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15.嫡男
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ルゥ君と話したあの日以降、私の手元に手紙が来ることはなくなった。
ルゥ君がカミラに言って捨ててくれているのかもしれないし、ルゥ君が公爵家のお姉様に何か言ったのかもしれない。でも、私は気にしないことにした。
私を守ろうと動いてくれるなら、それに甘えることもルゥ君を信じていると伝える方法だと思ったから。
あとは、予定を一日過ぎてもまだ戻らないアレス様が気がかりではあるがーー
その時、背後から首筋をカプッと噛まれる。
「ひゃあっ!!」
「今、何考えてた?
俺と一緒にいる時に余計なこと考えんじゃねぇ」
ゼノアはおはようの一言もなく不機嫌そうに文句を言う。
昨晩はゼノアが会いに来てくれた。散々行為に溺れた後、ゼノアと抱き合って寝たのだった。今はゼノアが私を背後から抱くようにしている。
「もう……。起きてたの? 私、ただぼーっとしてただけよ」
「嘘つけ。罰として朝から俺のことしか考えられなくしてやる」
ゼノアはグイッと私に腰を押し付けた。そして、彼の右手は私の蜜口を、左手は私の胸を愛撫しはじめた。
蜜口に指を入れて、ぐちゅぐちゅと掻き回される。昨日たっぷりと吐き出された精液を膣内に擦り込むようにゼノアは中を刺激していく。
「あんっ! 昨日、たくさんしたでしょう……っ?!」
「寝たらリセットされた。クレアの中にまた出したい」
「はぁっ……ばかぁ♡♡」
「そんな蕩けた声じゃ説得力ねぇぞ。嫌なら全力で拒めよ」
……そんなこと、私ができないってわかってるのに。
ゼノアは意地悪だ。
私が彼を睨みつけるように振り返ると、不敵な笑みを見せた後、貪るようなキスをされる。
「んんっ♡♡」
同時にゼノアが乳首を優しく摘んで引っ張ると、恥ずかしいくらいにピンと勃ちあがる。
「こっちも準備万端」
お尻に押し付けられていたゼノアの陰茎は、もうガチガチだった。硬くて、熱くて、大きい……もう欲しくて、私は無意識のうちにお尻を擦り付けていた。
「今、挿れてやる」
ゼノアが私の片足を持ち上げると、後ろからググッと陰茎を挿入する。昨日の精液と新たに溢れた蜜が潤滑油となり、蜜口はなんなく陰茎を呑み込んでいく……
「はぁ……ぅん♡♡」
「あったかい……あー、ずっとこの中にいたい」
「ん……ゼノ……♡♡」
ズッ……ズッ……ズッ……
ゼノアは私の中に挿れたものの、あまり動かさず、奥を時々ノックするだけだ。その度に甘い痺れが身体中に広がる。決して強い快感ではないけれど、私は幸福感に包まれていた。
あったかくて、気持ちよくて、胸がドキドキする。ゼノアが甘えるように私の頭に顔を擦りつけてくる。まるで大型犬だ。
……可愛い人。
私は嬉しくてキュウキュウと陰茎を締め付けた。
「っ……。 煽ったのはクレアだからな」
そう言うと、ゼノアはズンッと勢いよく動きはじめた。
「あんっ♡」
ジュポジュポ……
その後もリズミカルに抽送を繰り返す。甘い痺れは、いつの間にか熱く激しい快楽に変わっていた。
「あっ♡は♡はっ♡あんっ♡♡」
後ろから胸を揉みしだかれる。
そして、もう一方の手で私の下腹部を撫でた。
「ここまで届いてる」
「ああ゛っ♡♡♡」
ゼノアがグッとお腹を押すと、ビリリッと快感が走った。
内側からも外側からも気持ちいいところをグッと押され、私はあっという間にイってしまう。
「やばいな……気持ちよすぎ」
ゼノアは私の耳をペロッと舐めると、重点的にその一点を責める。
「ひぁっ♡らめ、らめぇ♡♡ひっ♡♡あっ♡♡♡」
もはや自分の意思では何もできなかった。私はゼノアに導かれるままに喘ぎ、イく。
