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第3章 勇者の足跡とそれぞれの門出
第53話 世界の真実よりも漫画の結末の方が気になる。それがオタクという生き物。
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『よう、てめえが当代の勇者か?』
青い光を放ちながら宙へ浮き上がり、ボロっちい手帳が突然そう問いかけて来た。
「……は?」
驚き過ぎて、俺の口から間抜けな声が漏れる。
「なんで、テチョウ、シャベッテ……?」
カタコトで呟く俺とは対照的に、メアはきらきらした顔で手帳を見つめている。
「しゃ、喋る本とか凄いお宝じゃないですか!!! オークションに出したら金貨1万枚……いや、一点物ですしもしかしたら5万枚くらいいくかも……!」
「メアさん意外と俗物的だよなぁ……」
ハイテンションのメアに俺は呆れた視線を向ける。
「ふっふっふ、そこは強かと言って欲しいですね。いいお嫁さんになりますよ?」
「大丈夫、今でも十分最高の嫁だよ」
「オウガイさん……!」
『おうコラそっちから起こしといて無視するとはいい度胸じゃねえか、ああ?』
ついついいつもの調子で二人の世界にしけ込むと、手帳からドスの効いた声が飛んでくる。
「……どうやらマジっぽいなこれ」
声と共に激しく上下に動いている手帳を見て、俺は現実を認識する。
『俺が本の姿だからってあからさまにイチャコラしやがって当てつけかよちくしょうこっちはもう女なんて抱けねえってのに……』
なんか手帳なのに血涙流しながら拳を握りしめている姿が目に浮かぶ。
『まあいい。とにかく質問に答えろ』
「質問?」
『てめえが当代の勇者かって、最初に聞いただろうが! 登場シーンだから厳かな感じになるように気ィ遣ったのに台無しにしやがってクソが!』
そういやそんなこと言ってたな。
本が喋ったという衝撃で質問が吹っ飛んでいた。
今ならマックのCMで狂喜乱舞する子供たちの気持ちが少しだけ分かる。
「いやまあ勇者かと聞かれたら……違うけど」
『……はァ?』
今度は手帳の方が俺と同じ間抜けな声を漏らす番となった。
『いや待て。お前、日本人だよな? って事は異世界人としてこの世界に召喚されたんだよな? だから、この日記に名前を書き込んだんだろ?』
どうやら手帳ではなく日記だったらしい。
まあ白紙でそんなもん分かる訳がないので今後も手帳と呼ばせてもらおう。
とにかくその手帳さんが、明らかに狼狽えている。
「確かに俺は日本人だけど召喚なんてされてない。したのは転移だ」
『転移……? え……あの、ちょっと詳しく状況話して貰っていい?』
すっかり覇気を失くしてしまった手帳に、俺はこの世界に来た経緯を簡単に説明した。
『するとなんだ? どっかの王族やら組織やらに召喚されたわけじゃなく、目が覚めたら突然森の中に放置されていたと?』
「そうなるな」
『マジか……なんだよ、起きて損したじゃねえか……』
がっくりと肩を落としてうなだれる手帳。
いや実際は落とす肩も俯く顔もないんだが。
『あー、クソ、余計な魔力使っちまったよったく。もういいや、じゃあな。俺の事はどっか勇者を祭ってる王族にでも適当に預けといてくれ』
げんなりした口調でそう言い放ち、手帳は次第に輝きを失っていく。
「いやいやちょっと待ってくれ。まだラストダンジョンの事を何一つ聞けてないんだが!?」
このまま寝られては困るので、俺は引き留める為に手帳を掴んで揺さぶる。
『ちょ、くそ、馬鹿野郎! そう揺らされたら寝るもんも寝れねえじゃねえか! ……って、今ラストダンジョンの事を聞きたいって言ったか? お前さんが? 一体何のために』
迷惑そうにしていた手帳だったが、ラストダンジョンという言葉を聞くと青白い輝きを取り戻し、空中に鎮座した。
「そりゃ、攻略する為に決まってるだろ」
『あ……? 言ってる意味が分からねえ。お前さん、勇者じゃないって言ってたよな?』
「勇者じゃなきゃラストダンジョンに挑んじゃいけないのか?」
『いけない事はないんだろうが……勇者でもないのに挑むのは普通に自殺行為だ。あそこは《純粋無垢》持ってる俺ですら死にかけたやばいとこだぞ』
「いやそれなら持ってるけど……」
『なら勇者じゃねえか! さっきから何なんだよ、俺をからかって遊んでんのか!?』
どうやってか、器用に表紙に怒りマークを浮かび上がらせて手帳が憤慨する。
「……つまり、《純粋無垢》がこの世界の勇者の証だっていうのか?」
『そうに決まってんだろ。あんなイカれスキル、そうホイホイ持たれてたまるかよ』
それを聞いて、俺の内心に形容し難い気まずさのようなものが溢れる。
いやだってさぁ、この人どう考えても《純粋無垢》が固有スキルだと思ってるっぽいし。
その事実を、どう伝えたものかと俺が思案していると、
「あの……大変申し上げづらいのですが、そのスキルを持っている人なら後30人近くいますよ?」
メアがストレートにそう告げた。
『嘘、だろ……?』
手帳が愕然と呟いている。
「あー、さっき言った森に転移したの、俺だけじゃなかったんだよ。日本人が何十人も転移して、多分その全員が《純粋無垢》を持ってた。……その内の何人かはもういないけど」
同族殺しをした、と言うと語弊がありそうなので適当に誤魔化しておく。
『なんだそれ、《純粋無垢》のバーゲンセールじゃねえか……そんなんもう世界滅びかねないぞマジで』
なんか世界が滅びるとかいう不吉なワードが聞こえた気がする。
今のところ、そう大した力には思えないんだけどなぁ。
というか、
「いや言い方よ。スーパーサイヤ人じゃないんだから」
聞き覚えのある表現に思わず突っ込んでしまう。
『……え、マジで!? お前さんドラゴンボール知ってんの!?』
すると、想像の100倍くらいのハイテンションで手帳がめちゃくちゃ詰め寄って来た。
「知ってるというか、愛読してたけど……」
『うひょーっ! マジか! 俺連載途中でこっちの世界に来たから続きずっと気になってたんだよ! なあなあ、魔人ブウって結局倒せたのか!? スーパーサイヤ人3で勝てないとかあれもう無理だろ! ってずっと思ってたんだが』
「——っ、そうか……そうだよなぁ」
俺は悲しみのあまり目に涙を溜めながら、手帳の表紙をポンポンと叩いた。
本当なら熱い握手か抱擁でも交わしたいところだ。
――何故なら、俺には手帳の気持ちが痛いほどよく分かるから。
異世界に来てメアと出会えて、元の世界で引き籠っていた頃と比べたら今は遥かに幸せだ。
それでも……それでも、ワンピースとハンターハンターの続きは読みだがっだ!!!!
この世界で俺は一生ワンピースの正体を知ることは出来ないし、暗黒大陸に何があるのか、そもそも富樫が生きている間に完結するのかさえ知ることも出来ない。
他にも黒の組織の正体とか、知りたい物語の結末を挙げればキリがない。
同じようにこの手帳も、この世界に来て何年も、何十年もブウ編の結末を、そしてブウ編で作品が終わる事も知らずに(厳密には超があるが)その先を夢想して過ごして来たのだろう。
つまり、この手帳は未来の俺だ。
その悠久にも思える時を待ち続けて来た男の気持ちを思い、どうして涙せずにいられるだろうか。
「安心してくれ。ドラゴンボールなら5周はしてる。しっかり順を追ってストーリー全部話して聞かせるよ」
『お前さん……いや、救世主よ……!』
俺たちはそのまま小一時間ほどドラゴンボール談議に花を咲かせた。
そうして全てを話し終わる頃には、手帳は泣いていた。
『ようやく、ようやく知れた……』
あまりにも深く感動していて、なんだかそのまま成仏しそうに思える。
話している間メアがずっと呆れた目を向けてきていたが、この場では気にならなかった。
「あの、そろそろラストダンジョンの事を教えて貰えませんか? というか、あなたは一体何者なんです?」
律儀に話し終わるのを待ってから、メアがそう尋ねた。
『もう少し余韻に浸っていたいが……人生を救ってくれた男に礼をしないとな』
俺としてもこのまま熱い漫画話に花を咲かせたいところだったが、これ以上メアを無視すると後が怖い。
手帳はそんな俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、目がないのに俺たちは心で熱い視線を交わした。
その様子を、メアが心底気持ち悪そうに見ている。
『俺は、先代の勇者……その残留思念を本に閉じ込めた存在だ。だから厳密には人じゃないが、まあ記憶は共有してるからほぼ同じ存在と思ってくれ』
「な……そんなことが可能なのですか!?」
