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第1章 閉ざされし箱
第3話 他力本願
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順調に目的地を目指していた馬車が、急に止まり動かなくなった。
プリムローズ以外の女性たちは、何事だと怪訝そうな顔をする。
そこへいきなり前触れなく、彼女らの馬車の扉が開けられた。
開けられた扉の外には、北の将軍チューダー侯爵が現れてプリムローズに目でお願いしますの合図を送ってくる。
二人しか知らない、例のあれをするためにー。
「ちょっと、お二人はここでお待ち下さいね。
チューダー将軍、手をお貸し下さい」
彼の手を借りて馬車から降りて、二人は森の入口に歩きだす。
「チューダー将軍で良かったですわ。
余り色んな方には、お見せしたくないのです」
「そう思って、私だけが参りました。
あのときは道が開けましたが、今回も出来ますかな?」
「わかりませんわ!
駄目なら、山道を行けばいいのではありませんか。
きっと、いい訓練になりますでしょう?!」
彼は驚きエッという表情で、令嬢が任せろって言ってた筈だと思い返していた。
「何事も気合いが大事です。
出来ると信じれば、できるもんです!」
『貴女の名言は、どこから湧き出るのか』
その根拠はなんなのと疑いの目で見ていた。
森への入口の横にそびえる山に向かい手を挙げて、呪文を唱える彼女の後ろ姿をただ見ていた。
銀に近い髪がどことなしに輝いて見えると、風が吹き目に土埃りが入って瞑った。
我慢して涙目で無理に開けると、前には例の道が現れていた。
神が私にワザと見せなかったのか、チューダー侯爵は本気でそう思っていた。
「ほーう、やったわー!
全軍を案内して、日が傾くまで進めるだけ走りましょう」
「はい、クラレンス公爵令嬢。助かりましたよ。
あの森では迷ったら、出るのには一苦労しますからな」
二人は安堵した表情を互いにして、皆が待機している場所へ引き返していく。
伯爵夫人ヘレンは、プリムローズに仕えているメリーとお喋りして待っていた。
「マーシャル伯爵夫人。
失礼と承知でお聞きします。
御付きの方をつけずに独りで行かれるのには、何か理由がございますか?」
伯爵夫人とあろう方が単身で王都へ向かうとは、メイドでもおかしいと気付くものである。
「令嬢から何もお聞きしていないの?!
ふーん、そうなの。
彼女は、小さいけど大人みたいね。
貴女は、彼女に仕えて何年になるの?」
突然に話とは関係ない質問され、ついつい声が詰まり慌てて返事をした。
「はっ?!えーっと?
お嬢様とは出会ってから、ずっと一緒でございます。
約8年になります」
メリーの返事に、まぁーっと目を丸くした。
「まるで乳母並ね。
それなのに、話さなかったのね。貴女の主人は、ご立派な人物よ。
彼女が、ここへ戻られたら返事するわ」
ヘレンは話すと静かになり窓の外を見る様子から、この方はもしかしたら私たちに聞いて欲しい質問だったのではないかと推測した。
扉を開けて二人のやり取りを知らないプリムローズは、中に入るなり疲れたわの小言を連発する。
「お疲れさまでした。
何をされてましたのかしら?」
「ふふっ、道を作りましたのよ。
伯爵夫人は山道を通りたくなかったんでしょう。
二人は楽しい話でもして、待っていてくれたのかしら?」
逆質問され不意打ちにあった気分になり、伯爵夫人は意地悪ねっていう顔をする。
また、馬車がゆっくりと速度を早めて走り出す。
「ご令嬢のメイドさんから、私が一人きりで王都へ行くのを変がられましたわ」
「まぁ、メリーったらマーシャル伯爵夫人にそんな失礼な事を仰ったの!
お許し下さいませね。
好奇心なだけで、大意はございませんのよ」
当たり障りないような無難な返しに、ヘレンはこういうやり取りに手馴れていると感心した。
学生時代の令嬢たちの会話にそっくり。
あっ、彼女は現役ですもの。
含み笑いをするエレナに、二人は彼女の微笑みの意図を探る。
「ご令嬢に伝えてますが、姉が修学院にいるのは夫には内緒にします。
実家の両親や兄が、絶対に知らしてはならぬと固く口止めされてますので…」
この内容で、メリーは理解する。
貴族の令嬢が婚姻できずに修道院とは、道を外した出来損ないと家族に烙印を押されたのだ。
自分だってメイドという仕事がなかったら、世間からそう思われてしまうのかと胸が痛む思いがした。
「姉を修道院から出して、私と暮らしていただけないか頼むつもりでおります。
もし承知したらマルクス、旦那様にお願いするつもりです」
プリムローズは、夫人と二人きりで話した時を振り返っていた。
姉上は誰にも言わずに、勝手に修道院に入れられたのよね。
ベルナドッテ公爵夫人が亡くなって、自分にはやることがなくなったら王宮から去ったと言われていた。
「はたして姉上は、喜ぶのでしょうか?
心静かに修道院で、お暮らしなのではないでしょうか?」
「それが不安です。
クラレンス公爵令嬢、ご一緒に姉に会ってはくれませんか。
女の子と一緒なら、姉妹二人きりで気まずい空気も和らぐと思いますし…。
駄目かしら?」
メリーはまた主人のプリムローズが厄介事に足をツッコミそうになるのを、止めたくとも出来ないでいるもどかしさと戦っていた。
「それって、【他力本願】ではなくて?
私の協力や援助って、言うより助言をあてにしてますよね!」
ズバリとヘレンの胸に突き刺さる言葉であったが、開き直る夫人は笑みを浮かべた。
「だって、あなたが背中を押してくださったんですもの。
最後まで見守って下さいな。
お願い、良いでしょう?」
(あなたは、根性あるよ!)
流石に、苛めを堂々と出来るだけあり精神が太いわ。
大木並み。
私は、まだまだ小枝だったわ。
口に出して他人に聞かれたら、突っ込まれて論破されるだろう。
お前もなと、精神ではなく神経だろうと。
「しょうがないわね。
私は夫人の話しか聞いていないわ。
姉上の話を聞いてみて、アチラに肩入れするかもしれない。
それでも良いなら、行ってあげるわ。どうします?」
『いつもの手口がやはり出たわ。
お嬢様、お得意の戦法。
あの時、ああ仰いましたよね。これで最終的に逃げ道を確保するのです。
ずるくて、卑怯なんでしょう』
メイドメリーは、無言で貴族女性の言葉での戦いを聞いていた。
自分にはこんな恐ろしい世界は、無理だと改めて実感する。
「無論です。ですが、修道院では婚姻相手を見つけられません。
私は姉に家庭を持ち、子を…。
子を授かって頂きたいのです」
二人は夫人の話をしんみりと聞くと、女性にはそれが一番の幸せの道なんだと再認識した。
この時代には、まだこれしか選択肢がない。
いつになったら、男女平等の世は訪れるのか。
一生訪れないのかもと、プリムローズもメリーも同時に考えていた。
夕暮れの日が傾き、薄暗い中で馬車は止まった。
ここで夜営をするようだと、三人は互いに目を合わせ納得する。
プリムローズ以外の女性たちは、何事だと怪訝そうな顔をする。
そこへいきなり前触れなく、彼女らの馬車の扉が開けられた。
開けられた扉の外には、北の将軍チューダー侯爵が現れてプリムローズに目でお願いしますの合図を送ってくる。
二人しか知らない、例のあれをするためにー。
「ちょっと、お二人はここでお待ち下さいね。
チューダー将軍、手をお貸し下さい」
彼の手を借りて馬車から降りて、二人は森の入口に歩きだす。
「チューダー将軍で良かったですわ。
余り色んな方には、お見せしたくないのです」
「そう思って、私だけが参りました。
あのときは道が開けましたが、今回も出来ますかな?」
「わかりませんわ!
駄目なら、山道を行けばいいのではありませんか。
きっと、いい訓練になりますでしょう?!」
彼は驚きエッという表情で、令嬢が任せろって言ってた筈だと思い返していた。
「何事も気合いが大事です。
出来ると信じれば、できるもんです!」
『貴女の名言は、どこから湧き出るのか』
その根拠はなんなのと疑いの目で見ていた。
森への入口の横にそびえる山に向かい手を挙げて、呪文を唱える彼女の後ろ姿をただ見ていた。
銀に近い髪がどことなしに輝いて見えると、風が吹き目に土埃りが入って瞑った。
我慢して涙目で無理に開けると、前には例の道が現れていた。
神が私にワザと見せなかったのか、チューダー侯爵は本気でそう思っていた。
「ほーう、やったわー!
全軍を案内して、日が傾くまで進めるだけ走りましょう」
「はい、クラレンス公爵令嬢。助かりましたよ。
あの森では迷ったら、出るのには一苦労しますからな」
二人は安堵した表情を互いにして、皆が待機している場所へ引き返していく。
伯爵夫人ヘレンは、プリムローズに仕えているメリーとお喋りして待っていた。
「マーシャル伯爵夫人。
失礼と承知でお聞きします。
御付きの方をつけずに独りで行かれるのには、何か理由がございますか?」
伯爵夫人とあろう方が単身で王都へ向かうとは、メイドでもおかしいと気付くものである。
「令嬢から何もお聞きしていないの?!
