【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)

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第3章  学園生活

第19話 王妃の退場と殿下の涙

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 お昼休憩が終わり午後から始まる試合前、選手たちは待機するテントの中で集まっていた。
国王が座る貴賓席きひんせきに向かい、選手たちは横並びに立っと御前ごぜんで決めるようだ。

1番に引く人が、箱に手を入れてる。
中をかき混ぜて迷っているせいか、なかなか引かてくれない。
やっと、高等部3年の金髪の美青年が白い紙を手にした。

「何も書いていない事は、繰り上げだ!
ラッキー、私は強運の持ち主だな」

セコイ奴、すごく喜んでいる。
プリムローズは、顔だけ美青年をついにらみつけた。

高等部2年の生徒は緑の紙を引くき、続いて殿下は赤を引いた。
私の番になり、最初に触った紙を思いっきり引いて挙げた。

高々と挙げた手には、赤色の紙が青空に映えた。
それを見て、全生徒がオーッと大歓声をあげる。

同じ色を手にした相手を見て薄ら笑いすると殿下はゆがんだ表情をしながら目線を下にした。

『ウフフっ、そうよね?!
年下の女の子が相手ではね。
だからって、容赦ようしゃしませんよ。
たとえ、お偉い王族でもね』

先に緑を引いた、高等部1、2 年生の対戦になった。
高等部同士なので1本勝負。

先に戦っている試合を観戦していたら、近づいた殿下が話しづらげにプリムローズに声をかけた。

「あの~、プリムローズ嬢。
いや、クラレンス公爵令嬢。
お昼に私の友人達が、そのう…。
君の所へ行き、失礼したのをお詫びする」

「それは、殿下が命じたのですか?
でなければ、謝罪は無用ですわ」

黒髪の彼は、なかなかの腕前。

1本勝負のせいか、まったくスキがない。
上半身しか動いてないし、足がおろそかで体の体幹が弱く見えた。 
黒髪が仕掛けてきて、両者の打ち合いが激しい。

『ヨシ決まったわ。
やなり、あの黒髪の人ね!』

「あの~、お互いに頑張りましょう」

殿下が私にそんな風に言ってきた。
口元だけ笑って聞いてると、殿下の顔が不安げに見えた。

 2人並んで王に礼をすると、左右に分かれる。

応援はどうも控えているようだ。
まぁね、仕方ない。
相手あれでも、王族だ。

殿下は初等部、彼から私は3本とらなくてはいけない。

『やだやだ、面倒くさいわぁ。
仕方ない、練習相手になってあげますか』

こんなことを考えていたら、いつの間にか試合が始まった。


「では、始めー!!」

お互いにかまえるの姿勢をするが、素人でも違いはわかった。

「プリムローズ様の構えは、形がピーンとして指先まで綺麗で美しいわ!」

フローラは、手先を真似してみた。

「それに比べて、殿下は形だけでボーッと立っている感じがしましてよ?」

リザは頬に手を当てて、友人に指摘する。

「おお~、プリムローズ様が動いたぞ!
動きが速い、前に行っている」

アレンは、目を輝かして実況していた。

「ご覧遊ばせ!
殿下の服が切れてますわよ。
打ち込まれてばかりで、手を出してませんわ!」

マリーは、ボロボロの殿下を心配する。 

やはり、基礎が全然出来てないじゃない!

私の打ち込みに、対応出来ないばかりか逃げ腰だし。
剣先が下を向いて、あれはヤル気ありませんわよ。

やぁーっと声を出し、プリムローズが踏み込んだ。

場外に押されると同時に、殿下が尻餅をついてしまう。

「場外、待てー!」と、審判が声をかけた。

「場外って初めてですわよね。どうですか?
1本でいいのかしら?!」

「場外は、2回で1本になります!」

プリムローズは審判の声に、今考えたのだろと思った。

「あ~らっ、そうなの?
じゃあ、もう1度ね!」と、首をちょっと傾げた。

「では、始め!!」

声がかかるとプリムローズは、更に速く攻め立てた。
交わすより逃げる姿は、みじめだった。
服が、袖や脇そして太ももが破れている。

「王様、今すぐ止めさせて下さいませ。
アルが、アルが~!
傷をおっていますわ!」

王妃は、必死に頼んだ。
王は、自分の息子の姿を見て辛そうにしていた。

「王様、早くして下さいませ!」

「静かに見てろ、王妃!」

隣に座る王妃に、静かに伝えた。

公爵夫人は、下を見て娘を見てなかった。

「場外!
プリムローズ嬢、1本!」

審判の声が校庭に響く。

殿下を見ずに元の位置に戻る娘を、父の公爵は見つめている。

ノロノロと歩きハァハァ息して汗を流す殿下に、同情している全生徒たち。

「まだ、2本もあるのよ。
貴方、初等部でしょう?
参ったすれば、すぐ終わるけど!
さぁ、どうするの?」

笑いながら、殿下に質問をする。
睨み付け構えると、始めと同時に向かってきた。

「フン、あまいわ!
突きというのは、こうよ!」

思い切り腕を押し出したら、殿下は後ろに飛んで倒れる。
喉元に剣を当てて、動きが止まった。

「1本、プリムローズ嬢!」

顔を真っ青にして倒れたままの殿下に、審判が寄っていく。

「キャ~!
アル、アルが死んでしまう!
誰かー、あの者を捕らえよー!!」

王妃は、プリムローズを指差した。

王妃の言葉に何言っているのとばかりに、首を振って馬鹿にした態度を見せた。

「うるさい!!
王妃、お前が退場だぁ~!
誰か王妃を別室に入れ、終るまで外に出すな!」

王は、立ち上がり命じた。

「貴方、そんな酷い!
アルー、アル~!」

両脇を持たれて泣き叫ぶ王妃を、お付きの人達によって無理に連れていかれた。

皆は、その場を固唾かたずを飲んで見つめている。
見てはいけないものを、ここにいる全員が見てしまった。

ゼイゼイしながら、審判に抱えられて戻ってくる王子。

「参ったしたら、どうせ負けるんでしょう。
根性あるみたいね?!」

「するか!
お前なんかに言うもんか!」

彼は震えながらも、プリムローズに向けて怒鳴った。

矜持きょうじだけは高いんだ。
そんなお遊戯ゆうぎみたいな剣で、代表なのは冗談でしょう?!
5歳の時の私より弱いわよ。
一体全体いったいぜんたい、誰に教わったの?」

王はすぐさま、隣にいた近衛隊長を睨んだ。

「いいんですか?
続けますよ、殿下?!」

審判は困りながら、降参してほしい素振りをする。

「タンカーを用意して待ってなさい!
1分で決着つけて終らせる。
その矜持に免じて、私の力を少しだけ見せてあげよう」

剣を殿下に指し、高らかに宣言する。

観ているものは、早く終わってと胸中で絶叫した。
震えた声で、審判は合図を出す。

鬼神の化身がいる。
不気味に笑いながら、王子に駆け寄ってきた。

ギャーッと王子の声、ウギャーと殿下の声。
動けない王子の顔、スレスレに剣を地面に刺した。
胸を靴底でグリグリしていた。

「痛いー!痛いよー!
お母様、助けてー!!」

泣き声が、校庭にむなしく響き渡る。

「参りましたと言え!
鬱陶うっとうしい!
潔く認めろよ!男だろー!!」

胸をガンガン蹴りながら、未来の王になるだろう王子を脅す。

「参りました!ごめんなさい!許して、怖いよぉ~!
誰か、助けてよー!!」

王子の心の叫びを、全員がこの場で拝聴はいちょうした。

「勝者は、クラレンス公爵令嬢嬢!
早く急ぎ、タンカーをー!」

怒鳴る審判を見ながら、爆弾発言をする。

「チッ、やっと終わったわ。
これだから、子供はうるさくってイヤ!
これが、本当に王族?
大丈夫かしら、この国はー!」

デカイ独り言を言う彼女に、誰も何も言えない。

近衛隊長は横に座っている王の姿を、とても見ていられなかったのだった。
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