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第1章 契約と秩序
第13話 廃墟の男たち
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廃墟の奥は、まるで別の世界が広がっている。
崩れた石壁の隙間から漏れる火の光が、冷たい地面を赤く染めていた。金属を叩く音が響き合い、時折、誰かの呻き声や鎖の擦れる音が混じる。空気は鉄の匂いと汗、恐怖で重く淀んでいた。
そこでは、ぼろをまとった者たちが魔鉄の塊を打ち、武器の形に整えていた。彼らの腕や首には赤黒い刻印が浮かび、薄暗い光の下で不気味に脈打っている。人間の男、髪を失った老婆、尖った耳を持つエルフの少女――みな戦争で故郷を追われた難民だった。エルフの少女は細い指で槍の刃を磨きながら、虚ろな目で地面を見つめていた。彼女の刻印は特に深く、皮膚が焼けたように赤く腫れ上がっていた。
「さっさと動け! 数が足りねえぞ!」
太い声が廃墟に響いた。腰に下げた剣を叩きながら歩き回っていた男も、ムチを持った男同様に革のコートを着ていた。
彼の手にも黒い金属製の魔法具――刻印器が握られている。表面には複雑な紋様が刻まれ、先端からはかすかな魔力が漏れていた。
「契約を忘れたか? 止まれば死ぬぜ、お前ら」
そして、繋がれたエルフの男に近づいた。エルフがよろめき、槌を落とすと、男は嘲笑った。
「おい、耳長、仕事が遅えな。もしかして、休んでるのか?」
彼がそう言うと、エルフの刻印が光り、叫び声とともにその場に崩れ落ちた。印を持つものが"休んだ"場合、激痛に襲われる仕組みだった。
監視役と思われる男たちは笑い声を上げ、別の奴隷に水をかけて無理やり立たせた。
一角では、魔鉄の剣を積み上げる男がいた。額に刻印を刻まれた人間の少年で、目には涙が浮かんでいたが、手は止まらなかった。
「これで終わりだろ……終わらせてくれ……」
少年が呟くと、監視役が背中を蹴りつけた。
夜、廃墟の地下で、三人の男がいずれも革のコートをまとい、冷たい目で談笑していた。
一人は腰に巻いたムチを握り、指で柄を叩いていた。浅黒い肌に、額の傷が目立つ男だ。
「町の連中、最近サボりやがるな。奴隷が足りねえぞ、クソくらえ」
彼は舌打ちし、酒瓶を手にした。
「他地域から連れてきたやつらは道中力尽きるヤツ多すぎるしよぉ。これじゃあ、間に合わん」
彼の名はガルド、町民を動かし奴隷を調達する役目だった。この町の住民は、生き延びるためガルドの命令に従い、近隣の紛争で焼け出された者や、遠方からやって来た者達を拉致し、差し出していた。
「注文が厳しくなってんだ。次の船が来るまで、頭数を揃えねえと俺の首が飛ぶ」
ガルドはムチを振り、酒の空き瓶を割った。
その隣で、剣を腰に下げた男が笑った。コートの襟を立て、顎に無精ひげを生やした男だ。
「お前、いつも焦ってんな。数が足らなきゃあ、今いる奴等を有効に使えばいい」
この男、ザクは奴隷への現場の指示と監視を担っていた。刻印器を手に、奴隷一人一人に命令を下し、わずかな反抗も許さなかった。
「この刻印器、すげえよな。手に入れた時は半信半疑だったが、こいつ一つで奴隷が犬みてえに従うんだからよ」
ガルドが鼻を鳴らした。
「その刻印器、どこからやってきたか知ってるか? 噂じゃ、悪魔の商人の物だってよ。ボスが借りたんだ。いつまで使えるかわかんねえ。とっとと任務を終えてこの場から去りたいぜ」
