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第3章 契約と運命
第103話 動き出す運命
しおりを挟む綾香とレイチェルがカナレットと別れた後。
「レイチェル、さっきの話、聞いてどう思った?」
「そうね…。なんだかまだ頭の中が整理しきれていないわ。希望の魔力の力を使うために、心から契約と誓約で同意した女性たちと寝るだなんて。それも恋愛である必要はなくて、お互いに希望の魔力の力を引き出すために同意さえすればいいなんて…」
「そうだよね。私もなんだかよくわからないよ。椿くん、それでいいのかな?」
「この世界、戦争が三百年も続いて、みんな疲れきってるわ。誰もが戦争なんてなくなればいいって思ってる…権力者を除いてね。だから、それを終わらせるきっかけになるなら…。でも…肉体関係を結ぶってさ…そんなことでいいのかしら?」
「わかるよ。交わる行為って、なんかもっと神聖なものだと思ってた」
「…そう、私たちが勝手にそう思ってるだけなのかもしれないわね。男も女も不倫したり、パートナーがいてもいなくても、身体だけの関係を持つ人もいるし。きっと、いろんなリスクがあるからこそ神聖なものにして、簡単に誰とでもできないようにしてるんだろうけど」
「うん、自然とね。でも、じゃあ、椿はこれから本当に何人もの女性と身体を重ねるのかな?」
「カナレットさんの見た未来では、そうみたいね」
「私たちのこと、忘れたりしないかな。何人もの女性と寝る中で、私、彼の記憶にちゃんと残れるのかな。私、嫌だな。椿が私のそばから消えちゃうなんて」
「そうね。私もそう思うわ」
二人はしんみりとした空気に包まれ、それ以上言葉を交わすことはなかった。
『綾香ちゃん、どこまで知ってるのかな。椿の朝霧郷での身体の契りのこと。十四人もの女性と寝てるなんて。きっと、ほんの数人くらいだと思ってるのかな…。でも、これからは十四人どころじゃないよね』
レイチェルは、以前サヤカに言われたことを思い出した。
『椿についていきなさい。戦は終わるよ。そのとき、あなたは彼のそばにいる』
その言葉もまた、カナレットの予言だった。胸の奥がぎゅっと潰されるような、複雑な気持ちが込み上げた。
カナレットは古びた教会の扉を開けながら考えていた。
『全ては運命。予言通りに進んでいる。百合という女性が彼に恋をしたのも必然だ。今後、彼女のような女性がたくさん現れる。そうすれば、この世界は変わる』
「まーた、運命がー、とか考えてるんでしょ、カナレットさん」その声の主は、白いチェックのシャツにサスペンダー、半ズボンがよく似合う少年、カナレットの弟子のジョン・ジュニア。声変わりの時期はもう終わったみたいだ。
びくりとその声に驚き、震えるカナレット。「ちょ、ちょっと…脅かさないでよ!」
「運命なんてさ、契約一つで変えられるよ。契約で運命は操作できるんだ。…パパが言ってた」
カナレットは腰を低くして、ジョン・ジュニアの背丈に合わせて目を見つめながら話しかけた。
「あのね、何度も話したと思うけど、運命はそう簡単には変えられないのよ」
すると、ジョン・ジュニアは「ふん」って感じで教会の外から林の中へと駆け出していった。
「やれやれ…。さて、百合って子にも伝えなきゃな」
明け方、椿と綾香は初めて想いを伝えあった。そして、昼過ぎ。少し遅刻して、椿と綾香はレイチェルと共に街へ向かった。
椿達は紫音の朝霧郷への帰還と、碧音の機構本部への転移を行った。空間移動の魔法札を宿に設置し、入れ替わりを終えると、碧音は早速、紫音から希望の魔力の力を引き出す魔法陣の研究をカナレットと一緒に進めた。二人はすぐに意気投合し、碧音がカナレットに今後の札の設置を頼むと、「一週間ごとに姉妹の二人が交代だよね? 任せて!」とカナレットは弟子のメリアにその仕事を依頼した。
また、椿はワイバーン、ストームの使い魔契約登録も行った。これで、ストームは召喚されれば本部に来ることもできるようになった。もっとも、朝霧の住処と本部はかなり離れているから、なかなか召喚するのは難しそうではあるが。
その日の夕方、椿は碧音とも、体の契りを忘れないようにと身体を重ねた。薄暗い部屋に差し込む夕陽が、碧音の滑らかな肌とそばかすをほのかに照らし、彼女の水色のローブは床に滑り落ち、青い石のネックレスが彼女の首で揺れ、二人を包む静寂の中で、柔らかな吐息と椿の鼓動が響き合った。
さらに翌日、ついに次の任務が始まったのであった。
『契約内容要約―
雷雨大名の許可のもと、霧ノ都外縁、西南に位置する奴隷兵収容施設『霧ノ丘』の視察。この施設は、奴隷兵の訓練と管理が行われる主要な拠点。
目的:
一、雷雨大名の奴隷兵の中に当機構従事者の存在確認及び存在可能性の情報収集。
二、雷雨大名と屋毒の関係性調査。
注意: 目的一に関連して、大観火沙耶香の行方に関する情報の収集及び、可能であれば探索、捕獲を目指すこと。
補足:行方不明者リストは別添。』
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