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第1章 閉ざされし箱
第13話 一期一会
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悩んだ末に彼女は、本人に直接尋ねることにした。
初めて行く知らない道は、近道しようとしたり変に曲がりくねったりしたら…。
最後は、目的地まで迷ってたどり着けない場合が多い。
彼女が、ただの方向音痴だけなのだが…。
聞きたいことも聞けずに終わっては、本末転倒。
この人とはこうして二人きりで、会う機会はもう訪れない可能性が高い。
『【一期一会】の言葉が、頭に浮かんだ。
生涯で、一度限りの出会い。
すべての出会いにおいて、その時しかない出会いを大事にするという意味よね』
「その通りです。
何度も会う人でも、その時の出会いは1度きりなのですよ」
ベルナドッテ公爵が真顔で、プリムローズの心の声に問いかけ、呼び掛けてくれた。
『し、しまった。
また、思ったことを言っている』
優しげな眼差しを向けて、プリムローズの独り言につきあってくれた。
「大変、失礼申し上げました。
初めてお会いする方、ましてや公爵様に対して失礼しました。
どうか、お許しください」
この方は敵かもしれない人物。
座っていたのを素早く立ち上がり、その場で謝罪する。
「謝罪には及びませんよ。
どうぞお座りなさい。
一期一会、よい言葉です。
人とのちょっとした出会い。
偶然にその方をお見かけしても、心を惑わす事もある。
出会いとは、不思議なものですな」
彼の話している表情は、まるで過去を思い出させている。
そんな遠い目をされていた。
『公爵は、亡き夫人を思い出しているんだわ。
どうしてか、そう感じた。
ここで聞かないと、今日の目的はかなわない』
決心するかの様に、自然に口が開いて言葉がでた。
「ベルナドッテ公爵様。
我が屋敷に、マーシャル伯爵夫人が夫を伴わずに単身で王都に参っております。
それは、貴方様の亡き奥方様にも関係がございます」
唐突に妻の話になり驚きはしたが、マーシャル伯爵夫人の名に何やら思う顔つきになっていく。
現在から過去へ、時空がこの周辺だけ変わる。
感覚的に二人は、同時に肌と心が感じ始めていた。
「妻との関係ですか?
もう、この世に居ない者がどう関係あるのだ?!」
静かな声だったが、死者の眠りを妨げるなと言われている気がした。
しかし、それでは話が一向に進まない。
「マーシャル伯爵夫人と彼女の姉君は、学生時代に奥方様とは懇意にされていました。
伯爵夫人は……。
じつは奥方様に命じられて、ある女生徒を苛めてましたのをご存知でしたか?!」
苛めと言われてベルナドッテは、驚きとともに直ぐに目を大きくした。
『やはり、公爵は知らなかったのか』
妻が学生時代に、裏で何を行っていたのか。
思い返せば女子と男子は、学園の場所は別々だった。
なるほど、存じ上げないはずだわ。
「エルザベッドが、そんな事をしていたのか。
気位は高く、如何にもやりそうではあるがー」
妻の悪事に戸惑っていても、苛めそうだと認める。
エルザベッドって名前は、悪女っぽくてピッタリだと思った。
「軍事訓練が終了して、私たちはマーシャル伯爵のお屋敷に滞在しました。
この時に知ったのです。
伯爵夫人が、お気の毒に生まれた子を亡くした事をー。
気落ちして病になり、長く臥せっていました」
ベルナドッテは妻と重なったのか、お気の毒にと囁く。
そんな彼をプリムローズは観察して見ていると、悲しみに共感しているように思えた。
「亡くなった妻と親しかった方が、そんなお辛い目になられていたとはな。
互いに大切な人を失う。
お気持ちが痛いほどに分かる」
紅茶を飲み込むと、本題に入る決意をして次から次へ話し出す。
「今回こちらに持参した水を夫人にも飲ませたところ、体調が改善し気力も取り戻したみたいでした。
そのせいか彼女は、苛めた女性に謝りたいと、そう私に申しました」