二人の会話を、離れた場所で聞いていた三番目の男が小さく笑った。彼は他の二人と違い、革のコートの下に白いコートを畳んで持ち、何の変哲もない若木の枝のように細い魔法の杖を手にしていた。青白い顔に、目だけが異様に鋭い。
「お前ら、仕事の話はそこまでだ。そろそろ連絡の時間だぞ」
廃墟の片隅、崩れた壁の陰で、セッコクは魔法の杖を握っていた。革のコートを脱ぎ、契約書らしき絵と天秤に剣の書かれたエンブレムのついた白いコートを羽織ると、彼は誇らしげに微笑んだ。
杖の先が光り、宙に揺れる魔法陣が現れる。向こうから、怯えた声が響いた。
「セ、セッコク様! お、お元気でございますか!」
相手の男の声は、地面に頭を擦りつけるように震えていた。
「町民は皆、必死に働いて――」
「クロイシ、戯言はいい」
セッコクの声は氷のように冷たく、言葉を切り裂いた。
「奴隷の調達だ。ガルドが頭数が足りんと喚いてる。いつ揃う?」
クロイシの声がさらに小さくなった。
「も、申し訳ございません! 近隣の難民は尽きて……ですが、遠方の港からエルフの船が、近日中に着きます! 町民に急がせて――」
「近日中だと?」
セッコクは杖を振り、紋様が一瞬歪んだ。
クロイシが叫んだ。
「お、お待ちを! すぐ命じます! 奴隷を、必ず揃えます! 町を守るため、契約を守るためです!」
セッコクの唇が歪んだ。
「その契約、よく思い出せ。町民が奴隷調達をサボれば、契約印が痛みで締め上げる。最悪、死ぬぞ」
白いコートの裾が揺れ、彼は杖を握り直した。
「周辺の連中が町を焼き払う前に、武器と奴隷を揃えるんだ。約束の量をな」
クロイシの声が泣きそうに震えた。
「わ、わかっております! 町民は皆、協力します! セッコク様のおかげで町は守られて……ひぇ、絶対に契約は守りま…」
言葉は途切れ、紋様が消えた。廃墟に鉄の音だけが響く。
セッコクは白いコートを脱ぎ、革のコートに戻した。
「みっともない男だ。罪悪感に潰されそうな顔で、よく喋れる」
崩れた石壁の隙間から漏れる火の光が、冷たい地面を赤く染めていた。金属を叩く音が響き合い、時折、誰かの呻き声や鎖の擦れる音が混じる。空気は鉄の匂いと汗、恐怖で重く淀んでいた。
そこでは、ぼろをまとった者たちが魔鉄の塊を打ち、武器の形に整えていた。彼らの腕や首には赤黒い刻印が浮かび、薄暗い光の下で不気味に脈打っている。人間の男、髪を失った老婆、尖った耳を持つエルフの少女――みな戦争で故郷を追われた難民だった。エルフの少女は細い指で槍の刃を磨きながら、虚ろな目で地面を見つめていた。彼女の刻印は特に深く、皮膚が焼けたように赤く腫れ上がっていた。
「さっさと動け! 数が足りねえぞ!」
太い声が廃墟に響いた。腰に下げた剣を叩きながら歩き回っていた男も、ムチを持った男同様に革のコートを着ていた。
彼の手にも黒い金属製の魔法具――刻印器が握られている。表面には複雑な紋様が刻まれ、先端からはかすかな魔力が漏れていた。
「契約を忘れたか? 止まれば死ぬぜ、お前ら」
そして、繋がれたエルフの男に近づいた。エルフがよろめき、槌を落とすと、男は嘲笑った。
「おい、耳長、仕事が遅えな。もしかして、休んでるのか?」
彼がそう言うと、エルフの刻印が光り、叫び声とともにその場に崩れ落ちた。印を持つものが"休んだ"場合、激痛に襲われる仕組みだった。
監視役と思われる男たちは笑い声を上げ、別の奴隷に水をかけて無理やり立たせた。
一角では、魔鉄の剣を積み上げる男がいた。額に刻印を刻まれた人間の少年で、目には涙が浮かんでいたが、手は止まらなかった。
