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本編 燦聖教編
大司教グリモワール
しおりを挟む何が良いかな?
王族の人達は見たところかなり痩せているから、まともな食事を与えられてはいなかったのが一目瞭然だ。
こんな時は【栄養満点具沢山スープ】は必須だよな……後はメイン料理。何にしようかな?
……そうだ!
この前作って好評だった肉の甘辛煮込みにしよう。これなら野菜もたっぷり食べれるし、米との相性が抜群なんだよな。
『主~何を作るのだ?』
一人黙々と考え込んでいたら銀太が俺の手をギュッと握り、見上げてきた。
銀太から見下ろされる事はあっても、俺が見下ろすことなんてないからな。
それだけでも獣人姿の銀太は新鮮だ。
「んん? 銀太達のご飯何作ろうかな? って考えていたんだ」
『ぬ? 我は主のご飯なら何でも美味いから大好きなのだ』
そう言って獣人姿の銀太の尻尾がフリフリとご機嫌に動く。
なんだよその可愛い尻尾の動きは! 思わず銀太の頭をクシャッと撫でる。
「よしっ作るか……っと? この部屋に調理場とかあるのかな?」
俺は調理場がないかフィリップ王子に聞いてみた。
するとフィリップ王子は少し申し訳なさそうな顔をし
「すみません。この部屋には料理を作る場所はないのです。ナイフやフォークといった武器になりそうな金属は置いていません」
「ええ? ナイフやフォークまでないの? じゃあ何で食べていたのさ?」
俺が不思議そうに王子を見ると、奥から何か出して来てくれた。
何だ? なんに使うんだ?
「ええと……それは木で作られた二本の細い枝?だよな?」
「ふふっ天使様でも分かりませんか? これはハシと言う食事を食べる時に使う道具です」
「ハシ?」
「はい。この木を手でこう持って、この様にして食べ物を挟んで食べるのです」
フィリップ王子は器用にハシを持ち上手に動かした。
「器用なもんだな」
「ありがとうございます。僕は倭の国に4年間留学していましてその時に学びました。倭の国ではこのハシで食事をするのが普通なのです。僕がお父様達にもハシの使い方を教えたので、フォークなどが無くても困りませんでした」
なるほどな。
じゃあそのハシとやらを使っていっぱい飯を食べてくれよ。
俺は調理台が置けそうな場所に立ち
「この広いスペースちょっと借りるな?」
「えっ?ええ。あの……何をするんですか?」
「ふふっまぁ見てて?」
俺は何もない場所に調理台を出し、その上に魔道コンロを並べていく。
「ええっ!? ないもない所から!? いきなり調理台が?!」
フィリップ王子達が目を見開き驚いているが、そこは触れずにそっとしとこう。 こんな事で驚かれていたらなかなか作業が進まない。
ええと……米は前に炊いていたのをコピー料理で増やしたのが大量にあるし。スープもこの前作ったトゥマトのがあるな。
って事はメインの肉の甘辛煮込みを作ったら良いだけだな。
俺はワイバーンの塊肉をアイテムボックスから出すと、塊肉を風魔法で薄くスライスし、平たい鍋に薄切り肉と葉野菜を入れて焼いていく。
味付けはショーユとジュエルフラワーの蜜と出汁。
甘く肉の香ばしい美味そうな匂いが部屋の中を覆い尽くす。これはもう匂いのテロ。
ゴクリッ!
みんなの唾を飲み込む音が聞こえる。
「これは……スキヤキですね! 天使様はスキヤキを知ってるんですね。さすが天使様何でも知っておられる」
フィリップ王子はヨダレが止まらない口元を手で隠すように抑えながら、この料理をまじまじと見てスキヤキと言う。
「えっ? これスキヤキって言うの?」
「はい! えっ? 知らないで作られたんですか?」
この甘辛煮は、パールがこんな料理が食べたいなって言うから、その意見を参考に作って完成したのがこの料理なんだが、もしかしたらパールは過去にスキヤキを倭の国で食べた事があったのかもな。今はもう忘れてそうだけど。
「何でも良いか! さぁみんなで食べよう」
俺はフィリップ王子達にも料理をよそう。
それをじっと見つめ王子達は料理に手をつけない。
まだ天使様に遠慮して食べないのか。
ふふっこの匂いテロの中いつまで我慢できるかな?