「それで御一緒に、王都へ参った次第ですか。
この水の効力は凄い。
長らく臥せっていた人が、ここまで動かしたのですからね」
自分の体でさえも、現在は体内に活力を感じている。
息子ヨハンもたぶんぐっすりと寝ていて、今よりも体調が良くなるのではと期待している。
「それだけではございません。
伯爵夫人の姉君は王宮勤めを3年前に辞めて、現在は修道院に身を寄せています」
「3年前…、偶然ですな。
エルザベッドの亡くなった年だ」
偶然ではなくて、必然なのではないか。
そう思って、ベルナドッテ公爵夫人の話を耳にしていた。
目の前で、お茶を飲む公爵の手つきを穴があくほど見る。
彼女は、そんな彼にきっぱりと言い切った。
「伯爵夫人の妹に、姉君から手紙が来たそうですよ。
自分はベルナドッテ公爵夫人を、王妃様に出来なくなってしまった。
ここにいる意味がなくなったので、修道院に入る。
その手紙には、はっきりと書かれていたそうです。
そう伺いました」
目線を私の視線と合わせてくる。
驚きよりも固い強張った顔して、無言で腹のうちを探っているように思えた。
「なぜにエルザベットの為に、そこまで親身になれたのだ。
そなたの作り話ではあるまいな」
「他国でなにも関係ない私が、どうして作り話するんですか!?
伯爵夫人が、私に嘘を伝えたと言うのですか?」
「それは、そうだが…」
プリムローズの迫力に、ついたじろいでしまう公爵。
「彼女は、泣いて告白してましたよ。
身分が上の貴方様の妻には、それは恐ろしくて逆らえなかったとおっしゃってましたわ」
男の人って単純な思考の方が多くて、この類の女の陰湿ないじめって理解できない人が大半をしめているって誰かが話していたな。
長年連れ添っていても、妻の性格を見抜けてなかったようだ。
考えているとだんだんと機嫌が悪くなってくる。
また冷えてしまった苦味あるお茶を飲んだせいか、ますます眉間にシワを増やしていくばかり。
この先の会話で真実は見えてくるのだろうか…。
初めて行く知らない道は、近道しようとしたり変に曲がりくねったりしたら…。
最後は、目的地まで迷ってたどり着けない場合が多い。
彼女が、ただの方向音痴だけなのだが…。
聞きたいことも聞けずに終わっては、本末転倒。
この人とはこうして二人きりで、会う機会はもう訪れない可能性が高い。
『【一期一会】の言葉が、頭に浮かんだ。
生涯で、一度限りの出会い。
すべての出会いにおいて、その時しかない出会いを大事にするという意味よね』
「その通りです。
何度も会う人でも、その時の出会いは1度きりなのですよ」
ベルナドッテ公爵が真顔で、プリムローズの心の声に問いかけ、呼び掛けてくれた。
『し、しまった。
また、思ったことを言っている』
優しげな眼差しを向けて、プリムローズの独り言につきあってくれた。
「大変、失礼申し上げました。
初めてお会いする方、ましてや公爵様に対して失礼しました。
どうか、お許しください」
この方は敵かもしれない人物。
座っていたのを素早く立ち上がり、その場で謝罪する。
「謝罪には及びませんよ。
どうぞお座りなさい。
一期一会、よい言葉です。
人とのちょっとした出会い。
偶然にその方をお見かけしても、心を惑わす事もある。
出会いとは、不思議なものですな」
彼の話している表情は、まるで過去を思い出させている。
そんな遠い目をされていた。
『公爵は、亡き夫人を思い出しているんだわ。
どうしてか、そう感じた。
ここで聞かないと、今日の目的はかなわない』
決心するかの様に、自然に口が開いて言葉がでた。
「ベルナドッテ公爵様。
我が屋敷に、マーシャル伯爵夫人が夫を伴わずに単身で王都に参っております。
それは、貴方様の亡き奥方様にも関係がございます」
唐突に妻の話になり驚きはしたが、マーシャル伯爵夫人の名に何やら思う顔つきになっていく。
現在から過去へ、時空がこの周辺だけ変わる。
感覚的に二人は、同時に肌と心が感じ始めていた。
「妻との関係ですか?
