無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第3章  それぞれの巣立ち

第14話 葦を含む雁

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 山よりは低くて、丘よりは高い。
そこに海風が流れ、平地よりも気温が低下する。
すべての偶然が重なり、ヘイズの南国の気候でもカメリアの花は咲くことが可能にしていた。
愛を呼ぶ奇跡の花と呼ばれている。

風は少し冷たいが心地よく、陽気のよい午後の昼下がり。
この観光地の見所、恋人たちの愛の告白を拝見しようと集っている。
そんな場で、珍しく男女の揉め事が起きていた。

正確に述べるなら、若い男性と少女だった。
年齢差を考慮すれば、奇妙だが貴族ならあり得る。

普通の少女とは別物で、「私は貴族様よ!」のオーラを放っている。
隣にいるオロオロしている挙動不審の茶髪の女性が、この奇妙なケンカに関係しているのようだ。

メリーとギルの愛のやり取りを見ていない新参者たちは、これらの会話を聞いて推測するしかない。
そんな中で、新たなハプニングが発生する。

 
   人々は瞬きしないで、突如空から何が近づいてきた。
なんだろうと思っているとー。

ひとりの高齢の男が、空を見上げて突然叫んだ。

「神がお怒りになり、天から石を投げたのだ!」

「きゃあー、【天上から破壊石】が降ってくるわ!」

「ふぇーん!
お母さん、怖いよ~」

女性たちの悲鳴があがると、連れてきた子供が動揺して泣きだしてしまう。

『天上の破壊石?
ヘイズでは、こう呼ばれているの』

ところ変われば、感じ方の相違に驚く。
エテルネルにも、空から石が落下したことはあった。

落ちた場所には、湖が出来たと伝説のように伝わる。
【女神からの恵み】と吉兆とされている。
これだけの人が居れば、一人くらいは、混乱させる馬鹿が現れるものだ。


 弓矢ゆみやごとくの速さで、人の肉眼では判別できない勢いで降りてきた。
地面にぶつかりそうになる手前で、羽をバタつかせてフワリと着地する。

『なーんだぁ~。
やはり、破壊石ではなかったか。
ただの鳥だったかぁ』

空を飛べるのは鳥ぐらいだと、変に納得した観光客たち。
いったい、空からどんな石が落ちてくると期待していたんだろうか。
緊張感が解かれたようで、何でもなくホッとしたと囁き合っていた。

「あれは、ピーちゃんだ!
プリムローズ嬢が飼っている白い鷹ですよ。
私の友達でもあるんです」

「エリアス様のお友達?
あの白い鷹がですか!?」

ピーちゃんに初めて会った者たちは、エリアスの嬉しそうに友と呼ぶ様子についていけない。

『おかわいそうに独りぼっちだった殿下は、鳥までもが友達の対象だったのですね』

ヨハンはエリアスの良き友になり続けけたいと、ますます新たに強く誓うのだった。

散々さんざん酷いことを言っていた少女は、鳥たちの前にしゃがみこむ。
今までの表情がコロっと変わり、愛想よくニコニコして話しかける。

「お久しぶり、ピーちゃん!
今日は、お仲間さんも御一緒なのね。
初めましての鳥さんかしら?」

相変あいかわらず平然へいぜんと話しかける、ピーちゃんのあるじのプリムローズ。

「ピ~、ピ~」、恥じらいと不満気な態度をみせていた。

飼い主だけあり、さっしが早い彼女は驚きの声をあげる。

「もしや、ピーちゃん!
貴方もとうとう見つけたの?!
伴侶と呼べる鷹を、真実の愛を手に入れたのね。
ピーちゃん~、おめでとう!」

「ピーーーィ!ピィピィ♪」

幸せ絶好調の囀りをされて、正解のようだとつどう者たちは羽をパタパタさせて浮かれているように見える。
彼女か奥さんかどちらになるのか知らぬが、プリムローズに近づくとペコッとお辞儀じぎしていた。

