【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 暗躍編ー

愚者 (フール)

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第1章  奇跡の巡り合わせ

第1話 旅の恥は掻き捨て

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 祖国エテルネルを離れアルゴラへ到着し、もうすでに20日目。
みなと近くにある宿の窓を開けると、プリムローズはバルコニーに出ていた。

夏の太陽がちょうど真上にあり、反射して海面がキラキラと言うよりはギラついてまばゆい。


「………うっ、いい天気すぎ!
目がつぶれる~じゃない」

しかめ面と仏頂面ぶっちょうづらで海を眺めているご令嬢は、銀色に近い腰まである長い金髪を海風でなびかせる。

『あの海の遠い向こうにー。
ヘイズ国があるのね……』

感慨にひたっていると、私を呼ぶデカイ声がする。

「おおっ、おー!
お嬢様、お嬢様~~」

「お~い、うっせーぞ!
メリー、なにデッカイ声を張り上げてんだ。
やめてくれよ。
俺の耳が変になっちゃうぜ」

口が悪るくて一見いっけんすると怖そうな男が、部屋の出入り口付近ふきんの椅子に座っていた。

こんな場で腰かけて物騒にも剣の手入れをしていたギルが、自分に気づかないで入ってきたメリーに注意する。

「貴方こそ、部屋で剣など出してぶっそうですよ!
何しているんですか?」

「俺は、お嬢やお前の警護を頼まれている。
こうして、毎日剣の手入れをするのは日課だ!」

「あっそう、大声出して申し訳ありませんね。
ギル師匠ししょうには、別に話しておりません」

後ろの部屋の中で、相性イマイチな歳近い若い男女が言い争う。

「お嬢様!
宿の方にうかがいましたら、明日はやっと出港ができるそうですよ」

エテルネルからプリムローズについて来たメイドのメリーが、部屋に入るなり吉報きっぽうを伝えてきた。

3人分のお茶を、れて持ってきたトレーをテーブルに置く。

「まぁ~、メリー!
その話は、本当なの!!
随分ずいぶんと、長く待たされたわ。
到着して直後ちょくごに、大嵐おおあらしになり船の出港がびるとは思わなった」

海から視線を外し、メリーたちのいる部屋を振りかえる。
足止めをくらっていたプリムローズは、この現状にウンザリしていて限界ギリギリだった。
大嵐で外にも出れなく、部屋に引きこもりだったからだ。
それは、この場にいる3人全員の総意でもある。

「お嬢が、王子様に冷たくあしらったから、もしかしてバチでも当たったんですかね。
アーハハハ!」


「バカ笑いするな、ギル!
ちっ、違うわよ!
今までの行いの厄払やくばいです」

勢いよく空を指差すと、そこには海の色に負けないほどの青い空が広がり続けていた。
まさしく快晴、海は穏やかなさざ波が心地よく耳に届く。

「ほらっ、二人ともよくご覧なさい。
嵐の去った後の晴れやかな天気、そしてみきった雲ひとつない青空をー」

護衛のギルが長い足でバルコニーに近づき、キャンキャン鳴く子犬を見るような目付きをしてから同じ空を眺める。

「お嬢~、アッチラに雲がうっすらありますぜ」

「アンタは、男のくせに!
細かいことはどうでもいいのよ」

「………、お静かになさって下さいませ。
公爵家のご令嬢が、そんな大声を出してはいけません。
はしたのう御座いますよ」

やれやれ2人が、またやりあっている。

メリーは注意しながら、窓際にあるテーブルに近づく。
言い争う二人を、ちょっとたしなめるようににらみつけた。

「さぁ、お茶をご用意しましたから飲みましょう。
ギル師匠も、お嬢様を茶化さないで下さいませ。
3人で仲良くやっていきましょう」

疲労感漂う表情をし、二人を交互に見てはさとす。
この2人の橋渡し的な存在になっている。

大体だいたいはギル師匠がお嬢様を茶化ちゃかして、お嬢様が彼を怒鳴りつける。
漫才まんざいけ引きみたいで、私はかなり面白いのだが…。

もし知らない赤の他人に見られたら、どう思われるだろうか。
側に仕えるものとして、恥ずかしくてどうも気になる。
旅をしていてため息がとどまることがない。

そんな気遣いを無視する主人。

「ええ、分かったわ。
それよりも、いま私。
良いことが浮かんだの。
今日の昼は、外に出て食事しない?
明日はここを離れるから、急に港町で海のさちを食べたくなっちゃった」

