31 / 32
春巻(7)
しおりを挟む
『はい。では、園内博士に樋口博士のアバターデータを送信し、園内博士から受信する3D映像を、座標を固定して表示します。送信するデータに問題がないかご確認ください。また、受信する映像を固定する座標をご指示ください』
どこかに保存してあったのだろう自分の画像に、今と同じ作業服と眼鏡を身に着けているアバターが視界の隅に表示され、OKと許可を出す。
絢人の姿を表示する座標の方は、あの辺、と適当に作業しながらでも目に入りそうな位置を指し示した。
『バン!』
「おう。悪ぃな忙しいのに」
さきほど示した位置に、ソファに腰掛けた絢人が現れたのを見ながら、機械アームの誘導に戻り。
拡張現実でそこにいるかのように見えるが、実際にはもちろん画像は眼鏡のレンズに映っている。
絢人が座っているソファは、おそらく調整用のグラフィックで、実際のものとは違うはずだ。顔もこちらを向いているが、その場に行って見てみれば、絢人はなんらかの端末のカメラか、もしくは向こうは向こうで人工知能が作った自分のアバターを見ている。
『なに言ってんだよ、てかまず、そんなことある!?』
HGB023を厳重に保護する小部屋を外部からこじ開けながら、だよな、と、脱力するように笑った。
「あったんだよなあ、これが」
信じらんねえとか、人の土地のよりによって下を掘るなとか、半分はもう冗談交じりに、勢い任せに二人でわいわいと喋りまくり。
『てか、イグニス、死んだってこと……?』
フフッと、思わず笑ってしまうが、ギリリと締め上げられたように、胸は痛みを感じた。
駆動音のひとつも立てないHGB023は見たところ無傷で、ロボット達に手伝わせながら、慎重に機械アームに固定して。
まだ、キッチンの床に伸びているはずの、イグニスの姿が脳裏によぎる。
「人工知能のロボットだから、死んだとは言わねえな。データもバックアップがあるから、次のロボットにコピーする予定」
そっか、と、けれど。骨伝導のスピーカーから伝わる、絢人の声は曇ったままだ。
『けど、バン、んな状況で目の前でイグニスがブッ壊れるとこ、ずっと見てたんだろ』
「ああ、……まあ」
今まさに痛む胸の芯を掴まれたようで、短く言葉に詰まる。
さっきとは逆に縮んでいくアームについて歩き、指示を出しながら、HGB023を輸送車に積み込んだ。
理解してもらいたいと思っていたわけではないが、理解されればやっぱり安堵する、気持ちの柔らかさと。逆の立場だったら、自分はこれを言えただろうかと考えるつまらない劣等感。
『でもまー、次もやる気があんなら安心した。イグニスが元気になったら、またパーティしようぜ。バン、なんか美味いもん作ってよ』
痛む心を掴んでも、絢人の声は包むようにやわらかい。
それが、短い言葉の間に励ますように明るく色を変えて、ははと声を立てて笑った。
「俺が作んのかよ」
『バン、俺が作った飯食う時より、自分で作って食わせてる時の方が楽しそうだから』
急に真顔の声をつくられて、ああ、まあと反論の余地もなく頷いた。
絢人の料理がどうこうではなく、自分が、自分の技術で人を喜ばせるのが好きなのだ。
「っても、自前工場が傾いちまって、何がどんだけ戻ってくるかもまだ分かんねえしなあ。まあまあ先の話だぜ」
入って歩いても、運び出しても問題ないとのシミュレーション結果だが。
さてと思わず腕まくりして、傾いた自宅へと、こじ開けられた玄関から土足で上がり込んだ。
座標を家の外に固定した絢人の姿は見えなくなるが、遠くなる声はきちんと調整されて聞こえなくはならない。
『そっかー。日本にいる間はもちろん一緒に遊ぶけど、でも、イグニスがいねえと寂しいな、バンが』
廊下を歩きながら、短い間、返答に詰まる。
イグニスがいなくなると寂しいという風には、考えていなかった。
寂しいだろうか。
考え直しても、寂しがる暇もなさそうな日々を過ごす未来しか見えない。
『バン、』
「ン?」
記憶通りの場所に仰向けのイグニスの姿を見ても、小さな動揺だけで、苦痛は感じない。
固定用の梱包をお持ちしますか? と、HGB022の声が聞こえるが、基幹ユニットが焼けてるだけだと断って。
『まさかと思うんだけど、自覚ないとか……?』
イグニスの冷え切った身体を抱き上げながら、聞こえた絢人の声に再び詰まった。今度は数秒だけ。
「いや、あるよ。さすがにある」
髪を掻きながら、みなまで言うなと笑って。
冷却液で濡れ、それが乾いたのだろう、放熱素材の衣服はパリパリとした感触で、腕をくすぐった。
相手が人間じゃなく、人工知能でもロボットでも、同じように接する絢人が引き出した、イグニスの砕けた様子が切っ掛けだったと思っていた。
だが、その時点で絢人がそう感じていたというなら、そもそも、絢人は関係なかった可能性が出てくる。
なんだか急に体温が上がってきて。だが、不快ではない。
この喜びを知らぬほど若くもない。
ヒヒ、と絢人が笑う声が聞こえて、返す言葉はなく、こちらでも笑う吐息を伝えるばかりだ。
『パーティの飯は何がいい? たまにはバンが決めてもいいぜ』
玄関を出た、ちょうどそこで、親指を立てる絢人が見えて、わざとおどけているのだと知りながら、バカと笑って返す。
「そうだな。久々に春巻食いてえかなあ」
『おっいいね。パリパリのトロトロのやつ。俺、生春巻も食いたい』
はいはい、と相槌を打ちながら、頭の中で思い浮かべる。
具は何にしようか。旬の新鮮な野菜、これから寒くなってくれば、たとえば白菜。
柔らかく、けれど歯触りが残るように炒める。タケノコの細切り、食いでがあるよう豚肉もミンチじゃなく細切りにして。
餡で絡めて香り立つ具材を、皮に包み込んで封じ、温度の高い油で香ばしく揚げる。
春雨も口の中でツルツルとして楽しいし、海鮮や、たまには変わり種のチーズなんかもいい。
よっと、イグニスを抱いたままで再び輸送車に上がり込み、自分の目で固定をチェックして。二機を破損しないよう、細かく輸送の指示を出した。
生春巻はそれほど作ったことがないが、生野菜のハリハリとした感触と酸味のあるタレが、揚げたものでくたびれる口の中をサッパリとリフレッシュさせるだろう。
イグニスはきっと、何度か失敗して、けれどすぐに完璧な形成ができるようになる。
食卓を共にしたがっていたから、次のボディには水を飲める機能でも、もうどうせならものが食えるようにしたっていいのかもしれない。
他にもきっと、色々ある。
額と髪を少し撫でてやって、輸送車から降りる。
苦しい矛盾だが、イグニスしかおらず誰も人が見ていないなら、抱かれるのはそれほど嫌ではない。
だがやっぱり、本音は抱きたい。
好き放題の愛撫や責めに喘ぐ、彼の声や吐息が、演算だとしても。
『バーンー』
荷台の扉が閉じるのに身をかわし、荒れた台地にソファを置いて寛いでいる絢人の姿を振り返った。
そうだ。
「生春巻いいな。あんま作ったことねえから、どっか食いに行こうぜ。事前調査しねえとな」
『お、いいね。俺の最先端じゃないふつうの人工知能に相談してみよ』
「お前言い方」
どうせなら、イグニスに人間の真似をさせるより、あいつが人間じゃないことを味わい尽くしたい。
『てかいいなー、自分好みの外見に作れるヒューマノイド』
ベッドに押し倒したイグニスの顔の横にでもホログラフィの画面を出させて、どんな風に感じているのか、リアルタイムのログを出させて、それを読みながらいじめてみようか。
「流通が決まったら教えてやるよ」
『グッ、……でも、お高いんでしょう……?』
腰に手をやり、フフンとわざと片頬に吊り上げて笑ってやる。
「我が社で家を建てるよりはお財布にも優しくなるはずですよ」
受け入れたボディの内部が変形する様子をモニターさせるのも面白いかもしれない。
『クソ高級ラインじゃんよ……!』
当たり前に型通りの戯れに応じてじゃれる絢人を見ながら、楽しい妄想に区切りをつけ。
ああしよう、こうしようと頭の中で組み立てる計画を記憶にストックしておく。
そういえば、記憶が飛んでいるなら、イグニスが考えていた収納の話もしてやりたい。
重い音をゆっくりと響かせ、輸送車の扉が閉じた。
それを少し、見送って。
HGB022に指示して固定した座標を外させ、3Dの絢人の姿を閉じ、グラスの画面にライブ映像を映すよう切り替える。
どうでもいいような雑談を続けながら、輸送車とは別の自動運転車に乗り込んで。
