74 / 295
第2章 契約と誓約
第72話 迎え撃て
しおりを挟む「綾香!」
綾香の元へと駆けつけた椿、レイチェル、玲子の三人。
「椿くん…私、勝手なことをして…ごめんなさい」
「いいんだ。そんなことより、ここは雷雨大名の軍に侵攻される。本部から退避命令が出た。急ごう」
「う、うん…」
地響きを伴って、空間移動魔法装置で現れた兵士たちがゆっくりと迫ってくる。
「龍之介様!?」
玲子の顔が恐怖と混乱で歪む。兵士の先頭に立つのは、契約管理機構《コード・レジスト》の執行官であり朝霧郷東西地区軍師・涼の夫、龍之介。かつて人々を癒したその優しい目は、今や悪魔のように変貌していた。
レイチェルも椿も、言葉を失う。
玲子が思わず龍之介に駆け寄ろうと前に出る。つられてレイチェルも一歩進む。
「レイチェル、僕が行く! 君は本部に連絡を!」
「わ、わかったわ!」
「龍之介様、一体どこに…。いえ、それより、そのお姿は…!」
「龍之介執行官!契約管理機構の管理官・椿です!覚えていますか?」
「……玲子に椿か。なぜお前らがここにいる」
優しい声はもうなく、低くて冷たい声。椿はふと、龍之介の右肩にある異様な印に気づく。
「これは…強制奴隷の契約印…!」
「奴隷!?では、龍之介様は雷雨大名の奴隷に!?」
「痛みで意識を支配する呪印だ。おそらく、昨日の刻印器と関連している」
その時、剣や斧を掲げた男たちが、玲子に襲いかかる。椿はすかさず玲子の腕を引いて魔障壁を展開し、攻撃を防いだ。
「敵だ。雷雨大名の敵……軍師・涼の右腕……殺す!!」
死んだようだった奴隷兵の瞳に、殺意の光が宿り、大きく叫んだ。
「俺がまだ自我を保っているうちに逃げろ……さもなくば、俺がお前たちを殺すことになる」
龍之介の言葉を受け、椿はためらいながら風の精霊の力を使い、玲子を抱えて一気にレイチェルたちのもとへ飛んだ。
「レイチェル、龍之介さんは奴隷にされてる。それに、あの中には管理官の制服を着た人たちもいる」
「エレナ様!聞こえますか!?私たちはどうすれば…!」
「落ち着け。これはある程度予想していた。既に総監には伝えてある。特別評議会が招集されるだろう。キルセインがもうすぐそちらに向かう。そいつに乗って帰還しろ」
そう言った直後、空から爆音が響き、炎に包まれた怪鳥・キルセインが山中へと墜落するのが見えた。
「今のは……」
「砲撃だ。敵の拠点からのものだろう」
「……使い魔は全て出払っている。今すぐの救助は困難だ。なんとか逃げ延びてくれ。評議会の結果はすぐに伝える。……すまない」
悔しそうなエレナの声は途絶えた。
契約管理機構本部《コード・レジスト》・契約の尖塔《リグナ・コード》
右の塔最上階。総監を含む九人のリーダーたちが特別評議会のために集まっていた。
「奴隷化は公開契約違反だが、相手は一都市の主…。争いとなれば兵力差が問題だ」
「都には誰が向かっている?」
「クリスティーナ総監補佐とアイリス調停官(長官)が既に都に到着している。これから雷雨大名に面会する。…これまでも百合執行官とルーク執行官が失踪した管理官たちを追って、断続的に霧ノ都で調査を行っていた。関与していると疑いのあるものがいる。都を拠点にしているとされる霧生玄蛙《きりゅうげんあ》という商人で、裏の名を屋毒という」
「…雷雨大名の関与ではないと?いずれにしろ懸念は彼に伝えねばな」
「過去に何度か伝えたが、調査するの一方通行。どこまで雷雨大名が関わっているのか現在も不明」
「して、現場にいるのは誰だ?」
「レイチェルという若いが優れた執行官です。それと椿という新人の管理官、彼の契約見守り人、綾香という人物が」
「知らん名だな。いや…レイチェルは過去に聞いたか…?ともかく、若手ではこの状況を乗り越えるのは難しいだろう。空間移動魔法装置を使って退避させては?」
「空間移動魔法装置の発動にはそれなりの準備が必要。朝霧郷に我らの拠点はなく、厳しいかと」
「ふむ、現場にいる三人への指示はどうする?身を隠すように言っても限界があるだろう。それに、自己防衛でも雷雨大名の兵を殺めれば、問題になりかねん」
「クリスティーナ総監補佐らにこの懸念点を伝え、雷雨大名にレイチェルたちを見つけ次第、身柄を保護するように依頼しよう」
「しかし、そう上手くいきますかね。大名が関与していれば保護となるかどうか。最悪の場合も想定せねば」
「…最悪の場合、こちらも相応の覚悟をしよう。しかし、少なくとも奴隷にされた者たちは取り返したいところ。現場の三人にもそう伝えておけ。ソコが折り合いの付け所だろう」
「…では、そのように!」
――その頃、朝霧郷中央地。
軍師の横に立つ若い姫が全兵へ向けて指示を出す。
「我が軍の数を確認する!中央軍一万二千、東西一万、北八千、忍びや自警団を含め計三万二千。敵は十三万。劣勢は間違いなし。しかし、我々は山という地形を活用して、ここまで抗戦してきた。これまで陽《ひ》は我らを見捨てなかった。そして、これは今後も変わらない。敵は全員山を越えてくる。山の麓を集中攻撃できるよう、魔力大砲と投石機を配置し、敵を一気に叩け。細かい戦術・指揮は現場の指揮官たちに任せる。一般人には退避命令。避難を急がせろ。ここが正念場!!必ず乗り切るぞ!!」
「オーッ!!」
山と霧の国に、戦の幕が上がる。
しかし、誰もが息を潜めて問う――果たして、この地に再び朝日は昇るのか。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる