28 / 124
第2章 エーレンタール侯爵家
第1話 親友の面影
しおりを挟む
馬車に乗っていた素敵な男性は先に行くが、必ず門番に伝えると私に約束してくれた。
門が開いた時にはちゃんと門番がいて、約束どおりにグレースを通るようにしてくれるようだ。
さんざん探し回っていた門番が、いったい何処にいたのか不思議だった。
不満を言わずに丁寧にお辞儀してから、道なりに屋敷を目指して歩く。
屋敷に近づくにつれて、自分は失敗してしまった事に気づかされた。
正面からか裏口からか、どちらから訪ねればがいいのか。
あの男性に聞くのを、すっかり忘れていたわ。
どうしょうかと、暫し立ち止まり考える。
私っていつもそう、最後の詰めが甘いのよ。
何をしてもやっても、中途半端。
グレースは鞄の重さを手や腕に感じ、ゆっくりとまた歩き出した。
裏口はわからないし、正面からにしましょう。
一生懸命に誠意を込めて謝れば、きっと許して頂けるわよ!
そして目の前に立つ、素敵で綺麗な大きく立派なお屋敷。
そりゃ、王宮に比べたら小さい方だけどね。
彼女はふと懐かしさで王宮を思い出し、楽しかった王妃様との日々を思い笑いながら歩いて行く。
まさかベランダから侯爵夫人が、グレースを見ていたなんて思いもしなかったのである。
あのご令嬢が、手紙で頼まれた方ね!
エテルネルの王妃さまが、いや親友が寄越してきたご令嬢なのね。
彼女の息子が急いで知らせに来てくれてから、侯爵夫人はベランダから道なりにヨタヨタと歩く令嬢の姿を興味深く凝視していた。
「母上!
本当に、ご自分の娘の様な扱いをされるのですか?!」
年若い男性は、自分の母親に再度確認をしてくる。
「カルロス、勿論ですよ。
彼女はエテルネルでは子爵令嬢だし、私の親友でもあるエテルネル国の王妃から預かった大切な方です。
たとえ息子でも、無礼はけして許しませんよ!」
息子に母はしっかりと申し伝えると、側仕えの者たちへ使用人全員を玄関に待機させるように命じる。
彼女自身も、玄関へ飛び出すか踊る如く急ぎように向かう。
息子の侯爵令息は母の命令には絶対に逆らえることは出来ないと理解し、浮き立つ母の侯爵夫人の後に静かに続いた。
そして、先ほど出会った令嬢の容姿を思い浮かべていた。
栗毛の少し巻き髪で琥珀色の瞳は平凡だが、整った可愛らしい顔立ちをしていた。
何よりあのカーテシーだ。
あんな綺麗な所作は、母と王妃さまと同じ威厳を感じさせてくれた。
やっと着いたわ、持っている鞄が重くて腕と掌が痛いわ。
大きな扉、呼び鈴を押しても気づいてくれるの?
グレースはドキドキして、震えそうな指先で呼び鈴を押す。
扉が両方開けられた時に、大勢の人たちが並んでいるのが目に映ってきた。
何があったの、私を出迎えているの?
そんなはずないわ、私はタダの行き遅れの他国の娘ですもの。
鞄を両手に持った女性が目を大きく見開いて緊張し立ちすくんでいるのが、侯爵夫人や他の者全員が彼女の態度でわかった。
グレースは鞄を下に置くと、深々とカーテシーをして動かなかった。
侯爵夫人は、その姿勢に暫く見惚れていた。
この流麗な動作に、確かに昔見ていた覚えがあった。
そう親友の元公爵令嬢の所作、そっくりそのままであったのだ。
親友が、この子にカーテシーを教え込んだのだわ。
侯爵夫人は親友が彼女と重なり、近づいてグレースを思わず抱き締めてしまった。
息子の令息も控えていた使用人たちも、そして抱きつかれたグレース本人も驚く。
これから、どうしたらいいの?
どうして侯爵夫人は、私に抱きついているのかしら?
グレースは、そのままその場にただ突っ立っていた。
「ごめんなさいね?!
懐かしくて、貴女のカーテシーはジョセフィーヌ様に教わったのね?!」
ジョセフィーヌ?
たしか、王妃さまのお名前だったわ。
そう私のカーテシーは、王妃さまにお茶を入れていた時間に少しずつ教えて下さった所作。
二人と女官長様しか、知らない秘密の時間。
懐かしい優しい時間、穏やかで美しい私の思い出。
グレースは思い出すと目から、涙が自然にポロポロ流れ落ちた。
いけない、こんな場所で泣くなんて恥ずかし過ぎるわ!
グレースは頭の中で必死に言い訳を模索していた。
出会ったばかりで、早速気まずい空気が辺りに漂うのである。
集まった使用人たちもこの現状に、ただただ緊張して見守るしか出来なかった。
門が開いた時にはちゃんと門番がいて、約束どおりにグレースを通るようにしてくれるようだ。
さんざん探し回っていた門番が、いったい何処にいたのか不思議だった。
不満を言わずに丁寧にお辞儀してから、道なりに屋敷を目指して歩く。
屋敷に近づくにつれて、自分は失敗してしまった事に気づかされた。
正面からか裏口からか、どちらから訪ねればがいいのか。
あの男性に聞くのを、すっかり忘れていたわ。
どうしょうかと、暫し立ち止まり考える。
私っていつもそう、最後の詰めが甘いのよ。
何をしてもやっても、中途半端。
グレースは鞄の重さを手や腕に感じ、ゆっくりとまた歩き出した。
裏口はわからないし、正面からにしましょう。
一生懸命に誠意を込めて謝れば、きっと許して頂けるわよ!
