【完結】魔がさし令嬢の国外逃亡は恋の予感

愚者 (フール)

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第2章  エーレンタール侯爵家 

第1話 親友の面影

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  馬車に乗っていた素敵な男性は先に行くが、必ず門番もんばんに伝えると私に約束してくれた。

門が開いた時にはちゃんと門番がいて、約束どおりにグレースを通るようにしてくれるようだ。

さんざんさがし回っていた門番が、いったい何処どこにいたのか不思議だった。
不満を言わずに丁寧にお辞儀してから、道なりに屋敷を目指して歩く。

屋敷に近づくにつれて、自分は失敗してしまった事に気づかされた。
正面からか裏口からか、どちらから訪ねればがいいのか。
あの男性に聞くのを、すっかり忘れていたわ。
どうしょうかと、しばし立ち止まり考える。

私っていつもそう、最後のめが甘いのよ。
何をしてもやっても、中途半端ちゅうとはんぱ

  グレースはかばんの重さを手や腕に感じ、ゆっくりとまた歩き出した。
裏口はわからないし、正面からにしましょう。
一生懸命に誠意を込めて謝れば、きっと許して頂けるわよ!

そして目の前に立つ、素敵で綺麗な大きく立派なお屋敷。
そりゃ、王宮に比べたら小さい方だけどね。

彼女はふと懐かしさで王宮を思い出し、楽しかった王妃様との日々を思い笑いながら歩いて行く。
まさかベランダから侯爵夫人が、グレースを見ていたなんて思いもしなかったのである。

    あのご令嬢が、手紙で頼まれた方ね!
エテルネルの王妃さまが、いや親友が寄越よこしてきたご令嬢なのね。

彼女の息子が急いで知らせに来てくれてから、侯爵夫人はベランダから道なりにヨタヨタと歩く令嬢の姿を興味深く凝視ぎょうししていた。

「母上!
本当に、ご自分の娘の様な扱いをされるのですか?!」

年若い男性は、自分の母親に再度確認をしてくる。

「カルロス、勿論もちろんですよ。
彼女はエテルネルでは子爵令嬢だし、私の親友でもあるエテルネル国の王妃から預かった大切な方です。
たとえ息子でも、無礼はけして許しませんよ!」

息子に母はしっかりと申し伝えると、側仕そばつかえの者たちへ使用人全員を玄関に待機たいきさせるように命じる。
彼女自身も、玄関へ飛び出すか踊るごとく急ぎように向かう。

息子の侯爵令息は母の命令には絶対に逆らえることは出来ないと理解し、浮き立つ母の侯爵夫人の後に静かに続いた。

そして、先ほど出会った令嬢の容姿を思い浮かべていた。
栗毛の少し巻き髪で琥珀こはく色の瞳は平凡だが、整った可愛らしい顔立ちをしていた。

何よりあのカーテシーだ。
あんな綺麗な所作しょさは、母と王妃さまと同じ威厳いげんを感じさせてくれた。

 やっと着いたわ、持っているかばんが重くて腕とてのひらが痛いわ。

大きなとびら、呼び鈴を押しても気づいてくれるの?
グレースはドキドキして、震えそうな指先で呼び鈴を押す。

扉が両方開けられた時に、大勢の人たちが並んでいるのが目に映ってきた。

何があったの、私を出迎えているの?
そんなはずないわ、私はタダの行き遅れの他国の娘ですもの。

鞄を両手に持った女性が目を大きく見開いて緊張し立ちすくんでいるのが、侯爵夫人や他の者全員が彼女の態度でわかった。

グレースは鞄を下に置くと、深々とカーテシーをして動かなかった。
侯爵夫人は、その姿勢に暫く見惚みほれていた。

この流麗りゅうれいな動作に、確かに昔見ていた覚えがあった。
そう親友の元公爵令嬢の所作しょさ、そっくりそのままであったのだ。

親友が、この子にカーテシーを教え込んだのだわ。
侯爵夫人は親友が彼女と重なり、近づいてグレースを思わず抱き締めてしまった。

息子の令息も控えていた使用人たちも、そして抱きつかれたグレース本人も驚く。
 
これから、どうしたらいいの?
どうして侯爵夫人は、私に抱きついているのかしら?
グレースは、そのままその場にただ突っ立っていた。

「ごめんなさいね?!
懐かしくて、貴女のカーテシーはジョセフィーヌ様に教わったのね?!」

ジョセフィーヌ?
たしか、王妃さまのお名前だったわ。

そう私のカーテシーは、王妃さまにお茶を入れていた時間に少しずつ教えて下さった所作。
二人と女官長様しか、知らない秘密の時間。
懐かしい優しい時間、穏やかで美しい私の思い出。

グレースは思い出すと目から、涙が自然にポロポロ流れ落ちた。
いけない、こんな場所で泣くなんて恥ずかし過ぎるわ!

グレースは頭の中で必死しっしに言い訳を模索もさくしていた。
出会ったばかりで、早速気まずい空気が辺りに漂うのである。

集まった使用人たちもこの現状に、ただただ緊張して見守るしか出来なかった。
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