さよなら私の鋼の獣

種田遠雷

文字の大きさ
5 / 14

05、思惑

しおりを挟む
 再びネイハウスの頭を枕に戻させ、横向きに寝させて、片足を高く持ち上げる。
 口に咥えてコンドームのパケを開き、片手で着ける。
 片手を枕の下に隠し、片手で軽く枕を掴んで、目線を投げ出している横顔を見下ろして。
 あられもない格好をさせられながら、その顔には相変わらず表情が少なく、それでいて、見知らぬ若い男に犯されるのを大人しく待っている姿が、劣情をそそる。
 逆の手で支えながら、張り詰めた勃起の先を、濡れて光る尻の穴にこすりつけてやれば、ネイハウスの眉が引きつる。
 ついその顔を凝視しながら、腰に体重をかけるように身を沈め、窄まったアナルを開いてじっくりと押し込んでやる。
 括約筋の少し長い距離をこじ開けるのに食い縛られていた唇が、太い先端が小気味よく狭さを抜ければ、薄く開いて震える。
 押し込むから開く狭さを、開くのを待ってから沈めるほどの遅さで、たっぷりと時間を掛けて味わわせてやる。
 鍛えられ、引き締まった尻と腹の奥で、じわじわと柔い肉が開いていくのが、目に見えるように思えるほど。
 枕を掴み、唇を薄開きのまま、押し殺すネイハウスの息に、すすり泣きのような、うめきのような、微かな声が途切れながら混じる。
 控えめな喘ぎ声が、股間にくる。
 そうでなくとも心地のいい、熱くぬかるんだ腸壁にこすらせる勃起は、涎のようにだらしなく先走りを垂らしている。
 濡れて、滑りがよくなるたび深く挿入はいり、互いに呼気がふるえる。
 ネイハウスの尻の中に自分のペニスが消えていくのを見下ろし、同時に、張り詰めて薄くなった皮が溶けてしまうような湿った熱さに包まれる快感がリンクして、勃起はいや増す。
 全て収めたと教えるよう、腹で尻を押してやれば、赤くなった唇が震える息を長く吐き出した。
「ねえ、」
「――ふッ、」
 ざわめく柔壁が落ち着き、しっとりとペニスにまとわりつくようになるのを待ってから、それをまた乱してやるように、ゆっくりと腰を引く。
「……っ」
 握りしめる指が、枕カバーにしわを作っている。
「ずいぶん前なんじゃ? どこで尻を使ったんです?」
 穴の狭さに引っ掛かる亀頭を引き抜かず、今度はズブリと押し込んでやる。
「ふゥッ!」
 おののく唇が答えようとして開きかけ、けれど引き結ばれるのに、背を屈める。
 枕を握る手を覆うように掴めば、予想外に指を絡められて、胸が疼いた。
「ルスラン?」
 頷きを挟んでまた唇が開く間も、待ってはやらない。
 腹の中を長いストロークで漕ぎつけ、そのたび動きたがる腰を、掴んだままの足を引き寄せ、引き戻す。
「ァ、軍、で、……っハ、」
 ああ~…と、思わず相槌を打つ。
 任期が短いのもあって自分は機会を得なかったが、男社会に偏りがちなのは、グネイデンの軍でも同じだ。噂だけは何度も耳にした。
「っ、大抵のことは、はっ、……ァ、」
 経験した、と、多分そう言った。
 それもそうか、という思いと、自分の想像より、ネイハウスの言う“大抵のこと”は規模が違うのではないかという思いつき。
 この様子では、ハマりはしなかったのか。それとも、酒と同じように無駄な時間だと思ったのか。
 これでよく常習化せずにいられたな、というような、淫らな尻をよくよくほじくり返してやって、身を震わせるポイントを探す。
「ァッ、あ、あアー……」
 顎を上げて眉を下げ、開いた口から垂れる声は、むせび泣きにも似ている。
 これかな、と、探り当て。
 長く引いて真っ直ぐに貫く。直腸全体を正確にこすられるのが気に入るようで、ひっきりなしに身を捩ろうとし始めるのを、足を離してでも押さえつけ、受け止めさせる。
「――ふ、――ぅゥ、ン、……ゥふ、」
 声を抑えていた唇が縦に開き、アとオの間のような声をあげて。
 こちらもこちらで、汗にまみれる身体を雄犬のように振り立て、短く途切れる息も犬のように浅く弾んで。
 ああ、あア、と繰り返すネイハウスの声と、ハッハッと切れる自分の息が、似てくる。
「あああアアッ――!」
 この人、イク時に叫ぶんだなという気づきが、込み上げる射精感でお花畑のように甘く明るく、
「ハッ、……ッゥぁ!」
 己も声を立て、彼に少し遅れるように射精した。

