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第4章 騎士道を学べ
第28話 嘘は世の宝
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夕暮れ時、カチカチ音だけがやけに耳につく。
守衛の終業時間が迫る。
柱時計の時間を確かめると、男は帰宅準備を始めていた。
しかし、目に写るのは部屋の片隅にある机の上に置かれた荷物たち。
『気を利かせて、部屋の扉前に運んだ方がいいのだろうか。
勝手できないし、困ったな~』
クラレンス公爵令嬢の名前で預かった物を、どうしたらよいか頭を痛くしていた。
そんな時、守衛室の前をバタバタ走る音が聞こえてくる。
出掛けた時と違う服装で、本人がちょうど姿を現してくれた。
「ああ、よかった。
帰ってきてくれて、助かった。
仕事終わりなんで、荷物をどうするかで悩んでいたんだよ」
「遅くなって、ご迷惑お掛けしました。
預かって頂き、ありがとうございました。
荷物はあれですか?」
本の山と紙袋が各々2つずつあるのを、プリムローズは目をやってから頭を下げて預かってくれた礼を言う。
どうやら、彼女に当たりの強い言い方をしてしまったように感じた。
「そんなつもりで、言ったんじゃないじゃないからさ。
ひとりでは大変だろう。
オジさんも、荷物を部屋に運ぶのを手伝おうか?!」
「お言葉に甘えて、階段の下まで一緒に運んでくれますか。
後は、自分でなんとかします」
「そんなんでいいのかい!?
遠慮しなくていいんだよ。
本は重そうだ。
部屋の前まで運ぶよ」
「いえいえ。
ちょっと食べすぎたので、動いてお腹を空かせたいの。
気になさらないでください」
「ああ、そうかい。
階段までは運ぶから、君は手を出さないでくれよ」
「はーい!
よろしくお願いしまーす」
明るく返事し照れ笑いする様子は、自分の子供の姿を重ねた。
公爵とは、貴族の中で一番身分が高い。
愛らしく素直で腰の低いプリムローズに、ますます好印象を持つのである。
階段脇に置かれた荷物を、3往復行き来して部屋にドレスと本を運ぶ。
足腰を鍛えるつもりなら、こんな階段も苦にならないはずだ。
五冊分の本を抱えて2往復し、残りは紙袋に入ったドレスと靴のみ。
腰を拳で叩いていたら、聞き覚えある声が頭上から聞こえる。
ロッタとジャンヌは、2階の階段の手すりからプリムローズに話しかける。
「手伝いに来たぞ~。
君が荷物を運んでいると、聞き急いで来たんだけど……」
「プリムローズ嬢、荷物は何処にあるの?
私も運ぶのを手伝うわ」
「ジャ、ジャンヌ様。
と、ロッタせんぱーい」
今は会いたくないジャンヌが、プリムローズの心を知らずに微笑んでいた。
「……と、とってなんだよ。
ついでみたいな言い方して、手伝おうと来てやったのにさぁ」
「もう、大人げないったら…。
気になっていたんだけど、行きと着ているものが違うわね」
行きのシンプルながら高価そうなドレスと違って、身に付けているのは町娘に変化している。
二人は階下まで降りていくと、紙の袋がプリムローズの足元に2つ置かれている。
袋が開かれて覗いてみたら、中身は着ていったドレスと靴だった。
「馬車が走れそうになるまで、近くのカフェで時間を潰してました。
ドレスでは目立つので、この服に変えたわけです」
「でしたら、この紙袋を持ちます。
馬車が帰り道で、偶然事故に遭遇したんですってね」
ジャンヌが靴の入った小さい方の紙袋を、当たり前のようにロッタへ押し付ける。
「そう、そうなんです。
農産物を乗せた荷馬車の車輪が、外れかけて脱線してしまったようでした。
荷が道にばら蒔かれて、馬車がまったく通れなくなりました」
「事故があったってことはー。
もしかして、ジャンヌの憧れの騎士様に会えたのかい」
「騎士様でなく、憲兵ですからね。
最近はお会いしていないけど、元気にしているかしらね」
見かけて変装してまで、会話を盗み聞きしていたとは言えない。
それに、ジャンヌに真実は伝えられない。
「事故で混乱して、その場に留まりたくなかったの。
ですから、彼は見かけておりません」
「そっか、ジャンヌ残念だったね」
「だ、か、ら!
なんでそんな風に言うのよ。
どうしているかなって、思っただけです」
頬をうっすら赤くなりロッタと話しているジャンヌの顔を、プリムローズは視線を外して見ないでいた。
残りの紙袋を持って、階段を上がる友人たち。
その後をついていく表情には、ジャンヌと世間を欺く者たちの怒りを含んでいた。
『タルモ殿は、自然に任せろと仰ってたけど…。
それって、正しいことなのかな?!』
優しさからジャンヌ様に、好きな人はいないって仰ったとタルモ殿は考えている。
それは都合よい言葉で、結局は適当に誤魔化そうとしているんじゃない。
本当の優しさは、好きな女性がいるとキッパリ伝えることだと思うんだけどな。
あの男は、ジャンヌ様に好かれて優越感に浸っているだけよ。
彼女の居ないとカフェで、ふたりで嘲笑っていたじゃない。
「あのような者たちは、握り潰して息の根を止めないといけない。
これ以上、害虫が飛び回らないようにー」
明るい話し声と正反対に、紫の瞳が赤く不穏な色へ変化する。
「プリムローズ嬢、なにか仰いました?」
手摺に空いた手を置き、ジャンヌが髪をフワッと靡かせて振り返る。
こうして、気遣ってくれる優しい方。
『こんなに素敵な女性なのに、男運が壊滅的に悪すぎる。
騙されていたことを知ったら、どうなってしまうんだろうか』
「虫が飛んできて、驚いて足を踏み外しそうになっちゃって。
落ちそうになり、危ないところでした」
わざとらしく左手で手摺を握り、右手で何度も存在しない虫を払いのけた。
あの男の鼻の下が伸びた顔を急に浮かんだ。
表情だけは演技でなく、ウザそうに眉間に皺寄せる。
「危なかったじゃない!
落ちなくてよかったわ」
ホッとして軽く息を吐くジャンヌに、ロッタは大袈裟だなって笑いながら言う。
「反射神経が猫並みだ。
落ちそうになったって、プリムローズ嬢なら大丈夫だよ」
「へぇ~、私は猫ですか。
だったら、ロッタ先輩は犬ね。
茶色の毛並みの大型犬で、大食いでよく吠えるワンちゃんです」
「い、いーぬ~。私は犬か!
うん、まぁ悪くないな。
実家で飼っていて、好きだし嫌いではない。
賢くて従順で、なにより可愛いだろう!?
ふーん。
では、ジャンヌはなんなんだろうか?」
プリムローズから犬だと言われることに、彼女は納得しどうやら満足していた。
だったら親友のジャンヌは、どんな動物に当てはまるかが気になるようだった。
「私は人であって、動物じゃないてしょう」
この時、3人はプリムローズの部屋にいた。
こんな奇妙な話は、頭がおかしくなったと思われてしまう。
他人には、あまり聞かせられない内容だ。
「ジャンヌ様は、ヴァンブランに感じが似ていると思います」
「ヴァンブランさんは、プリムローズ嬢の愛馬でしたよね」
「ええ、白馬です。
ジャンヌ様、呼び捨てして構いませんのよ」
公爵令嬢の持ち馬で、名指しをしにくいのだろうか。
思い出せば鷹のピーちゃんを、エリアス殿下は様付けまでしていたっけ。
「あの白馬、綺麗だもんな。
普通のそこらにいるのとは、比べてはいけないレベルだった」
「ロッタ先輩、ヴァンブランは王妃様に献上される馬でした。
それを姉が欲しがって、両親におねだりしたのです。
王家に譲ってくれないかと打診して、かなり強引なやり口で手に入れました」
「ひゃあ~、すごいな!
王妃様のモノになる馬だったのか。
しかし、公爵とはいえ臣下だろう。
そんな事がよくできたな」
ロッタとジャンヌは、プリムローズの実家に呆れてしまう。
貧乏貴族の娘から、素直な感想が口から飛び出してしまった。
ジャンヌもロッタを止めるのを忘れ、目を丸くしていて話を聞いている。
「嘘が時に必要となる場合もある。
まさに、【嘘は世の宝】。
王家にとっても、これは悪い話ではなかったのです」
「なんでだよ。
馬の話で、【嘘は世の宝】って言葉がでてくるんだ」
「……、話が見えない」
頭のなかを疑問でいっぱいにして、プリムローズの表情からヒントを得ようとする。
「この続き話を聞きたい?」
紫の瞳がキラーンと光らせて、前屈みぎみに見ている二人を面白がる。
「聞きたいに決まっている!
ここまで話していて、教えてくれないつもりのかよ」
「乱暴な喋り方をしてはダメよ。
こんな事言う私も、話の続きを聞きたいです」
どうしたものかと両目を瞑ったまま、一度だけウーンって悩ましげに唸る。
「ごめんなさい!
焦らすつもりはありませんが、夕食時に話すことにします。
至急、手紙を書かなくてはなりませんの」
不満そうに唇を尖らせて、ロッタは頭の後ろで腕を組む。
「えー、つまんないの」
「あとで、話してくれるって言っているでしょ。
ほらっ、行くよ。ロッタ!」
背中を押してジャンヌは、彼女を部屋から力ずくで外へ出そうとしている。
ロッタの手綱を操るのは、親友のジャンヌしかいない。
「荷物を運んでくださり、助かりましたわ。
また、食堂で会いましょう」
扉を開けて立ち止まり、ロッタが振り向いて出る前に一言。
「じゃあ、迎えに来る。
急ぎの手紙、早く書きなよ」
「人に命令しなーい!!
また、後ほどね」
ロッタの肩を押して、先に外へ押しやる。
扉を閉じる直前に、軽く頭を下げてから静かに閉めた。
数秒前までは、あんなに騒がしかった部屋がシーンとなった。
「よし、ササッと手紙を書いてしまおう!
これも、【嘘は世の宝】の手紙になりそう。
ジャンヌ様の恋を美しい思い出のまま、嘘つき男を消し去ってみせるわ」
真っ直ぐ勉強机に向かって、椅子に座ると机上にあるランプに火をつける。
ペンにインクを浸している間に、油を吸いあげて灯りが周りを照らす。
書く文章を頭で整理し終えてから、一気に文字を走らせる。
偶然に、タルモと見聞きした一部憲兵たちの悪事話。
友人の想い人が、その悪事に関係していた。
何とか彼女に知られないように、終わらせたいやりたいと書き示す。
嘘にも良い悪いがある。
子供の頃に嘘をついてはいけないって、大人に教えられるけど……。
いつから複雑な嘘をつく事が、罪悪なくつけるようになったのだろうか。
「世の中は嘘だらけ。
生きている人は、一度以上は嘘をついて生きているのよ。
ジャンヌ様にとっては、必ずよい【嘘は世の宝】となるでしょう」
インクを乾かす時間を、無駄にしないよう。
大きく両手を広げると、
銀髪の神が月光に照らされ輝く。
紫紺の瞳が月を見上げて、息を大きく肺に納めてから指笛の音が夜空を切り裂くように響き渡るのだ。
守衛の終業時間が迫る。
柱時計の時間を確かめると、男は帰宅準備を始めていた。
しかし、目に写るのは部屋の片隅にある机の上に置かれた荷物たち。
『気を利かせて、部屋の扉前に運んだ方がいいのだろうか。
勝手できないし、困ったな~』
クラレンス公爵令嬢の名前で預かった物を、どうしたらよいか頭を痛くしていた。
そんな時、守衛室の前をバタバタ走る音が聞こえてくる。
出掛けた時と違う服装で、本人がちょうど姿を現してくれた。
「ああ、よかった。
帰ってきてくれて、助かった。
仕事終わりなんで、荷物をどうするかで悩んでいたんだよ」
「遅くなって、ご迷惑お掛けしました。
預かって頂き、ありがとうございました。
荷物はあれですか?」
本の山と紙袋が各々2つずつあるのを、プリムローズは目をやってから頭を下げて預かってくれた礼を言う。
どうやら、彼女に当たりの強い言い方をしてしまったように感じた。
「そんなつもりで、言ったんじゃないじゃないからさ。
ひとりでは大変だろう。
オジさんも、荷物を部屋に運ぶのを手伝おうか?!」
「お言葉に甘えて、階段の下まで一緒に運んでくれますか。
後は、自分でなんとかします」
「そんなんでいいのかい!?
遠慮しなくていいんだよ。
本は重そうだ。
部屋の前まで運ぶよ」
「いえいえ。
ちょっと食べすぎたので、動いてお腹を空かせたいの。
気になさらないでください」
「ああ、そうかい。
階段までは運ぶから、君は手を出さないでくれよ」
「はーい!
よろしくお願いしまーす」
明るく返事し照れ笑いする様子は、自分の子供の姿を重ねた。
公爵とは、貴族の中で一番身分が高い。
愛らしく素直で腰の低いプリムローズに、ますます好印象を持つのである。
階段脇に置かれた荷物を、3往復行き来して部屋にドレスと本を運ぶ。
足腰を鍛えるつもりなら、こんな階段も苦にならないはずだ。
五冊分の本を抱えて2往復し、残りは紙袋に入ったドレスと靴のみ。
腰を拳で叩いていたら、聞き覚えある声が頭上から聞こえる。
ロッタとジャンヌは、2階の階段の手すりからプリムローズに話しかける。
「手伝いに来たぞ~。
君が荷物を運んでいると、聞き急いで来たんだけど……」
「プリムローズ嬢、荷物は何処にあるの?
私も運ぶのを手伝うわ」
「ジャ、ジャンヌ様。
と、ロッタせんぱーい」
今は会いたくないジャンヌが、プリムローズの心を知らずに微笑んでいた。
「……と、とってなんだよ。
ついでみたいな言い方して、手伝おうと来てやったのにさぁ」
「もう、大人げないったら…。
気になっていたんだけど、行きと着ているものが違うわね」
行きのシンプルながら高価そうなドレスと違って、身に付けているのは町娘に変化している。
二人は階下まで降りていくと、紙の袋がプリムローズの足元に2つ置かれている。
袋が開かれて覗いてみたら、中身は着ていったドレスと靴だった。
「馬車が走れそうになるまで、近くのカフェで時間を潰してました。
ドレスでは目立つので、この服に変えたわけです」
「でしたら、この紙袋を持ちます。
馬車が帰り道で、偶然事故に遭遇したんですってね」
ジャンヌが靴の入った小さい方の紙袋を、当たり前のようにロッタへ押し付ける。
「そう、そうなんです。
農産物を乗せた荷馬車の車輪が、外れかけて脱線してしまったようでした。
荷が道にばら蒔かれて、馬車がまったく通れなくなりました」
「事故があったってことはー。
もしかして、ジャンヌの憧れの騎士様に会えたのかい」
「騎士様でなく、憲兵ですからね。
最近はお会いしていないけど、元気にしているかしらね」
見かけて変装してまで、会話を盗み聞きしていたとは言えない。
それに、ジャンヌに真実は伝えられない。
「事故で混乱して、その場に留まりたくなかったの。
ですから、彼は見かけておりません」
「そっか、ジャンヌ残念だったね」
「だ、か、ら!
なんでそんな風に言うのよ。
どうしているかなって、思っただけです」
頬をうっすら赤くなりロッタと話しているジャンヌの顔を、プリムローズは視線を外して見ないでいた。
残りの紙袋を持って、階段を上がる友人たち。
その後をついていく表情には、ジャンヌと世間を欺く者たちの怒りを含んでいた。
『タルモ殿は、自然に任せろと仰ってたけど…。
それって、正しいことなのかな?!』
優しさからジャンヌ様に、好きな人はいないって仰ったとタルモ殿は考えている。
それは都合よい言葉で、結局は適当に誤魔化そうとしているんじゃない。
本当の優しさは、好きな女性がいるとキッパリ伝えることだと思うんだけどな。
あの男は、ジャンヌ様に好かれて優越感に浸っているだけよ。
彼女の居ないとカフェで、ふたりで嘲笑っていたじゃない。
「あのような者たちは、握り潰して息の根を止めないといけない。
これ以上、害虫が飛び回らないようにー」
明るい話し声と正反対に、紫の瞳が赤く不穏な色へ変化する。
「プリムローズ嬢、なにか仰いました?」
手摺に空いた手を置き、ジャンヌが髪をフワッと靡かせて振り返る。
こうして、気遣ってくれる優しい方。
『こんなに素敵な女性なのに、男運が壊滅的に悪すぎる。
騙されていたことを知ったら、どうなってしまうんだろうか』
「虫が飛んできて、驚いて足を踏み外しそうになっちゃって。
落ちそうになり、危ないところでした」
わざとらしく左手で手摺を握り、右手で何度も存在しない虫を払いのけた。
あの男の鼻の下が伸びた顔を急に浮かんだ。
表情だけは演技でなく、ウザそうに眉間に皺寄せる。
「危なかったじゃない!
落ちなくてよかったわ」
ホッとして軽く息を吐くジャンヌに、ロッタは大袈裟だなって笑いながら言う。
「反射神経が猫並みだ。
落ちそうになったって、プリムローズ嬢なら大丈夫だよ」
「へぇ~、私は猫ですか。
だったら、ロッタ先輩は犬ね。
茶色の毛並みの大型犬で、大食いでよく吠えるワンちゃんです」
「い、いーぬ~。私は犬か!
うん、まぁ悪くないな。
実家で飼っていて、好きだし嫌いではない。
賢くて従順で、なにより可愛いだろう!?
