無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第1章 閉ざされし箱

第22話 為せば成る為さねば成らぬ何事も

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 祖父グレゴリーが、ヘイズで拠点としていた屋敷を譲ることにした。
新しい持ち主になる方は、
ウィル親方こと、プリムローズの最初の家庭教師。
厳しくも優しい、私の恩師。
その名は、ウィリアム・ゲラン元伯爵。

彼の息子ギャスパルが連れ帰った夫婦を、私からウィル親方へ紹介した。
名誉を挽回して、侯爵の地位を賜った。
そんな彼を、ウィル親方など気安く呼んではいけない。
身内だけの時は、こう呼んで欲しいと頼まれてしまった。
 
家庭教師として教えてもらった日々は、主従関係の祖父とまた違った絆が結ばれている。

「本当にわが息子は私が近くに居ながら、普通とは違った考えの男に育ってしまった。
他国で暮らすに自立を促したも、放置していたのが間違いだったのようだ」

どうやら困った人を助けるのはいいが、私たちの許可なく決めたのをとがめているようだ。

『ウィルの親方は、相変わらず頭が固いわね』

プリムローズは親子の間を、どう折り合わせればよいかと悩む。
言われている本人は、どこ吹く風のごとく平然としている。 
肝が座っているのか、鈍いというか。
はたまた、神経が太いのか。 
これは、どれに当てはまるだろう。


 新しく雇用主の身内となるギルに、夫婦は今までの接し方を思い返すと顔色をすぐ変えていた。
夫ティモをギルが仲間たちに紹介し、私は妻キルシをマーシャル伯爵夫人エレナに紹介することになる。

夫人のいる部屋にノックしてから入室すると、何やら手紙を認めていた。

「ご機嫌はいかがですか?
マーシャル伯爵夫人」

「まぁまぁよ。
久しぶりの長旅でしたから、部屋でゆっくりしているわ」

プリムローズの後ろに控えめに立っている女性を誰だろうと、不思議そうにしながらも微笑み返す。

「伯爵夫人が、休めているようで良かったですわ。
こちらは西ランシから、訳ありで王都に来られたキルシさんです。
この方に王都に滞在中、伯爵夫人を世話させるつもりでいます。
身分は平民ですが、お人形さんよりは役に立つでしょう」

いきなり自分のメイドになると言われて、驚きで目をパチパチさせてからキルシを改めて観察した。
それから、どうしてこうなったかプリムローズから説明を聞く。

自分の世話係にされる不安より、話の内容の愉快さが勝ったみたいで。
伯爵夫人から平民の彼女に、偏見もないようで自己紹介してくれた。

「私は、ヘレン・マーシャルと申します。
貴方をこれから、キシルって呼んでもいいかしら?!
正直言うと、助かりました。
急にヴァロに赴いたから、使用人を誰も連れて来なかったのよ」

くだけた伯爵夫人の話っぷりに、平民のキシルは緊張がほぐれたように感じた。

ハイっと返事してお辞儀するのを見て、伯爵夫人はまた話をする。

「伯爵夫人、姉上様にお手紙をお書きしておりましたの?」

机にある書きかけの手紙を見て質問すると、違う返事が返ってきた。

「姉のいる修道院からは、面会の許可を頂いております。
このお手紙は、パーレン伯爵夫人宛ですわ」

腰が重い人ではない。
きっかけがあれば、素早く動ける方でしたのね。

「失礼な言い方ですが、為せば成る為さねば成らぬ何事も。
これがまさに、夫人にはピッタリな言葉です」

ヘレンとキシルの2人揃って、頭の中で何それはどんな意味という顔を見せていた。

「意味はですね。
出来そうもないことでも、その気になってやり通せば出来るということです。
本当は、もっと言葉は長いのですよ」

「変わった言葉ですね。
長いってどのくらいですか?
聞いてみたいです。
ねぇ、キルシもどんなのか知りたくない?」

「はい、マーシャル伯爵夫人」

おっ、なかなか相性がよいみたい。
仲良くなってきたではないか。

一肌脱ひとはだぬぎますか、このプリムローズ様がー』

せばる さねばらぬ 何事もらぬは人の さぬなりけり~】

「ぷっ、あははは!
その言い方、可笑おかしいですわよ」

腕を左右に大きく広げ、まるで歌でも歌うようにする。
プリムローズは自慢げに、回りくどい言葉を長々と述べていた。
その姿がツボったようで、吹き出してゲラゲラと笑う。
とても、貴族の貴婦人とは思えなかった。

