108 / 295
第3章 契約と運命
第104話 霧の丘の視察
しおりを挟む百合をリーダーとするAチームの六人は、機構本部近海にある、機構所有の島・コントラク島へと船で移動した。結界で守られ、空間移動魔法の制限がある本部と違い、ここは結界が弱く、空間移動魔法の使用が容易となっている。ここから雷雨大名の手配による空間移動魔法装置で瞬時に目的地、霧の丘へと移動した。
この日から一週間、彼らは奴隷兵収容所を視察する任務に就く。
出迎えたのは、ガマガエルのような顔立ちで赤く日焼けした男、フロスク・グリーンだった。茶色がかった金髪、鋭く尖った青い目。身長は百五十センチほどで腰が曲がっているが、聞けばまだ四十歳と若い。白い衣に茶色の革ベストを羽織り、二人の衛兵を従えていた。
「いやいや、ようこそおいでくださいましたね! ここ霧の丘はね、向こうの霧子村の霧がよく見えることが由来なんですけどね、この丘自体には霧なんてかからないんですよね! ははは!」フロスクは陽気に手を振って笑った。
「出迎え、感謝します。これから一週間、よろしくお願いします。」百合は冷静に応じた。
「いやいや、こちらこそよろしくですね! あ、失礼ですけどね、武器をこちらでお預かりさせていただければ、ね…」フロスクは腰を低くし、丁寧に尋ねた。
「契約では、我々の武器携帯が許可されているはずだが?」百合の声にわずかな鋭さが滲む。
「は? あ、ちょっとお待ちください、ね…」フロスクは慌てて書類をめくり、確認する。「ほほう、なるほどね。いや、失礼しましたね! 手違いでしたね。お持ちいただいて結構です、ね。普段は預かるんですけどね、信頼の問題ですし、ね!」彼は気まずそうに笑った。
「どうも…」百合は短く答えたが、六人全員が心の中で思った。『悪い人ではなさそうだが…信頼はできなそうだ』
「いやいや、しかし良い天気に恵まれたもんですね! この辺りは雨が続くことも多いんですよね!」フロスクは声を張り、話題を変えた。
「そうなの? でも、フロスクさん、なんでそんなに日焼けしてるの?」ナナが無邪気に尋ねた。
「おお、良い質問ですね! 実は昨日、休暇から戻ったばかりでね! 南のレノト島に行ってきたんですよね。陽射しが強くて、こんがり焼けちゃいましたね! ははは! 素晴らしい島でした、ね!」フロスクは目を輝かせた。
「へえ、いいな! 海、綺麗でした?」真弓が興味津々に食いつく。
「綺麗なんて言葉じゃ足りないね! まるで別世界ですよね! 波打ち際には珊瑚礁や貝殻がきらめいて、ね、近海の戦争で流れ着いた船の残骸、武器、死体の山…なんというか、終末の美しさですよね! 素敵でしょう、ね?」フロスクは恍惚とした表情で語った。
「へ…?」真弓が言葉を失う。
「うそ…。それ、ぜんぜん素敵じゃないんだけど。」ナナが率直に呟く。
「ははは! そうかね!? 私は大好きなんですけどね! ははは!」フロスクは豪快に笑い飛ばした。六人全員が心の中で確信した。『この男、絶対に変だ』
その時、無機質な門の役割を果たす建物の出口が見えた。衛兵が重い扉を開け、六人が外に出ると、広大な丘陵地に複数の収容施設が広がっていた。異なる大きさのフェンスが区域を区切り、整然と配置されている。
「ここには七つの区画がありますね。男奴隷兵、女奴隷兵、訓練所の収容施設、ね。それに、食堂、シャワー棟、衛兵所、倉庫の関係施設、ね。そして今いる管理棟、ね。ここでは新規奴隷兵の部屋割りや魔力確認なんかをやってますね」フロスクが説明した。
「あの丘の向こうの白い建物は?」綾香がフェンスの外に佇む建物を指差した。
「おお、驚くべき観察力ですね! あれは、私もよく知らないんですよね。管轄外なんで、ね。わざわざ行く気にもならないし、何もないです、ね」フロスクは曖昧に笑った。
「そう…」綾香は静かに頷いた。
「さて、まずは管理棟をご案内します、ね。ここが皆さんの宿泊棟ですね。組織のお偉方から、最低二人一組の部屋割りで、と言われてまして、ね。部屋はこちらね。まずはゆっくり休んでください、ね。私は上に皆さんが無事到着したことを報告しに行きますね。何かあれば、この二人の衛兵が外で待ってますね」
そう言い、フロスクは鍵を手渡した。白い平屋の宿泊棟には十ほどの部屋があり、各部屋に簡素ながらベッド二つ、トイレ、シャワーが備わっていた。
「よし! 部屋割りはリーダーの私が決める! まず、私と椿…!」百合が宣言する。
「なんでよ!?」レイチェルが即座に突っ込む。
「リーダーだからってずるい!」綾香も負けじと抗議。ナナは頬を赤らめ、こくこくと頷く。
「え、なに? 別にいいじゃん。ね、椿?」百合は軽く笑った。
「う、うん、まあ…でも、契約見守り人の綾香か、ずっと一緒だったレイチェルだと…嬉しいかな…」椿は顔を真っ赤にして俯きながら呟いた。
「椿…」レイチェルと綾香はどこか嬉しそうに微笑んだ。
「ダメ! 椿は希望の魔力の持ち主なんだから、今後いろんな人に狙われるよ~?だったら、一番強い私が守るべきでしょ?」百合はきっぱりと言い切った。
かくして、部屋割りは百合と椿、レイチェルと綾香、真弓とナナに決定した。
「私のことはタメ口で呼び捨てにしてほしいんだけどさ、椿さん…いや、椿くん? 椿でいい? なんて呼んでほしい?」百合が軽い調子で尋ね、ニヤリと笑った。
「じゃあ、お互いタメ口、呼び捨てでどう?」椿が少し照れながらも応じる。
「うん…って、早速敬語じゃん!」百合が突っ込むと、二人は顔を見合わせてくすくす笑った。
「ところでさ、話聞いたよ? 希望の魔力、調和と交歓の持ち主なんだって?」百合は少し声を潜め、興味津々に尋ねた。
「そうみたい…。まだ実感ないけど。力を使ったこともないし。」椿は少し遠い目をして答えた。
「ふーん。使いたいとは思ってる? 女の人と、寝るんでしょ?」百合の口調は軽いが、目は真剣だった。
椿は少し間を置いて考え、ゆっくりと言った。
「正直、よくわからない。カナレットさんたちはこの力に興味津々で、使うことでどこかの戦争が終わるって信じてる。いや、それが運命だって言うんだ」
「運命、ねぇ」百合は腕を組んで軽く首を振った。
「私はさ、椿と出会えたこと自体が運命だと思ってたけど、こんなタイミングで出会ったってことは、やっぱり何か縁があるのかもな。抵抗はないの? 好きな人以外とはやりたくない、とかさ」
「それが…よくわからないんだ」椿は視線を落とし、言葉を探すように続けた。「そのことを考え始めると、頭がどこかで止まる感じ。今までも何度かそんなことがあって、結局、流れに任せてきた。契約で強いられたこともあるし」
「ふーん…」百合は真剣に聞き、軽く頷いた。彼女の目は、椿の言葉の奥にある迷いを感じ取ろうとしているようだった。
一方、隣の部屋の隅でレイチェルは綾香をちらりと見て、考え込んでいた。
『昨日、紫音さんの朝霧への帰還を手伝いに街へ出たとき、綾香と椿、二人とも珍しく集合場所に遅れてきた。同じ部屋で暮らす二人だけど…二人してふわっと漂うシャンプーの香り、微かに湿った髪…何かあったのかな。私、一人置いてけぼり?』
「レイチェル? どうしたの?」綾香が不思議そうに声をかけ、レイチェルを現実に引き戻した。
「え、え、なんでもない! い、行こうか!?」レイチェルは慌てて立ち上がり、誤魔化すように声を張った。
こうして、チーム内に微妙なギクシャクを抱えながら、任務が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる