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第2章 契約と誓約
第66話 蝦夷無青兎
しおりを挟む「改めて、蝦夷無青兎《えぞなきあおと》。蝦夷無一族の上忍だ」
「…え!? 忍びが…なぜ忍び狩りに!?」
青兎は笑みを深める。
「ふふ、まあ知らぬか。ならば、こうしよう。君が勝てば、私の全てを話そう。私が勝てば、君の全てを聞かせてもらう。勝負は一方の降参か戦闘不能まで。どうだ、お嬢さん?」
綾香は一瞬考え、頷く。
「…分かった」
だが、状況は絶望的だ。飛脚による奇襲を得意とする綾香の戦法は見破られ、青兎の技量は彼女を圧倒している。次の手を模索する綾香に、青兎の声が響く。
「考えている暇はないぞ。来ないなら、こちらから行く!」
青兎が飛脚で一瞬にして間合いを詰め、サーベルを突き出す。綾香は咄嗟に身をひねり、反撃に転じる。
「火遁・火柱!」
地面から炎の柱が青兎を飲み込む。だが、綾香の目に映ったのは燃える岩の影。
『変わり身…!』
その瞬間、真上から轟音とともに瀑布のような水流が降り注ぐ。ドドドド! 凄まじい水圧が綾香を押し潰す。
「この術はそう簡単には抜け出せん。さて、どうする?」
青兎の声が水の轟音に混じる。綾香は天から降る水流に抗いながら、必死に術を組み立てる。一分、一分半…水流は止まない。二分が経過し、青兎が手を上げると水が止む。そこには、びしょ濡れで倒れ込む綾香の姿。
「ふむ…」
青兎が静かに見つめる中、綾香はふらふらと立ち上がる。全身が悲鳴を上げ、息は途切れがち。だが、彼女の目はまだ燃えている。
「よく耐えた。だが、その状態ではもう動けまい。降参するか?」
綾香の身体から湯気が立ち上る。彼女は「陽炎熱線《かげろうねっせん》」で身体を乾かし、「硬化術」で身を守っていたのだ。青兎は感嘆の声を漏らす。
「多彩な技を持つ。素晴らしい。だが、ここまでか?」
綾香は懐から三つの煙玉を取り出し、青兎へ投げつける。ボウン! 煙が辺りを埋め尽くす。煙の中から五枚の手裏剣が青兎を襲う。
「なめられたものだな」
青兎はサーベルで手裏剣を弾く。だが、左から刀を持った綾香が、右から掌底を構えた綾香が煙を切り裂いて現れる。
「影分身! やるな、だが甘い!」
青兎は瞬時に両方の綾香を突き刺す。分身が消えると同時に、新たに綾香が青兎の眼前に現れ、低く構え、掌底を繰り出す。
「頭狼!」
だが、掌底は魔力の壁に阻まれる。青兎が笑う。
「…魔法も少々たしなむ。風の精霊よ、敵を吹き飛ばせ!」
突風が綾香を吹き飛ばし、地面に叩きつける。
「あぐっ…!」
満身創痍の綾香は、地面を叩き、炎を巻き起こす。炎の波が青兎を襲うが、彼は白い魔障壁で身を守る。
「手詰まりか? ならば、私の火遁を見せてやろう」
「火遁・炎狼群!」
六つの炎の狼が吠えながら綾香に襲い掛かる。
「これはお前の一族の忍術。一度噛まれれば、簡単には消えぬ炎」
しかし、その綾香も影分身。分身体が姿を消す。すると、青兎の足元に四つの玉が転がり――
ドォォォン!
大爆発が更地を揺らし、強固な魔鉄のコンテナが吹き飛びそうになる。爆煙の中、綾香はコンテナの上に身を低くし、青兎を睨む。
煙が晴れると、青兎を守る巨大なカラクリ人形が姿を現す。そして、十五メートルの巨体が動き出す。
「ふふ、戦場にあるものは全て利用する。それが戦いの基本だな。今のは危なかった」
「…それは?」
「我が一族の秘伝、カラクリ人形だ。簡易な魔障壁など比較にならぬ防御力を持つ。…使うのは、久しぶりだがな」
人形の巨大な拳が綾香を襲う。ゴオオ! 空気を裂く音が響き、コンテナが吹き飛ぶ。綾香は人形の腕に飛び乗り、クナイで刺すが、刃は弾かれる。そのまま綾香は振り落とされると、次の拳が迫る。
「避けられない…!」
背筋が凍り、全身に寒気を覚え、綾香は叫ぶ。
「全魔力開放! 硬化術・極み!」
魔力膜を幾層にも重ね、同時に筋肉と骨を強化。拳が直撃し、「ああっ!!!」という悲鳴とともに、地面に強く叩きつけられるとまるで隕石が落ちたかのように岩の地面に巨大なクレーターができる。
魔力膜がクッションとなり、ダメージを和らげるも、全身を大きく損傷する綾香。防御性能をもつ特殊な忍び装束はすでにボロボロ。
「満身創痍ではないか…。いい加減、諦めたらどうだ?…お前のことを知りたい。今までどこで何をしてきた?忍び狩りが世界中にいるこの世の中でどうやって生き延びてきた?」
ゆっくりと立ち上がる綾香は息をするにも苦しいほどに疲弊している。
「…山。私はずっと人のいない山にいた」
「…なるほど、それで何も知らないのか。山に籠っていればよかったものの…何故わざわざ自ら危険を冒す?」
「自分が何者か…知るため」
ゴホッと血を吐きながらゆっくりと話す綾香。しかし、一息ついて、青兔を見る目はまだ死んでいない。その鋭い視線に驚く青兔。
『なんという精神力…。忍術よりも、精神力が凄まじいな』
「もう、いい…。これを終わらせる」
ゆっくりと話す綾香は左手にクナイを持ち、腰にある刀に手を伸ばす。腕をクロスするようにしながら居合の構え。
「何をする気だ?このからくり人形には何も通用せぬぞ」
その瞬間、人形の左右の上腕骨をめがけて斬撃が目にも止まらぬ速さで飛ぶ。
「原牛流剣術奥義・鬼門」
ズバン!という大きな響きと共に、からくり人形の両腕がゆっくりと落下。綾香のクナイは衝撃に耐えきれず、バキンという音とともに砕け散る。
地響きとともに大地が揺れる。
冷や汗を掻きながら驚く青兔。
「な……!」
「火遁・火射矢一閃《かしゃいっせん》」
ズン!!
綾香の口から巨大な炎の矢が放たれ、勢いよく人形の喉元を直撃する。
「回転を伴う巨大な炎の矢か…!なんという速度!なんという威力!!」
またしても驚く青兔。
人形の喉元には黒く焼け焦げた巨大な痕が残る。
「原牛流剣術・牛角斬」
高く跳んだ綾香は人形の喉元を狙って斬撃を二本飛ばすと、凄まじい音とともに、ぐらりと人形の首が下に向く。あと一息で首が取れそうになる。
既に限界の綾香は敵から奪った爆弾を人形の首元に投げつけて爆発させると首がゆっくりと落下。
またしても地面が震えた。
青兔はその様子を口を開けて眺めるしかない。
綾香は最後の力を振り絞って、飛脚で青兔の目の前に飛ぶと、目の前で刀とクナイを抜き、飛脚の勢いのまま、二つの刃で切り裂く。
「鬼門!」
青兔を斬ると彼は口に笑みを浮かべて倒れ込んだ。
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