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第2章 解けない謎解き
第12話 ありがた迷惑
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この屋敷の女主人に命じられたメイドたちが、彼が居るはずの部屋へ急ぎ向かう。
何度も扉をノックしてみたが、返事も返ってこないし物音も聞こえない。
仕方なく無断で開けて中へ入るが、部屋はもぬけの殻だった。
「ねぇ、居ないわよ。
彼は、どこに行っちゃったの?」
「出されていた軽食は食べているから、部屋に居たのは間違いないわ」
「探しに行くしかないわね。
犬猫じゃないし、すぐに見つかるわよ」
このときは気楽に考えていたが、可愛い動物よりもこの男は厄介だった。
探す先々で仲間の使用人たちに聞いても、まったく手掛かりはなかったのだ。
これだけ屋敷内を探して、姿がないのは変だとさすがに気づく。
庭でも散策しているようだと、三人の意見が一致した。
公爵家の広い庭で人探しをするはめになり、これでは普通の業務をした方がマシだったと肩を落とす。
そんなことになっているとは露知らず、本人は木の上でのんびりと昼寝していた。
プリムローズの護衛で来ているのに、通された部屋から消えて職務を放棄しまくっていた。
生き別れの妹が会いたいという願いを知ったら、兄ギャスパルはどんな気持ちになるのだろうか。
「ギル殿、どちらにいらっしゃいますかぁ~。
プリムローズ様がお呼びですよ」
「ギル様、プリムローズ様がお怒りになられてます!」
「すぐに、とっとと出て来て下さいませ~」
自分の名を呼ぶ声よりも、主のプリムローズの名前を耳にすると、過敏に反応し寄りかかる枝から落ちそうになった。
野性児並みの反射神経で、華麗に地面へ降り立つ。
「こんなに呼んでるのに…。
いい加減、出て来てほしいわ」
「これプリムローズ様がお知りになったら、私たちが叱られちゃうの」
メイドたちが文句を言い合いをしていると、その呼び掛けられていた張本人が言葉通り飛んで木から降ってくる。
「「「ぎゃあ~!!!」」」
驚きのあまり両手を挙げたり、腰を抜かして座り込んだりする。
もう嫌だと思い、この場から逃げようとしていた者もいた。
「サ、サル?」
「しっしっ、あっちに行って!」
「こっちに来ないで!」
辺りにあるものを拾って、彼に投げつけそうな勢いである。
「サルって俺のことか。
さっき話していたことは、本当か?
お嬢が怒り狂っているって」
何か後ろめたい事があるのか。
プリムローズの様子を、彼女らに慌てて尋ねてくる。
頬には傷があり見た目は強面だが、高身長で顔もよくよく見れば容姿もなかなか良い。
かなり残念なのが、この粗暴な話し方だった。
「詳しくは存じません。
ただ、貴方様を連れて参るように頼まれただけです」
「そうでございます。
ですから、急ぎプリムローズ様の所へ参りましょう」
「ハイハイ、ギル殿。
お願いですから、大人しく付いてきて下さい」
メイド3人は逃げないように、彼を挟み込むように連行する様にみえた。
「なんか、なんかよう~。
囚人の連行みたいだぞ。
お嬢から、休んでいいぞって言われたんだぜ」
「立ち止まらないで、早く付いてきて下さい!」
「ギル様のせいで、心臓が口から飛び出るところでしたよ」
「やはり、顔だけの男はダメだわ」
女性たちに散々酷い言われをして、思わずギルは空を仰ぎ見る。
思い当たる出来事は、メリーの頬と額に軽いキスをしただけである。
『メリーに告白しろって、お嬢が言っていたじゃん!
女の知り合いの中では、メリーは1番好きだしなぁ』
煮えきれない男は、鼻の下を伸ばしてニヤニヤしていた。
しかし、近づくと眉間にシワを寄せ不機嫌になる。
『なんで、呼び出されて怒られるんだ。
それだけは、理不尽で納得は出来ねぇな 』
果たして、感動となる兄と妹の再会になるのだろうか。
生き別れの妹イングリットが、この部屋の中に居るとも知らず。
プリムローズに怒られる覚悟で、入室前に立ち向かう気合いを入れていた。
ギルとイングリットの再会前に、マーシャル伯爵夫人ヘレンと別々に分かれてスクード公爵に連れていかれたプリムローズ。
彼女は感傷的に浸っていたら、側から堂々たる声で話しかける人物がいた。
エリアスと似た顔立ちを持つ、もう一人の叔父にあたる彼だった。
「エリアス殿下、私パーレンは貴方様を死ぬまで支えます。
もし、ヘイズの国王にお成りにならずともです。
この場で、お誓い申しあげます」
先に出し抜かれた形になった発言に、側近中の側近のスクード公爵がムスッとして話し出す。
「パーレン伯爵、ズルいのではないか。
抜けがけしないでくれ。
このスクードとて、伯爵と同じ思いでおりますぞ」
「皆さん、頭を下げないでください。
伯父上、スクード将軍。
それにパーレン伯爵までも」
国王で義理の父になった隣で慌ててしまう、エリアス。
もちろん、パーレン伯爵も血縁者の父の兄で同じ伯父ではあった。
しかし、現在は臣下になる立場。
頼りがいのある後ろ盾を3人も得て、エリアスの未来は明るい。
そこへプリムローズも、これに加わってくる。
「ヘイズ国に居づらくなったら、エテルネルに来てください。
いつでも歓迎致しますわ。
我がクラレンス領は、ヘイズ語が話せる方が多くおりますのよ」
彼女がおどけるように茶目っ気たっぷりに話すと、室内は明るい笑い声で包まれた。
彼女は気になっていたことを、ここにいる人物たちに尋ねてみる。
「ですが、本当に侍従長が白か黒かを確認した方が宜しいですわ。
それには知らずに、お茶を飲ませてしまった子爵令嬢の。
彼女の最後を、彼に教えなくてはなりませんが……」
プリムローズが、沈むような表情で尋ねる。
ヘイズ王は、それは必要かとプリムローズに逆に質問を問い返してきた。
意外な返しに彼女は、王の思考を分かりかねていた。
「ヘイズ王は、気にはなりませんか?
このまま知らぬ存ぜぬで、彼は陛下の側近くで仕えていくのですよ」
国王は、静かに心の中をさらけ出す。
「深く考えてみた。
彼は最初から、あのお茶を飲むのに反対していたのじゃ。
余から無理に頼んだこと。
問題があったら、余の責任にしてくれと言ってくれたのだ。
庇って、なにも言わなかったのだと余は思っておる」
最後まで、侍従長を信じ切りたいのだ。
それがたとえ、裏切られていたとしてもー。
「部外者の私が、踏み込む領域ではなかったんだわ」
他国の外敵よりも、国内の結束を固くすればよいのだ。
大陸と島国では国の納め方は違うのだと、ヘイズ王の話で理解した。
「ヘイズ王のお望みの通りに――。
貴方様は、この国の王なのです。
他国の私が意見するなど、万死に値する罪でした」
座っていた椅子から立ち上がり、深く頭を下げて謝罪した。
「プリムローズ嬢。
貴女には数えきれないほど助けて頂いた。
そなたの助言に感謝するが、余はあれを信じようと思う。
側近として幼き頃より、ずっと一緒であったからだ」
王とは、迷いを表に顔に出してはならない。
だからこそ、側近には弱みを見せられる者が必要になる。
それには侍従長も入っているんだと、彼女だけでなくこの場にいる人たちにも理解できた。
「そうじゃあ!
陛下がそなたに、勲章を与えるそうだ」
スクード公爵の勲章という単語の響きに、普段はあまり萎縮しない彼女は目を見開く。
「勲章を頂くような貢献を、私は致しておりません。
エリアス殿下の件は、ゲラン親子が伯爵の地位へ戻れば結構です。
勲章はご辞退致します」
パーレン伯爵とスクード公爵は、要らないと本人が目の前にしてキッパリ断るのに驚く。
わざわざ陛下自らが指示し、渡す場を設けられたからである。
「そう言わずに、もらってはくれぬか?!
この勲章は、開国を目指す為の先駆けとなる。
他国の者が、奴隷の様に売買されていた少年を。
それも、王族を救ったのだ」
他国の者は悪いことをするだけでなく、良いこともする。
開国するにあたり良い印象を、貴族や国民に植えつけたい狙いがあった。
『私というより背後にあるクラレンスの力で、エテルネル国と国交を結びたいようだわ』
他国の王様からここまで言われてしまっては、要らぬとは無礼になり断れない。
エテルネルとヘイズ、今後の両国のためにー。
「前日に、勲章授与式の打ち合わせをする。
その時にお見せしよう。
どんな物か、楽しみにしてくれ」
御礼を言わないとならんな。
別に要らないんだけど、空気を読まないとー。
『私にとっては、【ありがた迷惑】なのよね。
人の親切や好意が、受け取る人によってかえって迷惑になるという意味。
う~ん、まさに当てはまる言葉だわ』
心で文句をつきながらも満面の笑みになり、部屋にいる人たちに見せつけた。
「それでは、今回は有り難く頂戴致します。
貴国ヘイズと祖国の架け橋になるように、精進して参ります」
深々とカーテシーして、王へ感謝の礼を形としてみせる。
「プリムローズ嬢、叙勲おめでとうございます。
私から陛下に頼んだ甲斐がありました。
貴女は全てをお持ちですので、名誉を与えたらと言ってみたのです」
彼のサラっと口にした言葉に、瞳と口をだらしなく開けてしまう。
天真爛漫な笑顔をされ、エリアスは自分が善いことをしたと喜んでいた。
「エリアス殿下からの申し入れでしたの?!
どうせなら、私は珍しい食べ物を…」
彼女は勲章より特産物を輸入してと言いかけて、一歩手前で続きの言葉を止めた。
せっかくの好意に水を指して、この場の空気が悪くなってしまう。
『ゲラン親子に褒美をあげて、私に何もあげないのが心苦しく感じたのだろうか。
そこまで、考えなくてもいいのに……』
話の中ではヴェント侯爵と、亡くなった事にしたマーシャル伯爵の弟の二人に罪を償わせることにした。
この発表はエリアスのお披露目と同時に知らせる手配で話は決まった。
プリムローズも、エリアス同様に主役級になりそうだ。
その新年の挨拶を兼ねた晩餐会は、一週間後に訪れる予定。
もう一方の話し合いはどうなっているかと言うと、これはかなり違う風になるだろう。
ギルにとっても、【ありがた迷惑】にならないといいが…。
さてさて、どうなっていくのやら……。
何度も扉をノックしてみたが、返事も返ってこないし物音も聞こえない。
仕方なく無断で開けて中へ入るが、部屋はもぬけの殻だった。
「ねぇ、居ないわよ。
彼は、どこに行っちゃったの?」
「出されていた軽食は食べているから、部屋に居たのは間違いないわ」
「探しに行くしかないわね。
犬猫じゃないし、すぐに見つかるわよ」
このときは気楽に考えていたが、可愛い動物よりもこの男は厄介だった。
探す先々で仲間の使用人たちに聞いても、まったく手掛かりはなかったのだ。
これだけ屋敷内を探して、姿がないのは変だとさすがに気づく。
庭でも散策しているようだと、三人の意見が一致した。
公爵家の広い庭で人探しをするはめになり、これでは普通の業務をした方がマシだったと肩を落とす。
そんなことになっているとは露知らず、本人は木の上でのんびりと昼寝していた。
プリムローズの護衛で来ているのに、通された部屋から消えて職務を放棄しまくっていた。
生き別れの妹が会いたいという願いを知ったら、兄ギャスパルはどんな気持ちになるのだろうか。
「ギル殿、どちらにいらっしゃいますかぁ~。
プリムローズ様がお呼びですよ」
「ギル様、プリムローズ様がお怒りになられてます!」
「すぐに、とっとと出て来て下さいませ~」
自分の名を呼ぶ声よりも、主のプリムローズの名前を耳にすると、過敏に反応し寄りかかる枝から落ちそうになった。
野性児並みの反射神経で、華麗に地面へ降り立つ。
「こんなに呼んでるのに…。
いい加減、出て来てほしいわ」
「これプリムローズ様がお知りになったら、私たちが叱られちゃうの」
メイドたちが文句を言い合いをしていると、その呼び掛けられていた張本人が言葉通り飛んで木から降ってくる。
「「「ぎゃあ~!!!」」」
驚きのあまり両手を挙げたり、腰を抜かして座り込んだりする。
もう嫌だと思い、この場から逃げようとしていた者もいた。
「サ、サル?」
「しっしっ、あっちに行って!」
「こっちに来ないで!」
辺りにあるものを拾って、彼に投げつけそうな勢いである。
「サルって俺のことか。
さっき話していたことは、本当か?
