無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第4章 騎士道を学べ

第21話 棒ほど願って針ほど叶う

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   学園は冬の休暇が近づいて、学生たちは浮き立っていた。
軍学園は、全員が寮生活が基本である。
長期になると、寮で世話をしてくれる人も休暇で居なくなる。
それでも実家に戻れない人は、親戚や友人宅とかで過ごす。
大陸から海を渡ってきたプリムローズも、そんな人たちのひとりだった。

「おふたりも、ご実家に帰省されるのですか?」

王都にあるゲラン侯爵家に、休暇中はお世話になる予定のプリムローズが問いかけた。

「うん、領地へ帰るよ。
家の手伝いや子守りをするだけで、休みはあっという間に終わりそう。
とくに、弟妹ていまいと遊んでやらなくてはならない」

「また、そんなこと言ってー。
本当は家族に会えて、嬉しい癖に素直じゃないのね」

笑顔で家族の話すふたりに、尋ねた私がバカだったと気づく。
海を渡って帰省するには、今回は短すぎて不可能だった。
いろいろとあった夏休みに、
会えた家族たちの顔を思い浮かべていた。

「ごめんなさい。
ふたりで盛り上がってしまったわ」

プリムローズに向けて謝罪するジャンヌを、どうしたのかと不思議そうにする。

「ああ、そうだった。
エテルネル国へ帰国するには、休みの期間が短いもんな」

なにも考えていないロッタが、つい直接的に言ってしまう。
言葉を濁した気遣いが、悲しいくらい台無しになっていた。
刺すような目付きで睨まれ、ロッタは口にしてから気づく羽目となる。

「ジャンヌ様、気にしないで。
私は寂しくありません。
家族は夏に会ったばかりだし、休暇中にヘイズで会いたい人たちがおりますのよ」

こんな事を言っていたのは、かれこれ一週間前の出来事と思い出していた。

プリムローズの専属メイドだったメリーとは、休み中に女性しか話せない内容や相談ができ御満悦だった。
だんだんと貴夫人になりつつあるメリーだったが、まだ染まりきってなくて安心した。

『あのまま、いつまでも変わらないで欲しいな』

メリーが貴族たちに、新たな風を吹かせてくれるのを望んでいる。
いつまでも、じゃれあっているしか見えないメリーとギル。
あれで夜のいとなみをちゃんとこなしているんだろうか。
下世話げせわな想像して、ニヤニヤして締まりのない顔で歩いてた。


    偶然一枚の紙が、彼女の視界に飛び込んできた。
何度も瞬きし目を真ん丸させて、足の動きをピタリと止めた。
それは、りょうの掲示板に貼ってあるものだった。

かれこれ、そこで10分間以上突っ立っていた。
数人は掲示板を横切っていたが、プリムローズは集中して全くそれらが気にならない。

『セント・ジョン軍学園。
最強の騎士きしは、君かもしれない。
いまここから、伝統から伝説が始まる。
集え、若人たちよ!』

うたい文句に、紫の瞳がくぎつけになる。
誰が考えたのか知らぬが、心をれ動かす文字の数々であった。
ブツブツとこの内容を独り言のように、何度も繰返し呟いている。

やがて、ロッタとジャンヌに知らせがやって来る。
掲示板前にいるプリムローズの撤去てっきょを、どうやら彼女らに頼んできた。
不審者にしか見えない彼女の肩を、チョンチョンと軽く人差し指で叩かれ振り向く。

「ロ、ロッタ先輩とジャンヌ様!
あれ、あれはなんですか?!」

震える先にある掲示物に、二人はやはり知らなかったのかと声をそろえた。

「やあ、プリムローズ嬢。
興奮しないで、落ち着いてくれないか。
ずっと、ここで立ち止まっていては他の人に迷惑だ」

「あれは見ての通りで、3年生の最終実技試験の告知です」

プリムローズの腕を両脇から腕を組んで、話しながら談話室に引っ張っていく。

「セント・ジョン軍学園は、普通学園とは異なります。
この実技と筆記試験で、最優秀生徒が決定するんです」

簡潔すぎて補足を入れるジャンヌが、丁寧な説明をしてくれた。
そんなことより、プリムローズは掲示板の内容が大事だった。

「最優秀生徒を決める試合!
実技試験あったんですか?」

「普通あるだろう。
ここ、軍学園なんだよ!」

「そんな言い方しない。
気分悪くさせて、ごめんない」

ふたりの関係の一端が、色濃く現れている。
ズケズケ話すロッタを、ジャンヌが補佐してまとめる役割をしてくれていた。
まるで、ロッタの母親みたいだと思ってい聞いていた。

「いいえ、よく考えたらそうですし…。
剣術の腕を競わないと、誰が一番強いかハッキリしませんよね」

昔、エテルネルの学園で味わったワクワク感が蘇ってきた。

『これに勝てば、最優秀生徒になれるんだ!』

声には出さなかったが両手を強く握り締めると、背筋から稲妻が走るように武者震いする。

「その割合は、5対3対2。
この実況試験は、5割で半分を占める。
筆記が3で、残り2は普段の素行とかだな」

「じゃあ、これに勝った者が首席になれるの?!」

よみがるエテルネルの県大会の思い出が、彼女の脳裏のうりに再びやってくる。

「絶対そうとは限らないわ。
全生徒総当そうあたりの戦いで、最後に残った者がー。この軍学園で、最強騎士の称号しょうごうを得ることができるのよ」

「女子生徒は、現在8名。
男子生徒は、125名。
合計全生徒、133人で争う。
この最終実技試験で女子は、1度も頂点にたどり着いた者はいない」

「女性は一人いないのですか。
今まで、誰も勝利者なし。
誰もってことは、勝てたら初めてってこと……」

ジャンヌの言葉に下を向くと、体が武者震むしゃぶるいをし出す。
まさに、歓喜のうずの中心にいた。
感情を爆発させた。

「うっしゃあー~!!
必ずやこの称号を、エテルネルに持ち帰る。
私は、戦の神の孫なんだぁー」

掲示板の前で、背中を反らせて両手を挙げ叫ぶ。
ジャンヌとロッタは大きな声に耳を塞ぎ、跳び跳ねて大騒ぎする様子に呆れる。
プリムローズの秘めた実力を、二人はまだ知らずにいた。

 
    次の日から、暇さえあれば剣に見立てた木刀を振り回す。
一人部屋をいいことに、ひたすら筋肉をつける運動をしていた彼女。
たが、いっこうに実技試験の日程がこない。
業を煮やしたプリムローズは、我慢できずに2人の友人を捕まえて聞き出す。

「ロッタ先輩、ジャンヌ様。
あの実技試験は、いつからですか?!
あれから、2週間もちましたわ」

しびれを切らしたプリムローズは、学食の数量限定お得セットを前に置き質問した。

「今年は、なぜか遅いとみんな噂しているわ。
先生方に考えがあってのことかしら」

「武術を必要とされている就職先は、あの試験で左右されるからな」

「そうでしたか、準備期間を長めに取っている理由が分かりました。
生徒たちが、試験後にいのないように考える時間は欲しいですものね」

二人の言い分は分かるが、卒業は7月末だよね。
学科の学生最後の試験は、いつになるんだ。
予定表をもらっていたが、部屋の掃除中に捨ててしまったので分からず仕舞じまい。
今まではメリーが日程を管理してくれたので、誰かが教えてくれないとわからなくなるのだった。

「卒業後は、社会に飛び立つ方が大多数です。
軍学園はこの実技試験の結果で、自分の身の振り方を考え直す方が出てきます」

「理想と現実は違うし、厳しい世の中に入るのだ。
私も女性近衛隊このえたいには、最初からは無理だと思っている」

ジャンヌとロッタは、それぞれの考えを質問してきたプリムローズに語り始める。

「私は、ロッタより難しくはないけど。
憲兵隊けんぺいたいに、なんとかすべり込みたいわ」

「ジャンヌ様なら、きっと慣れます。
筆記も優秀ですし、憲兵は女性のなり手が少ないって伺いました」

はげますプリムローズにロッタは、軍学園の特異性を述べた。

「普通科とは異なり、家督かとくげない生徒が大半だ。よって、この試験は将来がかかっているんだ」

「試験が終わって、結果を残せなかった人たちの落ち込み様は凄いのよ」

「立ち直る期間を十分にもうけて、それからの筆記試験でしたのね。
生徒たちの心理を配慮はいりょしてます」

家格かかくや経済環境によっては、身一つで家から出されてしまう可能性もある。
すなわち、路頭ろとうまようことになる。
成人して、学生を卒業するって良い事ばかりではない。
気づけば、もう13歳になる。
どうしたいか進みたい道を、そろそろ真剣にかためなくてはならない年に入ってきた。
私も、案外路頭に迷うかもしれないな。
彼女は選択肢せんたくしが多くて、1つにしぼりきれなくて迷っていた。

「【ぼうほど願ってはりほどかなう】。
ほんどの学生は、この言葉に当てはまるんだ」

「ロッタ先輩…。
願いは大きくても、実際は少ししか叶わないということですね」

明るい未来を夢見ていた彼女たちも、夢を見るだけではすまなそうである。

この実技試験は、彼らの未来を決める。
エテルネルのお遊び剣大会と意気込みが違うのを肌で感じる。

この実技試験が、2ヶ月後に行われると告知された。
どうして日程が遅れたか、やがて理由を知ることになるのだった。
 

    
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