「これで終わりだろ……終わらせてくれ……」
少年が呟くと、監視役が背中を蹴りつけた。
夜、廃墟の地下で、三人の男がいずれも革のコートをまとい、冷たい目で談笑していた。
一人は腰に巻いたムチを握り、指で柄を叩いていた。浅黒い肌に、額の傷が目立つ男だ。
「町の連中、最近サボりやがるな。奴隷が足りねえぞ、クソくらえ」
彼は舌打ちし、酒瓶を手にした。
「他地域から連れてきたやつらは道中力尽きるヤツ多すぎるしよぉ。これじゃあ、間に合わん」
彼の名はガルド、町民を動かし奴隷を調達する役目だった。この町の住民は、生き延びるためガルドの命令に従い、近隣の紛争で焼け出された者や、遠方からやって来た者達を拉致し、差し出していた。
「注文が厳しくなってんだ。次の船が来るまで、頭数を揃えねえと俺の首が飛ぶ」
ガルドはムチを振り、酒の空き瓶を割った。
その隣で、剣を腰に下げた男が笑った。コートの襟を立て、顎に無精ひげを生やした男だ。
「お前、いつも焦ってんな。数が足らなきゃあ、今いる奴等を有効に使えばいい」
この男、ザクは奴隷への現場の指示と監視を担っていた。刻印器を手に、奴隷一人一人に命令を下し、わずかな反抗も許さなかった。
「この刻印器、すげえよな。手に入れた時は半信半疑だったが、こいつ一つで奴隷が犬みてえに従うんだからよ」
ガルドが鼻を鳴らした。
「その刻印器、どこからやってきたか知ってるか? 噂じゃ、悪魔の商人の物だってよ。ボスが借りたんだ。いつまで使えるかわかんねえ。とっとと任務を終えてこの場から去りたいぜ」
二人の会話を、離れた場所で聞いていた三番目の男が小さく笑った。彼は他の二人と違い、革のコートの下に白いコートを畳んで持ち、何の変哲もない若木の枝のように細い魔法の杖を手にしていた。青白い顔に、目だけが異様に鋭い。
「お前ら、仕事の話はそこまでだ。そろそろ連絡の時間だぞ」
廃墟の片隅、崩れた壁の陰で、セッコクは魔法の杖を握っていた。革のコートを脱ぎ、契約書らしき絵と天秤に剣の書かれたエンブレムのついた白いコートを羽織ると、彼は誇らしげに微笑んだ。
杖の先が光り、宙に揺れる魔法陣が現れる。向こうから、怯えた声が響いた。
「セ、セッコク様! お、お元気でございますか!」
相手の男の声は、地面に頭を擦りつけるように震えていた。
「町民は皆、必死に働いて――」
「クロイシ、戯言はいい」
セッコクの声は氷のように冷たく、言葉を切り裂いた。
「奴隷の調達だ。ガルドが頭数が足りんと喚いてる。いつ揃う?」
クロイシの声がさらに小さくなった。
「も、申し訳ございません! 近隣の難民は尽きて……ですが、遠方の港からエルフの船が、近日中に着きます! 町民に急がせて――」
「近日中だと?」
セッコクは杖を振り、紋様が一瞬歪んだ。
クロイシが叫んだ。
「お、お待ちを! すぐ命じます! 奴隷を、必ず揃えます! 町を守るため、契約を守るためです!」
セッコクの唇が歪んだ。
「その契約、よく思い出せ。町民が奴隷調達をサボれば、契約印が痛みで締め上げる。最悪、死ぬぞ」
白いコートの裾が揺れ、彼は杖を握り直した。
「周辺の連中が町を焼き払う前に、武器と奴隷を揃えるんだ。約束の量をな」
クロイシの声が泣きそうに震えた。
「わ、わかっております! 町民は皆、協力します! セッコク様のおかげで町は守られて……ひぇ、絶対に契約は守りま…」
言葉は途切れ、紋様が消えた。廃墟に鉄の音だけが響く。
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