ふーん、そうなの。
彼女は、小さいけど大人みたいね。
貴女は、彼女に仕えて何年になるの?」
突然に話とは関係ない質問され、ついつい声が詰まり慌てて返事をした。
「はっ?!えーっと?
お嬢様とは出会ってから、ずっと一緒でございます。
約8年になります」
メリーの返事に、まぁーっと目を丸くした。
「まるで乳母並ね。
それなのに、話さなかったのね。貴女の主人は、ご立派な人物よ。
彼女が、ここへ戻られたら返事するわ」
ヘレンは話すと静かになり窓の外を見る様子から、この方はもしかしたら私たちに聞いて欲しい質問だったのではないかと推測した。
扉を開けて二人のやり取りを知らないプリムローズは、中に入るなり疲れたわの小言を連発する。
「お疲れさまでした。
何をされてましたのかしら?」
「ふふっ、道を作りましたのよ。
伯爵夫人は山道を通りたくなかったんでしょう。
二人は楽しい話でもして、待っていてくれたのかしら?」
逆質問され不意打ちにあった気分になり、伯爵夫人は意地悪ねっていう顔をする。
また、馬車がゆっくりと速度を早めて走り出す。
「ご令嬢のメイドさんから、私が一人きりで王都へ行くのを変がられましたわ」
「まぁ、メリーったらマーシャル伯爵夫人にそんな失礼な事を仰ったの!
お許し下さいませね。
好奇心なだけで、大意はございませんのよ」
当たり障りないような無難な返しに、ヘレンはこういうやり取りに手馴れていると感心した。
学生時代の令嬢たちの会話にそっくり。
あっ、彼女は現役ですもの。
含み笑いをするエレナに、二人は彼女の微笑みの意図を探る。
「ご令嬢に伝えてますが、姉が修学院にいるのは夫には内緒にします。
実家の両親や兄が、絶対に知らしてはならぬと固く口止めされてますので…」
この内容で、メリーは理解する。
貴族の令嬢が婚姻できずに修道院とは、道を外した出来損ないと家族に烙印を押されたのだ。
自分だってメイドという仕事がなかったら、世間からそう思われてしまうのかと胸が痛む思いがした。
「姉を修道院から出して、私と暮らしていただけないか頼むつもりでおります。
もし承知したらマルクス、旦那様にお願いするつもりです」
プリムローズは、夫人と二人きりで話した時を振り返っていた。
姉上は誰にも言わずに、勝手に修道院に入れられたのよね。
ベルナドッテ公爵夫人が亡くなって、自分にはやることがなくなったら王宮から去ったと言われていた。
「はたして姉上は、喜ぶのでしょうか?
心静かに修道院で、お暮らしなのではないでしょうか?」
「それが不安です。
クラレンス公爵令嬢、ご一緒に姉に会ってはくれませんか。
女の子と一緒なら、姉妹二人きりで気まずい空気も和らぐと思いますし…。
駄目かしら?」
メリーはまた主人のプリムローズが厄介事に足をツッコミそうになるのを、止めたくとも出来ないでいるもどかしさと戦っていた。
「それって、【他力本願】ではなくて?
私の協力や援助って、言うより助言をあてにしてますよね!」
ズバリとヘレンの胸に突き刺さる言葉であったが、開き直る夫人は笑みを浮かべた。
「だって、あなたが背中を押してくださったんですもの。
最後まで見守って下さいな。
お願い、良いでしょう?」
(あなたは、根性あるよ!)
流石に、苛めを堂々と出来るだけあり精神が太いわ。
大木並み。
私は、まだまだ小枝だったわ。
口に出して他人に聞かれたら、突っ込まれて論破されるだろう。
お前もなと、精神ではなく神経だろうと。
「しょうがないわね。
私は夫人の話しか聞いていないわ。
姉上の話を聞いてみて、アチラに肩入れするかもしれない。
それでも良いなら、行ってあげるわ。どうします?」
『いつもの手口がやはり出たわ。
お嬢様、お得意の戦法。
あの時、ああ仰いましたよね。これで最終的に逃げ道を確保するのです。
ずるくて、卑怯なんでしょう』
メイドメリーは、無言で貴族女性の言葉での戦いを聞いていた。
自分にはこんな恐ろしい世界は、無理だと改めて実感する。
「無論です。ですが、修道院では婚姻相手を見つけられません。
私は姉に家庭を持ち、子を…。
子を授かって頂きたいのです」
二人は夫人の話をしんみりと聞くと、女性にはそれが一番の幸せの道なんだと再認識した。
この時代には、まだこれしか選択肢がない。
いつになったら、男女平等の世は訪れるのか。
一生訪れないのかもと、プリムローズもメリーも同時に考えていた。
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