「遠い国の偉い方が言われた言葉です。
武士って呼ばれた方で、こちらでは騎士にあたります」

「武士が騎士?
それでは、武術に関係ある言葉なのかしら?」

「やればできる、やらなければできない何事も。
できないのは、その人がやろうとしないからだ。
やりたいなら、やりましょうと気合いを入れる言葉です」

偉そうに小さな子が言う姿は、可愛らしく見える。
大人の女性たちは、可笑しくて今度はコロコロ笑いだす。

「マーシャル伯爵夫人。
何やら分かりづらいですが、意味は素晴らしいと思います」

「笑いすぎて苦しかったぁ。
キシル、奥様でいいわ。
こちらも、長ったらしくて言うのも聞くのも面倒です」

もう、私がいなくても平気そう。
プリムローズが部屋から出て行こうとすると、夫人が慌てて声をかけた。
彼女の教えてくれた言葉に、夫人は気合いがはいったよう。
明日、姉のいる修道院へ訪問しても良いかとプリムローズに尋ねてくる。
ベルナドッテ公爵を訪問した次の日になるが、日がかない。
会話した記憶が薄れる前に、両者の話を比べられるのはいいと思う。

「明日ですか。
ええ、構いませんわ。
姉上様には、明日訪ねるのは連絡してますか?」

マーシャル伯爵夫人は少しだけ顔をしかめると、首を振り知らないと答えた。

「直接あちらへ行かないと、姉は私には会ってくれません。
明日、必ず決着をつけます。
姉は逃げて、現実逃避げんじつとうひしてますもの。
プリムローズ様の言葉ではないですが、為せばなるですわ」

プリムローズに会うまでは、ウジウジしていたのを都合よく忘れている。

『貴女もしていましたわよ。
屋敷で引きもりっていたでしょう』

言いかけそうなり、伯爵夫人にそうですかって答えるのが精一杯せいいっぱいであった。

    訪問する日になり、プリムローズたちは伯爵夫人の姉上がいる修道院へ向かう。
夫人は、最低限の人数で訪れたいと彼女に頼んできた。
自分の姉上が、世捨て人の様に修道院で暮らしているのを気に病んでいるのだろう。

伯爵夫人の気持ちは理解できる。
プリムローズの姉リリアンヌも、一歩間違っていたらお世話になる場所だった。

『そろそろ婚姻するつもりなのかしら?』

お相手のポール殿が、父から次期子爵の教えをっている。
律儀りちぎにも目処めどがつくまで、婚姻は出来ないと話しているとかー。

ああなんて、素晴らしい人格の持ち主だ。
出来損ないの姉には、勿体ないほどのお相手である。

互いに、姉には苦労している者同士。
プリムローズの前に座っている人は、窓に顔を向けていた。
固い表情の中に、久方に会う姉への緊張が見てとれた。

付き添いで従事するメリーと、王都の中心から少し外れた修道院へ到着する。
厳格に管理されている修道院は、高い塀に囲まれて俗世ぞくせとはかけ離れていた。

私たちは欲にまみれた所から来た気がして、浄化された気分で心がスッと洗われていく。
門をくぐった馬車は、異世界にでも吸い込まれたようだ。

とうとう、逝去しているベルナドッテ公爵夫人エリザベット。
この人物が他人を介して、死後の世界の闇から現世に現れるのだろうか。
そして、学生時代の彼女を知ることになるのである。


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