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第3章 それぞれの巣立ち
第16話 矢面に立つ
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授業が終わると、手紙を読み。
お昼になると食べながら、また読む。
友人たちの手紙の中身は、査問会が必ずどこかに盛り込まれていた。
「プリムローズ様、聞こえてますか!?
クラレンス公爵令嬢!
お食事中に、手紙を読むのはお止めください。
お行儀悪いですよ」
ライラは見ていられなくなり、
目の前で文字を追う彼女に注意する。
そして、それを素早く奪ってしまった。
「これは、没収します」
「あーっ、手紙が~!
行儀が悪いとは分かっております。
どうしても気になって…。
海を隔てたヘイズにいます。
どんな状況かを、早く知りたいのです」
「ライラ様、プリムローズ様は込み入った事情があるみたいですわ。
宜しければ、私たちに何があったか教えてくれませんか?」
フレデリカは、いつもとは違う彼女が気になる。
その理由を伺ってくるのだった。
「う~ん、どうしようかなぁ?どこの国にも、ありそうな事ですし……。
まっ、いいか。
もしも、身近で起こったら参考になるかも。
じゃ、話しますね!」
プリムローズは子供の頃、自分の発案で店を開いた話から始めた。
「最初のお店セパヌイールで、平民の夫人たちが噂していた。
プリムローズ様がそこに居て、たまたま偶然に耳にしたのですね」
財政難の孤児院が気になり、プリムローズとメリーでそこを訪れた。
次の話に移ると、ライラとフレデリカの顔つきが険しくなっていく。
「その王妃様がいけませんわ。
ご自分の仕事を蔑ろにして、友人に任せるなんて!」
「職務を一緒にされて、手伝いぐらいにすれば良かったのよ。
そうすれば、汚職までに発展しなかったと思います」
フレデリカとライラの指摘は、もっともで異論の余地はなかった。
「そこに尽きるのよ。
丸投げは、誰が考えてもマズい。
必ず、【矢面に立つ】わ。
前王妃様が査問会で、どう言い訳するか心配だわ」
学生時代に、虐めにあったと噂されていた。
一斉に責められたりしたら、昔を思い出してパニックになってしまいそう。
プリムローズは、それが気掛かりだった。
「【矢面に立つ】って、
質問や非難などが集中する立場の意味ですよね」
「王妃様の立場だったら、文句や非難されてこなかったでしょう。
きっと、戸惑ってしまうわ」
フレデリカは、独り言のように言う。
『イヤイヤ、慣れっこです。
付き合っていた王子様に、泣いてチクっていた。
なかなか腹黒い女だったとー』
エテルネルで、プリムローズが夫であるリンドール伯爵を通じて知り合った。
奥方マーガレット夫人と祖母から聞いたので、これはかなり確かな情報だろう。
「えーっと……。
それが、そうでもなさそうなの」
二人の話に困り顔で、プリムローズは学生時代の噂話を語りだした。
「本当に?
王妃だったお方が、嫌がらせをされていたのですか?」
「前王妃様は、貧しい伯爵令嬢だったのです。
王子の妃になるには、低い身分の方でした。
嫉妬や、やっかみもあったと聞き及んでます」
「当然ございます!!」
「話の通りの方なら、私もイジメるかもね!」
ライラとフレデリカは、思っていたことをハッキリと言った。
「こんな理由で、夏休みに入ったらすぐ急ぎ帰国します」
「ご心配ですね。
いいづらいですが、プリムローズ様のご実家。
クラレンス公爵は、まさか不正はしてませんよね」
「していません!!
我がクラレンスは、孤児院や教会に多額の寄付をしている立場です」
憤慨したプリムローズが、フレデリカにきつく言ってしまう。
その迫力に圧されて、間髪いれずにプリムローズに申し訳なく謝罪した。
「ご、ごめんなさい!
