百万の契約

青いピアノ

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第5章 契約と誓約の戦

第288話 燃える夜

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轟音とともに落ちた雷が収まると、灼熱の大地はひび割れ、蒸気を上げて静まっていった。
「冥府の焦土」は術者を失ったことで解け、戦場に再び冷たい夜風が吹き込む。
焼かれた脚を引きずりながらも、二人のブチハイエナはゲラゲラと笑っていた。
片方はルークのランスの攻撃を受け、胸に傷跡を残している。

「ヒヒ…この野郎ども、ただの人間のくせに…強すぎんだろ…!」

もう一体も口を大きく開け、涎を垂らして嗤う。
モン・ブランは冷静に彼らを見渡し、大剣を肩に担いだ。

「腹の傷などすぐ治るさ。それより――義足が必要になるかもしれんな。今はかろうじて歩けているようだが、損傷が激しすぎる」

その声は淡々としており、仲間の脚が焼けただれていることすら事務的に処理するかのようだった。
遠方の高い建物からその光景を覗き見る二つの影。

アラナとセナだった。

「ステファニーまでやられるだなんて……せっかく駆けつけた増援が……」

アラナは震える声で呟き、目尻に涙を浮かべる。
セナが険しい顔で問う。

「椿はどうしたの?」

アラナは唇を噛み、首を横に振った。

「……今はまだ来れないみたい」

その頃、モンは立ち上がり、空気を切るように、駆けつけた仲間に手を振った。

「医療班を呼べ。負傷者を回収しろ。ついでに――こいつらも連行だ」

レイチェルたちは次倒れ伏したまま、力なく横たわっている。

しかしその中で、ステファニーがわずかに身じろぎをした。

焦点の合わない瞳を空に向け、かすかに意識を取り戻す。

「……ん、あ……」

モンがその様子に気づき、しゃがみ込んだ。
彼の禍々しい瞳が、弱々しく開かれたステファニーの瞳を覗き込む。

「ほう……これは驚いた。まだ息があるとはな」

モンの口角が不気味に吊り上がる。

「――さすがは、腐ってもクリスティーナさんの娘ってわけか」

その声は、獲物の価値を値踏みする捕食者のように冷酷だった。

「クリスティーナさんも大変だな」

モンは愉快げに口の端を吊り上げた。

「こんなじゃじゃ馬娘なんて授かって……どれ、一丁、彼女を楽にしてやるか」

大剣を抜き放つと、鈍い光が心臓部を狙って振り下ろされる。

その瞬間――

「だめっ!!」

遠方から覗いていたアラナが絶叫した。

「――火遁・炎狼群」

大地を舐めるように炎が奔り、燃え盛る狼たちの群れが現れた。
それぞれが意思を持つかのように駆け回り、倒れたステファニーや仲間たちを覆うように守りの陣形を描く。

炎狼の牙が夜の闇を照らし、赤々とした瞳がモンを睨みつけた。

モンの瞳がわずかに見開かれる。

「……なんだと?」

一体の炎狼が咆哮を上げて飛びかかり、モンは大剣で受け止めざるを得なかった。

「ぐぅっ……!?」

獣の熱と衝撃に押し返され、初めて彼の顔に警戒の色が浮かぶ。

炎の群れの中心に、一人の影が現れる。

ステファニーの目の前に差し出されたその背は、見覚えのあるものだった。

黒い忍び装束。
白い短刀。
古びた茶色のリュックサック。
そして赤い紐で結ばれた長いポニーテール。

――大火観《おおかみ》綾香。

「……ステファニーさん。お久しぶりです」

振り返った横顔は静かで、それでいて炎と同じく揺るぎない光を宿していた。

「事情はよくわかりませんが……この人たち、倒していいですか?」

ステファニーは荒い息のまま、弱々しく頷いた。
その瞬間、緊張の糸が切れたように彼女は意識を手放す。

モンは低く唸り、大剣を構え直した。

「……誰だ、お前は?」

炎狼の影に立つ綾香は、まっすぐにモンを見据え、短く答える。

「――オオカミ」

その声は炎の咆哮と重なり、戦場を覆った。
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