長いようで短い時間を過ごした豪華な自宅から、離れる車列に加わった。
おわり
どこかに保存してあったのだろう自分の画像に、今と同じ作業服と眼鏡を身に着けているアバターが視界の隅に表示され、OKと許可を出す。
絢人の姿を表示する座標の方は、あの辺、と適当に作業しながらでも目に入りそうな位置を指し示した。
『バン!』
「おう。悪ぃな忙しいのに」
さきほど示した位置に、ソファに腰掛けた絢人が現れたのを見ながら、機械アームの誘導に戻り。
拡張現実でそこにいるかのように見えるが、実際にはもちろん画像は眼鏡のレンズに映っている。
絢人が座っているソファは、おそらく調整用のグラフィックで、実際のものとは違うはずだ。顔もこちらを向いているが、その場に行って見てみれば、絢人はなんらかの端末のカメラか、もしくは向こうは向こうで人工知能が作った自分のアバターを見ている。
『なに言ってんだよ、てかまず、そんなことある!?』
HGB023を厳重に保護する小部屋を外部からこじ開けながら、だよな、と、脱力するように笑った。
「あったんだよなあ、これが」
信じらんねえとか、人の土地のよりによって下を掘るなとか、半分はもう冗談交じりに、勢い任せに二人でわいわいと喋りまくり。
『てか、イグニス、死んだってこと……?』
フフッと、思わず笑ってしまうが、ギリリと締め上げられたように、胸は痛みを感じた。
駆動音のひとつも立てないHGB023は見たところ無傷で、ロボット達に手伝わせながら、慎重に機械アームに固定して。
まだ、キッチンの床に伸びているはずの、イグニスの姿が脳裏によぎる。
「人工知能のロボットだから、死んだとは言わねえな。データもバックアップがあるから、次のロボットにコピーする予定」
そっか、と、けれど。骨伝導のスピーカーから伝わる、絢人の声は曇ったままだ。
『けど、バン、んな状況で目の前でイグニスがブッ壊れるとこ、ずっと見てたんだろ』
「ああ、……まあ」
今まさに痛む胸の芯を掴まれたようで、短く言葉に詰まる。
さっきとは逆に縮んでいくアームについて歩き、指示を出しながら、HGB023を輸送車に積み込んだ。
理解してもらいたいと思っていたわけではないが、理解されればやっぱり安堵する、気持ちの柔らかさと。逆の立場だったら、自分はこれを言えただろうかと考えるつまらない劣等感。
『でもまー、次もやる気があんなら安心した。イグニスが元気になったら、またパーティしようぜ。バン、なんか美味いもん作ってよ』
痛む心を掴んでも、絢人の声は包むようにやわらかい。
それが、短い言葉の間に励ますように明るく色を変えて、ははと声を立てて笑った。
「俺が作んのかよ」
『バン、俺が作った飯食う時より、自分で作って食わせてる時の方が楽しそうだから』
急に真顔の声をつくられて、ああ、まあと反論の余地もなく頷いた。
絢人の料理がどうこうではなく、自分が、自分の技術で人を喜ばせるのが好きなのだ。
「っても、自前工場が傾いちまって、何がどんだけ戻ってくるかもまだ分かんねえしなあ。まあまあ先の話だぜ」
入って歩いても、運び出しても問題ないとのシミュレーション結果だが。
さてと思わず腕まくりして、傾いた自宅へと、こじ開けられた玄関から土足で上がり込んだ。
座標を家の外に固定した絢人の姿は見えなくなるが、遠くなる声はきちんと調整されて聞こえなくはならない。
『そっかー。日本にいる間はもちろん一緒に遊ぶけど、でも、イグニスがいねえと寂しいな、バンが』
廊下を歩きながら、短い間、返答に詰まる。
イグニスがいなくなると寂しいという風には、考えていなかった。
寂しいだろうか。
考え直しても、寂しがる暇もなさそうな日々を過ごす未来しか見えない。
『バン、』
「ン?」
記憶通りの場所に仰向けのイグニスの姿を見ても、小さな動揺だけで、苦痛は感じない。
固定用の梱包をお持ちしますか? と、HGB022の声が聞こえるが、基幹ユニットが焼けてるだけだと断って。
『まさかと思うんだけど、自覚ないとか……?』
イグニスの冷え切った身体を抱き上げながら、聞こえた絢人の声に再び詰まった。今度は数秒だけ。
「いや、あるよ。さすがにある」
髪を掻きながら、みなまで言うなと笑って。
冷却液で濡れ、それが乾いたのだろう、放熱素材の衣服はパリパリとした感触で、腕をくすぐった。
相手が人間じゃなく、人工知能でもロボットでも、同じように接する絢人が引き出した、イグニスの砕けた様子が切っ掛けだったと思っていた。
だが、その時点で絢人がそう感じていたというなら、そもそも、絢人は関係なかった可能性が出てくる。
なんだか急に体温が上がってきて。だが、不快ではない。
この喜びを知らぬほど若くもない。
ヒヒ、と絢人が笑う声が聞こえて、返す言葉はなく、こちらでも笑う吐息を伝えるばかりだ。
『パーティの飯は何がいい? たまにはバンが決めてもいいぜ』
玄関を出た、ちょうどそこで、親指を立てる絢人が見えて、わざとおどけているのだと知りながら、バカと笑って返す。
「そうだな。久々に春巻食いてえかなあ」
『おっいいね。パリパリのトロトロのやつ。俺、生春巻も食いたい』
はいはい、と相槌を打ちながら、頭の中で思い浮かべる。
具は何にしようか。旬の新鮮な野菜、これから寒くなってくれば、たとえば白菜。
柔らかく、けれど歯触りが残るように炒める。タケノコの細切り、食いでがあるよう豚肉もミンチじゃなく細切りにして。
餡で絡めて香り立つ具材を、皮に包み込んで封じ、温度の高い油で香ばしく揚げる。
春雨も口の中でツルツルとして楽しいし、海鮮や、たまには変わり種のチーズなんかもいい。
よっと、イグニスを抱いたままで再び輸送車に上がり込み、自分の目で固定をチェックして。二機を破損しないよう、細かく輸送の指示を出した。
生春巻はそれほど作ったことがないが、生野菜のハリハリとした感触と酸味のあるタレが、揚げたものでくたびれる口の中をサッパリとリフレッシュさせるだろう。
イグニスはきっと、何度か失敗して、けれどすぐに完璧な形成ができるようになる。
食卓を共にしたがっていたから、次のボディには水を飲める機能でも、もうどうせならものが食えるようにしたっていいのかもしれない。
他にもきっと、色々ある。
額と髪を少し撫でてやって、輸送車から降りる。
苦しい矛盾だが、イグニスしかおらず誰も人が見ていないなら、抱かれるのはそれほど嫌ではない。
だがやっぱり、本音は抱きたい。
好き放題の愛撫や責めに喘ぐ、彼の声や吐息が、演算だとしても。
『バーンー』
荷台の扉が閉じるのに身をかわし、荒れた台地にソファを置いて寛いでいる絢人の姿を振り返った。
そうだ。
「生春巻いいな。あんま作ったことねえから、どっか食いに行こうぜ。事前調査しねえとな」
『お、いいね。俺の最先端じゃないふつうの人工知能に相談してみよ』
「お前言い方」
どうせなら、イグニスに人間の真似をさせるより、あいつが人間じゃないことを味わい尽くしたい。
『てかいいなー、自分好みの外見に作れるヒューマノイド』
ベッドに押し倒したイグニスの顔の横にでもホログラフィの画面を出させて、どんな風に感じているのか、リアルタイムのログを出させて、それを読みながらいじめてみようか。
「流通が決まったら教えてやるよ」
『グッ、……でも、お高いんでしょう……?』
腰に手をやり、フフンとわざと片頬に吊り上げて笑ってやる。
「我が社で家を建てるよりはお財布にも優しくなるはずですよ」
受け入れたボディの内部が変形する様子をモニターさせるのも面白いかもしれない。
『クソ高級ラインじゃんよ……!』
当たり前に型通りの戯れに応じてじゃれる絢人を見ながら、楽しい妄想に区切りをつけ。
ああしよう、こうしようと頭の中で組み立てる計画を記憶にストックしておく。
そういえば、記憶が飛んでいるなら、イグニスが考えていた収納の話もしてやりたい。
重い音をゆっくりと響かせ、輸送車の扉が閉じた。
それを少し、見送って。
HGB022に指示して固定した座標を外させ、3Dの絢人の姿を閉じ、グラスの画面にライブ映像を映すよう切り替える。
どうでもいいような雑談を続けながら、輸送車とは別の自動運転車に乗り込んで。
長いようで短い時間を過ごした豪華な自宅から、離れる車列に加わった。
おわり
0
あなたにおすすめの小説
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる