無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第1章 閉ざされし箱

第21話 病は気から

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 プリムローズたちの会話を、彼はいつから聞いていたのかは気づかなかった。
涙を袖で拭っている彼は、まるで幼い子供のようだった。
座っていた父ヤン・ベルナドッテは、突然現れた息子の姿に反射的に椅子から立ち上がった。
互いに近寄りがたく、ヨハンは扉の前で立ちすくんでいる。
そんな息子の態度に、父は軽く頷くと躊躇いもなく一歩一歩踏みしめるように歩く。

輝く紫の瞳に映る人は、後ろ姿しか見えないが微笑んでいると信じていた。
なぜなら、ヨハンがなんと表現しようもない微笑みを公爵を挟んで見せてくれる。

ベルナドッテ公爵は次に、優しく力強く息子ヨハンを抱きしめていた。 
見守っていたプリムローズは、部外者は邪魔だと感じ始める。
そっと席を立つと静かに大きく横切り、その場を離れようとヨハンが入ってきたとびらへ歩きだす。

「お待ち下さい!
クラレンス公爵令嬢、ここに居てください。
お茶を用意してます。
ですから、3人でお茶をしませんか?」

ヨハンは涙で潤んだ瞳で、彼女を引きとめた。
彼女は何故か、こういう純粋で弱々しい人が苦手である。

それよりも……。

「よいのですか?
本当に嬉しいわ。
喉がちょうど乾いたなぁと思っていたところなのよ。
ヨハン様は心を見通せる。
神通力とかを、お持ちなのかもしれませんね」

「はぁ?神通力ですか?」

「ハハハ、突拍子な事を言う令嬢だ。
茶でもしながら、お連れが戻って来るのを待ちなさい」

ベルナドッテ公爵も、息子と一緒になり上機嫌で仰った。

『たぶん、二人きりは気まずいんだわ。
気を使ったようで、そうではなかったみたい』

そう思ったら不思議と笑みが浮かんでくる彼女は、彼ら親子に嬉しそうに返事を返す。

「お誘いは嬉しいですわ。
私はお菓子が大好きなの。
ヘイズの公爵家の出されるお菓子が、どんなものなのでしょう。
今から堪能たんのう出来るなんて、もう楽しみしかありませんわ」

心から嬉しがる彼女の様子に満足し、ベルナドッテ親子は目を合わせて笑顔になる。

 
 まもなくしてメイドたちがお茶やお菓子をテーブルに置くと、目を輝かして美しく細工されたケーキを見つめ話し出す。

「全てが美味しそうです。
しかし、あの2人は見物に出かけたものの。
こんなに、時間がっても戻ってこない!
いったいどこで何をしているやら…」

「よいではありませんか。
父上、この場所でお茶するのは母上様と来て以来ですね」

懐かしむように父へ思い出を語ると、悔やむような目つきで息子に提案してきた。

「これからはココで、お前と茶でもしてエリザベットの思い出話でもしようではないか。
ヨハン、顔色が、気のせいか、
いように見えるぞ」

「クラレンス公爵令嬢が持って来てくださった。
不思議な水のお陰です。
あれを飲んで寝ましたら、体が軽くスッキリしました」

ベルナドッテもあの水を飲んでから、気持ちも前向きになった気がする。

「【やまいは気から】と申しますわ。
ヨハン様の心持ちひとつで、軽くもなれば重くもなります。
これをきっかけにして、必ずや快方かいほうへ向かわれされますわよ」

「【病は気から】か…。
クラレンス公爵令嬢から言われますと、そうかと思ってしまいます」

「あらっ?
ベルナドッテ公爵令息は、どういう意味で申してますの?」

わざと困らすようとプリムローズは、彼に対して意地悪な質問をした。
ベルナドッテ公爵にもっと尋ねたかったが、もうこれ以上アレコレ追及するのは良くないと感じた。

「気分を悪くしたようで済まなかった。
クラレンス公爵令嬢に、何かお礼がしたい。
私ができる事で、何か無いだろうか?」

本当にいいのって言って、輝くように目を光らせてニコニコしてハッキリ願いを伝えた。

「その長ったらしい呼び名を、まずはやめて下さいませ。
プリムローズ嬢と呼んでください。
後もう1つは、私たちが探し当てたエリアス様のご友人になって頂けませんか?!」

「エリアス様?!
それは何方どなたですか?」

そうそう、ヨハン様にはまだ話してなかった。

「令嬢から伺った話だと、王弟夫妻の行方知れずのお子様だそうだ。
未来のヘイズ王に、一番近しいお方である」

「はい、そうでございます。
私がヘイズに行く時に、乗っていた船の底で働いていたのをお助けした方です」

話が長くなるのでお茶を飲みつつ、ゆっくりと経緯けいいを詳しく話をするプリムローズ。

「私と経緯は違うが、たがいに不健康な方なのですね。
あなた様が、与えた水を飲んだ者同士。
気が合うかもしれない。
お会いしてみて、ご友人になれたらと思います」

慎重な返答だが、それが正解だわ。
エリアス自身は感じ良い人柄だから、会えば分かり合えるはずだ。

『この親子は、話を聞く限りは間違いなく白でいい!
残るは、マーシャル伯爵の姉君だわ。 
それと…まだいるわ』

理由は、エリザベット様を心底慕っていた。

疑惑だらけのヴェント侯爵夫人のセレーナを、養女にした侍従長の伯爵か。
こちらは、祖先がらみで養女にして仲間にしたのか。

親子にエテルネルの話を聞かせていたら、メリーたちが戻ってきたとの知らせがきた。

「メリー、ギル~!
私へのお土産は、もしかしてこの方たちなの?!
どういう経緯で連れて来たのか。
わかるように教えてね」

だんだん話を聞いているうちに、プリムローズはジワジワ笑いが込み上げる。

『メリーとギルがいい感じで戻ってきたのは、この仲違いした夫婦のお陰なのね。
後であの夫婦を呼び出し、詳細を聞き出さないと…』

「まぁいいわよ!
あなた方には、マーシャル伯爵夫人彼女の身の回りの世話を頼むわ」

「私たちは…、その平民なので。
礼儀がわかりません。
お偉い、お嬢様…」

夫のティモが、プリムローズにオドオドして言い訳をしてくる。

「文句を言ったら、私が伯爵夫人に話すわ。」
あの人が一人で、ノコノコついて来たのがいけないのよ」

こうして、プリムローズを含めた5人はベルナドッテ公爵邸を賑やかに去っていった。

ベルナドッテ公爵親子は、プリムローズのふところの大きさに感心して笑って見送る。

「少し変わった風が、ヘイズに吹くかもしれん。
変革へんかくの時が…。
古い考えがあるこの国に、やっと訪れるだろう」

ベルナドッテはこう言うと、息子の頭に手を置き撫でて小さくなるまで馬車を見送っていた。




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