「俺もイく………っ!」
ビュッビュ……
ゼノアは朝一番の濃厚な子種を私の中に注ぎ込んだ。
私は朝から恍惚としながら、それを悦びと共に受け入れた。
二人とも呼吸を整える。私はゼノアの方に向き、その逞しい胸に顔を埋める。汗の匂いがするが、私はこの匂いが好きだった。胸に滲む汗さえもゼノアが私を求めてくれた証のような気がして嬉しい。
……でも、同時に胸に溢れるのは甘く、苦い感情で。
私は、その正体をはっきりとわかっていた。
「朝から無理させたか?」
ゼノアが私の頭を撫でて、身体を気遣ってくれる。
「ううん……大丈夫。ありがとう。
その……嬉しかった、よ」
「今日はやけに素直だな」
「……そういう日があってもいいでしょ」
私がゼノアの胸に擦り寄ると、頭上からクスクスとゼノアの笑い声がする。
「なぁ……クレア」
「ん……?」
「好きだよ」
なんの前触れもなく、ゼノアはその言葉を私にくれた。
普通の恋人同士のように、それが当たり前のようにーー
「…………うん、ありがとう」
私はそう答えるしかなかった。確かに私にも同じ気持ちはあったけど、私から贈っていいのかわからなかったから。
「今は、それで我慢する。でも、いつか……クレアに同じ気持ちを返してもらえるように、俺、頑張るから」
私を抱きしめる腕に力が入る。その強さが私への想いを表しているようで、嬉しく感じてしまう。
離れたくないーー
ずっと、ずっと一緒にいたい。
この人が……好き。
私は、ゼノアに隠れて、そっと涙を流した。
◆ ◇ ◆
今日は休みだとゼノアが言うので、午前中は二人でゆっくりと過ごすことにした。
あの後、ベッドでまた微睡んで……二人でお風呂に入って……身体を洗いあって、繋がって、また洗って。ようやく服を着て、何故かゼノアの膝に乗せられながら二人で遅い昼食を食べて。
幸せだった。
何もなかったら、本当の恋人としてこんな風にゼノアと二人きりで過ごすことも出来たのかな……なんて、夢みたいなことを考えてしまうくらい。
でも、そんな時間は唐突に終わりを告げた。
「お嬢様……お客様がーー」
カミラが歯切れ悪くドアの外から声を掛けてくる。
基本カミラは私の事情を知っているので、私が三人といる時に声を掛けたりすることはまずない。
しかし、声が掛かるということは、急ぎの客なのだろう。
「わかった、すぐ用意するわ。お客様はどなた?」
「ウォルシュタイン伯爵……ゼノア様のお父君でございます」
「はぁ?! 親父が?!」
ゼノアは慌てて一人で部屋を出ようとする。
それを私は止めた。
「ゼノア、私へのお客様よ」
「でも、何か親父が余計なことを言いに来たんなら俺がーー」
「大丈夫。落ち着いて一緒に話を聞いてくれる?」
ゼノアは少し不服そうではあったが、コクリと頷いてくれた。
私たちは二人揃って、伯爵が待つ応接室へ向かった。
部屋に入り、今にも怒り出しそうなゼノアを宥め、礼を取る。
「ウォルシュタイン伯爵。大変お待たせいたしました。
私はクレア・フローレンスと申します」
伯爵は硬い表情のまま、私を見つめた。
「突然の訪問、失礼する」
「何の用だよ、親父! クレアを傷付けるならーー」
「好きな女性の前だからとそう粋がるな」
「な……っ」
顔を赤くして、ゼノアは固まった。
「殴り合いをしに来たわけではない。冷静に話し合いたい。いいかな? クレア嬢」
「はい、もちろんです」
私がそう答えると、伯爵は微笑んでくれた。
席について、伯爵が話し始めるのを待つ。
「……実は先日、私に手紙が届いてな。この後宮で息子が男娼の真似事をーー」
「ふざけんじゃねぇ! 俺は男娼なんかじゃない!
俺がここにいるのも元は陛下が決定されたことだ!」
ゼノアが机を叩き、立ち上がる。向かい側に座る伯爵の胸ぐらを掴む。私は慌てて、その腕を引っ張る。
「ゼノア、落ち着いて!