もちろん、違うとは思います。
その確認のつもりでー」
「キツく言って、スミマセン。
この件でイライラしていて、ふたりに当たってしまったわ」
「普段とは違う心持ちですから、私は気にしていませんわ。
お国に帰って、それっきりはありませんよね。
プリムローズ様」
友人になったプリムローズが、ヘイズに戻って来ないのではと不安にかられる。
「フレデリカ様にライラ様。
必ずや、ここヘイズに戻ります。
まだ、行きたい場所や学びたいことが残っておりますもの」
プリムローズの言葉に安心したのか、笑顔でよかったを何度も声にする。
この話題はしないようにして、手紙とは関係ない話題でお喋りを楽しんだ。
学園から帰宅するとプリムローズは、また手紙の続きを読み出す。
「お茶でございます。
お嬢様、皆様どのようにこの件を書かれておられますか?」
クラレンスの屋敷で一緒に働いていた人たちの暗くなった顔が、メリーの頭の中では浮かんでは消える。
「クラレンスの領地に、調査しに役人たちが訪れたと手紙に書かれていたわ。
帳簿を調べたり、お祖父様に代わって管理している叔父様に詳しく聞き取りをしたみたい。
領民たちにも、抜き打ちで探りを入れたそうよ」
「御領地まで疑われているのですか?!
旦那様の話だけでは、信用できないってことですか」
「疑われると思うよ。
エテルネルでは、王都と肩を並べるぐらいクラレンスは賑わっているしね。
なんでこんなに繁栄しているんだと、別々に念入りに調べた。
私でもそうするわ」
あっけらかんと言われて呆気になるが、メリーは怒るような素振りでプリムローズに文句を言っていた。
「お嬢様は、どちらの味方なのですか!?
クラレンス領を土足で入るようなことをされて、悔しくはないのですか!?」
責められるように、メリーにギャンギャン言われて自分の手で耳を防ぐ。
「仕方ないわよ、メリー。
問題の孤児院ボンヌ・シャンスの建物が、立派すぎて目をつけられたみたいね。
建てた資金の出どころとか。
私が祖父母に、考えなしに頼んだのがいけなかったのかなぁ」
あの頃は、これが一番正しい。
善いことをしたと思って、自分が自慢げに張り切っていたのを頭に浮かべる。
現在、それが理不尽な形で自分に返ってきた。
「調べたら、疑いは晴れます。
孤児院の方は、言葉も出ないほど酷い有り様でした。
お嬢様は、善い行いをしたのです。
悔やむようなことを言わないでくださいませ」
「本当そうだよね。
勿論したことは、悔やんでない。
前王妃に、事前報告しなかったのを悔やんでいる。
彼女に一泡食らわそうとした。
意地の悪い考えが、今になって裏目にでたわ」
苦々しく紅茶を飲むプリムローズを見て、彼女は苦笑してしまう。
母親が【矢面に立つ】だろう。
元王族だった、第1王子と第2王子。
学園で苛められたりしていないかと、ふたりの身を案じていた。
「彼らこそ、矢面に立たされているのではないかしら。
立ち向かえると思うけど、近くで様子を見られないのがもどかしいわ。
あの瞳の強さを失ってなければ、きっと大丈夫だわ」
「どなたを仰っているのですか?
お嬢様、気になっている事があるのですがー。
御側室スザナ様は、臨月に差し掛かっていませんか?」
「…………!
メリー、よく気づいたわね。
スザナ様はよく手紙を送ってくれたけど、今回は入ってなかったわ」
「初産ですから……。
いろいろと準備とかで、忙しくされているのではないでしょうか」
あえて体調不良を言わないで、プリムローズの心配を軽くするように気遣う。
「ねぇ、これって!
スザナ様のお子が誕生するのを、嫌がる勢力の仕業だと思わない?
メリーはどう思う?」
これまでの手紙の内容から、スザナの出産時期を狙って仕掛けたのだろう。
メリーの女としての勘が働いて、プリムローズに話を振っていた。
「偶然でなければ、思惑があったとしかー。
ですが、考えすぎではと私は思いますよ」
プリムローズは想像力が逞しく、深読みし過ぎて空回りすることが多い。
これが心配の種である。
「側室のスザナ様が、もし王子をお産み遊ばせたら……。
やがては、国王の座をめぐってルシアン殿下と揉める火種になるかもしれない」
お嬢様の悪い癖が出たわと、メリーは呆れて聞いていた。
「まだ、お生まれにもなっておりませんよ。
考えすぎでは?」
人差し指をメリーの顔に向けて指しながら推理を始めた。
「そうなる前に、お腹の子を始末したい人にはこの騒ぎは使えるよね。
誰が怪しいかしら?」
「キャロライン王妃様は、スザナ様のご懐妊を喜んでおられます。
スザナ様と仲も良いではありませんか」
1番疑わしい人物を、メリーは強く否定した。
「キャロライン王妃でなくても、ウィルスターから一緒に来た者が裏で手を引いてる可能性があるわよ」
「もし、本当なら物騒ですね。
スザナ様の身辺が心配ですわ」
メリーは、なにか閃いて手をパーンと叩く。
「そうでございます!
お嬢様の特殊能力!
予知夢を見れば、簡単に分かるのでは!?」
「それがねぇ~。
知らせが来てから、頑張ってやっているんだけど…。
いつの間に寝ていて、朝になっている。
うわぁーん、私って役立たずなのよ~!」
大きな声で近くで騒ぐので、メリーはケーキを小さく一口切り分けて口の中に入れてあげる。
静まりモグモグすると、みるみると笑顔になっていた。
ゴックンと喉をならして飲み込むと、プリムローズが変なことを言い出した。
「あの男が、一番近くに王妃の近くにいるわ。
あの人、無口で不気味なのよ」
「あの男?
あの人とは誰ですか?」
「だから、王妃のあいー」
「あいー??」
『王妃の愛人。
エテルネル国王シャルルから、私に内密で教えてくれたことだ。
メリーでも話せない』
普段は思ったことをベラベラ話すが、案外にも口は固いほうだった。
どう誤魔化せばいいか。
プリムローズは知恵を捻る。
「王妃様の愛息ルシアン殿下よ!」
「ルシアン殿下は、無口ですか?
どちらかと言えば、饒舌の部類です。
不気味なのは、言い方が変ですけど分かります。
考えつかない行動されて、私も死ぬほど苦労されましたからー」
以前、プリムローズを追って黒い森へと行こうとした。
それをメリーが、止めようとした事件である。
「その殿下の手紙には、どう書かれておりましたか?」
「もうすぐ、弟か妹が生まれる。
嬉しい、楽しみだぁ~と。
相変わらず、呑気に書いてあったわ。
スザナ様とお腹の子を大事にされているのが、文面から兄バカになっていたわ」
「クスッ、性格は素直な方ですからね。
お子様の性別がどちらなのか。
分からないのが、もどかしいですわ。
王女殿下なら、こんな気苦労はありませんのにー」
「女の子なら、美女になるのは間違いないわ。
スザナ様、お綺麗ですもの。
もし、母子と共に何かあったら私が許さない」
「ヴィクトリア様も、目を光らせておられますから。
意気がらなくても平気ですよ。
王女様がご誕生になるように、一緒にお祈りでも致しましょう」
プリムローズを宥めているが、なにげに酷いことを言うのだった。
深読みすればするほどに、プリムローズたちはタメ息が出てしまう。
「出産って経験してみないと、どんなのか想像できない。
あの母は、私を含めて3人も産んでいるのよね。
これだけは、尊敬に値しますわ」
「女性にとって、初めての出産は特に危険です。
出産時に、命を落としやすいそうでございますよ」
メリーに同意して、曇り顔で首を縦に振る。
黙って、紅茶を口に含む。
こうすれば話すことも出来ないし、彼女も察してくれるだろう。
「つい、要らぬことを申しました。
お嬢様、私は失礼致します」
気持ちを汲み取ると、メリーは軽く頭を下げて部屋を去っていった。
「スザナ様は、亡き前夫を最後まで離縁せずに看病された。
見かけは美しく儚げだが、芯は誰より強い方。
母子共々、ご無事を祈るしかない」
スザナの姿を思い浮かると、先程まで話していたメリーの顔が次に浮かんできた。
結婚してギルと関係を持てば、すぐに子供が授かるかもしれない。
彼女との主従関係を、この件がすんだら終わらせるいい機会だと考えていた。
「エテルネルに帰国したら、メリーの婚姻の日取りを決めよう。
お祖母様なら、花嫁衣装をもう用意して待っているかもね」
悶々と過ごしていた日々は、気づけばエテルネルに帰国する数日を残すだけになる。
ヘイズに留学して約1年を過ごし、初めてのエテルネルの帰郷だった。
お昼になると食べながら、また読む。
友人たちの手紙の中身は、査問会が必ずどこかに盛り込まれていた。
「プリムローズ様、聞こえてますか!?
クラレンス公爵令嬢!
お食事中に、手紙を読むのはお止めください。
お行儀悪いですよ」
ライラは見ていられなくなり、
目の前で文字を追う彼女に注意する。
そして、それを素早く奪ってしまった。
「これは、没収します」
「あーっ、手紙が~!
行儀が悪いとは分かっております。
どうしても気になって…。
海を隔てたヘイズにいます。
どんな状況かを、早く知りたいのです」
「ライラ様、プリムローズ様は込み入った事情があるみたいですわ。
宜しければ、私たちに何があったか教えてくれませんか?」
フレデリカは、いつもとは違う彼女が気になる。
その理由を伺ってくるのだった。
「う~ん、どうしようかなぁ?どこの国にも、ありそうな事ですし……。
まっ、いいか。
もしも、身近で起こったら参考になるかも。
じゃ、話しますね!」
プリムローズは子供の頃、自分の発案で店を開いた話から始めた。
「最初のお店セパヌイールで、平民の夫人たちが噂していた。
プリムローズ様がそこに居て、たまたま偶然に耳にしたのですね」
財政難の孤児院が気になり、プリムローズとメリーでそこを訪れた。
次の話に移ると、ライラとフレデリカの顔つきが険しくなっていく。
「その王妃様がいけませんわ。
ご自分の仕事を蔑ろにして、友人に任せるなんて!」
「職務を一緒にされて、手伝いぐらいにすれば良かったのよ。
そうすれば、汚職までに発展しなかったと思います」
フレデリカとライラの指摘は、もっともで異論の余地はなかった。
「そこに尽きるのよ。
丸投げは、誰が考えてもマズい。
必ず、【矢面に立つ】わ。
前王妃様が査問会で、どう言い訳するか心配だわ」
学生時代に、虐めにあったと噂されていた。
一斉に責められたりしたら、昔を思い出してパニックになってしまいそう。
プリムローズは、それが気掛かりだった。
「【矢面に立つ】って、
質問や非難などが集中する立場の意味ですよね」
「王妃様の立場だったら、文句や非難されてこなかったでしょう。
きっと、戸惑ってしまうわ」
フレデリカは、独り言のように言う。
『イヤイヤ、慣れっこです。
付き合っていた王子様に、泣いてチクっていた。
なかなか腹黒い女だったとー』
エテルネルで、プリムローズが夫であるリンドール伯爵を通じて知り合った。
奥方マーガレット夫人と祖母から聞いたので、これはかなり確かな情報だろう。
「えーっと……。
それが、そうでもなさそうなの」
二人の話に困り顔で、プリムローズは学生時代の噂話を語りだした。
「本当に?
王妃だったお方が、嫌がらせをされていたのですか?」
「前王妃様は、貧しい伯爵令嬢だったのです。
王子の妃になるには、低い身分の方でした。
嫉妬や、やっかみもあったと聞き及んでます」
「当然ございます!!」
「話の通りの方なら、私もイジメるかもね!」
ライラとフレデリカは、思っていたことをハッキリと言った。
「こんな理由で、夏休みに入ったらすぐ急ぎ帰国します」
「ご心配ですね。
いいづらいですが、プリムローズ様のご実家。
クラレンス公爵は、まさか不正はしてませんよね」
「していません!!
我がクラレンスは、孤児院や教会に多額の寄付をしている立場です」
憤慨したプリムローズが、フレデリカにきつく言ってしまう。
その迫力に圧されて、間髪いれずにプリムローズに申し訳なく謝罪した。
「ご、ごめんなさい!
