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第2章 契約と誓約
第88話 椿対桃森
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畳八畳の大広間。中央に低い卓、両脇に花瓶、古びた掛け軸と飾り棚。空気は張り詰め、椿と女侍・桃森が対峙する。
桃森は袴に二刀流、しっかりとした構え。若い、おそらく二十歳前後。だが、初陣ではない。何度も血を浴びてきた目だ。
椿は静かに杖を構え、戦況を読む。
狭い空間。彼女の二刀流は速い。この狭い閉ざされた空間では、魔法を得意とする僕には、真正面からは分が悪い。だが、環境を利用すれば勝てる。
「なに?黙りこんじゃって。まさか女とは戦えないとか言わないでよね?私は、強いよ?」
ニヤリと笑うと桃森が先に動いた。低い姿勢から一気に踏み込み、長刀で縦に、短刀で横に同時に斬りかかる。
速い。二本の刃が流れるように交差し、死角を埋める。
椿は瞬時に回避しつつ、杖を振る。
「風よ、乱れろ!」
突風が畳を返し、桃森の動きをわずかに鈍らせた。だが桃森は臆さない。袴をひるがえし、短刀を突き上げる。椿は卓を蹴って滑らせ、間合いを取る。
桃森の剣技は洗練されていた。単なる力押しではない。動きながら、絶えず周囲を見て、隙を探る。
「逃がさないッ!」桃森が叫び、刃を振る。
長刀が軌道を描き、短刀がその影から迫る。椿は畳を転がり、かすめる斬撃をかわすと、杖を大きく振った。
――回転。
棒の端が弧を描き、まず桃森の腹に叩き込まれる。
「くっ!」
息が漏れる。続けて、回転の勢いのまま脚へと流れる。袴ごと膝を薙ぎ、桃森の体勢を崩す。
しかし彼女は素早く短刀で地を突き、踏ん張った。
「やるじゃない……!」
桃森の頬に笑みが浮かぶ。
その瞬間、椿はさらに踏み込んだ。
杖を跳ね上げる。空中へ。
空間が弾けたように椿が飛び、重力を乗せた杖の一撃を桃森の肩に叩き込む!
激しい衝撃に桃森の身体がぐらつくが、彼女は咄嗟に長刀を背後へ回し、防御に転じた。
だが――。
「くっ……!」
動いた拍子に、袴の紐が緩む。重みで桃森の胸がせり出し、顔のすぐ近くに。
『邪魔!』
心の中で舌打ちする。
刃筋がわずかに狂う。椿は見逃さない。
間髪入れず、杖を突き出す。
「光よ、貫け!」
光の弾が発射され、桃森の脇腹をかすめた。
だが桃森は怯まない。長刀を握り直し、反撃に転じた。
「まだ終わってないッ!!」
桃森が魔力を込めた斬撃を放つ。長刀が弧を描き、空気を切り裂く。短刀も続き、別角度から椿を襲う。
目に見えぬ魔力の圧が空間を満たす。
――桃森も、魔力を剣に宿して戦っている。
椿は風で身を滑らせながら、読み切った。
彼女は速いが、消耗が激しい。持久戦なら、こちらに分がある。
もう一度、杖を振る。「風よ、導け!」
花瓶が転がり、陶器の破片が畳を散らす。
桃森は短刀で払いながら突進。しかし、破片で足の運びがわずかに狂った。
そこへ、椿は一気に距離を詰める。
杖を振り回し、連打! 腹、脚、腕、連続で叩き込む。
「くっ……、はあっ!」
桃森は長刀で弾き、短刀で突き返すが、防戦一方になる。
最後の一撃。椿が踏み切り、跳躍。
渾身の力で杖を叩き下ろす。
桃森は腕で受け止めるが、体勢が崩れる。膝が畳に沈んだ。
桃森は呼吸を荒げながら、それでも立ち上がろうとする。
「こんな雑魚に私が負けるわけにはいかないのに…」
椿は杖を下ろし、静かに言った。
「君の剣技は見事だった。でも、戦況を読む力は僕の方が上だった」
桃森は悔しそうに歯を食いしばり、それでも諦めずに睨み返す。しかし、その目には戦意とは違うものを感じた。
「…あなた、リンドウさんをやったんでしょう?」
「リンドウさん?誰だろう」
「屋毒の護衛にあたっていた侍だよ。女のね。私の憧れの人だった」
「ああ、そうか。でもあれは…」
「あなたたちのことなんてどうでもいいの。問題はあの後よ。屋毒が敵対領主にも武器を売ってると雷雨大名が知って、リンドウ先輩をグルだと言い出したの。そうしたらリンドウ先輩、奴隷兵としてここに派兵されちゃって…」
彼女の声が震えだした。
「私は先輩を助けるためにわざわざ志願してマリリーに都からここまで連れてきてもらったのに…。こんなところで負けるなんて…」
「え、待って。わざわざ都から!?あの魔法使いはここまで人を転送したっていうの?」
「なによ!当たり前でしょ」
「…す、すごいな。そんな長距離移動を魔法装置なしで?…ていうか、リンドウさんって人、奴隷兵だったなら契約解除したから戦いに負けてなければ、無事なんじゃないかな」
「………え?」
桃森は袴に二刀流、しっかりとした構え。若い、おそらく二十歳前後。だが、初陣ではない。何度も血を浴びてきた目だ。
椿は静かに杖を構え、戦況を読む。
狭い空間。彼女の二刀流は速い。この狭い閉ざされた空間では、魔法を得意とする僕には、真正面からは分が悪い。だが、環境を利用すれば勝てる。
「なに?黙りこんじゃって。まさか女とは戦えないとか言わないでよね?私は、強いよ?」
ニヤリと笑うと桃森が先に動いた。低い姿勢から一気に踏み込み、長刀で縦に、短刀で横に同時に斬りかかる。
速い。二本の刃が流れるように交差し、死角を埋める。
椿は瞬時に回避しつつ、杖を振る。
「風よ、乱れろ!」
突風が畳を返し、桃森の動きをわずかに鈍らせた。だが桃森は臆さない。袴をひるがえし、短刀を突き上げる。椿は卓を蹴って滑らせ、間合いを取る。
桃森の剣技は洗練されていた。単なる力押しではない。動きながら、絶えず周囲を見て、隙を探る。
「逃がさないッ!」桃森が叫び、刃を振る。
長刀が軌道を描き、短刀がその影から迫る。椿は畳を転がり、かすめる斬撃をかわすと、杖を大きく振った。
――回転。
棒の端が弧を描き、まず桃森の腹に叩き込まれる。
「くっ!」
息が漏れる。続けて、回転の勢いのまま脚へと流れる。袴ごと膝を薙ぎ、桃森の体勢を崩す。
しかし彼女は素早く短刀で地を突き、踏ん張った。
「やるじゃない……!」
桃森の頬に笑みが浮かぶ。
その瞬間、椿はさらに踏み込んだ。
杖を跳ね上げる。空中へ。
空間が弾けたように椿が飛び、重力を乗せた杖の一撃を桃森の肩に叩き込む!
激しい衝撃に桃森の身体がぐらつくが、彼女は咄嗟に長刀を背後へ回し、防御に転じた。
だが――。
「くっ……!」
動いた拍子に、袴の紐が緩む。重みで桃森の胸がせり出し、顔のすぐ近くに。
『邪魔!』
心の中で舌打ちする。
刃筋がわずかに狂う。椿は見逃さない。
間髪入れず、杖を突き出す。
「光よ、貫け!」
光の弾が発射され、桃森の脇腹をかすめた。
だが桃森は怯まない。長刀を握り直し、反撃に転じた。
「まだ終わってないッ!!」
桃森が魔力を込めた斬撃を放つ。長刀が弧を描き、空気を切り裂く。短刀も続き、別角度から椿を襲う。
目に見えぬ魔力の圧が空間を満たす。
――桃森も、魔力を剣に宿して戦っている。
椿は風で身を滑らせながら、読み切った。
彼女は速いが、消耗が激しい。持久戦なら、こちらに分がある。
もう一度、杖を振る。「風よ、導け!」
花瓶が転がり、陶器の破片が畳を散らす。
桃森は短刀で払いながら突進。しかし、破片で足の運びがわずかに狂った。
そこへ、椿は一気に距離を詰める。
杖を振り回し、連打! 腹、脚、腕、連続で叩き込む。
「くっ……、はあっ!」
桃森は長刀で弾き、短刀で突き返すが、防戦一方になる。
最後の一撃。椿が踏み切り、跳躍。
渾身の力で杖を叩き下ろす。
桃森は腕で受け止めるが、体勢が崩れる。膝が畳に沈んだ。
桃森は呼吸を荒げながら、それでも立ち上がろうとする。
「こんな雑魚に私が負けるわけにはいかないのに…」
椿は杖を下ろし、静かに言った。
「君の剣技は見事だった。でも、戦況を読む力は僕の方が上だった」
桃森は悔しそうに歯を食いしばり、それでも諦めずに睨み返す。しかし、その目には戦意とは違うものを感じた。
「…あなた、リンドウさんをやったんでしょう?」
「リンドウさん?誰だろう」
「屋毒の護衛にあたっていた侍だよ。女のね。私の憧れの人だった」
「ああ、そうか。でもあれは…」
「あなたたちのことなんてどうでもいいの。問題はあの後よ。屋毒が敵対領主にも武器を売ってると雷雨大名が知って、リンドウ先輩をグルだと言い出したの。そうしたらリンドウ先輩、奴隷兵としてここに派兵されちゃって…」
彼女の声が震えだした。
「私は先輩を助けるためにわざわざ志願してマリリーに都からここまで連れてきてもらったのに…。こんなところで負けるなんて…」
「え、待って。わざわざ都から!?あの魔法使いはここまで人を転送したっていうの?」
「なによ!当たり前でしょ」
「…す、すごいな。そんな長距離移動を魔法装置なしで?…ていうか、リンドウさんって人、奴隷兵だったなら契約解除したから戦いに負けてなければ、無事なんじゃないかな」
「………え?」
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