もう、この世に居ない者がどう関係あるのだ?!」
静かな声だったが、死者の眠りを妨げるなと言われている気がした。
しかし、それでは話が一向に進まない。
「マーシャル伯爵夫人と彼女の姉君は、学生時代に奥方様とは懇意にされていました。
伯爵夫人は……。
じつは奥方様に命じられて、ある女生徒を苛めてましたのをご存知でしたか?!」
苛めと言われてベルナドッテは、驚きとともに直ぐに目を大きくした。
『やはり、公爵は知らなかったのか』
妻が学生時代に、裏で何を行っていたのか。
思い返せば女子と男子は、学園の場所は別々だった。
なるほど、存じ上げないはずだわ。
「エルザベッドが、そんな事をしていたのか。
気位は高く、如何にもやりそうではあるがー」
妻の悪事に戸惑っていても、苛めそうだと認める。
エルザベッドって名前は、悪女っぽくてピッタリだと思った。
「軍事訓練が終了して、私たちはマーシャル伯爵のお屋敷に滞在しました。
この時に知ったのです。
伯爵夫人が、お気の毒に生まれた子を亡くした事をー。
気落ちして病になり、長く臥せっていました」
ベルナドッテは妻と重なったのか、お気の毒にと囁く。
そんな彼をプリムローズは観察して見ていると、悲しみに共感しているように思えた。
「亡くなった妻と親しかった方が、そんなお辛い目になられていたとはな。
互いに大切な人を失う。
お気持ちが痛いほどに分かる」
紅茶を飲み込むと、本題に入る決意をして次から次へ話し出す。
「今回こちらに持参した水を夫人にも飲ませたところ、体調が改善し気力も取り戻したみたいでした。
そのせいか彼女は、苛めた女性に謝りたいと、そう私に申しました」
「それで御一緒に、王都へ参った次第ですか。
この水の効力は凄い。
長らく臥せっていた人が、ここまで動かしたのですからね」
自分の体でさえも、現在は体内に活力を感じている。
息子ヨハンもたぶんぐっすりと寝ていて、今よりも体調が良くなるのではと期待している。
「それだけではございません。
伯爵夫人の姉君は王宮勤めを3年前に辞めて、現在は修道院に身を寄せています」
「3年前…、偶然ですな。
エルザベッドの亡くなった年だ」
偶然ではなくて、必然なのではないか。
そう思って、ベルナドッテ公爵夫人の話を耳にしていた。
目の前で、お茶を飲む公爵の手つきを穴があくほど見る。
彼女は、そんな彼にきっぱりと言い切った。
「伯爵夫人の妹に、姉君から手紙が来たそうですよ。
自分はベルナドッテ公爵夫人を、王妃様に出来なくなってしまった。
ここにいる意味がなくなったので、修道院に入る。
その手紙には、はっきりと書かれていたそうです。
そう伺いました」
目線を私の視線と合わせてくる。
驚きよりも固い強張った顔して、無言で腹のうちを探っているように思えた。
「なぜにエルザベットの為に、そこまで親身になれたのだ。
そなたの作り話ではあるまいな」
「他国でなにも関係ない私が、どうして作り話するんですか!?
伯爵夫人が、私に嘘を伝えたと言うのですか?」
「それは、そうだが…」
プリムローズの迫力に、ついたじろいでしまう公爵。
「彼女は、泣いて告白してましたよ。
身分が上の貴方様の妻には、それは恐ろしくて逆らえなかったとおっしゃってましたわ」
男の人って単純な思考の方が多くて、この類の女の陰湿ないじめって理解できない人が大半をしめているって誰かが話していたな。
長年連れ添っていても、妻の性格を見抜けてなかったようだ。
考えているとだんだんと機嫌が悪くなってくる。
また冷えてしまった苦味あるお茶を飲んだせいか、ますます眉間にシワを増やしていくばかり。
この先の会話で真実は見えてくるのだろうか…。
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