百万の契約

青いピアノ

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第5章 契約と誓約の戦

第276話 ミレンとの一歩

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「失礼します。ミレンさん」

医療局副局長室の扉をそっと開けた椿は、机に向かうミレンの姿を見た。
深いこげ茶の波打つ髪が肩に流れ、銀糸の紐がきらりと光る。琥珀色の瞳が書類から顔を上げると、穏やかな笑みが浮かんだ。

「あら、どうしたの? 椿…管理官」
「この魔力融合リストのドラフトを見たのですが、わからないことがありまして…」

その言葉に、ミレンの表情が一瞬だけ固まった。
長いまつ毛が微かに震え、整った唇が引き結ばれる。

「これ、なぜミレンさんたちと定期魔力融合する必要があるのでしょう…?」
「さ、さあ…!? 何かの手違いかしら…オホホホ」

椿は心の中で眉をひそめた。

『オホホホなんて言う人だったっけ、この人…』

微妙な沈黙が室内を満たす。

「も、もういいでしょう!? 他に用がないならとっとと出ていってください! 忙しいんですから!」

ミレンは頬を赤く染め、視線を逸らして書類を乱暴にまとめ始めた。

『やっぱり…。魔力融合にハマる人の割合は、体感だと八割以上。この人も…!』

椿は机越しに歩み寄ると、革張りの椅子に座るミレンの肩が小さく跳ねた。
椿は彼女の耳元に唇を寄せ、低く囁く。

「これ、後で上にバレたらやばいですよ?定期融合しすぎてサナエさんは機構を追放されました。消した方がいいかと」

ミレンは書類を握りしめたまま、視線を落として黙り込む。
椿はその沈黙を好機と見て、さらに踏み込んだ。

「もし…どうしてもということであれば、儀式なしで定期的に会うこともできますよ?」

自信はあった。
数多くの経験の中で、女性を満足させる術は心得ているつもりだった。
しかし、返ってきた言葉は冷ややかだった。

「は? 融合なしで会うメリットなんてあるわけないでしょう? 何を調子に乗ってるの? 定期融合の件は削除しておきます。とっとと出ていってください」

「え…? え?」

予想外の反応に椿は目を瞬かせ、そして一気に顔が熱くなるのを感じた。
勘違いしていた自分が恥ずかしくてたまらない。
慌てて一礼し、背を向けて部屋を後にした。

『ええー…!? 絶対ミレンさんは僕と一緒にいたい人だと思ったんだけどな…。違うの!? じゃあなんで、あれほど何回も求めてきたんだ…? あれ…? 融合儀式の魔法陣展開しないで何度もやったよね…? あれは何だったんだ…?』

混乱したまま足早に自室へ戻ると、椿は扉を閉め、ベッドに倒れ込んだ。
枕に顔を押し付け、足をバタバタと動かす椿。

『なんであんなこと言ったのかなー! すごい恥ずかしいこと言った…! なんで勘違いしたかなー』

やがて夜も更けた頃、静かなノック音が響いた。椿は身を起こし、そっと扉を開けた。

「え…? み、ミレンさん…!?」

そこには、昼間とは違い、胸元がゆるやかに開いた赤いブラウスは、デートシーンを想像させる。七分袖の袖口には小さな金のボタンが並び、動くたびに微かに鳴る。腰まわりでふんわりと広がる裾が、白いタイトパンツとの対比で彼女の曲線を一層際立たせていた。
琥珀色の瞳がわずかに揺れ、頬はうっすら赤い。

「昼間の契約の件、契約書に署名したからあなたも署名しなさいよ」

差し出された紙には、週に最低一度、体調や仕事を考慮しつつ、それ以上はミレンの要望次第で会う旨が記されている。

「え…? で、でも、あれは…」

言葉を途中で遮るように、ミレンの唇が椿の唇を塞いだ。

「早く入れてドア閉めなさいよ。人に見られたくないの!」

椿は慌てて彼女を部屋に招き入れ、扉を閉めた。
署名を終えると、二人の脇腹に小さなスイートピーの契約印が浮かび上がった。すると、ミレンは獲物を捕まえるかのうな勢いで椿の唇に情熱的な口付けをした。

--ミレン視点

赤いブラウスのボタンを指先でつまみ、ゆっくりと私は目の前の椿を盗み見る。
この子と初めて魔力を融かし合った時、あの柔らかな熱に胸を掴まれるような感覚を覚えた。

「癒し」と呼ぶには、あまりにも危うい温もりだった。

…執行官だった夫が殉死してから、ずっと私の中にあった空洞。

仕事も、子供たちの笑顔も、その穴を埋めるには足りなかった。
けれど椿は違う。若くて、愚直で、少し生意気で…それでいて、融け合うたびに私の奥まで温めてくれる。
こんな子に依存なんて、医療局副局長の立場にある者が口にすべきじゃない。
でも、もしもこの温もりを失ったら、私はまたあの凍えた夜に戻ってしまう気がする。
だから、理屈じゃなく…私は週に一度じゃ足りないくらい、椿を求めてしまうのだ。

「あのね…椿。可能な限り親に子を見てもらうから、最低週一とは書いたけど、もっと増やしてもいいのよ」

椿は混乱していた。一方で、その一言が、耳の奥でじんわりと熱を広げた。

え、増やしてもいいって…?

昼間はあんなにきっぱり拒否したのに。
服をゆっくりと脱ぐミレンの横顔は、さっきまでの冷たい副局長ではなく、どこか迷いを抱えた一人の女性に見えた。

琥珀色の瞳がちらりとこちらを盗み見る。その瞬間だけ、ほんのわずかに揺れている。

『なんだ…この感じ。胸がざわつく』

返事をしようとしても、喉の奥が詰まって言葉が出ない。

しかし、返事は不要だった。

黒いブラジャーから溢れるミレンの胸がゆっくりと揺れると椿は彼女に優しく口付けした。

「週に一度なんて、私には足りないかもしれない…」

椿は言葉を失ったまま、ただ彼女を見つめる。心臓が早鐘のように鳴り、昼間のあの冷ややかな拒絶が嘘のように思えた。ミレンの唇が再び近づき、椿の首筋に触れると、まるで電流が走ったような感覚が全身を駆け巡った。

「ミレンさん…本当に、いいんですか?」椿の声は掠れ、まるで自分の気持ちを抑え込むのに必死なようだった。

「昼間はあんなに…」

「昼間の私?」ミレンは小さく笑い、椿の頬に指を滑らせた。

「あの時は、ただ…恥ずかしかっただけよ。副局長として、こんな気持ちを認めるなんて、できなかった。でも、今は違う。プライベートの時間で、なおかつ服を脱いて
じまえば、肩書きなんて関係ないでしょう…?」

彼女の言葉は、まるで心の奥底から湧き上がる炎のように熱を帯びていた。椿はミレンの胸を優しく揉む。その優しい温もりに自分の全てを預けたい衝動に駆られた。彼女の胸は大きく、柔らかく、しかしどこか力強い。まるで、ミレン自身が持つ矛盾――強さと脆さ、情熱と抑制――を象徴しているようだった。

椿とミレンは息を乱す。椿がミレンの薄黒い大きな突起を優しく舌でゆっくりと舐めると、ミレンはピクリと反応した。彼女の全身を舌で舐め尽くす椿。彼女の内側に舌がたどり付くと、クチュクチュと甘い蜜の音が響いた。

「ぁん…」

ミレンがそっと呟くと、椿の勢いが増した。じっくりとねっとりと舌で舐め終えると、指で優しく緊張をほどいた。頃合いを見て二人は一つになる。

ゆっくりと椿の緊張した体がミレンの柔らかな体の一部となると、椿は腰を動かした。

「やばい…。私…ハア!やばい、おかしくなる!」
「おかしくなってもいいですよ」

その言葉にミレンの内なる欲求に火がついた。彼女は椿を抱きしめるとねっとりと唾液の絡んだ舌を椿の口の中に入れた。

椿はミレンの行為に興奮し、腰を動かす激しさを増す。

「はあはあ…。やばい…イキそうです」
「はあはあ…。出して…いいわ。はあはあ…。私ももう少しでイクかも。中に…この間のように、中に、出して」

しかし、椿は一瞬躊躇った。

「…いいんですか?前回伝えたかと思いますが…はあはあ」

「魔法陣でしょう?はあ…!!ぁあん…!はあはあ…!ん……!」

「…はい……。魔法陣が妊娠予防の魔法を付与していたんです。魔法陣がないと、つまり……ああ!そろそろやばい…!」

「大丈夫…!大丈夫だから、続けて!お願い…!ぁぁあん…!」

「うっっっ…」

こうして、二人はほぼ同時に満足の絶頂に達した。息を整えながら、ミレンは口を開いた。

「はあはあ…。私、ずっと冷たい夜の中にいたの…」ミレンは囁くように続ける。「夫を失ってから、どんなに頑張っても、どんなに笑顔を作っても、心のどこかにぽっかり空いた穴があった。でも、椿…あなたと魔力を融かし合った時、初めてその穴が埋まる気がしたのよ」

椿の目が揺れた。ミレンの言葉は、まるで彼の心の奥に直接響く魔法のようだった。彼女の弱さを知り、彼女の情熱を感じ、椿は自分が求めていた力の使い方ができているのだと実感した。

「ミレンさん…僕、絶対にあなたを失望させません」椿は声を震わせながら、しかし力強く宣言した。「週に一度でも、十回でも、どんな時でも、俺はあなたを温めます。約束します!」

椿は本気だった。彼の希望の魔力の力は絶大だ。しかし、性という複雑なテーマの力であるだけに、この力の扱いに迷っていた。でも、だからこそ、人のためにこの力を使いたいと思ったのだ。いつからか、他人に利用されることになり、悩んでいた。しかし、この力のおかげで、ミレンの心の隙間を埋めることができていたと知ると嬉しくて仕方がなかった。だからこそ、彼女に喜んで協力したい。仮に、それが魔力融合儀式とは関係なくなったとしても。
そして、椿の言葉に、ミレンの唇に柔らかな笑みが広がった。彼女は椿の首に腕を回し、ゆっくりと彼を引き寄せた。二人の唇が重なり、部屋はまるで世界の中心であるかのように熱く、濃密な空気に包まれた。

「約束、よ?」ミレンは唇を離し、椿の耳元で囁いた。「私、欲張りだから…週一じゃ満足できないかもしれないわ」

椿は思わず笑い、彼女を抱きしめた。

翌朝、椿は目を覚ますと、隣にミレンの寝顔を見つけた。琥珀色の瞳は閉じられ、長いまつ毛が静かに揺れている。彼女の寝息は穏やかで、まるで全ての重荷から解放されたかのようだった。椿はそっと彼女の髪を撫で、胸の奥に熱い決意を灯した。
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