手帳の正体とその在り方に、メアが心底驚いている。
だがまあ、俺はそんなもんだろうと思っていたので驚きはない。
分霊箱とか、九尾の封印に己のチャクラを組み込むとか、そんなようなのは創作にいくらでも出てくるからな。
『ま、世界を救った俺勇者だし。それで、ラスダンの事だっけか? 話して聞かせるのはいいんだが……お前らダンジョンについてどれくらい知ってる? というか潜った事あるか?』
「知識だけならある程度は。ですが、潜った事はないですね」
「俺は知識すらない。元の世界のダンジョンならめっちゃ詳しいが」
伊達にRPGをやり込んでないからな。
2Dのマップなら隠し罠の位置すら感覚で見抜く自信がある。
『なら悪いが……そうだな、どこでもいいから一度ダンジョンを踏破してからまた起こしてくれ。話をするのはその後だ。一から説明してる程、本に封じてある俺の魔力も余裕がないんでな』
「さっき小一時間も無意味な話をしてたのに!?」
この場で説明する気がない手帳にメアが全力で突っ込む。
だが、
『「あれが無意味な話なわけあるか!」』
俺と手帳から全力を超えた覇王の如き反発を受け、メアは「ええ……」と引きまくっている。
『ま、そういうわけだから俺は寝る。ああそうだ……最後に、お前さんの名を教えてくれ』
「葛西鴎外だ。そういうあんたの名前は?」
『ただの日記に名前なんて要らねえさ。適当に元勇者とでも呼んでくれ』
手帳改め元勇者は、そう言ってフッとキザったらしく笑った。
どうやら若者相手に身を引くカッコいいおっさんを演出したいらしい。
やがて元勇者は輝きを失い徐々にベッドの上へと落ちて行き、
『寝る前に、人生の恩人にアドバイスだ。——《純粋無垢》を信じろ。あれはお前さんが思っている以上に凄い力だ』
その直前で踏み止まり、厳かな感じを作ってそう告げた。
「いやそんなフォースみたいなこと言われても……」
『フォースと同じくらい思い込みが大事なんだよ。そうだな……とにかくまずはいい手本を見つけろ。そして出来ると信じろ。俺は自分は世界を救う勇者だと思い込む事でで上手くいったが、お前さんは違うと言うならそれに代わる強い信念を探せ。いいな?』
それだけ言い残すと、元勇者の手帳は完全に輝きを失いベッドの上にポフッと落下した。
「……とりあえず寝るか」
疲労困憊の上深夜テンションでよく分からないノリのまま騒いでしまった俺は、そのまま倒れ込むように眠りに落ちたのだった。
青い光を放ちながら宙へ浮き上がり、ボロっちい手帳が突然そう問いかけて来た。
「……は?」
驚き過ぎて、俺の口から間抜けな声が漏れる。
「なんで、テチョウ、シャベッテ……?」
カタコトで呟く俺とは対照的に、メアはきらきらした顔で手帳を見つめている。
「しゃ、喋る本とか凄いお宝じゃないですか!!! オークションに出したら金貨1万枚……いや、一点物ですしもしかしたら5万枚くらいいくかも……!」
「メアさん意外と俗物的だよなぁ……」
ハイテンションのメアに俺は呆れた視線を向ける。
「ふっふっふ、そこは強かと言って欲しいですね。いいお嫁さんになりますよ?」
「大丈夫、今でも十分最高の嫁だよ」
「オウガイさん……!」
『おうコラそっちから起こしといて無視するとはいい度胸じゃねえか、ああ?』
ついついいつもの調子で二人の世界にしけ込むと、手帳からドスの効いた声が飛んでくる。
「……どうやらマジっぽいなこれ」
声と共に激しく上下に動いている手帳を見て、俺は現実を認識する。
『俺が本の姿だからってあからさまにイチャコラしやがって当てつけかよちくしょうこっちはもう女なんて抱けねえってのに……』
なんか手帳なのに血涙流しながら拳を握りしめている姿が目に浮かぶ。
『まあいい。とにかく質問に答えろ』
「質問?」
『てめえが当代の勇者かって、最初に聞いただろうが! 登場シーンだから厳かな感じになるように気ィ遣ったのに台無しにしやがってクソが!』
そういやそんなこと言ってたな。
本が喋ったという衝撃で質問が吹っ飛んでいた。
今ならマックのCMで狂喜乱舞する子供たちの気持ちが少しだけ分かる。
「いやまあ勇者かと聞かれたら……違うけど」
『……はァ?』
今度は手帳の方が俺と同じ間抜けな声を漏らす番となった。
『いや待て。お前、日本人だよな? って事は異世界人としてこの世界に召喚されたんだよな? だから、この日記に名前を書き込んだんだろ?』
