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第5章 契約と誓約の戦
第277話 魔力融合に反対する者たち
しおりを挟む椿は、ミレンと一夜を共にした翌日、アシャ契術研究所副所長のアシャとその夫、契約執行官長官ベヌアの自宅を訪れていた。
「昼間からすみませんでした、ベヌアさん」と椿が頭を下げる。
「気にするな。どうせアシャとの契約の話だろ?」
丸眼鏡の奥で穏やかに笑うベヌアは、誠実そうなエルフだった。
「昨日契約したばかりなのに、早速ありがとうね」とアシャが微笑む。
仕事では黒の縮れた長髪を金の髪飾りでお団子にまとめるが、今日は休日。髪を下ろし、波打つ美しい髪が肩に流れる。
「アシャさん、その髪型、似合いますね」
「はは、ありがとう! じゃあ、ベヌア、私たちは向こうに行くから入ってこないでね!」アシャが明るく言う。
すると、ベヌアが椿を引き止め、小声で囁く。
「済まないな…。実は、夜の相手は苦手でね。アシャの欲望も満たされるし、魔力融合で魔力が変わる。いいこと尽くめだ。感謝してるよ」
椿は驚きつつ、「は、はあ…」と曖昧に返す。
これも人助け…なのか? いや、深く考えないでおこう。
アシャに案内され、椿は白を基調とした寝室へ。春の陽光が温かく部屋を包む。
二人はタンポポの契約印で結ばれており、今日、魔力融合を行う予定だった。
アシャは赤い花柄のシャツのボタンをゆっくり外し、椿の服を脱がすのを手伝う。
ミレンとは違い、静かで淑やか、だが情熱的に、椿を求めた。
その頃、街角では椿の魔力融合の力を問題視する声が上がっていた。
「確かに彼の力はすごい。他人の魔力を混ぜ、質や量を劇的に変える。だが、手段が問題だ! 女性の権利や安全を保障する別の方法はないのか?」
広場に集まった数十人が賛同の声を上げる。
「忠誠契約印で半ば強制するなんて理不尽だ! 私の妹は融合後に別人になってしまった!」
「私の恋人もだ! 椿のせいで心まで変わった!」
怒りの声が響き合い、群衆の不満が膨らむ。
通りかかったルークとサクがその様子を遠くから見ていた。
「なんで椿を責めるんだよ。機構幹部を狙えよ」とサクが小声で呟く。
「忠誠契約印のせいだ。敵対を公にすれば呪われ、追放される危険がある」とルークが答える。
「だから椿一人を標的に? ひどいな…。あいつ、心は繊細なのに」とサクが眉をひそめる。
「確かに…。椿、大丈夫かな」とルークも心配そうに呟いた。
この騒動は、機構のトップ・サミラやクリスティーナ、ケーキにも伝わっていた。
「彼の力を巡る懸念が現実になったか…」とサミラが静かに言う。
「対処しますか? 裏切りとも取れます」とクリスティーナが提案する。
「忠誠契約に争いを禁じる条項はない。放っておきなさい」とサミラは答えた。
アシャとの魔力融合を終え、椿は街を歩いていた。
だが、すれ違う人々の冷たい視線に気づく。
「見ろ、あの男だ…」「魔力融合のせいで私の家族が壊れた…」
囁き声が耳に届き、胸に重くのしかかる。
『そうだよなあ…。普通はそう思うよな。唯がいるのに。綾香がいるのに。サナエがいるのに。なぜ、こんなことを続けているんだ?時々分からなくなる』
椿は立ち止まり、拳を握る。
『人助けに繋がるかもしれないって…自分に言い聞かせてきた。でも、本当にそうなのか? 機構への忠誠? 契約文化への貢献? それとも…
心の奥底で、女性たちとの時間に快楽を感じていた自分を認めざるを得ない。
こんな自分が、許されるはずがない...! 』
「僕はいったい何を…」
椿が思わず呟くと、道行く人々が振り返る。だが、彼は俯き、歩き続けるしかなかった。
『特に今は、この力が必要だ。僕には機構をひっくり返す策がある。それには、この力が必要不可欠なんだ』
ドス!
突然、足元に矢が突き刺さった。
「椿契約管理官! 貴様のせいで俺の恋人にフラれた! この恨み、どうしてくれる!」
「私もよ! 女同士で誓った愛が、魔力融合後にあなたに奪われた!」
「女たらしの裏切り者!」
「魔力融合なんて最低の力だ!」
群衆が一斉に罵倒を浴びせ、椿を囲む。
「僕だって…好きでやってるわけじゃない…!」
椿の声は震え、言葉は群衆の怒声にかき消される。
背後から突進する気配に振り返ると、ナイフを持った女性が迫る。
椿は咄嗟にナイフを握り、血が滴る。
「…あなたも僕を恨むんですか?」
「知らない奴のために魔力融合するなんて嫌なのよ!」
気づけば、二十人ほどの群衆に囲まれていた。
「だったら、好きでやっていないなら…なぜ拒否しない!?」
椿は反論できない。
同じ疑問を何度も自問してきたからだ。
本当に、僕の力は正しいことをしているのか?
殴られ、蹴られ、椿は抵抗せず耐えた。
この痛みは…僕が背負うべき罰なのかもしれない。
そこへ、優しい声が響く。
「赦しの花は、怒りの棘を溶かす──静かに咲け、沈静の光」
淡い光が辺りを包み、群衆の怒りが静まる。
「…バカバカしい」と呟き、群衆は散っていく。
だが、椿は知っていた。この魔法は一時的なものだ。
倒れ込み、あざだらけの椿にミレンが駆け寄る。
「自然治癒力向上」
彼女の魔法で、傷がみるみる癒える。
「かわいそうに、私の椿…」
ミレンは椿を大きな胸に抱きしめる。
椿は顔を赤らめ、弱々しく呟く。
「ありがとう…。『赦しと癒し』の希望の魔力、すごいですね」
「でも、一時的よ。時間と共にまた怒りが戻るかもしれない。気をつけて」
心配そうに見守っていたルークとサクが駆け寄る。
「大丈夫か? ひどい目にあったな…」
「希望の魔力への嫉妬か。椿だって好きでこの力を持ったわけじゃないのに」とサクが憤る。
椿は群衆に向き直り、震える声で言う。
「僕も…この力に悩んでる。君たちの気持ち、わからないでもない。でも、僕にできることは…」
言葉を詰まらせ、椿は俯く。群衆の中の一人が呟く。
「…だったら、なぜ続けるんだ?」
その言葉に、椿は答えられなかった。
仲間たちに支えられ、椿は立ち上がる。
「この葛藤とは…一生付き合っていくんだろうな…」
小声で呟きながら、彼の目に決意の光が宿っていた。
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