無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第3章  それぞれの巣立ち

第23話 弱肉強食

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 こちらは、主人プリムローズに去られたメリー。
新たな生活環境に馴染なじめなくて、少しだけ元気がないようだ。
そしてなにやら、誰かと口論してめている。

他国でメイドだった彼女が、現在はゲラン侯爵家の女主人である。
それなのに、ここでは立場が逆転する会話されていた。

「私から命じたり、人を使ったりするのですか?
そうに、コレをお願いって言えません」

「メリー様、そうおっしゃっても……。
婚姻こんいんされたからには、ゲラン侯爵家の一員でございます」

「婚姻式してますから、彼と夫婦なのは間違いありません」

照れるメリーを置き去りにして、淡々と言い聞かせていた。

「ギャスパル様は、正式に家督かとくはまだ譲られてません。
ですが、正式な貴族になられたのですよ」

「きい、貴族ですか?
平民以下だった、この私が…」

『貴族としての自覚がないわ。 
メイドの私と話しているだけで、頭の中が混乱してしまっている。
命じるどころか、自ら率先そっせんして掃除するし……』

苦言するだけで、キルシはズキズキと頭痛を起こした。

「キルシ、私…。
お嬢様みたいにはなれないわ」

頭痛さえぶっ飛ぶ発言に、考えるより先に口から声がでる。

「あんなに高飛車たかびしゃになれとは、私は申してません。
お願いですから、部屋を掃除するのはおやめください。
使用人たちが、どうしてよいか混乱します」

知らない人が会話だけを聞いていたら、どちらが貴族か見分けがつかないだろう。

「そう言えば、お嬢様……。
今頃、お一人で大丈夫でしょうか?
筆頭貴族のあの方が、団体生活ができるはずはない」

「軍学園は、規律では厳しいで有名ですからね」

「もしかして、もう疎外そがいされたり。
すでに、イジメでもされているのではないかと心配です」

自分の話をされているのに、主人だったプリムローズを気にする。

「メリー様より、プリムローズ様は溶け込めているのではと思いますよ。
あのご気性ですから、自分のいいように人を巻き込んで上手くやっていますわ」

キルシの予感は、当たらずとも遠からずであった。


     
 メリーとキルシが話題にしていた人物は、まだ荷物の整理していた。

「コンコン」、扉を叩く音がプリムローズの耳に入ってきた。

「ロッタ先輩が、約束通り迎えに来てくれたのね」

気づくと夕闇ではなく、暗闇に刻々と近づく。
暗い手元で彼女は、本棚に本を並べている途中で放り投げた。
すぐさま扉を開けると、腕を組んで彼女が立っている。

「夕食をしに、食堂へ行こうか。
何か問題はなかったかい?」

問題はありましたよ。
会って初っぱなから、お前は出ていけと言われちゃったよ。
告げ口になるから黙っていよう。
話すのも面倒だし、お腹空いたから元気がでない。

「ロッタ、この子と食堂に行くの?」

現れたのは部屋で嫌味を吐いて捨てた、あの二人組だった。

「やぁ、いつも一緒だね。
おやっ、君たちは夕食を食べないのかい?!」

さらりと受け流してから、プリムローズをエスコートして歩き出した。

『ロッタ先輩ー!
スマートな態度で、嫌味を返してくれて素敵ですわ。
貴女にれてしまいそう』

エテルネルの白黒バラ男子カップルが、彼女の頭の中に浮かびあがる。
そして、自分たちと重ね合わせていた。

  
  大きな平野造りの建物は、ガヤガヤと騒がしい人の声。
食堂だと分かるのは、食欲をそそる匂いがそこかしこから流れてくるからだ。

「食堂は大勢人がいて、かなりひしめき合う。
食事を確保するのも、ひと苦労。
戦地に行ったら、取り合いになる。
その訓練にもなるのだ!」

ロッタは食堂に入る手前で、拳を振りかざして熱く語る。

『だ・か・らぁー!
なんで、そこまで深刻に考えるんだよ!
ここは、学園で食いっぱぐれないでしょ』

それでも否定はしない。
きっと、ロッタ先輩はお腹が空いて大袈裟に仰っているんだわ。

「理解できます。
ですが、現地調達も可能ですよ。
山ならりを海や川なら魚を、そして農民から食料を買うのです。
略奪りゃくだつは最終手段!」

隣でプリムローズの話を聞くと、笑いだしてうなづ快活かいかつに話す。

「君さぁ、見かけとえらく違うね!
実地訓練じっちくんれんとか、戦場に行った経験者みたいだ。
略奪は禁止されている。
しかし、兵にえさせたら大抵は負けるからな」

『ロッタ先輩……。
そこそこキレイな人なのに、頭の中が戦いしかないのかなぁ?
ここにいると、このように染まっていくのかな』


軍学園、そこは軍事学舎。

「ここが大食堂だ。
男女入り混じり、戦場のような殺気さっきが漂う。
おのれのねらった食料を、敵とうばいあう場所である」

「奪う言っておりますが、どうみてもアピール合戦がっせんにしか思えません。
アチラでは、言い争いをしておられますわ」