可愛い聖獣達はパクパクと美味そうに食べている。
王様達? この姿を見ても耐えられる?
『美味いのだー! この肉が柔らかくって甘くって……我はおかわりなのだ!』
『なっ何だよこのタレは……はぁっ。タレだけで米が何杯でも食えちまう! なんてこった俺に肉を食わせないつもりか……くっ!』
またスバルが訳の分からない事言ってやがる。
そんな訳ないだろ? 肉をいっぱい食ってくれ!
『妾はこの薄い肉の方が食べやすくって好き』
コンちゃんも尻尾フリフリ美味しそうに食べている。
ーーゴクリッ!
「わっワシはもうこれを食べられるなら死んでもいい!」
我慢の限界で国王様が一番に陥落したようだ。恍惚とした表情で肉を美味そうに食べている。
「あっ…あなたが食べるなら!」
今度は王妃様の我慢が限界、スープに手が伸びる。
「はぅっ……なんて美味しいの。心が満たされて涙が止まらない」
それを見た王子達も目を見合わせやっと食べ出した。
クスッ……良かった。いっぱいおかわりあるからな。
好きなだけ食べてくれよ。
★ ★ ★
腹いっぱいになると満足したのか、下の王子と王女はそのままソファで眠ってしまった。
その顔は幸せそうに笑っている。
良かったその顔を見れただけでも作ったかいがあった。
弟達をベットに運ぶと、フィリップ王子が真面目な顔をして俺を見る。
「天使様はなぜ、僕らのことを助けに来てくれたのですか?」
顔つきもマシになったし、俺たちが見て来たことを伝えても良いと思ったので、旅で見てきた全てを俺は王様達に話した。
俺は天使などではなく、隣国ヴァンシュタイン王国から来たと。
獣人の奴隷の話、燦聖教の悪事、この国の街で起こっていた騒動など。
話しはかなり長くなったが、国王陛下や王妃様それにフィリップ王子は、黙って頷き時には涙しながら俺の話を真剣に聞いていた。
「天使様……改めてこの国を助けて頂きありがとうございます」
国王陛下が頭を下げ俺に礼を言う。
いやだから……俺は天使じゃないって説明しただろ? ヴァンシュタイン王国から来たって!
天界からきたなんて一言も言ってないぞ?
「天使様のおかげで、沢山の国民や獣人族達が救われほっとしています。あっあり….ふぅううっ」
王妃様は話を聞いていた時ずっと涙を溜めて我慢していた。
もう我慢の限界だったのだろう。泣き崩れてしまった。
「「「ありがとうございます天使様」」」
国王様達が涙ながら俺たちに頭を下げた。
良かった……思わずつられて涙が流れる。
幸せそうな王族達を見てたらもう呼び方なんてどうでもよく思えてきた。
……わかったよ。もう天使でも何でもいいよ。
「じゃあ俺たちは今から大司教グリモワールと言うやつに会ってくるからもう少しだけここで待っていてくれ!」
「「「はい」」」
部屋を後にし、階段の所にやってきた。
「じゃあこの階段を上がるか!」
「そうじゃの! 大司教グリモワールとは一体どんな奴じゃろうの?」
「まともじゃないのは確かだな」
俺とパールは長い階段を上がりながらグリモワールについて話しながら階段を上がった。
階段をあがった先には大きな三メートルはある二枚開きの扉があった。
この部屋の奥にグリモワールがいるんだな。
扉には鍵も魔道具の結界もないようだ。
「よし開けるよ!」
扉を勢いよく開けると、奥に人が座っているのが見える。
「なんだマーク司教?」
この男が大司教グリモワールか?俺たちを誰かと間違えているみたいだ。
大司教グリモワールはソファから立ち上がりゆっくりとこちらに歩いてくる。
その姿は俺が想像していた姿とは違いかなり若かった。
俺と同じくらいの少年にしか見えない。
「なっ!お前達は何者だ?」
やっと俺達の事に気づいた様で、大司教グリモワールは少し困惑している。
「…………リィモ」
えっ? パール? こいつのこと今なんて呼んだ?
ーーもしかして知ってるのか?
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