34 / 73
二章 復讐と集団転移編
第33話 裏切者と幻の理想郷
しおりを挟む
鴎外たちが馬車に乗り走り出したのと同じ頃。
「あーもう、不愉快だなぁ」
錦戸修司は一人、眠れぬ夜を過ごしていた。
「それもこれも、あの馬鹿な鷗外のせいだ。取り返しがつかないくらい壊してやったと思ったのに、あんなにあっさり立ち直っているなんて……」
飼い犬に手を嚙まれた気分だ。
思い出す度にイライラしてくる。
そう、別れ際の気の無い態度は単なる強がりでしかなかったのだ。
というより、一度支配下に置いた者に謀反をされたのは修司の人生で初めての経験でどうしたらいいか分からなかった。
放っておけば、彼らは数日のうちに森を出て行ってしまうだろう。
その前にどうにか鷗外を跪かせ、あの忌々しいメアとかいう女を我が物にしなければ。
修司がそんなことばかりを考えていると、
「あ、兄貴っ! 大変です、奴らのとこに置いてきたはずの姉御が――!」
部下の一人が無遠慮に寝床に踏み入られて、修司は不機嫌に立ち上がる。
「誰が、どうしたって?」
顔をしかめて振り返ると、視界の奥に見覚えのある女がいた。
「だから、情報を持ってきたんだって! ねえ、お願いだから修司に会わせてよ!」
甲高い耳触りな声で喚いているのは、晴野七海。
捨てて来たはずの彼女が何故ここに?と疑問に思ったが、すぐに意識を切り替えて不自然な程に爽やかな笑みを顔に張り付ける。
「修司……! お、置いていくなんて酷いじゃない。おかげでボコボコにされたわよ」
「ごめんごめん、けど、君があまりにも何一つ情報を持ってこないからさ」
七海は営業スマイルの修司を見ると、少し怒りが引いた。
あれだけのことをされても完全には嫌いになれない。そのくらい、修司という男の顔は整っていた。
「……情報なら、持ってきたわ。鴎外たちは、ここの女子たちを逃がす計画を立てている。数日中にも南の町にみんなを逃がす気らしいわ」
だから、糾弾するよりも都合のいい女として扱ってもらえるよう、七海は情報を渡すしかなかった。
「……なるほど、そう来たか」
修司の顔が思い切りにやける。
このまま3人が森を去ってしまうのが一番面白くない展開だったが、こっちにちょっかいをかけてきてくれるとは。
しかも、意表を突くつもりが、情けをかけて殺さずにおいた昔の女に見事に裏切られこうして情報まで漏れているのだ。
もう、今から彼らの絶望した顔が目に浮かぶ。
そんな風にクツクツと悪い笑みを浮かべながら、修司はふと冷静になった。
「ていうか、七海さんはどうやって夜の森を抜けてここまで来たんだい?」
「ああ、さっきまであいつらがここの下見に来ててね。その帰り道で奏と二人きりになるタイミングが合ったから上手いこと巻いた来たのよ。ま、闇雲に距離を稼いだせいでここを探すのに手間取っちゃったけど」
もうそんなことまでしているのか。思ったより動きが早いな。
……というか、今が先手を打つ絶好の機会なんじゃないか?
この女のおかげで彼らの行動が透けている今、先んじて監視網を強いておけば――
「上手くいけば、彼らの動き出しに合わせて先回りが出来るな」
鷗外の言っていた勝算というのは、恐らくあのメアとかいう女と一緒に戦った場合のものだろう。
うちの男共にも組ませることで真価を発揮する魔法、というのは幾つかある。
逆に言えば、先回りして彼らを切り離してさえしまえば、数で勝るこちらが負ける可能性は限りなく低い。
……バレていないと思っていた計画がとん挫した時の鷗外はどんな顔をするだろうか。
今から楽しみだ。
鷗外に無下に扱われて苛立っていた修司の頭にはもう、鷗外たちをどう貶めてやろうかという、それだけしかなかった。
だから、何故七海を連れて下見に来たのかという単純な疑問にすら気付かなかった。
「今すぐに起きている戦力を森の南側に向かわせ、監視網を作ってくれ」
近くにいた部下に命じると、彼は慌ただしく数名をかき集め南の方へと向かって行く。
それが鷗外の仕組んだ罠であるとも気付かずに。
「ねえ、私役に立ったでしょ? だからお願い、もう捨てたりしないで……」
追い縋ってくる七海の頭を修司は優しく撫でた。
情報こそ持ってきたが、やたらと自分の女ぶる七海は邪魔な存在でしかないが……まあいい。
見てくれだけはいいし、何度か抱いてやった後で言いくるめてそこらの男にでもくれてやろう。
と、修司が七海を捨てる算段をつけていた――その時だった。
視界の奥でふわりと何かが揺れた。
まるで、透明なカーテンが風になびいたかのようだ。
だが、修司はそれを見て違和感に駆られた。
何か重要なことを見落としている。自分の支配下に異分子が紛れ込んでいる。
そんな強烈な予感がした。
そして直後。
カーテンのようにはためいていた空間のベールはめくれ上がり、ふわふわと漂ってどこかへ消えて行き――
もう一度見た時には、寝ていたはずの女子たちがごっそりと消えていた。
「は……?」
よろよろと立ち上がり、修司は女子たちがいた場所へと向かう。
道中縋りつく七海を突き飛ばしたが、気にもならない。
「おい、なにがあった!」
女子は全員が消えてしまったわけではなく、数人残っていた。
ご丁寧に意識が刈り取られ、手足には枷がはめられている。
修司はその中の一人、七海に代わる内通者に選んだ女の頬を叩き無理やりに起こした。
「あいつらが……あの狂った現地人共が、みんなを連れて行きました……」
朦朧とした意識で答えた少女を、修司は地面に思い切り叩きつける。
ちらりと七海に視線を向けると怯えた表情をしていた。
恐らく、彼女のことも体よく押し付けたつもりなのだろう。
鴎外に固執していたとはいえ、転移者たちの支配もまた元の世界では叶わなかった修司の大きな夢の一つ。
そんな大事なものを二つ同時に失った修司は……静かに笑っていた。
「は、はは……ははははっ! やってくれるじゃないか……! 僕の理想郷を壊した罪は重いぞ、鴎外ぃぃぃぃぃいいいっ!」
腹の奥から憎悪に満ちた絶叫が、すっかり人の減った夜の拠点に響き渡った。
「あーもう、不愉快だなぁ」
錦戸修司は一人、眠れぬ夜を過ごしていた。
「それもこれも、あの馬鹿な鷗外のせいだ。取り返しがつかないくらい壊してやったと思ったのに、あんなにあっさり立ち直っているなんて……」
飼い犬に手を嚙まれた気分だ。
思い出す度にイライラしてくる。
そう、別れ際の気の無い態度は単なる強がりでしかなかったのだ。
というより、一度支配下に置いた者に謀反をされたのは修司の人生で初めての経験でどうしたらいいか分からなかった。
放っておけば、彼らは数日のうちに森を出て行ってしまうだろう。
その前にどうにか鷗外を跪かせ、あの忌々しいメアとかいう女を我が物にしなければ。
修司がそんなことばかりを考えていると、
「あ、兄貴っ! 大変です、奴らのとこに置いてきたはずの姉御が――!」
部下の一人が無遠慮に寝床に踏み入られて、修司は不機嫌に立ち上がる。
「誰が、どうしたって?」
顔をしかめて振り返ると、視界の奥に見覚えのある女がいた。
「だから、情報を持ってきたんだって! ねえ、お願いだから修司に会わせてよ!」
甲高い耳触りな声で喚いているのは、晴野七海。
捨てて来たはずの彼女が何故ここに?と疑問に思ったが、すぐに意識を切り替えて不自然な程に爽やかな笑みを顔に張り付ける。
「修司……! お、置いていくなんて酷いじゃない。おかげでボコボコにされたわよ」
「ごめんごめん、けど、君があまりにも何一つ情報を持ってこないからさ」
七海は営業スマイルの修司を見ると、少し怒りが引いた。
あれだけのことをされても完全には嫌いになれない。そのくらい、修司という男の顔は整っていた。
「……情報なら、持ってきたわ。鴎外たちは、ここの女子たちを逃がす計画を立てている。数日中にも南の町にみんなを逃がす気らしいわ」
だから、糾弾するよりも都合のいい女として扱ってもらえるよう、七海は情報を渡すしかなかった。
「……なるほど、そう来たか」
修司の顔が思い切りにやける。
このまま3人が森を去ってしまうのが一番面白くない展開だったが、こっちにちょっかいをかけてきてくれるとは。
しかも、意表を突くつもりが、情けをかけて殺さずにおいた昔の女に見事に裏切られこうして情報まで漏れているのだ。
もう、今から彼らの絶望した顔が目に浮かぶ。
そんな風にクツクツと悪い笑みを浮かべながら、修司はふと冷静になった。
「ていうか、七海さんはどうやって夜の森を抜けてここまで来たんだい?」
「ああ、さっきまであいつらがここの下見に来ててね。その帰り道で奏と二人きりになるタイミングが合ったから上手いこと巻いた来たのよ。ま、闇雲に距離を稼いだせいでここを探すのに手間取っちゃったけど」
もうそんなことまでしているのか。思ったより動きが早いな。
……というか、今が先手を打つ絶好の機会なんじゃないか?
この女のおかげで彼らの行動が透けている今、先んじて監視網を強いておけば――
「上手くいけば、彼らの動き出しに合わせて先回りが出来るな」
鷗外の言っていた勝算というのは、恐らくあのメアとかいう女と一緒に戦った場合のものだろう。
うちの男共にも組ませることで真価を発揮する魔法、というのは幾つかある。
逆に言えば、先回りして彼らを切り離してさえしまえば、数で勝るこちらが負ける可能性は限りなく低い。
……バレていないと思っていた計画がとん挫した時の鷗外はどんな顔をするだろうか。
今から楽しみだ。
鷗外に無下に扱われて苛立っていた修司の頭にはもう、鷗外たちをどう貶めてやろうかという、それだけしかなかった。
だから、何故七海を連れて下見に来たのかという単純な疑問にすら気付かなかった。
「今すぐに起きている戦力を森の南側に向かわせ、監視網を作ってくれ」
近くにいた部下に命じると、彼は慌ただしく数名をかき集め南の方へと向かって行く。
それが鷗外の仕組んだ罠であるとも気付かずに。
「ねえ、私役に立ったでしょ? だからお願い、もう捨てたりしないで……」
追い縋ってくる七海の頭を修司は優しく撫でた。
情報こそ持ってきたが、やたらと自分の女ぶる七海は邪魔な存在でしかないが……まあいい。
見てくれだけはいいし、何度か抱いてやった後で言いくるめてそこらの男にでもくれてやろう。
と、修司が七海を捨てる算段をつけていた――その時だった。
視界の奥でふわりと何かが揺れた。
まるで、透明なカーテンが風になびいたかのようだ。
だが、修司はそれを見て違和感に駆られた。
何か重要なことを見落としている。自分の支配下に異分子が紛れ込んでいる。
そんな強烈な予感がした。
そして直後。
カーテンのようにはためいていた空間のベールはめくれ上がり、ふわふわと漂ってどこかへ消えて行き――
もう一度見た時には、寝ていたはずの女子たちがごっそりと消えていた。
「は……?」
よろよろと立ち上がり、修司は女子たちがいた場所へと向かう。
道中縋りつく七海を突き飛ばしたが、気にもならない。
「おい、なにがあった!」
女子は全員が消えてしまったわけではなく、数人残っていた。
ご丁寧に意識が刈り取られ、手足には枷がはめられている。
修司はその中の一人、七海に代わる内通者に選んだ女の頬を叩き無理やりに起こした。
「あいつらが……あの狂った現地人共が、みんなを連れて行きました……」
朦朧とした意識で答えた少女を、修司は地面に思い切り叩きつける。
ちらりと七海に視線を向けると怯えた表情をしていた。
恐らく、彼女のことも体よく押し付けたつもりなのだろう。
鴎外に固執していたとはいえ、転移者たちの支配もまた元の世界では叶わなかった修司の大きな夢の一つ。
そんな大事なものを二つ同時に失った修司は……静かに笑っていた。
「は、はは……ははははっ! やってくれるじゃないか……! 僕の理想郷を壊した罪は重いぞ、鴎外ぃぃぃぃぃいいいっ!」
腹の奥から憎悪に満ちた絶叫が、すっかり人の減った夜の拠点に響き渡った。
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~
虎柄トラ
ファンタジー
下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。
意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。
女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。
敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。
剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。
一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。
快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる