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第4章 騎士道を学べ
第5話 目は口ほどに物を言う
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セント・ジョン軍学園。
幾度も言ってくどいと思うが。
ここは、武術を習うだけの場所ではない。
最低限の知識も学ばなくてならない。
それは何かと、討論してみてもムダ。
生徒の希望も考えず、学園が一方的に決めるからだ。
女生徒に至っては、女性の礼儀も知識も必要だ。
何人かは、刺繍針で何度も指を刺しては奇声をあげている。
この声を聞いても、あえて見ないようにしていた友人たち。
奇声があがる度に、ジャンヌとプリムローズはビクッと反応する。
自分たちもつられて、指に針がぶっ刺さりそうになる。
「あ~、ウッ!
痛たた…、また刺してしまった。
刺繍なんかは、お嬢様がすることだろう。
私には必要ないと思うんだ」
さっきから同じことばかり言っている友人に、とうとう我慢できなくなった。
「愚痴っても仕方ないでしょう。
授業の時間割に、組み込まれているんだから。
ほら、黙ってやりましょう」
直訳すれば、黙って静かにやれ。
ロッタに命じているのだ。
隣で騒がれて、集中できなくて迷惑している。
目と唇で作り笑いをする見ていたプリムローズには、この方が怒鳴るよりも恐ろしかった。
励ましているジャンヌも、本当はロッタと同じで思いであった。
まだ完成にほど遠い刺繍を眺めて、ふたりは同時に深いため息をつく。
「刺繍を苦手にしている方は、雑に刺して早く終わらせようとします。
ひと針を丁寧に刺す。
こうなさるとよいですわ」
嫌味のように聞こえたようで、ひがみんだ感情がでてしまう。
「やはり、公爵令嬢だけあって余裕があるな。
こんなのは朝飯前なんだろう」
「ロッタ、その言い方感じ悪いわ。
自分が上手くできからって、プリムローズ嬢に八つ当たりしないでよ」
なにやら、風向きが悪くなってきた。
仲良い二人に、こんなことで口喧嘩して欲しくない。
「そういうのは言われ馴れてますから、べつに気にしませんわ。
刺繍は細かい作業で、イラつきますよね」
「プリムローズ嬢は話がわかるね。
それは君の長所だと思う」
偉そうに言われても、なぜかロッタなら受け流してしまう。
プリムローズは喋っていても、手は止まることはしない。
両立不可能な彼女たちには、これは神業に近かった。
リズミカルな針さばきに、どんな仕上がりかをチラ見する。
「うわぁ~、なにそれはー。
まるで絵画をみたいに綺麗!」
「おいおい!
これ達人の並みだろう」
ここまで誉めてくれると、悪い気はしないプリムローズ。
「ホホホ、でしょう!
渾身の作で名を付けるなら、「白鳥の湖」なんてどうでしょう」
湖面から2羽の白鳥が寄り添って、美しい銀色の羽を広げている。
金と人脈に物言わせて手に入れたようで、一般人には贅沢この上もない銀糸であった。
「見たままじゃん!」
「分かりやすくていいじゃない。
素晴らしい出来映えだわ」
「幼い頃から習っていて、刺繍は得意です。
そこいらの令嬢には、私は負けませんわよ」
小銭を稼ぐために必死にしていたとは、彼女らに恥ずかしくて素直に真実は伝えられない。
プリムローズの頭の中には、謙遜という言葉は存在しないようだ。
これだけ見事な刺繍なら、自慢する気持ちは納得できた。
「どうしたら、そんなに上手に出来るんだ。
私に教えてくれないか?」
赤く滲んだ指先は、見ているだけで痛々しい。
彼女は、藁をつかむ気持ちでお願いする。
そんなロッタに、いい助言を与えたいと思い頭を悩ます。
「こう頭を切り替えて、刺繍してみたらどうでしょう。
針を剣と考え、生地を相手と見立てるのです」
「刺繍と剣術が同じ?!」
「ええ、そうです。
そう思えば、集中して刺繍ができるのではないでしょうか?
迷いを捨てて刺せば、ちょっとはマシになりますよ」
「無茶苦茶な助言に聞こえる。
こんな針が剣に見立てるとか、馬鹿にしているんじゃないかい」
「一理あるんじゃないかしら。
ロッタ、やってみてから文句を言ったらどう?」
ものは例えで彼女の言うとおり、闘うイメージでふたりは刺繍を始めてみる。
そうしたら、どうしたことか。
前よりも格段に、糸筋がキレイに刺せるようになってきた。
「この方法、いいじゃない。
上達したような気になるわ」
「うん、私もだ!