ふーん。
では、ジャンヌはなんなんだろうか?」
プリムローズから犬だと言われることに、彼女は納得しどうやら満足していた。
だったら親友のジャンヌは、どんな動物に当てはまるかが気になるようだった。
「私は人であって、動物じゃないてしょう」
この時、3人はプリムローズの部屋にいた。
こんな奇妙な話は、頭がおかしくなったと思われてしまう。
他人には、あまり聞かせられない内容だ。
「ジャンヌ様は、ヴァンブランに感じが似ていると思います」
「ヴァンブランさんは、プリムローズ嬢の愛馬でしたよね」
「ええ、白馬です。
ジャンヌ様、呼び捨てして構いませんのよ」
公爵令嬢の持ち馬で、名指しをしにくいのだろうか。
思い出せば鷹のピーちゃんを、エリアス殿下は様付けまでしていたっけ。
「あの白馬、綺麗だもんな。
普通のそこらにいるのとは、比べてはいけないレベルだった」
「ロッタ先輩、ヴァンブランは王妃様に献上される馬でした。
それを姉が欲しがって、両親におねだりしたのです。
王家に譲ってくれないかと打診して、かなり強引なやり口で手に入れました」
「ひゃあ~、すごいな!
王妃様のモノになる馬だったのか。
しかし、公爵とはいえ臣下だろう。
そんな事がよくできたな」
ロッタとジャンヌは、プリムローズの実家に呆れてしまう。
貧乏貴族の娘から、素直な感想が口から飛び出してしまった。
ジャンヌもロッタを止めるのを忘れ、目を丸くしていて話を聞いている。
「嘘が時に必要となる場合もある。
まさに、【嘘は世の宝】。
王家にとっても、これは悪い話ではなかったのです」
「なんでだよ。
馬の話で、【嘘は世の宝】って言葉がでてくるんだ」
「……、話が見えない」
頭のなかを疑問でいっぱいにして、プリムローズの表情からヒントを得ようとする。
「この続き話を聞きたい?」
紫の瞳がキラーンと光らせて、前屈みぎみに見ている二人を面白がる。
「聞きたいに決まっている!
ここまで話していて、教えてくれないつもりのかよ」
「乱暴な喋り方をしてはダメよ。
こんな事言う私も、話の続きを聞きたいです」
どうしたものかと両目を瞑ったまま、一度だけウーンって悩ましげに唸る。
「ごめんなさい!
焦らすつもりはありませんが、夕食時に話すことにします。
至急、手紙を書かなくてはなりませんの」
不満そうに唇を尖らせて、ロッタは頭の後ろで腕を組む。
「えー、つまんないの」
「あとで、話してくれるって言っているでしょ。
ほらっ、行くよ。ロッタ!」
背中を押してジャンヌは、彼女を部屋から力ずくで外へ出そうとしている。
ロッタの手綱を操るのは、親友のジャンヌしかいない。
「荷物を運んでくださり、助かりましたわ。
また、食堂で会いましょう」
扉を開けて立ち止まり、ロッタが振り向いて出る前に一言。
「じゃあ、迎えに来る。
急ぎの手紙、早く書きなよ」
「人に命令しなーい!!
また、後ほどね」
ロッタの肩を押して、先に外へ押しやる。
扉を閉じる直前に、軽く頭を下げてから静かに閉めた。
数秒前までは、あんなに騒がしかった部屋がシーンとなった。
「よし、ササッと手紙を書いてしまおう!
これも、【嘘は世の宝】の手紙になりそう。
ジャンヌ様の恋を美しい思い出のまま、嘘つき男を消し去ってみせるわ」
真っ直ぐ勉強机に向かって、椅子に座ると机上にあるランプに火をつける。
ペンにインクを浸している間に、油を吸いあげて灯りが周りを照らす。
書く文章を頭で整理し終えてから、一気に文字を走らせる。
偶然に、タルモと見聞きした一部憲兵たちの悪事話。
友人の想い人が、その悪事に関係していた。
何とか彼女に知られないように、終わらせたいやりたいと書き示す。
嘘にも良い悪いがある。
子供の頃に嘘をついてはいけないって、大人に教えられるけど……。
いつから複雑な嘘をつく事が、罪悪なくつけるようになったのだろうか。
「世の中は嘘だらけ。
生きている人は、一度以上は嘘をついて生きているのよ。
ジャンヌ様にとっては、必ずよい【嘘は世の宝】となるでしょう」
インクを乾かす時間を、無駄にしないよう。
大きく両手を広げると、
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