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第4章 騎士道を学べ
第19話 苦しい時の神頼み
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正門へ向かう道を、窓から木々がぶれて流れていく。
焦る心持ちの彼女は、馬車の中で冷静になった。自分がエリアスに対して、ちゃんと別れ際の挨拶してなかったのに気づく。
「やってしまったな。
優しい彼なら、たぶん許してくれるよね。
周りで仕えていた人は、かなり呆れてしまったようだけど」
考えていると落ち込んできたが、車内で甘く漂う匂いに気持ちが切り替わる。
ドレスのポケットに手を突っ込んで、王宮の料理長から頂いたレシピを取り出す。
これに目を通して読むと、ニンマリしてからニタニタする。
『これでまた、ヘイズのお菓子文化を広められる。
いやー、素晴らしい!』
ヘイズとエテルネルの間には、両国の国交宣言してから文化交流が始まっていた。
これに夢中になると、落ち込んでいた気分さえ忘れてしまう。
お茶と言っても昼食兼ねていたため、寮へ戻ってから夕食の時間だった。
入浴を終えてから就寝まで、独り部屋でエテルネルの祖父母に本のお願いの手紙を書いてから眠りにつくのである。
書き上げた手紙を明日出そうと、書き忘れや内容を再度見直す。
そして、出し忘れないように机の目立つ真ん中に置くと同時に音がする。
外からノックされて扉を開くと、予想外の人が立っていた。
見れば不機嫌そうな顔が、プリムローズの目にそばかす顔映り込んだ。
「貴女にお客さんよ!
わざわざ、知らせに来てあげたのを感謝しなさい。
談話室で待っているわ」
「それは有難うございます。
ソバカスさん、ちょっと待っててくれるかしら?」
「ソバカスじゃないわよ。
待てって、暇ではないの」
「まあまあ、お礼にクッキーでもどうかと思いまして。
貰ってくれるかしら?」
クッキーと聞き、目がキラッと光った。
喜びで顔が緩んでいくのを、プリムローズは見逃さないで表情を引き締めた。
『素直ではないな。
こういうのは、嫌いではない。
キャンキャン吠えて見えて。
煩いけど、可愛いらしいのよね』
「私の貴重な時間を、貴女に使っているんだし。
当然と言っては当然よね。
貰ってあげてもいいわ」
「貰ってあげても?」
こんなに上から言っているのかと、プリムローズは首を捻りたくなる。
どこか親近感もあるのは、昔の自分によく似ているからだ。
性格が近いとぶつかり合って、反発することに気づかない。
「はいはい、待ってあげるから早く用意してね。
貴女もお客さんを待たせているんでしょう」
「!!」
袋に入れてあったお菓子を取りに行き、黙って彼女の胸に押し付ける。
「教えてくれてありがとう。
ソバカスさん、食べ終わったら味の感想を聞かせてね」
「ソバカス、ソバカスってバカの一つ覚えね。
それしか言えないの。
まあ、ありがたく貰ってあげるわ
それより、忘れないで必ず談話室に行くのよ」
袋を大事そうに抱えて去っていく様子は、プリムローズのイライラした感情をなぜか和ませてくれた。
『相変わらず、喧しい人だな。
そんなに気にしなくても、可愛らしい顔をしてますのに…』
だったら本人に言ってあげたら、喜ぶのにと誰もが思う人がいるだろう。
「談話室……。
誰が来ているのかしら。
もしかしたら、メリー!?」
規則で学生寮は、家族以外の面会は禁止されている。
他国の留学生で、勲章持ちの彼女には特別に優遇されていた。
談話室の扉を開けたら、いつの間に御用係なっていた商人タルモ・コルホネンが座っていた。
「クラレンス公爵令嬢、ご機嫌いかがですか。
エテルネル国へ、同行した時以来ですね。
あのときは、有意義な体験させて頂きました。
クラレンス公爵令嬢」
折り目正しく椅子から立ち上がり、深々と頭を下げて挨拶してくる。
「タルモ殿から、私を訪ねに来てくれるなんてー。
なんという偶然!」
彼女の第一声に彼は、よろめき転びそうになる。
一歩右足を後ろに出すと椅子の脚に当たった。
しかし、痛みよりプリムローズの様子に神経を集中していて気づかない。
度々繰り返されてきた言葉に、嫌な予感しかしない。
「偶然ですか?
クラレンス公爵令嬢に頼まれました。
雪ヒョウのメスが手に入りましてので、ご報告と連れ帰る旅のご挨拶に参りました」
タルモの内容がよほど嬉しかったようで、手を叩いてパチパチされて喜びを表している。
無邪気な笑顔が、やがて悪魔の微笑みに見えるとは思わないだろう。
「ヒンメルのお嫁ちゃんが見つかりましたのね。
気立ての良い子を、タルモ殿ありうございます」
「気立ては知りませんが、かなり捕獲するのに苦労しました。
死者は出ませんでしたが、お嫁ちゃんは気性が荒いようでしてな。ハハハ…」
命がけの日々を思い返すと、上着からハンカチを取り出す。
額に滲み出る汗を、拭くために当てながら逐一嫌味を言う。
「ヒョウですもの。
そのぐらいは、ねぇ~。
ちなみに、どちらのお国で見つけましたの?」
「ザィールで探してましたが見つからず、どうもウィルスターの山岳地帯で捉えたようです。
御領地クラレンス公爵家のご実家に、到着しているそうでございます」
「あらあら、ではお祖父様と遊んでいるのかしら?
無事だといいけど」
はたして無事とは、彼女はどちらの無事を指しているのか。
タルモは尋ねそうになり、口を閉じて黙った。
『ウィルスターって、あの王妃様の祖国よね。
気性が激しいって、あの方から想像できるわ』
その王妃を寝込ませる者に、言われたくないと思うかもしれない。
「タルモ殿にお願いがございます」
「お断りをしてもいいですか?
雪ヒョウの生け捕りよりは、簡単で楽そうですか。
貴女様からは、無理難題ばかり頼まれているのでね」
「野性動物を生け捕りするよりは、命の危険はありません。
肉体労働はないし、安心安全を保証します」
これだけ話すと、口を尖らせて彼の顔を見ている。
その表情に笑いそうになって、タルモはとうとう根負けしてしまう。
「どんなお願いかは、聞くだけ聞きましょう。
ですが、聞くだけです」
紫の瞳を光らせて、依頼内容を聞くのを聞く前から公開しかけた。
『この目は……。
商人の勘が気づかせるのだ。
また、依頼されてしまう。
かなり厄介で、面倒な商談にちがいない』
「エテルネルで出版され、既に絶版された本を手に入れて欲しいのです。
最低2冊!」
「もしかして、[真実の愛を求めて]ですか。
絶版なら、売っていない本です。
その本は、何年前の本ですか?」
指を折り曲げて、頭の中で考えてからタルモに返事した。
「25年前くらいの本ですわ。
そう考えると、持っている方は限られます。
愛書して保管してないと、やはり難しいですよね」
難しいできないだろうと言われては、商人魂に火がつきそうになる。
どうにか方法はないかと探求し、なおかつ人が良すぎる性格の持ち主だ。
「何冊、部数が発行されているかがカギですな。
もしかしたら、出版社で保管しているのを買い取れるかもしれん」
「可能性が高いですね。
出版社かー。
なんで、見落としていたんだろう。
思い浮かばなかったな~」
プリムローズは大袈裟に感心して、タルモを持ち上げるような態度を見せた。
顔色をうかがって、もう人押しすれば依頼を受けてくれるはずだ。
「それと同時に、新聞を使って譲って欲しいと記事を書くのです。
誰かしら目を通して、申し出があるかもしれません」
「その時は、私の名前をお出しください。
タルモ殿、どうしても手に入れて欲しいのです。
幾らかかっても構いませんわ」
この方には、予算が無いに等しい。
どう考えても断れない。
黙って悩んでいると、だめ押しの煽てが聞こえてくる。
「エヘッ、【苦しい時の神頼み】。
ではなくて、タルモ殿頼みですね」
「自力ではどうにもならなくなると、人は神仏に頼り救いを求めようとする。
あれですか」
「頼ってばかりで……。
もしこれを受けてくれましたらー。
エテルネルとの貿易窓口を、カメリア商会にさせましょう」
額にハンカチごと手をやり、顔を下に向けていた顔を驚いてあげた。
「エテルネル王とヘイズ王で、お決めになるのでは?
クラレンス公爵が、国で力があろうと勝手に決められないでしょう」
自国の王を除いて、ヘイズ王と祖父グレゴリーで国交の基礎固めは出来あがっていた。
それにプリムローズとエリアスが、タルモのいる商会を勧めたのがきっかけだった。
「オーホホホ、決めるもなにもありませんことよ。
国交を結べたのは、祖父グレゴリーと亡きヘイズ王の友愛があってこそですわ。
それに、私とエリアス王太子殿下の結び付きもです」
「では、臣下なのに無視して進めるのですか?
いくらなんでも、あまりにも強引すぎる」
タルモはプリムローズが依頼して貰うために、こんな嘘をついているのではと疑ってかかる。
「王家は、クラレンスには逆らえないもの。
私の留学を手懸かりに、ヘイズと交流を持てたのよ。
両国にとっては、莫大な利益を産み出せる」
「そういう見方もありますね。
ですが、私も商会の一員です。
この話をしまして、会長にまずは相談してから決めます。
少々、お時間をください。
正式にお返事致します」
「それでいいわ。
無理を言って、ごめんなさい。
いっそう、私のお抱え商人になりませんか。
給金の他に、屋敷や身の回りの世話人も雇います」
間髪いれずに断る彼は、冗談ではないという嫌がる素振りをみせた。
「商会で働くことを、私は気に入っております。
お誘いは感謝しますが、お断り致します。
プリムローズ・ド・クラレンス公爵令嬢」
「はやっ、即答ですか。
愛ある素敵な商会ですものね。
カメリア商会のタルモ・コルホネン殿」
観光地にもなっている、カメリアの花咲く屋敷の持ち主。
その先祖が、興したカメリア商会。
あのような商会に勤めているから、タルモ殿はあんなに真摯に仕事をされている。
『あっさりフラれちゃったけど、いつか気が変わってくれないかな。
彼のこと気に入ってるのよね』
来たときよりも疲労して、帰っていくタルモを気の毒に思い心配する。
自分が原因と知りつつ、見えなくなるまで彼の後ろ姿を見送っていた。
焦る心持ちの彼女は、馬車の中で冷静になった。自分がエリアスに対して、ちゃんと別れ際の挨拶してなかったのに気づく。
「やってしまったな。
優しい彼なら、たぶん許してくれるよね。
周りで仕えていた人は、かなり呆れてしまったようだけど」
考えていると落ち込んできたが、車内で甘く漂う匂いに気持ちが切り替わる。
ドレスのポケットに手を突っ込んで、王宮の料理長から頂いたレシピを取り出す。
これに目を通して読むと、ニンマリしてからニタニタする。
『これでまた、ヘイズのお菓子文化を広められる。
いやー、素晴らしい!』
ヘイズとエテルネルの間には、両国の国交宣言してから文化交流が始まっていた。
これに夢中になると、落ち込んでいた気分さえ忘れてしまう。
お茶と言っても昼食兼ねていたため、寮へ戻ってから夕食の時間だった。
入浴を終えてから就寝まで、独り部屋でエテルネルの祖父母に本のお願いの手紙を書いてから眠りにつくのである。
書き上げた手紙を明日出そうと、書き忘れや内容を再度見直す。
そして、出し忘れないように机の目立つ真ん中に置くと同時に音がする。
外からノックされて扉を開くと、予想外の人が立っていた。
見れば不機嫌そうな顔が、プリムローズの目にそばかす顔映り込んだ。
「貴女にお客さんよ!
わざわざ、知らせに来てあげたのを感謝しなさい。
談話室で待っているわ」
「それは有難うございます。
ソバカスさん、ちょっと待っててくれるかしら?」
「ソバカスじゃないわよ。
待てって、暇ではないの」
「まあまあ、お礼にクッキーでもどうかと思いまして。
貰ってくれるかしら?」
クッキーと聞き、目がキラッと光った。
喜びで顔が緩んでいくのを、プリムローズは見逃さないで表情を引き締めた。
『素直ではないな。
こういうのは、嫌いではない。
キャンキャン吠えて見えて。
煩いけど、可愛いらしいのよね』
「私の貴重な時間を、貴女に使っているんだし。
当然と言っては当然よね。
貰ってあげてもいいわ」
「貰ってあげても?」
こんなに上から言っているのかと、プリムローズは首を捻りたくなる。
どこか親近感もあるのは、昔の自分によく似ているからだ。
性格が近いとぶつかり合って、反発することに気づかない。
「はいはい、待ってあげるから早く用意してね。
貴女もお客さんを待たせているんでしょう」
「!!」
袋に入れてあったお菓子を取りに行き、黙って彼女の胸に押し付ける。
「教えてくれてありがとう。
ソバカスさん、食べ終わったら味の感想を聞かせてね」
「ソバカス、ソバカスってバカの一つ覚えね。
それしか言えないの。
まあ、ありがたく貰ってあげるわ
それより、忘れないで必ず談話室に行くのよ」
袋を大事そうに抱えて去っていく様子は、プリムローズのイライラした感情をなぜか和ませてくれた。
『相変わらず、喧しい人だな。
そんなに気にしなくても、可愛らしい顔をしてますのに…』
だったら本人に言ってあげたら、喜ぶのにと誰もが思う人がいるだろう。
「談話室……。
誰が来ているのかしら。
もしかしたら、メリー!?」
規則で学生寮は、家族以外の面会は禁止されている。
他国の留学生で、勲章持ちの彼女には特別に優遇されていた。
談話室の扉を開けたら、いつの間に御用係なっていた商人タルモ・コルホネンが座っていた。
「クラレンス公爵令嬢、ご機嫌いかがですか。
エテルネル国へ、同行した時以来ですね。
あのときは、有意義な体験させて頂きました。
クラレンス公爵令嬢」
折り目正しく椅子から立ち上がり、深々と頭を下げて挨拶してくる。
「タルモ殿から、私を訪ねに来てくれるなんてー。
なんという偶然!」
彼女の第一声に彼は、よろめき転びそうになる。
一歩右足を後ろに出すと椅子の脚に当たった。
しかし、痛みよりプリムローズの様子に神経を集中していて気づかない。
度々繰り返されてきた言葉に、嫌な予感しかしない。
「偶然ですか?
クラレンス公爵令嬢に頼まれました。
雪ヒョウのメスが手に入りましてので、ご報告と連れ帰る旅のご挨拶に参りました」
タルモの内容がよほど嬉しかったようで、手を叩いてパチパチされて喜びを表している。
無邪気な笑顔が、やがて悪魔の微笑みに見えるとは思わないだろう。
「ヒンメルのお嫁ちゃんが見つかりましたのね。
気立ての良い子を、タルモ殿ありうございます」
「気立ては知りませんが、かなり捕獲するのに苦労しました。
死者は出ませんでしたが、お嫁ちゃんは気性が荒いようでしてな。ハハハ…」
命がけの日々を思い返すと、上着からハンカチを取り出す。
額に滲み出る汗を、拭くために当てながら逐一嫌味を言う。
「ヒョウですもの。
そのぐらいは、ねぇ~。
ちなみに、どちらのお国で見つけましたの?」
「ザィールで探してましたが見つからず、どうもウィルスターの山岳地帯で捉えたようです。
御領地クラレンス公爵家のご実家に、到着しているそうでございます」
「あらあら、ではお祖父様と遊んでいるのかしら?
無事だといいけど」
はたして無事とは、彼女はどちらの無事を指しているのか。
タルモは尋ねそうになり、口を閉じて黙った。
『ウィルスターって、あの王妃様の祖国よね。
気性が激しいって、あの方から想像できるわ』
その王妃を寝込ませる者に、言われたくないと思うかもしれない。
「タルモ殿にお願いがございます」
「お断りをしてもいいですか?
雪ヒョウの生け捕りよりは、簡単で楽そうですか。
貴女様からは、無理難題ばかり頼まれているのでね」
「野性動物を生け捕りするよりは、命の危険はありません。
肉体労働はないし、安心安全を保証します」
これだけ話すと、口を尖らせて彼の顔を見ている。
その表情に笑いそうになって、タルモはとうとう根負けしてしまう。
「どんなお願いかは、聞くだけ聞きましょう。
ですが、聞くだけです」
紫の瞳を光らせて、依頼内容を聞くのを聞く前から公開しかけた。
『この目は……。
商人の勘が気づかせるのだ。
また、依頼されてしまう。
かなり厄介で、面倒な商談にちがいない』
「エテルネルで出版され、既に絶版された本を手に入れて欲しいのです。
最低2冊!」
「もしかして、[真実の愛を求めて]ですか。
絶版なら、売っていない本です。
その本は、何年前の本ですか?」
指を折り曲げて、頭の中で考えてからタルモに返事した。
「25年前くらいの本ですわ。
そう考えると、持っている方は限られます。
愛書して保管してないと、やはり難しいですよね」
難しいできないだろうと言われては、商人魂に火がつきそうになる。
どうにか方法はないかと探求し、なおかつ人が良すぎる性格の持ち主だ。
「何冊、部数が発行されているかがカギですな。
もしかしたら、出版社で保管しているのを買い取れるかもしれん」
「可能性が高いですね。
出版社かー。
なんで、見落としていたんだろう。
思い浮かばなかったな~」
プリムローズは大袈裟に感心して、タルモを持ち上げるような態度を見せた。
顔色をうかがって、もう人押しすれば依頼を受けてくれるはずだ。
「それと同時に、新聞を使って譲って欲しいと記事を書くのです。
誰かしら目を通して、申し出があるかもしれません」
「その時は、私の名前をお出しください。
タルモ殿、どうしても手に入れて欲しいのです。
幾らかかっても構いませんわ」
この方には、予算が無いに等しい。
どう考えても断れない。
黙って悩んでいると、だめ押しの煽てが聞こえてくる。
「エヘッ、【苦しい時の神頼み】。
ではなくて、タルモ殿頼みですね」
「自力ではどうにもならなくなると、人は神仏に頼り救いを求めようとする。
あれですか」
「頼ってばかりで……。
もしこれを受けてくれましたらー。
エテルネルとの貿易窓口を、カメリア商会にさせましょう」
額にハンカチごと手をやり、顔を下に向けていた顔を驚いてあげた。
「エテルネル王とヘイズ王で、お決めになるのでは?
クラレンス公爵が、国で力があろうと勝手に決められないでしょう」
自国の王を除いて、ヘイズ王と祖父グレゴリーで国交の基礎固めは出来あがっていた。
それにプリムローズとエリアスが、タルモのいる商会を勧めたのがきっかけだった。
「オーホホホ、決めるもなにもありませんことよ。
国交を結べたのは、祖父グレゴリーと亡きヘイズ王の友愛があってこそですわ。
それに、私とエリアス王太子殿下の結び付きもです」
「では、臣下なのに無視して進めるのですか?
いくらなんでも、あまりにも強引すぎる」
タルモはプリムローズが依頼して貰うために、こんな嘘をついているのではと疑ってかかる。
「王家は、クラレンスには逆らえないもの。
私の留学を手懸かりに、ヘイズと交流を持てたのよ。
両国にとっては、莫大な利益を産み出せる」
「そういう見方もありますね。
ですが、私も商会の一員です。
この話をしまして、会長にまずは相談してから決めます。
少々、お時間をください。
正式にお返事致します」
「それでいいわ。
無理を言って、ごめんなさい。
いっそう、私のお抱え商人になりませんか。
給金の他に、屋敷や身の回りの世話人も雇います」
間髪いれずに断る彼は、冗談ではないという嫌がる素振りをみせた。
「商会で働くことを、私は気に入っております。
お誘いは感謝しますが、お断り致します。
プリムローズ・ド・クラレンス公爵令嬢」
「はやっ、即答ですか。
愛ある素敵な商会ですものね。
カメリア商会のタルモ・コルホネン殿」
観光地にもなっている、カメリアの花咲く屋敷の持ち主。
その先祖が、興したカメリア商会。
あのような商会に勤めているから、タルモ殿はあんなに真摯に仕事をされている。
『あっさりフラれちゃったけど、いつか気が変わってくれないかな。
彼のこと気に入ってるのよね』
来たときよりも疲労して、帰っていくタルモを気の毒に思い心配する。
自分が原因と知りつつ、見えなくなるまで彼の後ろ姿を見送っていた。
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