そして目の前に立つ、素敵で綺麗な大きく立派なお屋敷。
そりゃ、王宮に比べたら小さい方だけどね。
彼女はふと懐かしさで王宮を思い出し、楽しかった王妃様との日々を思い笑いながら歩いて行く。
まさかベランダから侯爵夫人が、グレースを見ていたなんて思いもしなかったのである。
あのご令嬢が、手紙で頼まれた方ね!
エテルネルの王妃さまが、いや親友が寄越してきたご令嬢なのね。
彼女の息子が急いで知らせに来てくれてから、侯爵夫人はベランダから道なりにヨタヨタと歩く令嬢の姿を興味深く凝視していた。
「母上!
本当に、ご自分の娘の様な扱いをされるのですか?!」
年若い男性は、自分の母親に再度確認をしてくる。
「カルロス、勿論ですよ。
彼女はエテルネルでは子爵令嬢だし、私の親友でもあるエテルネル国の王妃から預かった大切な方です。
たとえ息子でも、無礼はけして許しませんよ!」
息子に母はしっかりと申し伝えると、側仕えの者たちへ使用人全員を玄関に待機させるように命じる。
彼女自身も、玄関へ飛び出すか踊る如く急ぎように向かう。
息子の侯爵令息は母の命令には絶対に逆らえることは出来ないと理解し、浮き立つ母の侯爵夫人の後に静かに続いた。
そして、先ほど出会った令嬢の容姿を思い浮かべていた。
栗毛の少し巻き髪で琥珀色の瞳は平凡だが、整った可愛らしい顔立ちをしていた。
何よりあのカーテシーだ。
あんな綺麗な所作は、母と王妃さまと同じ威厳を感じさせてくれた。
やっと着いたわ、持っている鞄が重くて腕と掌が痛いわ。
大きな扉、呼び鈴を押しても気づいてくれるの?
グレースはドキドキして、震えそうな指先で呼び鈴を押す。
扉が両方開けられた時に、大勢の人たちが並んでいるのが目に映ってきた。
何があったの、私を出迎えているの?
そんなはずないわ、私はタダの行き遅れの他国の娘ですもの。
鞄を両手に持った女性が目を大きく見開いて緊張し立ちすくんでいるのが、侯爵夫人や他の者全員が彼女の態度でわかった。
グレースは鞄を下に置くと、深々とカーテシーをして動かなかった。
侯爵夫人は、その姿勢に暫く見惚れていた。
この流麗な動作に、確かに昔見ていた覚えがあった。
そう親友の元公爵令嬢の所作、そっくりそのままであったのだ。
親友が、この子にカーテシーを教え込んだのだわ。
侯爵夫人は親友が彼女と重なり、近づいてグレースを思わず抱き締めてしまった。
息子の令息も控えていた使用人たちも、そして抱きつかれたグレース本人も驚く。
これから、どうしたらいいの?
どうして侯爵夫人は、私に抱きついているのかしら?
グレースは、そのままその場にただ突っ立っていた。
「ごめんなさいね?!
懐かしくて、貴女のカーテシーはジョセフィーヌ様に教わったのね?!」
ジョセフィーヌ?
たしか、王妃さまのお名前だったわ。
そう私のカーテシーは、王妃さまにお茶を入れていた時間に少しずつ教えて下さった所作。
二人と女官長様しか、知らない秘密の時間。
懐かしい優しい時間、穏やかで美しい私の思い出。
グレースは思い出すと目から、涙が自然にポロポロ流れ落ちた。
いけない、こんな場所で泣くなんて恥ずかし過ぎるわ!
グレースは頭の中で必死に言い訳を模索していた。
出会ったばかりで、早速気まずい空気が辺りに漂うのである。
集まった使用人たちもこの現状に、ただただ緊張して見守るしか出来なかった。
1
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
毒姫ライラは今日も生きている
木崎優
恋愛
エイシュケル王国第二王女ライラ。
だけど私をそう呼ぶ人はいない。毒姫ライラ、それは私を示す名だ。
ひっそりと森で暮らす私はこの国において毒にも等しく、王女として扱われることはなかった。
そんな私に、十六歳にして初めて、王女としての役割が与えられた。
それは、王様が愛するお姫様の代わりに、暴君と呼ばれる皇帝に嫁ぐこと。
「これは王命だ。王女としての責務を果たせ」
暴君のもとに愛しいお姫様を嫁がせたくない王様。
「どうしてもいやだったら、代わってあげるわ」
暴君のもとに嫁ぎたいお姫様。
「お前を妃に迎える気はない」
そして私を認めない暴君。
三者三様の彼らのもとで私がするべきことは一つだけ。
「頑張って死んでまいります!」
――そのはずが、何故だか死ぬ気配がありません。
3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~
放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」
最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!?
ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
【完結】公爵令嬢は勇者への恩返しを試みる〜サブヒロインとして頑張ります〜
マロン株式
恋愛
公爵令嬢ユウフェには、ひとつだけ秘密がある。
――この世界が“小説の中”だと知っていること。
ユウフェはただの“サブヒロイン”で、物語の結末では魔王のもとへ嫁ぐ運命にある……はずだった。
けれどーー
勇者の仲間、聖女、そして魔王が現れ、〝物語どおり〟には進まない恋の三角関係(いや、四角関係?)が動き出す。
サブヒロインの恩返しから始まる、ほのぼの甘くて、少し切ない恋愛ファンタジー。
◇◇◇
※注意事項※
・序盤ほのぼのめ
・勇者 ✖ サブヒロイン ✖ 魔王 ✖ 巫女(?)の恋愛模様
・基本はザマァなし
・過去作のため、気になる部分あればすみません
・他サイトと並行改稿中のため、内容に差異が出る可能性があります
・設定ゆるめ
・恋愛 × ファンタジー
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる