Free Hugs〜最後のハグから始まる恋〜

はるみさ

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第六話

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 結局あの後の話し合いで、週に3回、琴美と律は一緒にご飯を食べることになった。月曜日と金曜日の朝食と、水曜日の夕食だ。律は金曜日の夕食を共にしたいようだったが、金曜日は飲み会などになることも多いだろうと琴美が早く帰れることが多い水曜日にしてもらった。

 次の月曜日、琴美は朝食を作るために律の家に向かっていた。手には食材が入った袋がある。今日は初回で使い勝手もまだ分からないので、ごく簡単なものを作るつもりだ。

 律の家に着き、合鍵を使って入る。どうも律は朝が弱いらしく、インターホンを押しても起きれる自信がないとのことで合鍵を渡されることになった。合鍵まで貰っていいのかと琴美は焦ったが、律に押し付けられ、仕方なく受け取った。

 リビングに入るが、律はいない。きっとまだ寝室で寝ているのだろう。琴美はエプロンを巻き、朝食の準備に移る。

 今朝のメニューは枝豆と塩昆布の焼きおにぎりに、葱の味噌汁、サッとできる浅漬けと、家から持って来た筑前煮だ。

 琴美は効率よく作っていく。ほとんど準備が終わったところで寝室からようやく律が出てきた。もう寝室では何度もアラームが鳴っていた。琴美はクスクスと笑いながら、律に挨拶をした。

 「律さん、おはようございます!
 ふふっ…本当に朝、弱いんですね。」

 律は寝癖のついた髪の毛を掻きながら、笑った。

 「これでも早く起きた方だよ?琴美が朝からご飯を作ってくれてると思ったから、こんな早く起きれた。味噌汁の香りが漂ってきて、幸せな朝だな~と思った。

 これでおはようのキスでもあったら、最高なんだけど。」

 琴美はくるりと律に背を向けて、キッチンに戻ってしまう。

 「じょ、冗談はやめて、早く顔を洗ってきて下さい。」

 琴美の耳が真っ赤になっているのを、律は確認して密かに笑う。

 「はいはい。キスは今後のお楽しみってことで~。」

 そう言い残し、律は洗面所へ向かう。琴美は、キッチンに向かうものの、キスのことで頭がいっぱいで何も手に付かなかった。

 少しして、律も琴美も席につき、朝食が食卓に並んだ。
 律は目をキラキラとさせている。

 「どれも美味しそう!!食べていい?」

 「勿論です。召し上がれ。」

 「いただきます!!」

 今回も律は綺麗に朝食を平らげた。満足そうに食後のお茶を啜る。二人で少しゆっくりした時間を楽しむ。琴美は元々かなり朝方の人間なので、大丈夫なのだが、律は朝食のためにいつもより早起きするのが辛くないのか聞いてみた。

 「朝、弱いのに、私との朝食のために早起きするの、辛くないですか?」

 律は、お茶を一口啜り、微笑む。

 「辛くないよ!!寧ろ早起きさせてもらって感謝してるくらい。朝から美味しいものが食べれて、琴美の顔も見れて、こんな幸せな朝はないね。」

 「あ、ありがとうございます。」

 (朝食を求められてるだけなのに、私の顔も見れて嬉しいみたいに言われたら、勘違いしそうになる…。)

 琴美は、必死に律は食事が目当てなのだと自分に言い聞かせた。律は、少し口を尖らせて、拗ねたような顔をする。

 「琴美は?俺に会えて嬉しくない?」

 (ど、どういうこと?!どう答えるのが正解なの?!)

 琴美は唸りながら考えたが、正解が見つからず、結局素直な気持ちを吐き出した。

 「あ、会えて…う、嬉しいです。」

 律はその答えに満面の笑みを浮かべる。
 そして、席を立つと、琴美の横に来た。

 「おいで、琴美。今日のハグ、しよ?」

 琴美はゆっくり立つと、律の胸にこつんと額を付けた。それが合図のように律は琴美の背中に腕を伸ばし、琴美を抱きしめた。琴美も背中に手を回す。

 二人ともギュッと強く抱きしめ合う。

 (ハグってすごいな…。なんだか、気持ちがじんわりあったかくなって、元気になってく気がする。今週も頑張れそう…!)

