荒れた世界で桃色の魔王になります

三田奈 獄

文字の大きさ
63 / 78

ほんのりと涙の味

しおりを挟む
「死体のはずのサクララ・シュタイナーに引き続き、他にも何かを連れてきた申すのか。レイ・リンよ。」

「うん。我々の研究施設では、ある波長を観測したんだよ。それは花の周りを羽ばたくような蝶の形。」

「”ボッチ蝶波長“か...二つ目の災厄時に観測されたものと同じわけか。」

「そう、宇宙生命体エイリアンどもの宇宙船が発する波長とあれは一致してるね。それを観測したのが“金色の太陽”。」

サラには皇帝とレイ・リンの会話がほとんど理解できなかった。二つ目の災厄と同じものが観測されたということまではなんとなくわかるものの、その詳細は禁忌とされてきたので理解に難い。

「待ってくださいゾラ様、レイ・リン。ついていけてないよ。」

サラは難しそうな顔をしながら彼らに訴えた。

「まあ、とにかく二つ目の厄災がこちらに近づいてきているってワケ...ところで皇帝は信じるの?」

「嘘でも本当でも、我のやることは変わらぬ。」

「私たちに協力を求めるのね...。でも皇帝が望む世界の先に、私たちはいない。都合が良すぎない?」

「そんなことはわかっている、
ある程度の譲歩をすればより効率よく動けるということも。しかし我らの信念に曇りあらば、この薄氷のような肩書きも脆く砕ける。

中等教育で体術が必須科目、街を外れれば浮浪者が溢れかえるような最低の治安には、権威主義体制が必要不可欠。」

「ジャマモノの全てを排除して残るのは、なんなの?」

「絶対的な秩序。あえて俗っぽく表現するなら、夢の世界だ。“金色の太陽”が手に入れば汝らの尊い犠牲のあと、星空のように美しい国を目にすることができる。」

「その視線は私らに共有する気は全くないの。」

「汝らの視線など、夢と比べれば蟻埃の一粒よりも小さきもの。それに、汝らの素性にその世界は似合わぬと思うが。」

「なるほどね、反論はできない、でも整合性は取れないよ。私たちがそれを受け入れる性ではないと知っていたのでは...?」

「いいや、整合性は取れている。我の提案はレイ・リン、そちのそのものであるからな。」

「何を言い出す。」

「それがそちの望みだ。全てを諦めて無名のまま墓に入ることが、せめてもの罪滅ぼしなのではないか?」

「身に覚えがないな、その考えには。」

「今は、レイ・リンではなくキューテストを代弁しているつもりだろう、それが正解だと自分に言い聞かせている。しかしそれが虚像だと我は気づいている。ゆえにこのサラを我に託しにきたとすら思えるが。」

「...違う。」

「その割には気配は弱まっているな。第三の災厄、なにより妹のルナ・リンに向き合いたいのだろう?」

「違う!サラをここに連れてきたのは、現世に希望があることをお前に示すためだ。部下のユメアからも聞いているはずだ、彼女はすごい。

果てしない夢に簡単に命を預けられる、そのような人物がいることをお前に突きつけたかった。」

声を荒らげたレイ・リンを見たのは初めて。キューテストに君臨する王としての落ち着いた彼女とも違うように見えた気がする。

しかし形容し難いものの、彼女を包んでいたふわふわとした気配が取り払われたような素性を見た。

「...ああそうだ。私は正直お前の提案が子守唄のように心地が良いと思っている。だが、ゾラ。大きなものを背負って、自身の気持ちを封じ込めているのはお前だって変わらない。」

「埒が明かぬな。何がそこまで自分を否定させているのか。このサラには余計な思い入れがあるのだろうが...いっそこの合理に身を預けることが楽だと思うな。」

「とにかく皇帝。キミとは組めない。キューテストとして...いや私自身が、望む世界に這ってでも向かう。」

「承知した。」

皇帝・ゾラはそれ以上何も言うことはなかった。説得を断念したようにも見えたし、同時にただレイ・リンの意思を尊重するようにも見えた。

レイ・リンはなんともいえない表情で席を立って、駆けるように扉から出て行った。

一方でサラはゾラのほうをじっと見つめてから、ナイフとフォークを丁寧に机に置いて立ち上がる。

その後レイ・リンのほとんど手をつけていない料理に視線を映すも、特に何も言わずにゾラに背を向けて歩いていく。

皇帝の元から遠のいてゆくサラは、背に一つの視線を感じた。彼女は大きく開いた扉の前で一度だけ振り返り、最後に皇帝に告げる。

「料理、美味しかった...でもあなた自身が作ったのなら、それを言うべきだったと思います。」

サラの黄金に輝く目は、哀しげであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...