無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第2章  解けない謎解き

第3話 姉は菅笠、妹は日傘

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 木陰に座る彼女らには、強すぎることのない爽やかな風が肌にあたる。
それなのに左右に座る2人には、涼しさよりも不快に感じるほど額に汗が浮かび上がっていた。
姉レニアは、プリムローズの様子が先ほどから少しずつ変になっているのが気になる。
話している内容のせいかと、あまり気にもせずにいた。

『こんな子供を連れて来るなんて、ヘレンは昔から気配り出来ない子だった。
早く名前を言って、帰って行って貰いたい』

妹のマーシャル伯爵夫人ヘレンにも、プリムローズが黙り込んだ理由が何となく分かりかけてきたようだ。

『クラレンス公爵令嬢は、考え過ぎているのよ。
けれども、私も……。
もしかしたらと、思っているのは確かだわ』

恐怖を感じても聞かなくてはならないと、妹は姉に対して震える声で話す。

「お、お姉さま。
そのご友人の名を…。
御一緒に同時に名乗って下さいませんか?」

「何を変なことを言うのよ?
相変わらず変な子ね」

「名前を仰ってくだされば、どうしてかは分かりますわ」

奇妙さに怪訝さも加わっていたが口にした名前は、やはり残念なことに同名だった。

姉妹は名を言い切ると、ついに絶望の表情になり黙って同時に泣き出してしまう。
他人の私は、泣き止むまでその場に座っているしかない。

「私がエリザベット様にお願いしなかったらー。
彼女を実家に戻すか。
私と一緒に、ここ(修道院)へ入れればよかったのよ」

「それなら、私がー。
彼女をもっと見て気遣ってあげてたら。
言い訳でしかありませんが」

こうして泣いて嘆いたら、死者が蘇る訳でもない。

「不幸が重なり、ご自分であんな事をしたのです。
亡くなった人は、戻ってこない。
魂が安らかに眠れるように祈り、彼女が出来なかった事を代わりにしてあげなさい」

私たちより生きている年数が少ないのに、まさに人生の先生のようだ。
姉妹はまた涙を流し、彼女の言葉に反論せずにいた。

「彼女のお墓は、マーシャルの領地に葬ってあります。
私と一緒に、彼女へ会いに参りましょう」

腕を取り説得を試みる妹に、下を向き遠慮がちに話してくる姉。

「でも、迷惑じゃない?
ヘレンの旦那様のマーシャル伯爵に。
私は修道院に居た者よ」

「そんな事は気にしないわ。
両親も兄だって、お姉さまを心配しているのよ。
プリムローズ様が、言われたではありませんか。
彼女の分まで、お姉さまが幸せになりましょうよ」

『そんな風に話をしたっけ?
いいように、私が使われている気がする』

マーシャル伯爵夫人の話に、不満げな顔つきになるプリムローズ。

それにしても、どうも引っ掛かる。
伯爵夫人のお姉さまが好きなお方ってー。
もしかしたら、ご友人とかではないよね。

『あの黒バラ、白バラみたいな。
男同士の恋愛の反対で、白ユリ、黒ユリみたいだ。
考えが飛躍し過ぎてる。
きっと、その手の小説を読みすぎのせいね』

ヘレンは強引に、姉を修道院から出そうとしていた。
この機会を逃してはならぬと、必死になり頭の中が混乱気味になる。

「手続きしないと、ここから出られないわ。
ヘレンは、まだ王都ヴァロに滞在しているの?」

妹が日程をざっくり話すと、姉レニアはパーレン伯爵夫人に謝罪の手紙を書きたいと言ってきた。

「責任もって、お姉さまの分までお詫びします。
私が領地に戻るまでに、間に合うように手続きして下さい。
おぉ、神よ!
私の願いが叶いました。
心より感謝致します」

「神様は、天から私たち姉妹を見てくれていたのですね。
彼女の死は悲しいけど、妹とこうして心が通じ合えた。
神へ感謝を申し上げます」

このふたり、姉妹だけあって似たり寄ったりの思考の持ち主だった。

『では、私もあの姉と同じですの。
違うそうじゃ、そうじゃない。
あの両親と姉とは、私は性格は違うのよ』

存在が薄い兄ブライアンの存在を忘れて、プリムローズは否定するように頭を軽く振る。

突然頭を抱えて悩む彼女に、二人は話に感動していると思ってくれていた。
姉妹は都合よくいい解釈してくれて、良い印象を与えられる好運な彼女である。

 
    3人の話が終わったのを確信して、忍のように隠れていたメリーが近くに寄ってみる。

「お嬢様、お二人は和解したようですね。
抱き合って、嬉し泣きしています。
珍しく、お嬢様も感動しておいでのようですし」

否定するのも疲れるだけなので、ただ可愛らしく微笑んでいた。

この後、院長にレニアが修道院から去る相談をするのだった。

「レニア様、妹君と分かり合えて良かったわね。
書類を急いで提出します。
一緒に、御領地へ戻れるようにしてあげたいわ」

院長、物凄く喜んでいる。
多分、一人分の食い扶持やその他予算が減るものね。
3人は喜び、手を取って笑顔で話している。
プリムローズたちは、一歩引いて笑みを浮かべていた。

ちょっと姉妹だけで話している間に、彼女たちは院長と話する機会が持てた。

「女性ってとつぎ先しだいで、境遇きょうぐうに大きな差が出てきますわよね。
あの姉妹を見て、そうは思いませんか?!」

「そうでございますね。
【姉は菅笠すげざか、妹は日傘ひがさ】。
よく考えると、あの姉妹に当てはまりますわ。
……、あーっ!」

内心、姉妹を見てそう思っていたのか。

「修道院の長になると、流石さすがは物知りですわ。
どういう意味ですか?
私にも分かるように、院長から教え下さいませ」

顔に汗をうっすらにじませる院長に意地悪く、プリムローズは静かに近づき答えを言う。

「菅笠とは、農作業でかぶる笠。
日傘とは、正装などの時にさす日除けの傘。
同じ家で育った姉妹でも、嫁ぎ先によってはあくせく働いたり日傘をさして優雅にと。
違う境遇になることでしょう」

チラッと目を上目にして話した後に、口元を両端上げていた。

「えぇまぁ、お小さいのによく存じ上げてますのね。
ですが、レニアさんはこれからどうなるか。
未来はまだ分かりませんよ」

どこから現れたのか、メリーがひょっこり傍に来ていた。

「横から、失礼致します。
プリムローズ様は、十歳で祖国の文官試験に合格した才女でございます」

プリムローズの自慢を顔に笑みを浮かべ、隣で本人は恥ずかしいのか顔を赤らめた。

「メリー!
そこまでにしなさいな。
今日、日傘を忘れてきてしまったわね~」

「お嬢様は日焼けすると、すぐ赤くおなりになります。
肌が火傷されましたら大変でございます!」

メリーはスカートの中から、折り畳み傘を出してきた。

「「  …………  ?!」」

手品師のように傘を広げて、主人を日差しから遮る。

「メリー、ありがとう!
貴女のスカートの中、どうなっているの?」

プリムローズは好奇心で屈んで、中を見たそうにしている。
スカートを捲り上げようとしたが、メリーにやんわりとお断りをされた。

「たとえ主人でも、やってはいけません!
お嬢様もスカートの中には色々と仕込んでございましょう」

「むぅ~、見たりしませんわよ」

最後にわざとらしく院長に嫌味を言ったプリムローズでさえ、メリーが傘を出してきたのは予想外。
3人が和やかに会話しているように、珍しく来客を迎えた修道女たちは遠くから眺めている。
近くで誰かが耳にしたら、話の内容で印象はガラリと違っていたであろう。

「プリムローズ様とメリーさん。
そろそろ屋敷に戻りましょう。
院長、もう少し姉の事をよろしくお願い致します」

「レニア様をお願いしますわね」

妹ヘレンと隣にいるプリムローズに頼まれて、目を泳がせる彼女。

勿論もちろんでございます。
安心してください。
レニアさんはお客様として、今日から大切に扱わせて頂きます」

これで、彼女の待遇たいぐうは前より良くなったわ。

残すは、パーレン伯爵夫人とお会いした時の話と今の事を何方どなたに話すかだわ。

侍従長に会って本心を探りたいのだけど、彼の屋敷には乗り込めない。
やはり、ヘイズ王に話してから彼に直接王宮で本心を聞くしかないか。
去り行く馬車の中、姉との一時いちじの別れに名残惜しそうに手を振る伯爵夫人を見て考えていた。






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