どこの世界も礼節は大事なんだと、見物していた人たちは鷹たちのお辞儀に感心していた。

側に落ちているカメリアの花を、ピーちゃんと呼ばれている白い鷹がくちばしに加えて彼女に渡す。

「これは感動ものでしょう。
愛の告白には、動物も人も関係ないんだわ。
誰かさんと違って、相手に愛を素直に伝えている。
素晴らしいですわぁー!」

腹を殴りつけた男に嫌味で言っているのは、誰の目から見ても明らかである。

「ピーちゃんは、格好いいですね」

「ああやって、ギルさんを煽っていますのね」

「しかし、鳥で釣れるのだろうか」

彼と親交あるエリアスやライラとオスモは、プリムローズの意図を知り考察する。

単細胞なギルに、対抗心たいこうしん導火線どうかせんが火をつけたようだ。

「ピーだけには、俺は負けねぇぜ!
俺は男で、人間だぁ~!」

どうやらギルと呼ばれた男は、この告白する鷹に対抗意識を燃やしているみたいだ。
鳥と争っている下らない男を、好いているメリーが気の毒に思えてならない。

『こんな男は、やめた方がいい』

ここに集うほぼ全員が、同じような考えをしていた。

プリムローズの仕方の知識はあるらしく、片膝をつき胸から何かを出してきた。
手には綺麗な飾りがある箱。

野次馬たちは粗暴そぼうだが、この意外な洗練された所作に驚いてみせた。
やっと、本気で告白する気持ちになれたギル。

「ありがとう!
ピーちゃんと彼女さん!
彼女さんに、可愛い名前を付けなくてはね」

プリムローズは目をキラキラさせ、ギルからの真剣なプロポーズを待つ。

「メリー、おーっと違った。
メリー嬢、俺ではなく。
この私と、人生を共に過ごして下さい!
あ~い、しーて、まぁすーう?!」

最後に疑問が残る愛の言葉は、残念すぎて微妙だった。
しかし、言い切った男は耳まで真っ赤になっている。
心を表すゆでダコのような顔は真剣そのもの。
これを見ていた者は、真実の愛を感じると胸を強くと打たれた。

「そんな真っ赤な顔で言われて、いなと申せません。
ですが、ギャスパル殿。私は平民で両親はおりません。
貴方には、相応ふさわしくありません」

「そんなのは気にすんな。
俺と一緒になれば、父親と妹が一気に出来る。
そうしたら、みんな家族になるんだ。
毎日が、楽しく笑いが途絶えない。
こんな夫婦になろう」

孤児だった平民の彼女は、他国の侯爵夫人まで上り詰めた。

「ギル師匠……。
ギャスパル様、嬉しいですわ!」

水色の瞳はキラキラと光るのは、熱いものが込み上げてきたからだ。
クラレンス公爵夫人ヴィクトリアに路頭に迷っていた時に拾われた。
この日から、夢のような恵まれた生活が始まった。

確かに幸福であったが、家族のいない寂しさを感じることもある。
ギルが言ってくれた家族と言う言葉は、彼女が心より望み欲しかったものだったのだ。

「不器用な優しい貴方を、私はおしたいしてます。
ギャスパル様、謹んでお受け致します」

にっこりと微笑みながら返事するメリーは、プリムローズが2番目に美しい表情だった。
1番の顔は、3歳の頃に出会った自分に向けられた輝くばかりの笑顔だ。

「メリー、ギル!
二人ともおめでとう!」

「お姉さん!
お幸せになって下さい」

ねぇさんは、男より男らしい。
この野郎、こんな別嬪べっぴんさんを泣かすんじゃないぜ」

相手を思いやるやり取りを聞かされた人々は、不器用な男女の愛にしびれた。

メリーは、ギルから差し出された箱を奪い。
中から指輪を取ると、薬指に勝手に自分からはめた。

「あーっ、自分で指輪をはめるな!」

広場には絶叫がとどろいた後には、二人とプリムローズを除く人達の大爆笑が起きた。

「男性から、女性の指にはめるのが習わしなのよ。
結婚式では、ちゃんとしてね。
我がクラレンス家が恥をかきますから!」

「はい!お嬢様」

「おっ、ちゃんとするぜ」

元気な返事を二人から返されたが、不安が晴れないプリムローズ。
またまた笑いが周辺から起こると、鷹たちが祝福してか彼らの周りをねている姿が可愛い。

「そうだわ!
ピーちゃんの彼女の名は、カメリアにしましょう。
このお花の名前よ。
気に入ってくれたかしら?」

「ピュー、ピッピッ!」

喜んでくれている可愛らしい声に、彼女はもうデレデレな表情になった。

「ああ、私も幸せです。
今日、2組のカップルが誕生したわ。
苦労した縁結びだけあって、幸福になった気分になるわ」

縁組みオバサンでなく、世話焼き少女が誕生した。
彼女の野望やぼうは、またひとつ増えてしまった。

「よし、目指せ!
カップル100組」

「お嬢、10組ぐらいにしとけよ。
無謀な目標はいけませんぜ」

「あら珍しく、常識的な意見を言ってくれました。
お嬢様、無理強いは周りにご迷惑かけますよ」

いましめられてっぺたをふくらませると、ピーちゃんたちがカメリアを加えて空へ飛び立つ。
飛び上がる途中に花を落としてしまい、花はクルクル回り落下してくる。

「おお、カメリアの奇跡だ!」

「カメリアのご加護かごだわ!」

天から降り注ぐカメリアは、青空と対照的な赤で映え渡り美しい。

「ピーちゃんは、こうなるのを感じていたのかなぁ。
こうして、助けに来てくれたのかしら?
奇跡と加護か…」

青い空にくっきりと映えるピンクの花を見上げて彼女が言うと、スクード公爵令息オスモが婚約者ライラと腕を組みながら話しかける。

「あの鷹たちは、野生やせいかんで今日の事を気づいたのかもしれないな」

「【あしを含むかり】。
計画や準備は、完璧だって意味です。
鳥さんたちが、前もって助けてくれるつもりだったのかもね」

「フフっ、雁でなく鷹ですよ。
ライラ様のお言葉は、この場にピッタリです。
ピーちゃんたちが来なかったら、ヘタレなギルは告白を最後までできなかったと思います」

ライラは、婚約者オスモの腕を強く自分の体に引き寄せた。

「オスモ様、またここへ二人きりで来たいですわ」

「そうだな。二人でね」

熱々の二人を気にせず、プリムローズは自分の思考の中にいた。

「いつも困ったり、肝心かんじんな時に来てくれるの。
普段は、呼ばないと来ないのにね。
彼女が出来たから、もう私を助けに来てくれなくなるかも」

結ばれた2組を祝福しる。
そして、彼らと離れて自立を考え始める決心をした。

 
 私がヘイズ国にいる理由。
使命は、いま終わった。

エリアス様やタルモ殿。
奇跡的に近い出会いは、誰がみちびいたのであろうか。
神は姿が見えないが、感じることはできる。
アルゴラ大神官だいしんかん様のおっしゃる意味を、プリムローズはやっと理解できた。

「メリーさんたちも、ピーちゃんたちも幸せそうですね。
プリムローズ嬢、貴女の側にいるだけで幸福が訪れる気がします」

エリアスは、広がる空を見て意味深なことを言ってくる。
友人たちも彼がプリムローズにさりげなく好意を伝えていると感じていた。

「そんなことはないわ。
だって、私はなにもしていないわ。
選んだのは、本人たち。
しかし、ホント世話がかかる二人だったわ!」

ぶっきらぼうに言うと、自分達のいる場所から離れたそうにする。
褒められて照れているのだと、プリムローズを気遣いひとりきりにした。

「そろそろ、解放しなくては。
大切な人を手に入れたのだから……。
私が側に居たら、イチャイチャできないものね」

ギルは気にしないけど、メリーは私の面倒ばかりみたがるもの。
青く澄んでいる空を見上げて、
他人にはとても見せられない締まりのない顔をしてニヤつくのだった。

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