もちろん、違うとは思います。
その確認のつもりでー」
「キツく言って、スミマセン。
この件でイライラしていて、ふたりに当たってしまったわ」
「普段とは違う心持ちですから、私は気にしていませんわ。
お国に帰って、それっきりはありませんよね。
プリムローズ様」
友人になったプリムローズが、ヘイズに戻って来ないのではと不安にかられる。
「フレデリカ様にライラ様。
必ずや、ここヘイズに戻ります。
まだ、行きたい場所や学びたいことが残っておりますもの」
プリムローズの言葉に安心したのか、笑顔でよかったを何度も声にする。
この話題はしないようにして、手紙とは関係ない話題でお喋りを楽しんだ。
学園から帰宅するとプリムローズは、また手紙の続きを読み出す。
「お茶でございます。
お嬢様、皆様どのようにこの件を書かれておられますか?」
クラレンスの屋敷で一緒に働いていた人たちの暗くなった顔が、メリーの頭の中では浮かんでは消える。
「クラレンスの領地に、調査しに役人たちが訪れたと手紙に書かれていたわ。
帳簿を調べたり、お祖父様に代わって管理している叔父様に詳しく聞き取りをしたみたい。
領民たちにも、抜き打ちで探りを入れたそうよ」
「御領地まで疑われているのですか?!
旦那様の話だけでは、信用できないってことですか」
「疑われると思うよ。
エテルネルでは、王都と肩を並べるぐらいクラレンスは賑わっているしね。
なんでこんなに繁栄しているんだと、別々に念入りに調べた。
私でもそうするわ」
あっけらかんと言われて呆気になるが、メリーは怒るような素振りでプリムローズに文句を言っていた。
「お嬢様は、どちらの味方なのですか!?
クラレンス領を土足で入るようなことをされて、悔しくはないのですか!?」
責められるように、メリーにギャンギャン言われて自分の手で耳を防ぐ。
「仕方ないわよ、メリー。
問題の孤児院ボンヌ・シャンスの建物が、立派すぎて目をつけられたみたいね。
建てた資金の出どころとか。
私が祖父母に、考えなしに頼んだのがいけなかったのかなぁ」
あの頃は、これが一番正しい。
善いことをしたと思って、自分が自慢げに張り切っていたのを頭に浮かべる。
現在、それが理不尽な形で自分に返ってきた。
「調べたら、疑いは晴れます。
孤児院の方は、言葉も出ないほど酷い有り様でした。
お嬢様は、善い行いをしたのです。
悔やむようなことを言わないでくださいませ」
「本当そうだよね。
勿論したことは、悔やんでない。
前王妃に、事前報告しなかったのを悔やんでいる。
彼女に一泡食らわそうとした。
意地の悪い考えが、今になって裏目にでたわ」
苦々しく紅茶を飲むプリムローズを見て、彼女は苦笑してしまう。
母親が【矢面に立つ】だろう。
元王族だった、第1王子と第2王子。
学園で苛められたりしていないかと、ふたりの身を案じていた。
「彼らこそ、矢面に立たされているのではないかしら。
立ち向かえると思うけど、近くで様子を見られないのがもどかしいわ。
あの瞳の強さを失ってなければ、きっと大丈夫だわ」
「どなたを仰っているのですか?
お嬢様、気になっている事があるのですがー。
御側室スザナ様は、臨月に差し掛かっていませんか?」
「…………!
メリー、よく気づいたわね。
スザナ様はよく手紙を送ってくれたけど、今回は入ってなかったわ」
「初産ですから……。
いろいろと準備とかで、忙しくされているのではないでしょうか」
あえて体調不良を言わないで、プリムローズの心配を軽くするように気遣う。
「ねぇ、これって!
スザナ様のお子が誕生するのを、嫌がる勢力の仕業だと思わない?
メリーはどう思う?」
これまでの手紙の内容から、スザナの出産時期を狙って仕掛けたのだろう。
メリーの女としての勘が働いて、プリムローズに話を振っていた。
「偶然でなければ、思惑があったとしかー。
ですが、考えすぎではと私は思いますよ」
プリムローズは想像力が逞しく、深読みし過ぎて空回りすることが多い。
これが心配の種である。
「側室のスザナ様が、もし王子をお産み遊ばせたら……。
やがては、国王の座をめぐってルシアン殿下と揉める火種になるかもしれない」
お嬢様の悪い癖が出たわと、メリーは呆れて聞いていた。
「まだ、お生まれにもなっておりませんよ。
考えすぎでは?」
人差し指をメリーの顔に向けて指しながら推理を始めた。
「そうなる前に、お腹の子を始末したい人にはこの騒ぎは使えるよね。
誰が怪しいかしら?」
「キャロライン王妃様は、スザナ様のご懐妊を喜んでおられます。
スザナ様と仲も良いではありませんか」
1番疑わしい人物を、メリーは強く否定した。
「キャロライン王妃でなくても、ウィルスターから一緒に来た者が裏で手を引いてる可能性があるわよ」
「もし、本当なら物騒ですね。
スザナ様の身辺が心配ですわ」
メリーは、なにか閃いて手をパーンと叩く。
「そうでございます!
お嬢様の特殊能力!
予知夢を見れば、簡単に分かるのでは!?」
「それがねぇ~。
知らせが来てから、頑張ってやっているんだけど…。
いつの間に寝ていて、朝になっている。
うわぁーん、私って役立たずなのよ~!」
大きな声で近くで騒ぐので、メリーはケーキを小さく一口切り分けて口の中に入れてあげる。
静まりモグモグすると、みるみると笑顔になっていた。
ゴックンと喉をならして飲み込むと、プリムローズが変なことを言い出した。
「あの男が、一番近くに王妃の近くにいるわ。
あの人、無口で不気味なのよ」
「あの男?
あの人とは誰ですか?」
「だから、王妃のあいー」
「あいー??」
『王妃の愛人。
エテルネル国王シャルルから、私に内密で教えてくれたことだ。
メリーでも話せない』
普段は思ったことをベラベラ話すが、案外にも口は固いほうだった。
どう誤魔化せばいいか。
プリムローズは知恵を捻る。
「王妃様の愛息ルシアン殿下よ!」
「ルシアン殿下は、無口ですか?
どちらかと言えば、饒舌の部類です。
不気味なのは、言い方が変ですけど分かります。
考えつかない行動されて、私も死ぬほど苦労されましたからー」
以前、プリムローズを追って黒い森へと行こうとした。
それをメリーが、止めようとした事件である。
「その殿下の手紙には、どう書かれておりましたか?」
「もうすぐ、弟か妹が生まれる。
嬉しい、楽しみだぁ~と。
相変わらず、呑気に書いてあったわ。
スザナ様とお腹の子を大事にされているのが、文面から兄バカになっていたわ」
「クスッ、性格は素直な方ですからね。
お子様の性別がどちらなのか。
分からないのが、もどかしいですわ。
王女殿下なら、こんな気苦労はありませんのにー」
「女の子なら、美女になるのは間違いないわ。
スザナ様、お綺麗ですもの。
もし、母子と共に何かあったら私が許さない」
「ヴィクトリア様も、目を光らせておられますから。
意気がらなくても平気ですよ。
王女様がご誕生になるように、一緒にお祈りでも致しましょう」
プリムローズを宥めているが、なにげに酷いことを言うのだった。
深読みすればするほどに、プリムローズたちはタメ息が出てしまう。
「出産って経験してみないと、どんなのか想像できない。
あの母は、私を含めて3人も産んでいるのよね。
これだけは、尊敬に値しますわ」
「女性にとって、初めての出産は特に危険です。
出産時に、命を落としやすいそうでございますよ」
メリーに同意して、曇り顔で首を縦に振る。
黙って、紅茶を口に含む。
こうすれば話すことも出来ないし、彼女も察してくれるだろう。
「つい、要らぬことを申しました。
お嬢様、私は失礼致します」
気持ちを汲み取ると、メリーは軽く頭を下げて部屋を去っていった。
「スザナ様は、亡き前夫を最後まで離縁せずに看病された。
見かけは美しく儚げだが、芯は誰より強い方。
母子共々、ご無事を祈るしかない」
スザナの姿を思い浮かると、先程まで話していたメリーの顔が次に浮かんできた。
結婚してギルと関係を持てば、すぐに子供が授かるかもしれない。
彼女との主従関係を、この件がすんだら終わらせるいい機会だと考えていた。
「エテルネルに帰国したら、メリーの婚姻の日取りを決めよう。
お祖母様なら、花嫁衣装をもう用意して待っているかもね」
悶々と過ごしていた日々は、気づけばエテルネルに帰国する数日を残すだけになる。
ヘイズに留学して約1年を過ごし、初めてのエテルネルの帰郷だった。
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ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
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