どうやら手帳ではなく日記だったらしい。
まあ白紙でそんなもん分かる訳がないので今後も手帳と呼ばせてもらおう。
とにかくその手帳さんが、明らかに狼狽えている。
「確かに俺は日本人だけど召喚なんてされてない。したのは転移だ」
『転移……? え……あの、ちょっと詳しく状況話して貰っていい?』
すっかり覇気を失くしてしまった手帳に、俺はこの世界に来た経緯を簡単に説明した。
『するとなんだ? どっかの王族やら組織やらに召喚されたわけじゃなく、目が覚めたら突然森の中に放置されていたと?』
「そうなるな」
『マジか……なんだよ、起きて損したじゃねえか……』
がっくりと肩を落としてうなだれる手帳。
いや実際は落とす肩も俯く顔もないんだが。
『あー、クソ、余計な魔力使っちまったよったく。もういいや、じゃあな。俺の事はどっか勇者を祭ってる王族にでも適当に預けといてくれ』
げんなりした口調でそう言い放ち、手帳は次第に輝きを失っていく。
「いやいやちょっと待ってくれ。まだラストダンジョンの事を何一つ聞けてないんだが!?」
このまま寝られては困るので、俺は引き留める為に手帳を掴んで揺さぶる。
『ちょ、くそ、馬鹿野郎! そう揺らされたら寝るもんも寝れねえじゃねえか! ……って、今ラストダンジョンの事を聞きたいって言ったか? お前さんが? 一体何のために』
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「そりゃ、攻略する為に決まってるだろ」
『あ……? 言ってる意味が分からねえ。お前さん、勇者じゃないって言ってたよな?』
「勇者じゃなきゃラストダンジョンに挑んじゃいけないのか?」
『いけない事はないんだろうが……勇者でもないのに挑むのは普通に自殺行為だ。あそこは《純粋無垢》持ってる俺ですら死にかけたやばいとこだぞ』
「いやそれなら持ってるけど……」
『なら勇者じゃねえか! さっきから何なんだよ、俺をからかって遊んでんのか!?』
どうやってか、器用に表紙に怒りマークを浮かび上がらせて手帳が憤慨する。
「……つまり、《純粋無垢》がこの世界の勇者の証だっていうのか?」
『そうに決まってんだろ。あんなイカれスキル、そうホイホイ持たれてたまるかよ』
それを聞いて、俺の内心に形容し難い気まずさのようなものが溢れる。
いやだってさぁ、この人どう考えても《純粋無垢》が固有スキルだと思ってるっぽいし。
その事実を、どう伝えたものかと俺が思案していると、
「あの……大変申し上げづらいのですが、そのスキルを持っている人なら後30人近くいますよ?」
メアがストレートにそう告げた。
『嘘、だろ……?』
手帳が愕然と呟いている。
「あー、さっき言った森に転移したの、俺だけじゃなかったんだよ。日本人が何十人も転移して、多分その全員が《純粋無垢》を持ってた。……その内の何人かはもういないけど」
同族殺しをした、と言うと語弊がありそうなので適当に誤魔化しておく。
『なんだそれ、《純粋無垢》のバーゲンセールじゃねえか……そんなんもう世界滅びかねないぞマジで』
なんか世界が滅びるとかいう不吉なワードが聞こえた気がする。
今のところ、そう大した力には思えないんだけどなぁ。
というか、
「いや言い方よ。スーパーサイヤ人じゃないんだから」
聞き覚えのある表現に思わず突っ込んでしまう。
『……え、マジで!? お前さんドラゴンボール知ってんの!?』
すると、想像の100倍くらいのハイテンションで手帳がめちゃくちゃ詰め寄って来た。
「知ってるというか、愛読してたけど……」
『うひょーっ! マジか! 俺連載途中でこっちの世界に来たから続きずっと気になってたんだよ! なあなあ、魔人ブウって結局倒せたのか!? スーパーサイヤ人3で勝てないとかあれもう無理だろ! ってずっと思ってたんだが』
「——っ、そうか……そうだよなぁ」
俺は悲しみのあまり目に涙を溜めながら、手帳の表紙をポンポンと叩いた。
本当なら熱い握手か抱擁でも交わしたいところだ。
――何故なら、俺には手帳の気持ちが痛いほどよく分かるから。
異世界に来てメアと出会えて、元の世界で引き籠っていた頃と比べたら今は遥かに幸せだ。
それでも……それでも、ワンピースとハンターハンターの続きは読みだがっだ!!!!
