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第4章 騎士道を学べ
第4話 縁は異なもの味なもの
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道路を挟んだ向こう側へ渡るには、馬車が慌ただしく走る道を通らないとならない。
商店が多く並んで栄えている場所は、つぎつぎと馬車が走っている。
後を追いジャンヌとロッタは、前の道を渡ろうと右左と顔を動かす。
ときどき、前を歩くプリムローズの様子を見ていた。
馬車の往来が、思っていたよりも激しい。
危険な道を渡るプリムローズを、止めた方がよいか迷う。
「馬車にひかれてしまったら大変よ。
彼女を連れ戻しましょう」
「遅いよ、ジャンヌ。
もう渡りきっているよ。
彼女が馬車を睨み付けたら、なぜか自然に馬の脚が止まる」
「突然に馬が止まって、馭者は不思議そうな顔をしているわ」
ササっと足早に真っ直ぐに花屋に向かうプリムローズを見て、ジャンヌはロッタの右腕を握りしめた。
「ロッタ、どうしよう。
どうしたらいい!?
プリムローズ嬢は、ふたりに関係を訊くつもりかしら?」
「彼女なら、普通に訊くんじゃない。
ジャンヌに迷惑かけないで、言葉を考えて訊ねるじゃないかな」
自分の予期しない事が起きてしまい、緊張で体が妙に力が入っていた。
ジャンヌの爪が、ロッタの右腕に食い込む。
学園で鍛え抜かれた腕でも、痛さを感じてその手を優しく叩いて教える。
「すまないが、腕が痛いんだけど…。
ジャンヌ、この手を離してくれないか!?」
「腕?ロッタの腕がどうかしたの?
ロッタ、ごめんなさい」
自分が強く握っていた手を腕から離したジャンヌは、ロッタの腕を擦っている間に目を離してしまっていた。
「ジャンヌ、プリムローズ嬢を見てみろよ」
「グズグズしていたら、近くまで行っているわ」
ロッタが慌てて彼女を目で探すと、ちょこちょこ歩いて花屋の前にさしかかっている。
見ていたジャンヌの眉間は、深いシワが刻まれていた。
その表情には、ダメだと絶望を感じさせる。
美しく咲き誇る切り花や、鉢に植えられていた花たちがお出迎えしてくれる。
そんな錯覚に陥っていた。
花を見にきた客人を装って、彼女は大きな声を出していきなり倒れこんだ。
「ああ~ん、痛い!!
うえーん、足が痛い!
転んじゃったよ!」
背後の方でドスーンと、何かが倒れこむような音がする。
そして、小さな女の子の痛がる叫び声がした。
正義感ある彼らは、その声に驚きながらも後ろを振り向く。
「これは大変だ。
気の毒に、大丈夫か!
娘さん、立てるかい?」
彼は側に寄り片膝をつくと、プリムローズを優しく抱き起こし助ける。
「親切な憲兵さん。
ありがとうございます」
プリムローズは一応ペコリと会釈して、感情が入っていない礼を述べる。
遠くから見守る2人からしたら、ありきたりの登場シーンだった。
ジャンヌたちは、下手すぎる演技に笑いも出ない。
「普通以上に普通で、あれでいいんかい?
あんなにも、ゆっくり倒れられるものか?
彼女…、器用だよね」
「痛くないように、受け身までしていたわ。
素人にはわからないけど、彼らの背後で見えてなくて助かったみたいね」
物陰に隠れて二人は、実況見聞してプリムローズを観察している。
「お花屋さんで逢いびきですか?」
「逢い引き?
勤務中にそんな事していないわ」
彼の隣にいた女性隊員は、プリムローズに焦り否定する。
「では、貴女が手にしている。
その赤いバラはなんですか?
仕事中ではございませんの?
世間では、これをー。
給与ドロボウと言いますわ」
出会って数秒で、パンチを炸裂させるかのような言葉。
皮肉を交えた質問に、男女は何が起きたかと驚く。
憲兵の二人は、見知らぬ少女に変なことを言われて不満げにする。
「ちょいと、お嬢さん。
このバラは、私が彼にあげたんだよ!」
店の奥から年配の女性が現れ、3人の会話を聞くと赤いバラを指差した。
「憲兵さんが男前だし、警護してくれている感謝の気持ちであげたんだ。
彼女には、違う花をあげようとしていたんだよ」
そう説明して女性隊員には、白とピンクのバラを手渡した。
「幾つになっても、こういう感情は芽生えるもんだ。
赤いバラは、年甲斐もなくやりすぎたかもね」
花屋のおばさんは、男に流し目を送ってから豪快に笑う。
プリムローズはやっと意味が飲み込めて、苦笑いをして謝罪した。
「申し訳ありませんでした。
勘違いしましたわ。
憲兵さんたちは恋人同士で、花を渡していたと思いましたの。
お付き合いなさっているのでしょう?」
憲兵たちも笑いだしたら止まらないようで、プリムローズの質問にはなかなか返事してくれない。
「花は誤解だったが、間髪入れずに訊いてるな。
それも、返事しなくてはならないように誘導尋問しているぞ」
「ロッタ~、返事を聞くのが怖いわ。
あそこまで、強引に訊かなくてもいいのに」
声が聞こえる場所まで、そっと移動してきたジャンヌとロッタ。
ジャンヌはもうフラフラで、ロッタに寄りかかるように立っていた。
「アーハハハ!
こいつが、俺の彼女だって?」
「彼氏、冗談はやめてくれる。
こんな男は、お断りよ!」
同時に否定する2人は、互いにふざけないでと憮然としている。
「ジャンヌ、聞いたかい。
否定しているようだ」
「恋人とは違うようね。
否定しているけど、本当に付き合ってはいないのかしら!?」
ジャンヌたちは聞き耳を立てなくても、わざと大声でプリムローズは話している。
道を渡りながらも、花屋からの会話は十分に聞こえる。
彼女らはこれ以上暴走する前に、プリムローズを早く捕獲するつもりでいた。
しかし、それでも女の勘が腑に落ちないといってくる。
『しつこいけど、踏み込んで訊いてみよう』
あんな風に言っているが、まだ信じられないでいた。
「それでは、本当にただの同僚でしたのね?」
「お嬢さんは、疑り深いな。
こいつは、血のつがりがある妹だよ」
「こんなのが、彼氏なんて御免被りたいわ」
「なぁーんだ。
顔が似てないから、兄妹だと思えなかった。
考えてみれば、私も姉と兄とは似てなかったわ」
我が身と照らし合わせて、やっとプリムローズは納得する。
こちらを伺うように見ている彼女らに、くるっと反転して振り向く。
ロッタとジャンヌを呼ぶように、早く来てと大きく手招きした。
「あそこにいる友人が、憲兵を目指して軍学園に通っています。
励ましてくれませんか?」
「へぇ~、女性なのか!
それは、珍しいな」
あんなにイヤな事を言っても、この男性は怒らないで優しい人だわ。
それに、興味持ってくれている。
ジャンヌ様と会わせれば、知り合いになれる絶好の機会を作れそう。
見せ前での騒ぎに、違う花屋の人が心配してプリムローズに話しかけてくる。
「こちらの憲兵さんたちは、何か困ったことはないかと聞いてくれただけですよ。
街の皆を気にかけてくれるんです」
「そうでしたか。
ヴァロが平和なのは、憲兵さんが目を光らせているからなのね」
花屋の人と話していたら、ロッタに連れられてジャンヌがやって来た。
「先ほど話した友人です。
この方が将来、憲兵になりたいそうですわ」
ジャンヌの背後に回り、プリムローズは紹介しながら背中を軽く押した。
押し出される形で、ジャンヌは憧れの人たちの近くに行く。
「君が、憲兵になりたい子か」
腰を屈めてジャンヌの顔を、まじまじと見て話しかけた。
いつも遠くでしか見てなかった彼が、こんなに間近で笑いかけてくれる。
「えぇ、はい!
悪い方から、善良な人達を守りたいのです」
真面目すぎる返答が面白くないようで、妹と言っている彼女はジャンヌにちょっかいを出す。
「もっといい職業があるんじゃない。
憲兵はお給料は安いし、危険なこともあるわよ」
「そうかもしれません。
ですが、女性には女性しかわからない事案もあります。
そんな人たちを手助けできる憲兵になりたいのです」
ジャンヌには崇高な思いがあり、将来は憲兵になりたいと願っていた。
この男性が好きで、後を追って憲兵になりたいと思い込んでいた。
プリムローズは胸の内で、そんな下世話な想像をした己を恥じる。
「あの~、覚えてはいないと思います。
私は以前、貴方に助けられたことがありました。
軍学園に入る前に街で迷っていた私を、学園まで送ってくれたのです」
「ごめん、覚えてない」
「もうちょっと、言い方があるでしょう。
この人、感じ悪くてごめんなさいね」
ガッカリした様子を滲ませていたが、彼女は切り替えて彼をもう一度見て話してきたのだ。
「3年も前の話になります。
田舎の領地から、王都に来たばかりで不安でした。
そんな私に、貴方は頑張れって励ましてくれたのです」
「ジャンヌ様、そんな前の出来事でしたの!?」
プリムローズは正直に感想を言うと、同じだったのか彼らも呆れ返る。
「【縁は異なもの味なもの】。
男女の結びつきは不思議なもので、どこで出会うかわからない。
だから、こうしてまた会えたんだ」
ジャンヌ様の想い人は、日に焼けた顔に白い歯を光らせて笑顔を見せた。
ギザな人と、プリムローズは不快になる。
近くで思い切り、ケッとバカにする声がした。
「ふ~ん、チャラそうな男。
ジャンヌには、直接言えないけどさ」
「…………、第一印象は大事って言いますもんね」
ロッタと同じ考えをしていて、同意見でウンウンと頷いてしまった。
「相手を好きになると、あれくらいは気にならないんだな。
ジャンヌと彼は、私は合わないと思う」
彼らとは見える程度に離れ、わざと違う方向を見ながら不満げにした。
親しい友人でも、男の趣味は合わないようだった。
距離はあってもジャンヌの顔からは、湯気がでそうなくらいに真っ赤になっていた。
本人以外は、彼に気があるのはまる分かりである。
プリムローズから見れば、鼻の下が伸び締まりのない顔。
ジャンヌの様子に、気をよくしてご満悦だった。
「そ、そ、そうですね。
こうして、あの時のお礼をキチンと言えてよかったです」
背丈は、普通の一般人より高い。
制服の上から胸板や腕をみて、鍛えているようにみえた。
顔立ちも整って、爽やかな部類だ。
横に並ぶジャンヌの瞳は、彼の笑みに惚けて夢見心地で見つめている。
『なるほど…、つい惚れてしまう笑顔だ。
思わせぶりな言葉を言って、ジャンヌ様をもて遊んでいる。
この男、罪深い奴だわ』
プリムローズとロッタは、二人のやり取りを交互に聞き同じ考えでいた。
「憲兵になるのは、子供の頃からの夢です。
あなた方がいるから、安心して皆が暮らせています。
私も、いつか仲間の一員になりたい」
「そこまで頼られると、俺らの責任は重いな。
来るのを待っているよ。
そうだよな、妹!」
「えっ、ええ…。
兄さんと同じです。
また、会いましょうね」
たどたどしい兄妹の会話に、プリムローズは違和を感じた。
しかし真っ赤なお顔のジャンヌ様は、本当にこの励ましを嬉しそうにしていた。
恋する乙女の気持ちを素直に羨ましいと、プリムローズはその輝く笑顔を見て思うのだ。
職務に戻る彼らの後ろ姿を見送り、私たちは寮の門限前に帰ることにする。
「彼が、どんな方なのか。
深くは知りませんが、あ胸がドキドキしました。
これは恋なんでしょうか?」
「私たちに言われてもね~。
ねえ、ロッタ先輩!」
「憲兵になって、身近に居たらハッキリするんじゃない」
「仕事と恋愛を、手に入れるためにー。
これからは、もっと精進致しますわ」
精進ね…。
軍学園で学ぶと恋に対しても、このように堅苦しく洗脳されてしまうのだろうか。
『でもまぁ、青春ぽくていいわ。
年上で憧れの職業で働いている人に、恋愛感情が芽生えてもおかしくはない』
ロッタ先輩は、そんな方がいるのかしらと良からぬ考えを巡らす。
隣でジャンヌ様と話すのを見ては、今度はロッタにお節介を発動しかけている。
この彼女の要らぬお世話が、迷惑を周辺に導くのだった。
商店が多く並んで栄えている場所は、つぎつぎと馬車が走っている。
後を追いジャンヌとロッタは、前の道を渡ろうと右左と顔を動かす。
ときどき、前を歩くプリムローズの様子を見ていた。
馬車の往来が、思っていたよりも激しい。
危険な道を渡るプリムローズを、止めた方がよいか迷う。
「馬車にひかれてしまったら大変よ。
彼女を連れ戻しましょう」
「遅いよ、ジャンヌ。
もう渡りきっているよ。
彼女が馬車を睨み付けたら、なぜか自然に馬の脚が止まる」
「突然に馬が止まって、馭者は不思議そうな顔をしているわ」
ササっと足早に真っ直ぐに花屋に向かうプリムローズを見て、ジャンヌはロッタの右腕を握りしめた。
「ロッタ、どうしよう。
どうしたらいい!?
プリムローズ嬢は、ふたりに関係を訊くつもりかしら?」
「彼女なら、普通に訊くんじゃない。
ジャンヌに迷惑かけないで、言葉を考えて訊ねるじゃないかな」
自分の予期しない事が起きてしまい、緊張で体が妙に力が入っていた。
ジャンヌの爪が、ロッタの右腕に食い込む。
学園で鍛え抜かれた腕でも、痛さを感じてその手を優しく叩いて教える。
「すまないが、腕が痛いんだけど…。
ジャンヌ、この手を離してくれないか!?」
「腕?ロッタの腕がどうかしたの?
ロッタ、ごめんなさい」
自分が強く握っていた手を腕から離したジャンヌは、ロッタの腕を擦っている間に目を離してしまっていた。
「ジャンヌ、プリムローズ嬢を見てみろよ」
「グズグズしていたら、近くまで行っているわ」
ロッタが慌てて彼女を目で探すと、ちょこちょこ歩いて花屋の前にさしかかっている。
見ていたジャンヌの眉間は、深いシワが刻まれていた。
その表情には、ダメだと絶望を感じさせる。
美しく咲き誇る切り花や、鉢に植えられていた花たちがお出迎えしてくれる。
そんな錯覚に陥っていた。
花を見にきた客人を装って、彼女は大きな声を出していきなり倒れこんだ。
「ああ~ん、痛い!!
うえーん、足が痛い!
転んじゃったよ!」
背後の方でドスーンと、何かが倒れこむような音がする。
そして、小さな女の子の痛がる叫び声がした。
正義感ある彼らは、その声に驚きながらも後ろを振り向く。
「これは大変だ。
気の毒に、大丈夫か!
娘さん、立てるかい?」
彼は側に寄り片膝をつくと、プリムローズを優しく抱き起こし助ける。
「親切な憲兵さん。
ありがとうございます」
プリムローズは一応ペコリと会釈して、感情が入っていない礼を述べる。
遠くから見守る2人からしたら、ありきたりの登場シーンだった。
ジャンヌたちは、下手すぎる演技に笑いも出ない。
「普通以上に普通で、あれでいいんかい?
あんなにも、ゆっくり倒れられるものか?
彼女…、器用だよね」
「痛くないように、受け身までしていたわ。
素人にはわからないけど、彼らの背後で見えてなくて助かったみたいね」
物陰に隠れて二人は、実況見聞してプリムローズを観察している。
「お花屋さんで逢いびきですか?」
「逢い引き?
勤務中にそんな事していないわ」
彼の隣にいた女性隊員は、プリムローズに焦り否定する。
「では、貴女が手にしている。
その赤いバラはなんですか?
仕事中ではございませんの?
世間では、これをー。
給与ドロボウと言いますわ」
出会って数秒で、パンチを炸裂させるかのような言葉。
皮肉を交えた質問に、男女は何が起きたかと驚く。
憲兵の二人は、見知らぬ少女に変なことを言われて不満げにする。
「ちょいと、お嬢さん。
このバラは、私が彼にあげたんだよ!」
店の奥から年配の女性が現れ、3人の会話を聞くと赤いバラを指差した。
「憲兵さんが男前だし、警護してくれている感謝の気持ちであげたんだ。
彼女には、違う花をあげようとしていたんだよ」
そう説明して女性隊員には、白とピンクのバラを手渡した。
「幾つになっても、こういう感情は芽生えるもんだ。
赤いバラは、年甲斐もなくやりすぎたかもね」
花屋のおばさんは、男に流し目を送ってから豪快に笑う。
プリムローズはやっと意味が飲み込めて、苦笑いをして謝罪した。
「申し訳ありませんでした。
勘違いしましたわ。
憲兵さんたちは恋人同士で、花を渡していたと思いましたの。
お付き合いなさっているのでしょう?」
憲兵たちも笑いだしたら止まらないようで、プリムローズの質問にはなかなか返事してくれない。
「花は誤解だったが、間髪入れずに訊いてるな。
それも、返事しなくてはならないように誘導尋問しているぞ」
「ロッタ~、返事を聞くのが怖いわ。
あそこまで、強引に訊かなくてもいいのに」
声が聞こえる場所まで、そっと移動してきたジャンヌとロッタ。
ジャンヌはもうフラフラで、ロッタに寄りかかるように立っていた。
「アーハハハ!
こいつが、俺の彼女だって?」
「彼氏、冗談はやめてくれる。
こんな男は、お断りよ!」
同時に否定する2人は、互いにふざけないでと憮然としている。
「ジャンヌ、聞いたかい。
否定しているようだ」
「恋人とは違うようね。
否定しているけど、本当に付き合ってはいないのかしら!?」
ジャンヌたちは聞き耳を立てなくても、わざと大声でプリムローズは話している。
道を渡りながらも、花屋からの会話は十分に聞こえる。
彼女らはこれ以上暴走する前に、プリムローズを早く捕獲するつもりでいた。
しかし、それでも女の勘が腑に落ちないといってくる。
『しつこいけど、踏み込んで訊いてみよう』
あんな風に言っているが、まだ信じられないでいた。
「それでは、本当にただの同僚でしたのね?」
「お嬢さんは、疑り深いな。
こいつは、血のつがりがある妹だよ」
「こんなのが、彼氏なんて御免被りたいわ」
「なぁーんだ。
顔が似てないから、兄妹だと思えなかった。
考えてみれば、私も姉と兄とは似てなかったわ」
我が身と照らし合わせて、やっとプリムローズは納得する。
こちらを伺うように見ている彼女らに、くるっと反転して振り向く。
ロッタとジャンヌを呼ぶように、早く来てと大きく手招きした。
「あそこにいる友人が、憲兵を目指して軍学園に通っています。
励ましてくれませんか?」
「へぇ~、女性なのか!
それは、珍しいな」
あんなにイヤな事を言っても、この男性は怒らないで優しい人だわ。
それに、興味持ってくれている。
ジャンヌ様と会わせれば、知り合いになれる絶好の機会を作れそう。
見せ前での騒ぎに、違う花屋の人が心配してプリムローズに話しかけてくる。
「こちらの憲兵さんたちは、何か困ったことはないかと聞いてくれただけですよ。
街の皆を気にかけてくれるんです」
「そうでしたか。
ヴァロが平和なのは、憲兵さんが目を光らせているからなのね」
花屋の人と話していたら、ロッタに連れられてジャンヌがやって来た。
「先ほど話した友人です。
この方が将来、憲兵になりたいそうですわ」
ジャンヌの背後に回り、プリムローズは紹介しながら背中を軽く押した。
押し出される形で、ジャンヌは憧れの人たちの近くに行く。
「君が、憲兵になりたい子か」
腰を屈めてジャンヌの顔を、まじまじと見て話しかけた。
いつも遠くでしか見てなかった彼が、こんなに間近で笑いかけてくれる。
「えぇ、はい!
悪い方から、善良な人達を守りたいのです」
真面目すぎる返答が面白くないようで、妹と言っている彼女はジャンヌにちょっかいを出す。
「もっといい職業があるんじゃない。
憲兵はお給料は安いし、危険なこともあるわよ」
「そうかもしれません。
ですが、女性には女性しかわからない事案もあります。
そんな人たちを手助けできる憲兵になりたいのです」
ジャンヌには崇高な思いがあり、将来は憲兵になりたいと願っていた。
この男性が好きで、後を追って憲兵になりたいと思い込んでいた。
プリムローズは胸の内で、そんな下世話な想像をした己を恥じる。
「あの~、覚えてはいないと思います。
私は以前、貴方に助けられたことがありました。
軍学園に入る前に街で迷っていた私を、学園まで送ってくれたのです」
「ごめん、覚えてない」
「もうちょっと、言い方があるでしょう。
この人、感じ悪くてごめんなさいね」
ガッカリした様子を滲ませていたが、彼女は切り替えて彼をもう一度見て話してきたのだ。
「3年も前の話になります。
田舎の領地から、王都に来たばかりで不安でした。
そんな私に、貴方は頑張れって励ましてくれたのです」
「ジャンヌ様、そんな前の出来事でしたの!?」
プリムローズは正直に感想を言うと、同じだったのか彼らも呆れ返る。
「【縁は異なもの味なもの】。
男女の結びつきは不思議なもので、どこで出会うかわからない。
だから、こうしてまた会えたんだ」
ジャンヌ様の想い人は、日に焼けた顔に白い歯を光らせて笑顔を見せた。
ギザな人と、プリムローズは不快になる。
近くで思い切り、ケッとバカにする声がした。
「ふ~ん、チャラそうな男。
ジャンヌには、直接言えないけどさ」
「…………、第一印象は大事って言いますもんね」
ロッタと同じ考えをしていて、同意見でウンウンと頷いてしまった。
「相手を好きになると、あれくらいは気にならないんだな。
ジャンヌと彼は、私は合わないと思う」
彼らとは見える程度に離れ、わざと違う方向を見ながら不満げにした。
親しい友人でも、男の趣味は合わないようだった。
距離はあってもジャンヌの顔からは、湯気がでそうなくらいに真っ赤になっていた。
本人以外は、彼に気があるのはまる分かりである。
プリムローズから見れば、鼻の下が伸び締まりのない顔。
ジャンヌの様子に、気をよくしてご満悦だった。
「そ、そ、そうですね。
こうして、あの時のお礼をキチンと言えてよかったです」
背丈は、普通の一般人より高い。
制服の上から胸板や腕をみて、鍛えているようにみえた。
顔立ちも整って、爽やかな部類だ。
横に並ぶジャンヌの瞳は、彼の笑みに惚けて夢見心地で見つめている。
『なるほど…、つい惚れてしまう笑顔だ。
思わせぶりな言葉を言って、ジャンヌ様をもて遊んでいる。
この男、罪深い奴だわ』
プリムローズとロッタは、二人のやり取りを交互に聞き同じ考えでいた。
「憲兵になるのは、子供の頃からの夢です。
あなた方がいるから、安心して皆が暮らせています。
私も、いつか仲間の一員になりたい」
「そこまで頼られると、俺らの責任は重いな。
来るのを待っているよ。
そうだよな、妹!」
「えっ、ええ…。
兄さんと同じです。
また、会いましょうね」
たどたどしい兄妹の会話に、プリムローズは違和を感じた。
しかし真っ赤なお顔のジャンヌ様は、本当にこの励ましを嬉しそうにしていた。
恋する乙女の気持ちを素直に羨ましいと、プリムローズはその輝く笑顔を見て思うのだ。
職務に戻る彼らの後ろ姿を見送り、私たちは寮の門限前に帰ることにする。
「彼が、どんな方なのか。
深くは知りませんが、あ胸がドキドキしました。
これは恋なんでしょうか?」
「私たちに言われてもね~。
ねえ、ロッタ先輩!」
「憲兵になって、身近に居たらハッキリするんじゃない」
「仕事と恋愛を、手に入れるためにー。
これからは、もっと精進致しますわ」
精進ね…。
軍学園で学ぶと恋に対しても、このように堅苦しく洗脳されてしまうのだろうか。
『でもまぁ、青春ぽくていいわ。
年上で憧れの職業で働いている人に、恋愛感情が芽生えてもおかしくはない』
ロッタ先輩は、そんな方がいるのかしらと良からぬ考えを巡らす。
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