プリムローズが知る、食堂のイメージは粉々こなごなにすぐに崩れ去る。

『エテルネル学園の食堂で出された。
あのスペシャルデラックスの味が懐かしい~』

エテルネルでは3人の友人たちが、スペシャルデラックスランチを用意して前に置いてくれていたからだ。

「ボーッとしていないで、中へ向かって行くぞ!
私は、Aランチを狙う。
限定お得セットは、この時間ではもう売れ切れている」

「はい、ロッタ先輩!
私も先輩と、同じものに致します」

二人は群衆ぐんしゅうというか、集団をけちらして前に進む。

「てめえ~!ざけんよー!
なに勝手に、前に割り込んでんだよー!○すぞー!」

「お前こそ、うっせーい!
なに、言いかがりするんじゃ~!
コレでも食えや!」

 怒号とパンチの応酬。

男子生徒たちが言い争っていると空間が少しだけ空き、そこからロッタが前へめ始めていく。

「いいか、プリムローズ嬢!
この争いをうまく利用し、なおかつ体を小さくしながら前に進む。
こうして、前にあるカウンターへ向かうんだ」

戦場で敵に見つからないように、草木の間をほふく前進している気分になる。

『この小娘、私について来ている。
初めてなのにやるではないか』

ロッタは気配でプリムローズが側にいるのを見定めてから、注文カウンターの前に躍り出ていた。

「いつも、奇麗なお姉さん!
Aランチを頼むよー!」

「あれっ、ロッタちゃん!
今日は遅いじゃないか。
あいよー、Aランチだね」

華麗な無駄なしのやり取りに感嘆していたが、自分もロッタにおくれをとってはならぬ。

「そこの笑顔が、素敵なお姉様~!
Aランチを宜しくお願いします」

「あいよー!新兵さんかい?
かわいいお嬢ちゃんだ。
アタシにまかせな!」

この食堂の方々も、軍学園に染まっているようだ。
プリムローズとロッタは、無事に食料Aランチを手配し任務にんむを完了したのだった。

「まさに、【弱肉強食じゃにくきょうしょく】の世界だった。
嘘じゃなかったのね」

「強いものが、弱いものを餌食えじきにして栄える意味か。
この現状を見たら、そう思えるかもな」

そう言いながらロッタは、後ろの角に視線を流した。
釣られるようにプリムローズもそちらの方を見てみると、テーブルに何かを置いているようだった。

「あのテーブルは?
何かを置いているように見えますがー」

「気づいてくれたか。
1年生は君と同様に、この取り合いは慣れていない。
食べきれないで残したり、苦手な料理などを寄付するんだ。
もちろん、手をつけてない物だよ」

「よく考慮してますね!
それだけで、量は足りますか?」

「そりゃ、足りないね。
食堂も作りすぎたり、残りそうな料理をソッと置いてくれているだ」

あくまでも好意で、学園側も了承してくれている。

「うんうん、優しい世界です」

プリムローズが何度も頷き、感銘したようだ。

「闘いに破れた者への施しだ。
一品だけ取って、誰でも食べてよいことかになっている」

「施し……。
それは、言い過ぎではないかしら。
ですが、最低限の栄養を口に入れるのですね。
一年生なら、ずっと1年間は貰える?」

「いつまでも、そんなに親切ではないよ。
ずる賢い者や頼りきっている甘い奴らもいる。
これは半年ぐらいで、施しは終わるんだ」

短く笑ってからロッタは、今度は辺りを見回して1ヵ所を首でクイっとプリムローズに合図を送る。
すぐに顔を動かすと、数人が1人の仲間を慰めていた。

「要領が悪いのか、ただの弱者か知らぬがー。
どうやっても獲物にありつけない者もいる。
それが分かっていて、与えてくれる仲間もいるんだ」

時より、ロッタは冷たい言葉を言うと感じた。

『言動がひっかかる。
思い過ごしかもしれないけど、肩肘を張っているように見える』

話していることは間違ってはいないし、とても正論だとは思う。
昔の私も、このロッタ以上に冷酷だったから反論できない。

「一人だけでは、大勢の敵と戦えません。
分かち合うことで、連帯感が芽生めばえます」

部下から祖父グレゴリーが、食事を分けて貰った話を聞いた時の場面が浮かぶ。

『あれは助け合いではなく、無理矢理奪ったに近いと思う。
きっと、お祖父様に文句を言えなかったのね』

プリムローズとロッタが立ち話をしていたら、よく通る声で誰かが呼びかけている。
幾つもある長テーブルのひとつから、手を挙げてロッタ先輩を呼ぶ人がそこにいた。

「ロッター!!
こっちよ~、ここ!」

「おおーっ!
席取りしてくれたんだ。
ジャンヌ、ありがとう!
さぁ、行こうか」

ジャンヌと呼ばれた女性に、ロッタ先輩は返事を返す。
そして、プリムローズは見知らぬ女性へ向かって歩いていた。

今までの生活とは真逆であったが、自分の領地でならず者たちやおたずね者たちと渡り合ってきたのだ。
あれに比べたら、学生などはチョロいと思う。
プリムローズの適応能力てきおうのうりょくがずば抜けているのを、ロッタたちはこれからのち知るのである。

まだまだ、軍学園の未知の世界は続くのだった。
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