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第1章 閉ざされし箱
第5話 刀折れ矢尽きる
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地面に厚みがある敷物を引いただけの上に、プリムローズたちは横になって眠りについていた。
親切心なのか。
肩をくちばしで、痛くないぐらいに突っつき起こしてくれている。
痛いが、ありがたいことである。
眠い目を擦り半目を無理に開けると、そこにはピーちゃんがいた。
育ち盛りの子供には、まだ辛い早すぎる朝。
周りを見渡すとぐっすりと寝ているので、静かにそっと起きて目印の置かれている木の下へ支度して急ぎ向かう。
視界を遮る朝靄の中を歩き続けると、ひとつだけある大木の下でだんだん人影が見えてきた。
「おはようございます。
朝早くに、お勤めご苦労様です」
「いやっ、子供は本来は寝るのが仕事。
朝からきちんと起きられて感心しました」
互いに褒め合う二人を無視し、あくび連発のギルが「行きましょうぜ」と音頭をとった。
ゆっくりと上空を飛ぶピーちゃんは、靄で見失わない様に、注視し静かに馬に乗り三人は泉の入口に着く。
「此処ですか?!
洞穴の中に、泉があるんですね。薄暗くて見えにくいな!」
「ピー、ピーぃ!」
「タルモ殿、そこで止まって下さいな!
段差がありますからね」
ピーちゃんとプリムローズが注意をしたが、今一歩遅かった。
彼は足を段差に突っかかり、かろうじて転倒を免れて片ひざを突いていた。
「あら、大丈夫ですか?
入る前に教えないとダメじゃん」
なら、お前が先に言えよと一羽と一人は話している人物を睨む。
「ハハ…、転けてしまいました。
これは、想像してたよりも、大きな泉ですな。
早速、汲みましょう」
三人は柄杓を取り出して、掬っては入れを何度も繰り返す。
やっと、2つの樽の中に水を満タンに入れた。
「お嬢、ずいぶん大量ですな。
エリアスだけの分には思えないな」
コイツはこういう勘だけは鋭いと、どう言い訳するか考えている。
「わ、私の分よ!
まだ子供なのに、こんな緊張感を味わって体力と精神も消耗しているのよ。
屋敷に帰ってから、これで優雅にお茶を楽しむつもりです」
「そっか、だよな。
大変だったもん、お嬢は!」
単純な頭の作りで、助かった~!
「少し喉が渇きました。
どんなお味か、飲んでみますよ」
タルモは柄杓で水を掬い上げ、一口飲むと目を見開き二人に感想を伝えた。
「これには驚きました!
こんなに美味しくて、目が一気に覚めましたよ。
体もスッキリして、意欲が湧いてくる感じです」
感想を述べたら、また水を飲みだす。
ギルもプリムローズもタルモの後に続き、泉の水を飲みだした。
「本当にこの水を飲むと、元気になりますわ。
さぁ、もうひと頑張りして樽を運びますわよ!」
男性陣が樽を二人で持ち上げて馬車に搬入している間、プリムローズはピーちゃんと常勝王が無念の中で自分の黄金の剣を刺した場所を見つめていた。
「ピーちゃん、私はやはりこの剣はココで誰の目にも触れないでひっそりとあるべきだと思うの。
熊ちゃんには悪いけど、剣をお返しするわ」
「ピ~!」
彼女の横で両羽を広げて一声鳴く姿に、笑顔を見せて気合入れて剣を元の位置に刺す。
「やーあー!!」
どんな気持ちで、王様はこの剣を刺したんだろうな。
戦いに破れ、病気になり。
初めての苦汁を味わう。
戦争は、ただ虚しいだけなのにー。
男性のこの気持ちは、私には分かりませんよ。
「【刀折れ矢尽きる】。
常勝王の文に書かれていたのよ。
戦いに敗れた事を記した。
最後の文にね。
どんな方だったのかなぁ?
私に似ていたのかしら?」
プリムローズは黄金の剣をもう一度振り返って見ると、鎧を着た長い銀髪の男性が浮かびあがる。
ほんの一瞬だが、ぼやけた顔は口元が笑っているように感じた。
「彼が常勝王だったのか。
弓も折れてしまい矢もなくなったことで、完敗してしまう。
そして、手立てが尽きてしまった。
どうしようもない。
陸が続いていたなら勝てたの?
海に囲まれた島のせいで負けたのかしら…」
馬鹿ね。
そんな事は、戦った人たちにしか知り得ないこと。
お返して良かった。
剣にはあのときの王が、今も魂が宿っている。
「お嬢~~!
馬車に樽を積んだぜー!」
ギルの呼び声に大きく手を振り、彼らに向かい歩く。
朝靄がすっかり晴れて陽の光が昇る頃、誰にも知られずに樽はタルモ直属補給部隊に隠すことに成功した。
親切心なのか。
肩をくちばしで、痛くないぐらいに突っつき起こしてくれている。
痛いが、ありがたいことである。
眠い目を擦り半目を無理に開けると、そこにはピーちゃんがいた。
育ち盛りの子供には、まだ辛い早すぎる朝。
周りを見渡すとぐっすりと寝ているので、静かにそっと起きて目印の置かれている木の下へ支度して急ぎ向かう。
視界を遮る朝靄の中を歩き続けると、ひとつだけある大木の下でだんだん人影が見えてきた。
「おはようございます。
朝早くに、お勤めご苦労様です」
「いやっ、子供は本来は寝るのが仕事。
朝からきちんと起きられて感心しました」
互いに褒め合う二人を無視し、あくび連発のギルが「行きましょうぜ」と音頭をとった。
ゆっくりと上空を飛ぶピーちゃんは、靄で見失わない様に、注視し静かに馬に乗り三人は泉の入口に着く。
「此処ですか?!
洞穴の中に、泉があるんですね。薄暗くて見えにくいな!」
「ピー、ピーぃ!」
「タルモ殿、そこで止まって下さいな!
段差がありますからね」
ピーちゃんとプリムローズが注意をしたが、今一歩遅かった。
彼は足を段差に突っかかり、かろうじて転倒を免れて片ひざを突いていた。
「あら、大丈夫ですか?
入る前に教えないとダメじゃん」
なら、お前が先に言えよと一羽と一人は話している人物を睨む。
「ハハ…、転けてしまいました。
これは、想像してたよりも、大きな泉ですな。
早速、汲みましょう」
三人は柄杓を取り出して、掬っては入れを何度も繰り返す。
やっと、2つの樽の中に水を満タンに入れた。
「お嬢、ずいぶん大量ですな。
エリアスだけの分には思えないな」
コイツはこういう勘だけは鋭いと、どう言い訳するか考えている。
「わ、私の分よ!
まだ子供なのに、こんな緊張感を味わって体力と精神も消耗しているのよ。
屋敷に帰ってから、これで優雅にお茶を楽しむつもりです」
「そっか、だよな。
大変だったもん、お嬢は!」
単純な頭の作りで、助かった~!
「少し喉が渇きました。
どんなお味か、飲んでみますよ」
タルモは柄杓で水を掬い上げ、一口飲むと目を見開き二人に感想を伝えた。
「これには驚きました!
こんなに美味しくて、目が一気に覚めましたよ。
体もスッキリして、意欲が湧いてくる感じです」
感想を述べたら、また水を飲みだす。
ギルもプリムローズもタルモの後に続き、泉の水を飲みだした。
「本当にこの水を飲むと、元気になりますわ。
さぁ、もうひと頑張りして樽を運びますわよ!」
男性陣が樽を二人で持ち上げて馬車に搬入している間、プリムローズはピーちゃんと常勝王が無念の中で自分の黄金の剣を刺した場所を見つめていた。
「ピーちゃん、私はやはりこの剣はココで誰の目にも触れないでひっそりとあるべきだと思うの。
熊ちゃんには悪いけど、剣をお返しするわ」
「ピ~!」
彼女の横で両羽を広げて一声鳴く姿に、笑顔を見せて気合入れて剣を元の位置に刺す。
「やーあー!!」
どんな気持ちで、王様はこの剣を刺したんだろうな。
戦いに破れ、病気になり。
初めての苦汁を味わう。
戦争は、ただ虚しいだけなのにー。
男性のこの気持ちは、私には分かりませんよ。
「【刀折れ矢尽きる】。
常勝王の文に書かれていたのよ。
戦いに敗れた事を記した。
最後の文にね。
どんな方だったのかなぁ?
私に似ていたのかしら?」
プリムローズは黄金の剣をもう一度振り返って見ると、鎧を着た長い銀髪の男性が浮かびあがる。
ほんの一瞬だが、ぼやけた顔は口元が笑っているように感じた。
「彼が常勝王だったのか。
弓も折れてしまい矢もなくなったことで、完敗してしまう。
そして、手立てが尽きてしまった。
どうしようもない。
陸が続いていたなら勝てたの?
海に囲まれた島のせいで負けたのかしら…」
馬鹿ね。
そんな事は、戦った人たちにしか知り得ないこと。
お返して良かった。
剣にはあのときの王が、今も魂が宿っている。
「お嬢~~!
馬車に樽を積んだぜー!」
ギルの呼び声に大きく手を振り、彼らに向かい歩く。
朝靄がすっかり晴れて陽の光が昇る頃、誰にも知られずに樽はタルモ直属補給部隊に隠すことに成功した。
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