だんだん、刺繍が面白くなってきたぞ」
もともとは集中力はあったようで、迷いがないだけマトモになっていた。
『ロッタ先輩、糸を引く度に変な声を出すのはやめて頂きたいわ。
剣術に当てはめたのは、間違いだったかも……』
何度も指に針を刺していたロッタは、あれから不思議な刺さなくなっていた。
午後の授業は、その剣術をする予定だ。
どんな時間になるのだろうか。
午後の授業は、他のクラスとの剣の稽古。
剣術する所は芝生が広がっていて、たとえもし倒れても草が和らげてくれそうだ。
2クラスの生徒たちは、教師がやって来るのを待っていた。
その間、ロッタはそわそわし落ち着きがない。
『午前中の刺繍していた時も、やけにいつもより針で指を指しまくっていたな』
剣を振っても前後左右に忙しなく動き、ロッタの視線は遠く何かを見ていた。
「ロッタ先輩、誰を探しているんですか?
キョロキョロして、どうしたのですか?」
1番厄介な人に、ズバリと言い当てられてしまった。
プリムローズがかけた言葉を、無視して聞こえないふりをする。
『声は聞こえてるはずだ。
私を無視している。
これは怪しい。
どこかの殿方に関心があるのかしら?』
まだ経験はないクセに、この手のかぎ分け能力は抜群の彼女。
無言で穴が開くほど、ロッタを見つめ続ける。
顔を向ける方向と、その視線の先を追う。
『あれだわ!
誰を見ているんだぁー!!』
プリムローズが勢いよく振り向くと、よく知るスクード公爵の息子のオスモがいた。
『ん?!オスモ様?
違う、その隣の人を気にしているみたいだ。
彼かどうか、確かめてみたい』
お節介な性格と、やじうま根性が同時に発動してしまう。
後ろ姿しか見ることができないロッタに、もどかしさを感じて何とかしてあげたくなる。
「ジャンヌ様とロッタ先輩。
スクード公爵令息オスモ様に、一緒に御挨拶しませんか?」
プリムローズの誘いに、なぜかロッタが難色を示す。
「私は遠慮するよ。
二人で行ってきたらどうだい。
ここで、剣の素振りをしているからさ」
「プリムローズ嬢、もうすぐ先生が参ります。
授業後に挨拶した方がいいわ」
ロッタ先輩に続き、ジャンヌ様まで止めようとしている。
『ジャンヌ様は、ロッタ先輩を庇っている。
やはり、さっきから気にしている方は彼で決まりなのか』
考えを巡らせている間に、気づかないうちに先生が現れてしまった。
「みんなー、揃っておるかぁ~。
今日は合同授業になる。
男女混合だが女生徒と当たったものは、相手をよく見定めるようにな」
先生が登場すると同時に、今日の授業内容を生徒たちに伝えてきた。
要するに弱そうな女生徒は、それなりに手加減しろと言っている。
『誰が相手なのかなぁ?
あの人なら、剣筋でも性格を読み取れるかもしれない』
プリムローズは念じながら、対戦相手を待つことにした。
へんなところで強運の持ち主は、目の前に歩いてくる人物に喜ぶ。
「おぉっ、神は私に手を貸してくれた。
うっひょ~、ドンピシャ!
先生、ありがとう。
これは、やったぁーでございますわ!」
ニッコリする彼女を横目に、ロッタとジャンヌはアッチャ~と困り顔になっていた。
『嘘だろ!?
プリムローズ嬢の対戦相手が、あの人になったのか』
自分の相手に対してお辞儀を無視して、プリムローズはロッタを見ては思う。
『【目は口ほどに物を言う】。
情感の込めた目つきは、口で話す以上に強く相手を捉える』
そんなに視線でロッタは、彼と私が対戦するのが気になるみたいだった。
「レディ、よそ見しないでくれませんか?」
「あら、失礼!
お手柔らかに、よろしくお願いします。
私は、プリムローズ・ド・クラレンスです。
エテルネルから、留学に来てますのよ」
「スクード公爵令息から話を伺っていた方はー。
偶然にも、貴女でしたか。
互いに、いい試合にしましょう」
相手は興味を示すものの、それからは何も話しかけずに優しい笑顔を見せていた。
金髪でフワフワくせ毛で、瞳は茶色で時よりグレーにも変化する。
優しげなほんわかさがトンボことニルスに似ていると、ふと懐かしげな気持ちになる。
「こちらこそ、お互いに頑張りましょう!」
愛想のよい笑みの彼に、彼女も満面の笑みで対抗する。
和やかなほのぼの空気が、他の生徒たちとは異なり辺り一面に漂う。
「では、一本勝負!