食べ物と聞き、瞬時しゅんじに反応するギル。

「おーっ!
お嬢、それはいいですなぁ。
アルゴラの海の幸ですかい。
ヘイズも島国で海の幸はうまいが、国それぞれ味付けも違うからな。
それじゃあ、もうお昼だ。
さっそく、外へくり出しましょう」

彼女は一人、紅茶を飲み思う。
この2人は、結局は食いしん坊なのだと。
それに此処には誰も彼女をとがめる者はおらず、まさに我が世の春。

いや、今は夏か…。

不安にならざるを得ない、心配性の彼女であった。


 宿を出て3人は、港近くの町を散歩していた。
豪華なドレス姿ではなく、町娘の様なシンプルなよそおい。

プラチナブロンドの輝く髪をなびかせ、瞳は見たことない珍しい紫の瞳。

美少女とかもし出す気品で、通りすがりの者はただ者ではないと見ていた。

本人だけが気にせず、呑気のんきに少し調子がはずれた鼻歌を歌いながら歩く。

「なぁなぁ、メリー。
すんげぇな、家のお嬢は!
あんな格好かっこうでも、町の人たちはお嬢に釘付くぎづけだぜー」

ギルは主人が王女様みたいな風格ふうかくで歩く姿を、後ろから付いて行くと驚いているようだ。

「ギル師匠、そりゃそうです。
私が仕えるお嬢様ですもの!
この先、どんな美女になるか。
ウフフ、楽しみですわ~」

親バカならぬ主人バカのメリーが、ウットリとし後ろから見守りついて歩く。

そんな事を話しては、海の眺めて長閑のどか散策さんさくをしていたが…。

 
  突如、プリムローズの耳に何かかすかなうめごえが聞こえてきた。

パタッと足を止めた主人プリムローズに、後ろを歩き付いてきた2人は不思議そうな顔をする。

「ねぇねぇ、ちょっと!
なにか変な声が聞こえない?
ウーゥとか、唸声うなりごえみたいな変な声が……?」

後ろを振り向き様に、2人に質問するのであった。

「はぁ~?!
呻き声がー、ですかい?!
そんなのは、聞こえ…」

ギルは静かに耳を集中すると、確かにかすかに声らしきものが聞こえてきた。

「おっと、聞こえましたぜい!
あっちの方角だー!!」

「やはり、そうよね!
ギルも、聞こえたんだ。
あぁー、良かったわ。
もう幻聴げんちょうが聞こえる年なのかと、内心ちょくらビビった」


 この2人は自分たちから事件に、首を突っ込むのではと嫌な予感がした。

「まさかですが…、お嬢様?!
そちらに、もしや行くんではないでしょうね。
危険でございますよ。
おやめください!!
絶対にダメですからね!」

メリーは、その声を無視するように主人に進言した。

「【旅の恥はて】だ!
気にすんな、この俺がお嬢の側に控えている。
泥舟に乗れー!」

本気で馬鹿な事を言っているのか。
それともワザと言って、和ませているのか分からない。

「私は余計に心配なんですよ」

言い争う二人を尻目にそちらへ向かうプリムローズは、反論する彼女に意味を伝えて説得を開始した。

「旅先には知人もいないし、明日にはこのアルゴラにいない。
恥ずかしい言動も、こうして平気で出来るのです」

「おう、そうこなくちゃな。
ご理解ある、ご主人だ!
きゃっほー、俺はお嬢と行くぜ!」

大の大人の男が、子供みたいに雄叫おたけびをあげていた。

大嵐で宿にとどまっていて、かなり鬱憤うっぷんがたまっていたのだろう。

制御不能せいぎょふのうな二人。

押し止めるのは私以外誰もいないし、それは無理というもの。
1人使命感に燃えるメリーだけが首を振り、最大限の努力と抵抗ていこうをしようと気持ちを新たにする。

まだ始まったばかりのヘイズへの旅は、もう早くも気持ちがバラバラ。
本能の赴くままに、好き勝手な状態。

どんな道中が待ち構えているかは、お天道様とカモメだけが空の上から騒ぐ3人を見守っている様に見えた。



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