伯爵は手紙の内容を教えてくれてるだけよ!」
ゼノアは不服そうに手を離した。伯爵は襟元を直す。
「あぁ、クレア嬢の言う通りだ。私は今日事実を確認しに来た。その手紙の通り息子が悪女にたぶらかされているのか、何か理由があってここにいるのか。この手紙を鵜呑みにして、クレア嬢を批判するつもりなんてない。
……どうか事情を教えてほしい」
そう真剣に訴える瞳は、ゼノアと同じ真っ直ぐで強い眼差しだった。きっと伯爵も誠実な方なのね。
「実はーー」
私は、伯爵に今回の経緯を話した。
王妃様を庇って呪いを受けたこと、複数人の精液を受けなければ生きていけないこと、陛下の取り計らいにより後宮で過ごすことになったこと……。それを伯爵はじっと聞いていてくれた。
全てを話し終え、しばしの間、部屋に沈黙が満ちる。
最初に口を開いたのは、伯爵だった。
「クレア嬢……貴女は勇気があるんだな。命を投げ打って、王妃様をお守りした。それは誰にでもできることじゃない。同じ国に住む臣下として、私からも礼を言う。
そして、きっと息子もそんな貴女を助けたいと思って、この後宮に入ることにしたんだろう」
「ありがとう……ございます……」
予想外の反応にジンと胸が熱くなる。
「それに、こんな状況にも関わらず、気丈に振る舞い、しっかりとした素晴らしいお嬢さんだと思う。……本当に、息子の結婚相手として我が伯爵家に迎え入れたいくらいだ」
「親父……。じゃあーー」
「だが。どうか……これ以上、息子を巻き込まないでほしい」
「……は?」
ゼノアが唖然として、伯爵を見つめる。
私は、ぎゅっと膝の上の拳を握りしめた。
「この後宮には、クリヴィエ侯爵子息とレグーザ公爵子息もいると聞いた。だが、彼らは家を継ぐような立場にいないだろう。
しかし、ゼノア……お前は違う。我が伯爵家の唯一の後継者なのだ。クレア嬢が立派な女性であることは紛れもない事実だが、お前の相手としては……相応しくない」
相応しくない……その言葉が私に重くのしかかる。
ゼノアは、私の隣で唇を噛み締めている。
「……クレアさん、つかぬことをお聞きするが、避妊などは?」
「親父!!」
ゼノアが怒って声を荒げる。でも、私は彼の腕を掴んで、それを制した。……ゼノアが唯一の後継者だとしたら、気にするのは当然のことだから。それに伯爵は興味本位で聞いているわけではなく、真剣に考えているからこそ、質問したのだと思った。
「避妊は……していません。精液を受けること自体が目的なので、直接、中で吐精していただいています。それが私の生命エネルギーとして変換されると医師からは聞いています」
「妊娠する可能性は?」
「……あり、ます。基本的には私の生命エネルギーとして変換されるため、可能性はかなり低いと聞いていますがーー」
「じゃあ、もし妊娠した場合、三人のうち誰の子かわからない子供が産まれるんだな……」
子供ができることも考えないわけではなかった。
だが、生きていくには避妊はできないから、その可能性は出来るだけ考えないようにしていた。
三人とも口を開かなかった。
重苦しい空気が部屋を支配していた。
口火を切ったのはゼノアだった。
「……俺は嫌だ。クレアから離れるつもりなんてない」
「ゼノア……。そんな我儘が許されると思ってるのか?
今は亡きお前の母親が命懸けで守った血筋を絶やすつもりか」
淡々と話しながらも、伯爵は涙を流していた。
ゼノアも何も言わなかった。他人の私でさえ……胸が詰まった。
「私だって……できればクレア嬢を助けてやりたい。
だが……それはゼノアじゃなくてもできることだろう?」
伯爵は良い人だ。見ず知らずの私のために、心を痛め、頭を悩ませている。
「……申し訳、ありません」
泣いてはいけないと思うのに、謝罪の言葉とともに涙が一滴、膝を濡らした。
「こちらこそ……すまない」
伯爵は俯いて、拳を握りしめていた。
ルゥ君がカミラに言って捨ててくれているのかもしれないし、ルゥ君が公爵家のお姉様に何か言ったのかもしれない。でも、私は気にしないことにした。
私を守ろうと動いてくれるなら、それに甘えることもルゥ君を信じていると伝える方法だと思ったから。
あとは、予定を一日過ぎてもまだ戻らないアレス様が気がかりではあるがーー
その時、背後から首筋をカプッと噛まれる。
「ひゃあっ!!」
「今、何考えてた?
俺と一緒にいる時に余計なこと考えんじゃねぇ」
ゼノアはおはようの一言もなく不機嫌そうに文句を言う。
昨晩はゼノアが会いに来てくれた。散々行為に溺れた後、ゼノアと抱き合って寝たのだった。今はゼノアが私を背後から抱くようにしている。
「もう……。起きてたの? 私、ただぼーっとしてただけよ」
「嘘つけ。罰として朝から俺のことしか考えられなくしてやる」
ゼノアはグイッと私に腰を押し付けた。そして、彼の右手は私の蜜口を、左手は私の胸を愛撫しはじめた。
蜜口に指を入れて、ぐちゅぐちゅと掻き回される。昨日たっぷりと吐き出された精液を膣内に擦り込むようにゼノアは中を刺激していく。
「あんっ! 昨日、たくさんしたでしょう……っ?!」
「寝たらリセットされた。クレアの中にまた出したい」
「はぁっ……ばかぁ♡♡」
「そんな蕩けた声じゃ説得力ねぇぞ。嫌なら全力で拒めよ」
……そんなこと、私ができないってわかってるのに。
ゼノアは意地悪だ。
私が彼を睨みつけるように振り返ると、不敵な笑みを見せた後、貪るようなキスをされる。
「んんっ♡♡」
同時にゼノアが乳首を優しく摘んで引っ張ると、恥ずかしいくらいにピンと勃ちあがる。
「こっちも準備万端」
お尻に押し付けられていたゼノアの陰茎は、もうガチガチだった。硬くて、熱くて、大きい……もう欲しくて、私は無意識のうちにお尻を擦り付けていた。
「今、挿れてやる」
ゼノアが私の片足を持ち上げると、後ろからググッと陰茎を挿入する。昨日の精液と新たに溢れた蜜が潤滑油となり、蜜口はなんなく陰茎を呑み込んでいく……
「はぁ……ぅん♡♡」
「あったかい……あー、ずっとこの中にいたい」
「ん……ゼノ……♡♡」
ズッ……ズッ……ズッ……
ゼノアは私の中に挿れたものの、あまり動かさず、奥を時々ノックするだけだ。その度に甘い痺れが身体中に広がる。決して強い快感ではないけれど、私は幸福感に包まれていた。
あったかくて、気持ちよくて、胸がドキドキする。ゼノアが甘えるように私の頭に顔を擦りつけてくる。まるで大型犬だ。
……可愛い人。
私は嬉しくてキュウキュウと陰茎を締め付けた。
「っ……。 煽ったのはクレアだからな」
そう言うと、ゼノアはズンッと勢いよく動きはじめた。
「あんっ♡」
ジュポジュポ……
その後もリズミカルに抽送を繰り返す。甘い痺れは、いつの間にか熱く激しい快楽に変わっていた。
「あっ♡は♡はっ♡あんっ♡♡」
後ろから胸を揉みしだかれる。
そして、もう一方の手で私の下腹部を撫でた。
「ここまで届いてる」
「ああ゛っ♡♡♡」
ゼノアがグッとお腹を押すと、ビリリッと快感が走った。
内側からも外側からも気持ちいいところをグッと押され、私はあっという間にイってしまう。
「やばいな……気持ちよすぎ」
ゼノアは私の耳をペロッと舐めると、重点的にその一点を責める。
「ひぁっ♡らめ、らめぇ♡♡ひっ♡♡あっ♡♡♡」
もはや自分の意思では何もできなかった。私はゼノアに導かれるままに喘ぎ、イく。
「俺もイく………っ!」
ビュッビュ……
ゼノアは朝一番の濃厚な子種を私の中に注ぎ込んだ。
私は朝から恍惚としながら、それを悦びと共に受け入れた。
二人とも呼吸を整える。私はゼノアの方に向き、その逞しい胸に顔を埋める。汗の匂いがするが、私はこの匂いが好きだった。胸に滲む汗さえもゼノアが私を求めてくれた証のような気がして嬉しい。
