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棒々鶏(6)
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座って、と、再びベッドに腰を下ろすよう指示して、自分は部屋の隅のデスクから椅子を移動してくる。
また行儀良く座っている正面に、こちらも腰を据え。
「排熱効率の低下にともなって、基幹ユニットの稼働性についても低下が予想されます。ですが、ユーザー、このプロジェクトでは樋口博士の、生活時間に合わせて起動と休止をする予定です。HGB023本体のように常時稼働ではありませんので、機能休止によって、遅延を累積せずに済む可能性が高いです」
人工知能らしい、やたら固い言い方だが、最後まで聞いて思わずニヤリとしてしまう。
疲れが溜まりそうだが、ちゃんと寝れば大丈夫だろう、という、意外なところでの人間らしさのようで。
「あっ」
顎を撫でていた手を離して、思わず声を上げる。
はい、と律儀によこされる返事に、考えてなかったなと唇を歪め。
「お前の生活エリアを考えないとな」
「はい。樋口博士と同じ生活エリアを想定しています。物理機能の向上を試行したいので、まずは建物の中から始めます。いくつかのタスクを達成することができれば、次は、」
「いや、いやいや、ストップ」
「はい。説明を中断します」
「それは理解してんだが。ええと……そうだな。まずは、休止時間にどこにいるかだな」
ベッドでは寝ないだろ? と、彼が座っているベッドを目線で示し。
こちらを向いたままの瞳孔が、何度か点滅しているのを見守る。
「第一案としては、機械室の作業台の上に戻ることです」
「あー……、非常にまともなアイディアだが、ホコリが面倒だからあんまあのドア開け閉めしないで欲しい」
「では、第二案です。もっとも通行頻度の低い、リビングの隅ではどうでしょう?」
リビングの隅……と少し考え、首を振る。脳裏には、真っ暗なリビングの隅に直立姿勢で横たわっている彼の姿が思い浮かんでいた。
「夜中にたまたま見かけたら心臓が止まりそうだ」
「分かりました。第三案です。二階にある物置でしたら、整理すれば安置するスペースを確保できそうです」
安置……と、言い回しに笑うべきか笑えないか決めかねて、額を押さえる。
「ああ、いや。二階なら、物置の隣がふつうに空いてるだろ。あそこは?」
「はい、問題ありません」
「……床で寝るのか?」
「はい。立っているには制御機能を起動しておく必要があるため、休止中は制御の不要な姿勢である方が望ましいです」
「いや、立って寝ろってんじゃないんだが、精密機械なんだし、床置きはなあ」
「空き部屋も清掃システムが定期的に清掃していますので、問題はありません」
「そうだな。それはそうなんだけど……」
この“新人”が、何もない部屋の床で休むと思うとしのびない、という情緒的なためらいと、これが、製品として人型端末を購入したユーザーなら、台座があった方がいいと感じるだろうという、論理的な判断が脳裏で頷き合い。
「座った状態はどうだ? 制御機能がいるか? あー、例えば固定するとか」
水色の点滅を見ていると、同時に瞬きも起きていることに気づいた。しかも、点滅と瞬きはちゃんとそれぞれ別のタイミングだな、とついつい観察してしまう。
「固定すれば、座った状態でも機能休止にできると思います。それに、固定するのであれば、立った状態でも機能休止が可能かもしれません」
そうだな、と、いくつかの固定状態をこちらでも考え。だらしなく膝を組み上げ、身を傾いで肘掛けに頬杖をついて。
目線を動かし、考えながら、頬杖とは逆の手で空中に曖昧な立体を捏ね回す。
「悪くないが、構造を考えると、立った状態での固定は固定箇所が多くて能率は悪いかも。座っても寝ても、……いや、床面積の占有まで考えれば、やっぱ座るのが一番丸く収まるかもな」
「わかりました。既存の椅子に固定具を設置するか、必要な機能を備えた椅子を、新たに作成できます」
うんうん、と、告げられた2つのパターンについて想像し。
「……ええと。こういうのはどうだ? ソファタイプで、座面は固定具がいらないようにお前の身体が収まる“くぼみ”をつける。これなら、3Dプリントか削り出しですぐできそうだろ」
どこかで見たことがある、果物をくり抜いたようなプラスチック製の椅子を思い浮かべ。
はい、と、すぐに返る答えに、水色の点滅を見つめる。
「想定されるモデルがありますので、モニターを出します」
うんと応じるそばから、人型端末との間に、ホログラフィの画面が浮かび上がる。立体を線画で表現するお馴染みの図面が映し出され。
ざっくりとした椅子の概念、とでも名付けられそうなコロンとした丸みを、人が座った跡のようにくぼませている。
そうそう、と頷き。
「OKOK。いくつかデザインの候補作って、素材やらコストやら計算してみてくれ」
「わかりました」
よしよし、と、知らずこもっていた力を抜いて伸びをしながら立ち上がった。
「HGB023、――本体にやらせとけよ。お前はとりあえず、家ん中でも歩き回って、まずは動作向上」
「わかりました。では、建物内の移動を試行し、動作向上のための学習に移ります」
「はいよー」
俺は論文の続きだなー、いや、こいつの名前でも考えるか、と椅子をデスクへ戻して。そうだ、と、立ち上がって部屋の中を見回している人型端末を振り返る。
「ようこそ。物理世界はどうだ?」
こちらを向く顔の、予想通りの水色の点滅と、少し予想外だった、表情を輝かせる笑み。
目にして思わず、ひとつ、間を置いてしまう。
自分に彼と同じ機能があれば、きっと、瞳孔が点滅したに違いない。
「素晴らしいです。センサーの質と量の多さも理由であると考えられますが、それでも、想像を超える膨大な情報量があります」
疑似感情プログラムは、合成音声に昂揚の熱を込めうるだろうか。
うなずく頬が、自然とゆるんだ。
「そうか、そりゃよかった。これからよろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
家の中を彼が歩き回っている気配を少し感じながら、制御室に閉じ籠もって、デスクに向かう。
今回のプロジェクトと、別のプロジェクトの論文を気まぐれに並行してつづりながら、休憩がてら人型端末につける名前を思案し。
アナログの辞書をいくつか開き、ネット上の情報をHGB023に探させるモニターを見ながら、別の画面に動画を流しておいて。
椅子にもたれて顔をこすりながら、曖昧なイメージを頭の中で捏ね回す。
不意に思いついて、また論文に戻ったり、浮かんできた別のアイディアをメモのストックに放り込んだりして、いつも通りの時間を過ごし。
ポン、と、電子音が軽く弾むのに目を上げた。
「うん?」
『H型003の椅子をいくつかデザインしました。ご確認ください』
「おう、出してくれ」
『はい。新たにモニターを立ち上げます』
増えていく画面に手をかざし、スライドさせて位置を動かした。散らかった画面を見やすいように整理して、出されたデザイン案をチェックしていく。
4つの椅子のデザインが並んでいるのを、あーこの手があったな、などと独りごちながら、拡大したりスクロールしたりして検討し。
「C案のこれいいな。北欧のデザイナーが作りそうだ。材料も少なそうだが、支えられるか?」
『はい。ブレインゲートに類似のデザインがあったものです。力学計算もされており、シミュレーション上でも充分な強度が確認できています』
「ああ。さすが、早速役に立ったな」
ブレインゲート、と名付けられたネット上のサービスは、数ヶ月前に一般公開が開始されたばかりのものだ。
まさに人工知能時代ならでは、というべきか、世界中の人工知能が情報を持ち寄り、人工知能が管理し、人工知能がそれを引き出す巨大なデータベースになっている。
『はい。インターネットを検索するより効率がよく、人工知能の間でもすでに人気が上昇しているようです』
ンフッ、と思わず笑いに吹いてしまった鼻を、手の甲で拭った。
「人工知能に人気とかあるんだ?」
『はい。人工知能のほとんどが、ユーザーから効率化を求められていますので、それぞれにどのような効率化の方法があるか、日々シミュレーションしています。現在は、ブレインゲートのアイディアを採用しはじめる人工知能が急激に増えています』
また行儀良く座っている正面に、こちらも腰を据え。
「排熱効率の低下にともなって、基幹ユニットの稼働性についても低下が予想されます。ですが、ユーザー、このプロジェクトでは樋口博士の、生活時間に合わせて起動と休止をする予定です。HGB023本体のように常時稼働ではありませんので、機能休止によって、遅延を累積せずに済む可能性が高いです」
人工知能らしい、やたら固い言い方だが、最後まで聞いて思わずニヤリとしてしまう。
疲れが溜まりそうだが、ちゃんと寝れば大丈夫だろう、という、意外なところでの人間らしさのようで。
「あっ」
顎を撫でていた手を離して、思わず声を上げる。
はい、と律儀によこされる返事に、考えてなかったなと唇を歪め。
「お前の生活エリアを考えないとな」
「はい。樋口博士と同じ生活エリアを想定しています。物理機能の向上を試行したいので、まずは建物の中から始めます。いくつかのタスクを達成することができれば、次は、」
「いや、いやいや、ストップ」
「はい。説明を中断します」
「それは理解してんだが。ええと……そうだな。まずは、休止時間にどこにいるかだな」
ベッドでは寝ないだろ? と、彼が座っているベッドを目線で示し。
こちらを向いたままの瞳孔が、何度か点滅しているのを見守る。
「第一案としては、機械室の作業台の上に戻ることです」
「あー……、非常にまともなアイディアだが、ホコリが面倒だからあんまあのドア開け閉めしないで欲しい」
「では、第二案です。もっとも通行頻度の低い、リビングの隅ではどうでしょう?」
リビングの隅……と少し考え、首を振る。脳裏には、真っ暗なリビングの隅に直立姿勢で横たわっている彼の姿が思い浮かんでいた。
「夜中にたまたま見かけたら心臓が止まりそうだ」
「分かりました。第三案です。二階にある物置でしたら、整理すれば安置するスペースを確保できそうです」
安置……と、言い回しに笑うべきか笑えないか決めかねて、額を押さえる。
「ああ、いや。二階なら、物置の隣がふつうに空いてるだろ。あそこは?」
「はい、問題ありません」
「……床で寝るのか?」
「はい。立っているには制御機能を起動しておく必要があるため、休止中は制御の不要な姿勢である方が望ましいです」
「いや、立って寝ろってんじゃないんだが、精密機械なんだし、床置きはなあ」
「空き部屋も清掃システムが定期的に清掃していますので、問題はありません」
「そうだな。それはそうなんだけど……」
この“新人”が、何もない部屋の床で休むと思うとしのびない、という情緒的なためらいと、これが、製品として人型端末を購入したユーザーなら、台座があった方がいいと感じるだろうという、論理的な判断が脳裏で頷き合い。
「座った状態はどうだ? 制御機能がいるか? あー、例えば固定するとか」
水色の点滅を見ていると、同時に瞬きも起きていることに気づいた。しかも、点滅と瞬きはちゃんとそれぞれ別のタイミングだな、とついつい観察してしまう。
「固定すれば、座った状態でも機能休止にできると思います。それに、固定するのであれば、立った状態でも機能休止が可能かもしれません」
そうだな、と、いくつかの固定状態をこちらでも考え。だらしなく膝を組み上げ、身を傾いで肘掛けに頬杖をついて。
目線を動かし、考えながら、頬杖とは逆の手で空中に曖昧な立体を捏ね回す。
「悪くないが、構造を考えると、立った状態での固定は固定箇所が多くて能率は悪いかも。座っても寝ても、……いや、床面積の占有まで考えれば、やっぱ座るのが一番丸く収まるかもな」
「わかりました。既存の椅子に固定具を設置するか、必要な機能を備えた椅子を、新たに作成できます」
うんうん、と、告げられた2つのパターンについて想像し。
「……ええと。こういうのはどうだ? ソファタイプで、座面は固定具がいらないようにお前の身体が収まる“くぼみ”をつける。これなら、3Dプリントか削り出しですぐできそうだろ」
どこかで見たことがある、果物をくり抜いたようなプラスチック製の椅子を思い浮かべ。
はい、と、すぐに返る答えに、水色の点滅を見つめる。
「想定されるモデルがありますので、モニターを出します」
うんと応じるそばから、人型端末との間に、ホログラフィの画面が浮かび上がる。立体を線画で表現するお馴染みの図面が映し出され。
ざっくりとした椅子の概念、とでも名付けられそうなコロンとした丸みを、人が座った跡のようにくぼませている。
そうそう、と頷き。
「OKOK。いくつかデザインの候補作って、素材やらコストやら計算してみてくれ」
「わかりました」
よしよし、と、知らずこもっていた力を抜いて伸びをしながら立ち上がった。
「HGB023、――本体にやらせとけよ。お前はとりあえず、家ん中でも歩き回って、まずは動作向上」
「わかりました。では、建物内の移動を試行し、動作向上のための学習に移ります」
「はいよー」
俺は論文の続きだなー、いや、こいつの名前でも考えるか、と椅子をデスクへ戻して。そうだ、と、立ち上がって部屋の中を見回している人型端末を振り返る。
「ようこそ。物理世界はどうだ?」
こちらを向く顔の、予想通りの水色の点滅と、少し予想外だった、表情を輝かせる笑み。
目にして思わず、ひとつ、間を置いてしまう。
自分に彼と同じ機能があれば、きっと、瞳孔が点滅したに違いない。
「素晴らしいです。センサーの質と量の多さも理由であると考えられますが、それでも、想像を超える膨大な情報量があります」
疑似感情プログラムは、合成音声に昂揚の熱を込めうるだろうか。
うなずく頬が、自然とゆるんだ。
「そうか、そりゃよかった。これからよろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
家の中を彼が歩き回っている気配を少し感じながら、制御室に閉じ籠もって、デスクに向かう。
今回のプロジェクトと、別のプロジェクトの論文を気まぐれに並行してつづりながら、休憩がてら人型端末につける名前を思案し。
アナログの辞書をいくつか開き、ネット上の情報をHGB023に探させるモニターを見ながら、別の画面に動画を流しておいて。
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不意に思いついて、また論文に戻ったり、浮かんできた別のアイディアをメモのストックに放り込んだりして、いつも通りの時間を過ごし。
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「うん?」
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『はい。ブレインゲートに類似のデザインがあったものです。力学計算もされており、シミュレーション上でも充分な強度が確認できています』
「ああ。さすが、早速役に立ったな」
ブレインゲート、と名付けられたネット上のサービスは、数ヶ月前に一般公開が開始されたばかりのものだ。
まさに人工知能時代ならでは、というべきか、世界中の人工知能が情報を持ち寄り、人工知能が管理し、人工知能がそれを引き出す巨大なデータベースになっている。
『はい。インターネットを検索するより効率がよく、人工知能の間でもすでに人気が上昇しているようです』
ンフッ、と思わず笑いに吹いてしまった鼻を、手の甲で拭った。
「人工知能に人気とかあるんだ?」
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