両者は構えて、始めー」
先生の気合十分な掛け声が響き渡るが、こちらはどうかというと…。
両者は睨むわけではなく、見つめ合ってなかなか互いに手を出さずにいた。
『あれ、手を出して来ない。
レディーファーストのつもりなのか?
それとも、やる気がないの?』
私から打ち込みしないと、始まらないし終わらないかも。
プリムローズから打ち込むと、彼も返してきた。
その彼を見ていたら、少し左足を庇っているみたいな感じが気になる。
気づいて直視していたら、いつの間にか時間が終了となった。
この人は、始めから勝とうとはしていなかったようだわ。
「引き分けです。
失礼な言い方ですか、見かけより力があって動きも機敏ですね」
「その~、プリムローズ・ド・クラレンスと申しますが~。
貴方は?どなたですか!?」
「あぁ、名前ですね。
伝え忘れてました。
私は、カルヴィ………」
彼が私に名乗ろうとした瞬間、声を被せるかのように割り込み名を呼ぶ。
「お久しぶりです。
ブルムヘル伯爵令息。
お元気でしたか?」
慌てて走ってきたか、ロッタは息が弾んでいた。別の意味で、頬を赤くしてしまったか。
どちらともとれると、プリムローズは思うのだ。
「コートン子爵令嬢だったよね。
君は、試合勝てたかい?!」
会話から察するに、二人は顔見知りの間柄だっただけか。
「親しいお知り合いでしたのね」
「コートン子爵令嬢とは、子供頃に知り合っているんだよ」
「そんな……、勿体ないお言葉です。
ブルムヘル伯爵令息」
話をしている態度に温度差を感じる。
ロッタ先輩は、彼に恋愛と形で好意を持っているのだろうか。
それとも、ただの友人関係なのか。
いったい、どちらなんだろうかと興味があった。
授業が終わるとロッタは、自分の教室に戻っていく彼の後ろ姿を見て独り言をこぼす。
「いつも、普通に優しく接してくれる。
憎んでくれたらいいのに…。
足をああしてしまったのは、私が原因なのだから」
明朗活発な彼女には、似つかわしくない苦悶の表情で両手を強く握る。
その悔やむ声は、前を歩き話しているプリムローズたちの耳には届いてはいなかった。
幾度も言ってくどいと思うが。
ここは、武術を習うだけの場所ではない。
最低限の知識も学ばなくてならない。
それは何かと、討論してみてもムダ。
生徒の希望も考えず、学園が一方的に決めるからだ。
女生徒に至っては、女性の礼儀も知識も必要だ。
何人かは、刺繍針で何度も指を刺しては奇声をあげている。
この声を聞いても、あえて見ないようにしていた友人たち。
奇声があがる度に、ジャンヌとプリムローズはビクッと反応する。
自分たちもつられて、指に針がぶっ刺さりそうになる。
「あ~、ウッ!
痛たた…、また刺してしまった。
刺繍なんかは、お嬢様がすることだろう。
私には必要ないと思うんだ」
さっきから同じことばかり言っている友人に、とうとう我慢できなくなった。
「愚痴っても仕方ないでしょう。
授業の時間割に、組み込まれているんだから。
ほら、黙ってやりましょう」
直訳すれば、黙って静かにやれ。
ロッタに命じているのだ。
隣で騒がれて、集中できなくて迷惑している。
目と唇で作り笑いをする見ていたプリムローズには、この方が怒鳴るよりも恐ろしかった。
励ましているジャンヌも、本当はロッタと同じで思いであった。
まだ完成にほど遠い刺繍を眺めて、ふたりは同時に深いため息をつく。
「刺繍を苦手にしている方は、雑に刺して早く終わらせようとします。
ひと針を丁寧に刺す。
こうなさるとよいですわ」
嫌味のように聞こえたようで、ひがみんだ感情がでてしまう。
「やはり、公爵令嬢だけあって余裕があるな。
こんなのは朝飯前なんだろう」
「ロッタ、その言い方感じ悪いわ。
自分が上手くできからって、プリムローズ嬢に八つ当たりしないでよ」
なにやら、風向きが悪くなってきた。
仲良い二人に、こんなことで口喧嘩して欲しくない。
「そういうのは言われ馴れてますから、べつに気にしませんわ。
刺繍は細かい作業で、イラつきますよね」
「プリムローズ嬢は話がわかるね。
それは君の長所だと思う」
偉そうに言われても、なぜかロッタなら受け流してしまう。
プリムローズは喋っていても、手は止まることはしない。
両立不可能な彼女たちには、これは神業に近かった。
リズミカルな針さばきに、どんな仕上がりかをチラ見する。
「うわぁ~、なにそれはー。
まるで絵画をみたいに綺麗!」
「おいおい!
これ達人の並みだろう」
ここまで誉めてくれると、悪い気はしないプリムローズ。
「ホホホ、でしょう!
渾身の作で名を付けるなら、「白鳥の湖」なんてどうでしょう」
湖面から2羽の白鳥が寄り添って、美しい銀色の羽を広げている。
金と人脈に物言わせて手に入れたようで、一般人には贅沢この上もない銀糸であった。
「見たままじゃん!」
「分かりやすくていいじゃない。
素晴らしい出来映えだわ」
「幼い頃から習っていて、刺繍は得意です。
そこいらの令嬢には、私は負けませんわよ」
小銭を稼ぐために必死にしていたとは、彼女らに恥ずかしくて素直に真実は伝えられない。
プリムローズの頭の中には、謙遜という言葉は存在しないようだ。
これだけ見事な刺繍なら、自慢する気持ちは納得できた。
「どうしたら、そんなに上手に出来るんだ。
私に教えてくれないか?」
赤く滲んだ指先は、見ているだけで痛々しい。
彼女は、藁をつかむ気持ちでお願いする。
そんなロッタに、いい助言を与えたいと思い頭を悩ます。
「こう頭を切り替えて、刺繍してみたらどうでしょう。
針を剣と考え、生地を相手と見立てるのです」
「刺繍と剣術が同じ?!」
「ええ、そうです。
そう思えば、集中して刺繍ができるのではないでしょうか?
迷いを捨てて刺せば、ちょっとはマシになりますよ」
「無茶苦茶な助言に聞こえる。
こんな針が剣に見立てるとか、馬鹿にしているんじゃないかい」
「一理あるんじゃないかしら。
ロッタ、やってみてから文句を言ったらどう?」
ものは例えで彼女の言うとおり、闘うイメージでふたりは刺繍を始めてみる。
そうしたら、どうしたことか。
前よりも格段に、糸筋がキレイに刺せるようになってきた。
「この方法、いいじゃない。
上達したような気になるわ」
「うん、私もだ!
だんだん、刺繍が面白くなってきたぞ」
もともとは集中力はあったようで、迷いがないだけマトモになっていた。
『ロッタ先輩、糸を引く度に変な声を出すのはやめて頂きたいわ。
剣術に当てはめたのは、間違いだったかも……』
何度も指に針を刺していたロッタは、あれから不思議な刺さなくなっていた。
午後の授業は、その剣術をする予定だ。
どんな時間になるのだろうか。
午後の授業は、他のクラスとの剣の稽古。
剣術する所は芝生が広がっていて、たとえもし倒れても草が和らげてくれそうだ。
2クラスの生徒たちは、教師がやって来るのを待っていた。
その間、ロッタはそわそわし落ち着きがない。
『午前中の刺繍していた時も、やけにいつもより針で指を指しまくっていたな』
剣を振っても前後左右に忙しなく動き、ロッタの視線は遠く何かを見ていた。
「ロッタ先輩、誰を探しているんですか?
キョロキョロして、どうしたのですか?」
1番厄介な人に、ズバリと言い当てられてしまった。
プリムローズがかけた言葉を、無視して聞こえないふりをする。
『声は聞こえてるはずだ。
私を無視している。
これは怪しい。
どこかの殿方に関心があるのかしら?』
まだ経験はないクセに、この手のかぎ分け能力は抜群の彼女。
無言で穴が開くほど、ロッタを見つめ続ける。
顔を向ける方向と、その視線の先を追う。
『あれだわ!
誰を見ているんだぁー!!』
プリムローズが勢いよく振り向くと、よく知るスクード公爵の息子のオスモがいた。
『ん?!オスモ様?
違う、その隣の人を気にしているみたいだ。
彼かどうか、確かめてみたい』
お節介な性格と、やじうま根性が同時に発動してしまう。
後ろ姿しか見ることができないロッタに、もどかしさを感じて何とかしてあげたくなる。
「ジャンヌ様とロッタ先輩。
スクード公爵令息オスモ様に、一緒に御挨拶しませんか?」
プリムローズの誘いに、なぜかロッタが難色を示す。
「私は遠慮するよ。
二人で行ってきたらどうだい。
ここで、剣の素振りをしているからさ」
「プリムローズ嬢、もうすぐ先生が参ります。
授業後に挨拶した方がいいわ」
ロッタ先輩に続き、ジャンヌ様まで止めようとしている。
『ジャンヌ様は、ロッタ先輩を庇っている。
やはり、さっきから気にしている方は彼で決まりなのか』
考えを巡らせている間に、気づかないうちに先生が現れてしまった。
「みんなー、揃っておるかぁ~。
今日は合同授業になる。
男女混合だが女生徒と当たったものは、相手をよく見定めるようにな」
先生が登場すると同時に、今日の授業内容を生徒たちに伝えてきた。
要するに弱そうな女生徒は、それなりに手加減しろと言っている。
『誰が相手なのかなぁ?
あの人なら、剣筋でも性格を読み取れるかもしれない』
プリムローズは念じながら、対戦相手を待つことにした。
へんなところで強運の持ち主は、目の前に歩いてくる人物に喜ぶ。
「おぉっ、神は私に手を貸してくれた。
うっひょ~、ドンピシャ!
先生、ありがとう。
これは、やったぁーでございますわ!」
ニッコリする彼女を横目に、ロッタとジャンヌはアッチャ~と困り顔になっていた。
『嘘だろ!?
プリムローズ嬢の対戦相手が、あの人になったのか』
自分の相手に対してお辞儀を無視して、プリムローズはロッタを見ては思う。
『【目は口ほどに物を言う】。
情感の込めた目つきは、口で話す以上に強く相手を捉える』
そんなに視線でロッタは、彼と私が対戦するのが気になるみたいだった。
「レディ、よそ見しないでくれませんか?」
「あら、失礼!
お手柔らかに、よろしくお願いします。
私は、プリムローズ・ド・クラレンスです。
エテルネルから、留学に来てますのよ」
「スクード公爵令息から話を伺っていた方はー。
偶然にも、貴女でしたか。
互いに、いい試合にしましょう」
相手は興味を示すものの、それからは何も話しかけずに優しい笑顔を見せていた。
金髪でフワフワくせ毛で、瞳は茶色で時よりグレーにも変化する。
優しげなほんわかさがトンボことニルスに似ていると、ふと懐かしげな気持ちになる。
「こちらこそ、お互いに頑張りましょう!」
愛想のよい笑みの彼に、彼女も満面の笑みで対抗する。
和やかなほのぼの空気が、他の生徒たちとは異なり辺り一面に漂う。
「では、一本勝負!
両者は構えて、始めー」
先生の気合十分な掛け声が響き渡るが、こちらはどうかというと…。
両者は睨むわけではなく、見つめ合ってなかなか互いに手を出さずにいた。
『あれ、手を出して来ない。
レディーファーストのつもりなのか?
それとも、やる気がないの?』
私から打ち込みしないと、始まらないし終わらないかも。
プリムローズから打ち込むと、彼も返してきた。
その彼を見ていたら、少し左足を庇っているみたいな感じが気になる。
気づいて直視していたら、いつの間にか時間が終了となった。
この人は、始めから勝とうとはしていなかったようだわ。
「引き分けです。
失礼な言い方ですか、見かけより力があって動きも機敏ですね」
「その~、プリムローズ・ド・クラレンスと申しますが~。
貴方は?どなたですか!?」
「あぁ、名前ですね。
伝え忘れてました。
私は、カルヴィ………」
彼が私に名乗ろうとした瞬間、声を被せるかのように割り込み名を呼ぶ。
「お久しぶりです。
ブルムヘル伯爵令息。
お元気でしたか?」
慌てて走ってきたか、ロッタは息が弾んでいた。別の意味で、頬を赤くしてしまったか。
どちらともとれると、プリムローズは思うのだ。
「コートン子爵令嬢だったよね。
君は、試合勝てたかい?!」
会話から察するに、二人は顔見知りの間柄だっただけか。
「親しいお知り合いでしたのね」
「コートン子爵令嬢とは、子供頃に知り合っているんだよ」
「そんな……、勿体ないお言葉です。
ブルムヘル伯爵令息」
話をしている態度に温度差を感じる。
ロッタ先輩は、彼に恋愛と形で好意を持っているのだろうか。
それとも、ただの友人関係なのか。
いったい、どちらなんだろうかと興味があった。
授業が終わるとロッタは、自分の教室に戻っていく彼の後ろ姿を見て独り言をこぼす。
「いつも、普通に優しく接してくれる。
憎んでくれたらいいのに…。
足をああしてしまったのは、私が原因なのだから」
明朗活発な彼女には、似つかわしくない苦悶の表情で両手を強く握る。
その悔やむ声は、前を歩き話しているプリムローズたちの耳には届いてはいなかった。
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