 四つん這いにさせて後ろから突いてやれば、無意識なのか分かっていてやっているのか、水を得た魚のように腰を振って、貪欲に快楽を求めてくる。
 堅物のようだが人を馬鹿にする冗談は言うし、娯楽や嗜好品を軽んじているようだが、セックスの仕方が淫乱だ。
 なるほど、と思いながら次は腹を跨がせ、気に入ったとでも言い出しそうに夢中で腰を使っているのを、下から眺めて堪能して。
 残念ながら、それで打ち止めで、彼の手際に敗北するよう。精液はコンドームの精液だまりにすべて受け止められた。

 力尽きて寝落ちた翌朝は、気分爽快ではあるが、すぐに起き上がれない。
 目を覚ました原因らしい、物静かにスーツを着込んでいるネイハウスに気づき、身体の向きだけ変えてそちらを向く。
「もうお出かけですか」
 一晩のロマンスにしては、かなり豪華だったといえる。
 コーヒーも朝食も共にする気はなさそうだと、背に滑り上がるジャケットが、あるべきところに収まるのを眺めた。
「そうだ」
 ネクタイを結ぶ仕草は世界共通だなと考えながら、鏡越しに、昨日出会った時とまったく同じように髪を撫でつけた彼が、こちらに一瞥も寄越さないのが妙に嵌まっていて口許が緩む。
 じゃあ取材の続きはどう運ぼうか、ネイハウスはこの先も少しは情報を提供してくれるだろうかと頭を巡らせるのを、思わぬ言葉が遮る。
「ゆっくりしていくといい。細かいことは、また夜話そう」
「えっ」
 ネクタイを整え終えたネイハウスが、もちろん、行ってきますも言わずに部屋を出て行った。
 ポカンとして、しばらく閉じた扉を見守って。
 なんだ。どういう風の吹き回しだと、素っ裸のままでベッドから下りる。
 せめて扉から廊下でも見てみるかと、脱いだ下着を探して巡らせる視線に、確かに昨夜は見なかったものが、目につき。
 記者根性もあって、鏡台の上にこれ見よがしに置きっ放しの、書類の薄い束に目を落とした。
「ハ……?」
 ゾクリ、と、鳥肌が立ち、背中に冷たいものが流れる。
 氏名:ユクター・ミザックという表記から始まる文字列は、疑いようもない、自分の身上についての報告書だ。
 知らず目を剥いたまま文字を追い、震えそうになる手でページをめくって、うろたえ、唇を覆う。
 自分自身の、身分は元より、出生から現在までの事細かな経歴。一晩、いや丸一日か。それにしたって、自国民でもない自分のことを、短い間によく調べ上げたものだという驚き。
 だが、震えているのはそのせいではない。
 食事とトイレの回数まで数えたって大した文字数にはならない自分の調査が、数ページに渡る理由。
 家族は元より、同僚、上司、同級生、学生時代の知り合い、友人、元恋人達。少し親しく関わった人達まで、その名前と所在地まで挙げられている。
「冗談だろ……」
 自分は、選挙前に政局を嗅ぎ回る記者だ、身上調査くらい驚きに値しないが。何のスキャンダルを掴んだわけでもない、ここまでする理由が分からないのが、気味が悪い。
 いや、そうではないのだろうか、と。
 そっと書類を元の場所に置き直して、思わず後退りする。
 目立たない類の書記官とはいえ、ルスラン・ネイハウスは、再選を控えた与党現職の一味だ。抱いた男などいてはまずい、ということだろうか。
 そんなこと別に人に話さないけどな、などと、自分が思っていたって役には立たないことくらい、理解できる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

処理中です...