この世界で俺は一生ワンピースの正体を知ることは出来ないし、暗黒大陸に何があるのか、そもそも富樫が生きている間に完結するのかさえ知ることも出来ない。
他にも黒の組織の正体とか、知りたい物語の結末を挙げればキリがない。
同じようにこの手帳も、この世界に来て何年も、何十年もブウ編の結末を、そしてブウ編で作品が終わる事も知らずに(厳密には超があるが)その先を夢想して過ごして来たのだろう。
つまり、この手帳は未来の俺だ。
その悠久にも思える時を待ち続けて来た男の気持ちを思い、どうして涙せずにいられるだろうか。
「安心してくれ。ドラゴンボールなら5周はしてる。しっかり順を追ってストーリー全部話して聞かせるよ」
『お前さん……いや、救世主よ……!』
俺たちはそのまま小一時間ほどドラゴンボール談議に花を咲かせた。
そうして全てを話し終わる頃には、手帳は泣いていた。
『ようやく、ようやく知れた……』
あまりにも深く感動していて、なんだかそのまま成仏しそうに思える。
話している間メアがずっと呆れた目を向けてきていたが、この場では気にならなかった。
「あの、そろそろラストダンジョンの事を教えて貰えませんか? というか、あなたは一体何者なんです?」
律儀に話し終わるのを待ってから、メアがそう尋ねた。
『もう少し余韻に浸っていたいが……人生を救ってくれた男に礼をしないとな』
俺としてもこのまま熱い漫画話に花を咲かせたいところだったが、これ以上メアを無視すると後が怖い。
手帳はそんな俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、目がないのに俺たちは心で熱い視線を交わした。
その様子を、メアが心底気持ち悪そうに見ている。
『俺は、先代の勇者……その残留思念を本に閉じ込めた存在だ。だから厳密には人じゃないが、まあ記憶は共有してるからほぼ同じ存在と思ってくれ』
「な……そんなことが可能なのですか!?」
手帳の正体とその在り方に、メアが心底驚いている。
だがまあ、俺はそんなもんだろうと思っていたので驚きはない。
分霊箱とか、九尾の封印に己のチャクラを組み込むとか、そんなようなのは創作にいくらでも出てくるからな。
『ま、世界を救った俺勇者だし。それで、ラスダンの事だっけか? 話して聞かせるのはいいんだが……お前らダンジョンについてどれくらい知ってる? というか潜った事あるか?』
「知識だけならある程度は。ですが、潜った事はないですね」
「俺は知識すらない。元の世界のダンジョンならめっちゃ詳しいが」
伊達にRPGをやり込んでないからな。
2Dのマップなら隠し罠の位置すら感覚で見抜く自信がある。
『なら悪いが……そうだな、どこでもいいから一度ダンジョンを踏破してからまた起こしてくれ。話をするのはその後だ。一から説明してる程、本に封じてある俺の魔力も余裕がないんでな』
「さっき小一時間も無意味な話をしてたのに!?」
この場で説明する気がない手帳にメアが全力で突っ込む。
だが、
『「あれが無意味な話なわけあるか!」』
俺と手帳から全力を超えた覇王の如き反発を受け、メアは「ええ……」と引きまくっている。
『ま、そういうわけだから俺は寝る。ああそうだ……最後に、お前さんの名を教えてくれ』
「葛西鴎外だ。そういうあんたの名前は?」
『ただの日記に名前なんて要らねえさ。適当に元勇者とでも呼んでくれ』
手帳改め元勇者は、そう言ってフッとキザったらしく笑った。
どうやら若者相手に身を引くカッコいいおっさんを演出したいらしい。
やがて元勇者は輝きを失い徐々にベッドの上へと落ちて行き、
『寝る前に、人生の恩人にアドバイスだ。——《純粋無垢》を信じろ。あれはお前さんが思っている以上に凄い力だ』
その直前で踏み止まり、厳かな感じを作ってそう告げた。
「いやそんなフォースみたいなこと言われても……」
『フォースと同じくらい思い込みが大事なんだよ。そうだな……とにかくまずはいい手本を見つけろ。そして出来ると信じろ。俺は自分は世界を救う勇者だと思い込む事でで上手くいったが、お前さんは違うと言うならそれに代わる強い信念を探せ。いいな?』
それだけ言い残すと、元勇者の手帳は完全に輝きを失いベッドの上にポフッと落下した。
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