 琴美は嬉しくなって、より強くギュッと抱きついた。次の瞬間、バッと律が身体を離した。

 「そ、そろそろ時間だね!俺、シャワー浴びてくる。すぐ出てくるから、待ってて。」

 早口でそう言うと、ぽかんとする琴美をそのままにお風呂場に向かってしまった。

 (強く抱きしめすぎたかしら…次からは気をつけよう。)

 琴美はそう思って、朝食の片付けを始めた。

 お風呂場では律がシャワーを浴びながらぽつり。

 「…俺、ハグだけでどこまで耐えられるかな…。」

 浴室に大きな溜息が響いた。


   ◆ ◇ ◆


 律の家で琴美が食事を作るようになってから、一ヶ月が過ぎた。二人ともリズムが出来上がり、以前にも増して、一緒に充実した時間を過ごすようになっていった。

 (やっぱり一人でご飯を食べるより、誰かと一緒に食べると美味しいよねー!律さん、いっぱい食べてくれるから作りがいがあるし!次は何作ろうかな~?)

 今日は金曜日。琴美は、律の家のキッチンに立ち、鼻歌を歌いながら、朝食を作っていた。もうどこに何があるか把握しているから、行動も早い。最近では琴美の家よりも料理が作りやすいので、作り置きのおかずもここで作っている。律も食べたいと言うので、今までの二倍作って、半分以上はそのまま律の家の冷蔵庫に置くことになる。今や作り置きおかずのタッパーが庫内の半分を占めていた。律が「平日にも琴美のご飯が食べれる!」と喜んでくれるのが、琴美は何よりも嬉しかった。

 律が濡れた髪のまま、キッチンを覗く。

 「可愛い鼻歌。」

 琴美はパッと振り返って、顔を赤くする。

 「り、律さん…もうシャワー終わってたんですか?」

 「うん。鼻歌、聴きながら体拭いてた。」

 恥ずかしくて、顔を覆う琴美の手に律は軽くキスを落とす。

 「照れてる琴美も可愛い。」

 琴美は耳まで赤くなる。こういった触れ合いを律はそこそこ頻繁にしてくる。

 (海外に住んでたから、これくらいのスキンシップは律さんにとって、普通なんだろうな…。でも、私の心臓に悪いんだよね。)

 以前、琴美はこういった触れ合いをやめて欲しいと、律に伝えたことがあった。触られるのが嫌なのか?と聞かれたので、嫌ではなくてただただ恥ずかしいと伝えたら、嫌じゃないなら止めないと、笑顔で断られてしまった。仕方なく琴美は、受け入れ続けている。

 (私が律さんのこと好きになったら、どうするつもりなんだろう…。)

 琴美は確実に律に惹かれていた。しかし、俊哉と別れてまだ三ヶ月。次の恋に行くには、まだ早すぎる気がした。

 (それに…もし律さんに恋したら、たくさん辛い思いをしそうだもんなぁ。)

 琴美の元彼である俊哉も凛々しい顔立ちをしており、女性からよく声をかけられる方だった。しかし、きっと律はその比ではないだろうと琴美は思う。律は間違いなく女性にモテる。高身長イケメンというだけでモテるのに、お金を持ってて、気遣いもできて、一緒にいると楽しい。ハグだって気持ちいい。

 (それに、きっとキスやその先も…)

 琴美は思わずうずくまった。

 (私ったら、なんてことを考えてるのよ!!)

 突然うずくまった琴美に律は驚く。

 「だ、大丈夫?お腹でも痛い?」

 琴美はすくっと立ち上がり、律から一歩距離を取る。

 「大丈夫です!ご心配なく!ご、ご飯並べますね!」

 琴美はパタパタと歩き回り、食卓を整えた。


   ◆ ◇ ◆


 食事を終え、二人でお茶を飲み、ハグをする。今日は律の希望で、ソファの上で後ろからのハグだ。琴美の腰に手を回しながら、律は言う。

 「…ねぇ、琴美。」

 「んー、何ですか?」

 琴美は目を閉じて、背中に感じる律の体温を確かめていた。

 「……今日の夜、空いてる?」

 最近は時々予定されていない日もお互いの都合があえば、一緒にご飯することがあった。

 「空いてますよ。仕事も落ち着いてるし、早く帰れると思います。家でご飯食べます?」

 「ううん。今日は一緒に外でご飯食べたいんだけど…いいかな?」

 琴美はつい振り返って、律の顔を見る。律は真剣だ。

 「そ、外ですか…!?構わないですけど…。」

 律は安心したように笑う。

 「良かった。じゃあ、会社の前まで迎えに行くから。」

 「わ、分かりました。」

 琴美は、再び前を向いて考えた。

 (なんで、私と外でご飯食べるなんて…。
 まるでデートみたいじゃない…!)

 その事実に気づいた琴美は、一人顔を赤くする。

 「…逃げないでね。…琴美。」

 律は、琴美の肩に顔を埋め、祈るように呟いた。
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