……でも、同時に胸に溢れるのは甘く、苦い感情で。
私は、その正体をはっきりとわかっていた。
「朝から無理させたか?」
ゼノアが私の頭を撫でて、身体を気遣ってくれる。
「ううん……大丈夫。ありがとう。
その……嬉しかった、よ」
「今日はやけに素直だな」
「……そういう日があってもいいでしょ」
私がゼノアの胸に擦り寄ると、頭上からクスクスとゼノアの笑い声がする。
「なぁ……クレア」
「ん……?」
「好きだよ」
なんの前触れもなく、ゼノアはその言葉を私にくれた。
普通の恋人同士のように、それが当たり前のようにーー
「…………うん、ありがとう」
私はそう答えるしかなかった。確かに私にも同じ気持ちはあったけど、私から贈っていいのかわからなかったから。
「今は、それで我慢する。でも、いつか……クレアに同じ気持ちを返してもらえるように、俺、頑張るから」
私を抱きしめる腕に力が入る。その強さが私への想いを表しているようで、嬉しく感じてしまう。
離れたくないーー
ずっと、ずっと一緒にいたい。
この人が……好き。
私は、ゼノアに隠れて、そっと涙を流した。
◆ ◇ ◆
今日は休みだとゼノアが言うので、午前中は二人でゆっくりと過ごすことにした。
あの後、ベッドでまた微睡んで……二人でお風呂に入って……身体を洗いあって、繋がって、また洗って。ようやく服を着て、何故かゼノアの膝に乗せられながら二人で遅い昼食を食べて。
幸せだった。
何もなかったら、本当の恋人としてこんな風にゼノアと二人きりで過ごすことも出来たのかな……なんて、夢みたいなことを考えてしまうくらい。
でも、そんな時間は唐突に終わりを告げた。
「お嬢様……お客様がーー」
カミラが歯切れ悪くドアの外から声を掛けてくる。
基本カミラは私の事情を知っているので、私が三人といる時に声を掛けたりすることはまずない。
しかし、声が掛かるということは、急ぎの客なのだろう。
「わかった、すぐ用意するわ。お客様はどなた?」
「ウォルシュタイン伯爵……ゼノア様のお父君でございます」
「はぁ?! 親父が?!」
ゼノアは慌てて一人で部屋を出ようとする。
それを私は止めた。
「ゼノア、私へのお客様よ」
「でも、何か親父が余計なことを言いに来たんなら俺がーー」
「大丈夫。落ち着いて一緒に話を聞いてくれる?」
ゼノアは少し不服そうではあったが、コクリと頷いてくれた。
私たちは二人揃って、伯爵が待つ応接室へ向かった。
部屋に入り、今にも怒り出しそうなゼノアを宥め、礼を取る。
「ウォルシュタイン伯爵。大変お待たせいたしました。
私はクレア・フローレンスと申します」
伯爵は硬い表情のまま、私を見つめた。
「突然の訪問、失礼する」
「何の用だよ、親父! クレアを傷付けるならーー」
「好きな女性の前だからとそう粋がるな」
「な……っ」
顔を赤くして、ゼノアは固まった。
「殴り合いをしに来たわけではない。冷静に話し合いたい。いいかな? クレア嬢」
「はい、もちろんです」
私がそう答えると、伯爵は微笑んでくれた。
席について、伯爵が話し始めるのを待つ。
「……実は先日、私に手紙が届いてな。この後宮で息子が男娼の真似事をーー」
「ふざけんじゃねぇ! 俺は男娼なんかじゃない!
俺がここにいるのも元は陛下が決定されたことだ!」
ゼノアが机を叩き、立ち上がる。向かい側に座る伯爵の胸ぐらを掴む。私は慌てて、その腕を引っ張る。
「ゼノア、落ち着いて!
伯爵は手紙の内容を教えてくれてるだけよ!」
ゼノアは不服そうに手を離した。伯爵は襟元を直す。
「あぁ、クレア嬢の言う通りだ。私は今日事実を確認しに来た。その手紙の通り息子が悪女にたぶらかされているのか、何か理由があってここにいるのか。この手紙を鵜呑みにして、クレア嬢を批判するつもりなんてない。
……どうか事情を教えてほしい」
そう真剣に訴える瞳は、ゼノアと同じ真っ直ぐで強い眼差しだった。きっと伯爵も誠実な方なのね。
「実はーー」
私は、伯爵に今回の経緯を話した。
王妃様を庇って呪いを受けたこと、複数人の精液を受けなければ生きていけないこと、陛下の取り計らいにより後宮で過ごすことになったこと……。それを伯爵はじっと聞いていてくれた。
全てを話し終え、しばしの間、部屋に沈黙が満ちる。
最初に口を開いたのは、伯爵だった。
「クレア嬢……貴女は勇気があるんだな。命を投げ打って、王妃様をお守りした。それは誰にでもできることじゃない。同じ国に住む臣下として、私からも礼を言う。
そして、きっと息子もそんな貴女を助けたいと思って、この後宮に入ることにしたんだろう」
「ありがとう……ございます……」
予想外の反応にジンと胸が熱くなる。
「それに、こんな状況にも関わらず、気丈に振る舞い、しっかりとした素晴らしいお嬢さんだと思う。……本当に、息子の結婚相手として我が伯爵家に迎え入れたいくらいだ」
「親父……。じゃあーー」
「だが。どうか……これ以上、息子を巻き込まないでほしい」
「……は?」
ゼノアが唖然として、伯爵を見つめる。
私は、ぎゅっと膝の上の拳を握りしめた。
「この後宮には、クリヴィエ侯爵子息とレグーザ公爵子息もいると聞いた。だが、彼らは家を継ぐような立場にいないだろう。
しかし、ゼノア……お前は違う。我が伯爵家の唯一の後継者なのだ。クレア嬢が立派な女性であることは紛れもない事実だが、お前の相手としては……相応しくない」
相応しくない……その言葉が私に重くのしかかる。
ゼノアは、私の隣で唇を噛み締めている。
「……クレアさん、つかぬことをお聞きするが、避妊などは?」
「親父!!」
ゼノアが怒って声を荒げる。でも、私は彼の腕を掴んで、それを制した。……ゼノアが唯一の後継者だとしたら、気にするのは当然のことだから。それに伯爵は興味本位で聞いているわけではなく、真剣に考えているからこそ、質問したのだと思った。
「避妊は……していません。精液を受けること自体が目的なので、直接、中で吐精していただいています。それが私の生命エネルギーとして変換されると医師からは聞いています」
「妊娠する可能性は?」
「……あり、ます。基本的には私の生命エネルギーとして変換されるため、可能性はかなり低いと聞いていますがーー」
「じゃあ、もし妊娠した場合、三人のうち誰の子かわからない子供が産まれるんだな……」
子供ができることも考えないわけではなかった。
だが、生きていくには避妊はできないから、その可能性は出来るだけ考えないようにしていた。
三人とも口を開かなかった。
重苦しい空気が部屋を支配していた。
口火を切ったのはゼノアだった。
「……俺は嫌だ。クレアから離れるつもりなんてない」
「ゼノア……。そんな我儘が許されると思ってるのか?
今は亡きお前の母親が命懸けで守った血筋を絶やすつもりか」
淡々と話しながらも、伯爵は涙を流していた。
ゼノアも何も言わなかった。他人の私でさえ……胸が詰まった。
「私だって……できればクレア嬢を助けてやりたい。
だが……それはゼノアじゃなくてもできることだろう?」
伯爵は良い人だ。見ず知らずの私のために、心を痛め、頭を悩ませている。
「……申し訳、ありません」
泣いてはいけないと思うのに、謝罪の言葉とともに涙が一滴、膝を濡らした。
「こちらこそ……すまない」
伯爵は俯いて、拳を握りしめていた。
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