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第2章 契約と誓約
第73話 屋毒を探せ
しおりを挟む特別評議会後――
「上からの命令だ。直ちに安全な場所へ退避せよ。交戦は極力避け、自己防衛を最優先。ただし、奴隷化された機構の者を奪還できるなら、その限りではない。現在、朝霧郷はほぼ包囲された状態にあり、霧ノ都は対空砲を保有している。陸空からの救援は見込みが立たない。安全な退避経路を模索中だ。追って詳細を通達する」
本部からの通信は乾いた声で終わった。
「要するに――自力で生き残れってことか」
椿の声には、皮肉よりも張り詰めた怒りが滲んでいた。
「しかも、奴隷化された龍之介さんたちを“可能であれば”取り返せ、ですって…なんの支援もなしに…難題ね」
「ちょっと…!まさか逃げる気じゃないでしょうね!?体の契はどうするつもり!?」
「逃げないさ。安心して。僕は、戦う」
「…私も。逃げる気なんて、ない」
椿とレイチェルの言葉に、驚く玲子。綾香は言葉を失い、ただ静かにうつむいていた。
「でも、あの数…。どうすればいいの…!…そうだ、涼様にも報告を!」
「奴隷化された者たちが最前線に出ているなら、厄介どころじゃない。不本意に戦わされている人間と戦うことになるんだからね」
椿が冷静に言うと、綾香が顔を上げて言った。
「山への入口は無数にあるけど、主要な道は限られてる。だったら、そこを押さえれば少しでも時間は稼げるはず」
「言うのは簡単ですけど、この山は広大すぎる!とてもじゃないけど防ぎきれない!」
玲子の声には焦燥がにじんでいた。
「……あそこに忍びの巨大からくり人形と資機材がある。それらを集めて、主要なルートだけでも封鎖しよう。それに、この爆弾――敵が使ったものなら、地滑りを起こすことだってできるはず」
綾香が巻物を広げ、格納していた敵の武器を取り出す。
「やるしか、ない。やれるだけのことをやってみよう」
椿の言葉に、レイチェルがうなずいた。風の魔法で資機材を運び、綾香と玲子が爆弾で落とし穴を設け、山を崩す。
一通り作業を終えると、レイチェルの魔法で一気に山頂へと移動した。
「レイチェル、魔法で拠点まで戻れない?」
玲子が訊くと、レイチェルは少し申し訳なさそうに答えた。
「ごめんなさい…。まだ視認できる範囲までしか飛べないの。魔力の消耗が激しくて、連続使用も難しいわ」
「そう……」
玲子が視線を落とす。その背後、山の反対側では朝霧の軍が魔力大砲の準備を進めていた。誤射を避けるため、再びレイチェルの魔法で拠点まで移動。疲労の色が彼女の顔に濃く浮かぶ。
自警団の拠点では、軍師・涼と部隊の一部が集結していた。
「涼様!」
玲子が駆け寄ると、涼は安堵の表情を浮かべる。
「無事だったか…本当に良かった」
自警団のリナも椿に抱きついた。
「椿…よかった…」
「みんな、生きてて良かったよ」
落ち着いた空気の中、椿たちは現状を報告した。
「なるほどな…。龍之介が奴隷に…」
涼は拳を強く握り締めた。だが涙は見せなかった。
「敵として龍之介が立ちはだかるとすれば、我々は――どう動くべきかな!ははは」
豪快に笑ったその背後に、悲しみを隠す気配があった。
「椿、レイチェル、綾香。お前たちはどうする?体の契があるとはいえ、義務はない。お前らを利用とした部分もある。改めてすまなかった」
レイチェルが即座に応じた。
「いえ、私たちも同じ。それでも逃げる気はありません。それに、もう……逃げられませんし」
彼女の微笑みはどこか張りつめていた。
「正直なところ、戦力差は圧倒的だ。北だけでも敵は七倍。そして龍之介が敵となれば――」
涼の言葉が途切れたその時、椿が前に出る。
「でも、龍之介さんたちをこちら側に戻せるかもしれません」
「何だと?」
涼と玲子が同時に声を上げた。
「奴隷契約は、強制的な刻印器によるもの。屋毒が使っているものです。もし彼を捕らえられれば、契約を解除できる可能性があります。敵に囲まれている今、屋毒がこの近辺にまだ潜んでいる可能性は高い」
「……なるほど」
「僕たちは元々、屋毒を追ってここに来た。逃げ道がない以上、必ず近くにいる。姫君にお伝えください。必ず、屋毒を捕まえて、この流れを変えてみせると」
強気に言い切る椿の姿に、レイチェルと綾香が呼応するように表情を引き締めた。
「頼もしいな。我らは契約は好かぬが……お前たちは、好きだ。玲子、似ていると思わないか?あの人に」
「…はい」
「では、椿、レイチェル、綾香。龍之介を、頼む」
「お任せを」
そう言って三人は古びた小屋に入って地図を広げ、屋毒の潜伏先を探りはじめた。
「玲子」
「はい、涼様」
「椿とは、寝たのか?」
「な……い、いえ、まだ……」
「だろうな。気にするな。あの者たちについていけ。ここの地を知る者が必要だ」
「でも私は、涼様の――」
「私も、龍之介についていった。今度はお前が、ついていけ」
「…わかりました」
こうして、四人は再び屋毒捕獲へと動き出した。
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