綾香さんは若いのにすごいね。さすがは大火観一族だよ」とゴルフが綾香を見て言うと、茜が続けた。
「本当…。平均的には二十代後半から三十代半ばで初めて挑戦するものよ、ここの巡礼というものは」
「え、そうなんですか?」
「当たり前じゃない。魔力濃度への耐性訓練には時間がかかる。それに、体の成長が終わり切っていないと、体が異常な成長をすることがあるのよ」
綾香は、ふと、自分の大きくなった胸元に手を置いた。それは、豊かな胸を持つ山猫一族の遺伝によるものなのか、それとも魔力濃度によるものなのか、少し不安がよぎった。
『遺伝…だよね。それに、もう成長期は終わりのはず…。これ以上大きくならないといいなあ。動きにくいんだもん…』
依頼した予備の巡礼服を受け取りに店に来ていたゴルフと茜は一度宿に戻り、綾香の巡礼服ができ次第、合流することとなった。その間、リゼと綾香は町を散策し、二人は赤岩蜥蜴の干物、雨露草《あめつゆそう》、ドライフルーツ、クッキーやパンといった必要な食料を調達した。
「それと、巡礼者はこの先、魔法の杖とその代用品以外の武器は使用禁止だ。しまっておきな」とリゼが言うと、綾香は早速武器をまとめて「忍法・縛櫃《ばくひつ》」と呟いた。巻物を通して武器一式を格納した。
夕方になると、太陽の光が美しく反射し、影と光のコントラストの映える町となった。
「うわー、いい!すごくいいです!おばあちゃん!」
「ふふふ、そうかい。よかったよ。燃えにくいのに軽くて涼しい。最高級の素材だよ。良いのを選んだね」
マルメロは嬉しそうに笑うと目がますます細くなった。
「よし!この時間帯なら次の階層まで行ける!早速下に向かうとするか」とリゼが声高く言った。
第二階層へは、徒歩で四時間。途中、危険な生物に出会うこともなく、比較的安全だ。四人は北へ目指して移動した。
そこは想像よりもはるかに大きな入り口。巨大な穴を抜けると絶え間なく広がる洞窟。意外にも、明るい。道中旅人や商人と挨拶をしたり、会話をしながら進むとそこは既に第二階層だった。
「ここは上より少しこじんまりしているんだな」とのゴルフが興味深そうに辺りを見渡した。
「まあね。建物は密集していないし、大きな商店街もない。いくつか大きめの店と宿、あとはドワーフたちの個人宅があるだけだ。上は周辺の町との交易で栄えているけど、ここに来る人たちは巡礼関係者。さらに下に行くともっと賑わいは減る」
「だから上で食料を買っておいた方が良かったのか…」と綾香は呟いた。
「ドワーフの家ってこんなに大きいの…?家族が多いから…?私の家より大きいんだけど…」と茜が言うと三人は声をあげて笑った。
「さあ!あそこの宿だ!あそこなら個室がある」
そうして、四人は旅の疲れをゆっくりと休んだのであった。
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