お嬢が怒り狂っているって」
何か後ろめたい事があるのか。
プリムローズの様子を、彼女らに慌てて尋ねてくる。
頬には傷があり見た目は強面だが、高身長で顔もよくよく見れば容姿もなかなか良い。
かなり残念なのが、この粗暴な話し方だった。
「詳しくは存じません。
ただ、貴方様を連れて参るように頼まれただけです」
「そうでございます。
ですから、急ぎプリムローズ様の所へ参りましょう」
「ハイハイ、ギル殿。
お願いですから、大人しく付いてきて下さい」
メイド3人は逃げないように、彼を挟み込むように連行する様にみえた。
「なんか、なんかよう~。
囚人の連行みたいだぞ。
お嬢から、休んでいいぞって言われたんだぜ」
「立ち止まらないで、早く付いてきて下さい!」
「ギル様のせいで、心臓が口から飛び出るところでしたよ」
「やはり、顔だけの男はダメだわ」
女性たちに散々酷い言われをして、思わずギルは空を仰ぎ見る。
思い当たる出来事は、メリーの頬と額に軽いキスをしただけである。
『メリーに告白しろって、お嬢が言っていたじゃん!
女の知り合いの中では、メリーは1番好きだしなぁ』
煮えきれない男は、鼻の下を伸ばしてニヤニヤしていた。
しかし、近づくと眉間にシワを寄せ不機嫌になる。
『なんで、呼び出されて怒られるんだ。
それだけは、理不尽で納得は出来ねぇな 』
果たして、感動となる兄と妹の再会になるのだろうか。
生き別れの妹イングリットが、この部屋の中に居るとも知らず。
プリムローズに怒られる覚悟で、入室前に立ち向かう気合いを入れていた。
ギルとイングリットの再会前に、マーシャル伯爵夫人ヘレンと別々に分かれてスクード公爵に連れていかれたプリムローズ。
彼女は感傷的に浸っていたら、側から堂々たる声で話しかける人物がいた。
エリアスと似た顔立ちを持つ、もう一人の叔父にあたる彼だった。
「エリアス殿下、私パーレンは貴方様を死ぬまで支えます。
もし、ヘイズの国王にお成りにならずともです。
この場で、お誓い申しあげます」
先に出し抜かれた形になった発言に、側近中の側近のスクード公爵がムスッとして話し出す。
「パーレン伯爵、ズルいのではないか。
抜けがけしないでくれ。
このスクードとて、伯爵と同じ思いでおりますぞ」
「皆さん、頭を下げないでください。
伯父上、スクード将軍。
それにパーレン伯爵までも」
国王で義理の父になった隣で慌ててしまう、エリアス。
もちろん、パーレン伯爵も血縁者の父の兄で同じ伯父ではあった。
しかし、現在は臣下になる立場。
頼りがいのある後ろ盾を3人も得て、エリアスの未来は明るい。
そこへプリムローズも、これに加わってくる。
「ヘイズ国に居づらくなったら、エテルネルに来てください。
いつでも歓迎致しますわ。
我がクラレンス領は、ヘイズ語が話せる方が多くおりますのよ」
彼女がおどけるように茶目っ気たっぷりに話すと、室内は明るい笑い声で包まれた。
彼女は気になっていたことを、ここにいる人物たちに尋ねてみる。
「ですが、本当に侍従長が白か黒かを確認した方が宜しいですわ。
それには知らずに、お茶を飲ませてしまった子爵令嬢の。
彼女の最後を、彼に教えなくてはなりませんが……」
プリムローズが、沈むような表情で尋ねる。
ヘイズ王は、それは必要かとプリムローズに逆に質問を問い返してきた。
意外な返しに彼女は、王の思考を分かりかねていた。
「ヘイズ王は、気にはなりませんか?
このまま知らぬ存ぜぬで、彼は陛下の側近くで仕えていくのですよ」
国王は、静かに心の中をさらけ出す。
「深く考えてみた。
彼は最初から、あのお茶を飲むのに反対していたのじゃ。
余から無理に頼んだこと。
問題があったら、余の責任にしてくれと言ってくれたのだ。
庇って、なにも言わなかったのだと余は思っておる」
最後まで、侍従長を信じ切りたいのだ。
それがたとえ、裏切られていたとしてもー。
「部外者の私が、踏み込む領域ではなかったんだわ」
他国の外敵よりも、国内の結束を固くすればよいのだ。
大陸と島国では国の納め方は違うのだと、ヘイズ王の話で理解した。
「ヘイズ王のお望みの通りに――。
貴方様は、この国の王なのです。
他国の私が意見するなど、万死に値する罪でした」
座っていた椅子から立ち上がり、深く頭を下げて謝罪した。
「プリムローズ嬢。
貴女には数えきれないほど助けて頂いた。
そなたの助言に感謝するが、余はあれを信じようと思う。
側近として幼き頃より、ずっと一緒であったからだ」
王とは、迷いを表に顔に出してはならない。
だからこそ、側近には弱みを見せられる者が必要になる。
それには侍従長も入っているんだと、彼女だけでなくこの場にいる人たちにも理解できた。
「そうじゃあ!
陛下がそなたに、勲章を与えるそうだ」
スクード公爵の勲章という単語の響きに、普段はあまり萎縮しない彼女は目を見開く。
「勲章を頂くような貢献を、私は致しておりません。
エリアス殿下の件は、ゲラン親子が伯爵の地位へ戻れば結構です。
勲章はご辞退致します」
パーレン伯爵とスクード公爵は、要らないと本人が目の前にしてキッパリ断るのに驚く。
わざわざ陛下自らが指示し、渡す場を設けられたからである。
「そう言わずに、もらってはくれぬか?!
この勲章は、開国を目指す為の先駆けとなる。
他国の者が、奴隷の様に売買されていた少年を。
それも、王族を救ったのだ」
他国の者は悪いことをするだけでなく、良いこともする。
開国するにあたり良い印象を、貴族や国民に植えつけたい狙いがあった。
『私というより背後にあるクラレンスの力で、エテルネル国と国交を結びたいようだわ』
他国の王様からここまで言われてしまっては、要らぬとは無礼になり断れない。
エテルネルとヘイズ、今後の両国のためにー。
「前日に、勲章授与式の打ち合わせをする。
その時にお見せしよう。
どんな物か、楽しみにしてくれ」
御礼を言わないとならんな。
別に要らないんだけど、空気を読まないとー。
『私にとっては、【ありがた迷惑】なのよね。
人の親切や好意が、受け取る人によってかえって迷惑になるという意味。
う~ん、まさに当てはまる言葉だわ』
心で文句をつきながらも満面の笑みになり、部屋にいる人たちに見せつけた。
「それでは、今回は有り難く頂戴致します。
貴国ヘイズと祖国の架け橋になるように、精進して参ります」
深々とカーテシーして、王へ感謝の礼を形としてみせる。
「プリムローズ嬢、叙勲おめでとうございます。
私から陛下に頼んだ甲斐がありました。
貴女は全てをお持ちですので、名誉を与えたらと言ってみたのです」
彼のサラっと口にした言葉に、瞳と口をだらしなく開けてしまう。
天真爛漫な笑顔をされ、エリアスは自分が善いことをしたと喜んでいた。
「エリアス殿下からの申し入れでしたの?!
どうせなら、私は珍しい食べ物を…」
彼女は勲章より特産物を輸入してと言いかけて、一歩手前で続きの言葉を止めた。
せっかくの好意に水を指して、この場の空気が悪くなってしまう。
『ゲラン親子に褒美をあげて、私に何もあげないのが心苦しく感じたのだろうか。
そこまで、考えなくてもいいのに……』
話の中ではヴェント侯爵と、亡くなった事にしたマーシャル伯爵の弟の二人に罪を償わせることにした。
この発表はエリアスのお披露目と同時に知らせる手配で話は決まった。
プリムローズも、エリアス同様に主役級になりそうだ。
その新年の挨拶を兼ねた晩餐会は、一週間後に訪れる予定。
もう一方の話し合いはどうなっているかと言うと、これはかなり違う風になるだろう。
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