93 / 117
第4章 騎士道を学べ
第28話 嘘は世の宝
夕暮れ時、カチカチ音だけがやけに耳につく。
守衛の終業時間が迫る。
柱時計の時間を確かめると、男は帰宅準備を始めていた。
しかし、目に写るのは部屋の片隅にある机の上に置かれた荷物たち。
『気を利かせて、部屋の扉前に運んだ方がいいのだろうか。
勝手できないし、困ったな~』
クラレンス公爵令嬢の名前で預かった物を、どうしたらよいか頭を痛くしていた。
そんな時、守衛室の前をバタバタ走る音が聞こえてくる。
出掛けた時と違う服装で、本人がちょうど姿を現してくれた。
「ああ、よかった。
帰ってきてくれて、助かった。
仕事終わりなんで、荷物をどうするかで悩んでいたんだよ」
「遅くなって、ご迷惑お掛けしました。
預かって頂き、ありがとうございました。
荷物はあれですか?」
本の山と紙袋が各々2つずつあるのを、プリムローズは目をやってから頭を下げて預かってくれた礼を言う。
どうやら、彼女に当たりの強い言い方をしてしまったように感じた。
「そんなつもりで、言ったんじゃないじゃないからさ。
ひとりでは大変だろう。
オジさんも、荷物を部屋に運ぶのを手伝おうか?!」
「お言葉に甘えて、階段の下まで一緒に運んでくれますか。
後は、自分でなんとかします」
「そんなんでいいのかい!?
遠慮しなくていいんだよ。
本は重そうだ。
部屋の前まで運ぶよ」
「いえいえ。
ちょっと食べすぎたので、動いてお腹を空かせたいの。
気になさらないでください」
「ああ、そうかい。
階段までは運ぶから、君は手を出さないでくれよ」
「はーい!
よろしくお願いしまーす」
明るく返事し照れ笑いする様子は、自分の子供の姿を重ねた。
公爵とは、貴族の中で一番身分が高い。
愛らしく素直で腰の低いプリムローズに、ますます好印象を持つのである。
階段脇に置かれた荷物を、3往復行き来して部屋にドレスと本を運ぶ。
足腰を鍛えるつもりなら、こんな階段も苦にならないはずだ。
五冊分の本を抱えて2往復し、残りは紙袋に入ったドレスと靴のみ。
腰を拳で叩いていたら、聞き覚えある声が頭上から聞こえる。
ロッタとジャンヌは、2階の階段の手すりからプリムローズに話しかける。
「手伝いに来たぞ~。
君が荷物を運んでいると、聞き急いで来たんだけど……」
「プリムローズ嬢、荷物は何処にあるの?
私も運ぶのを手伝うわ」
「ジャ、ジャンヌ様。
と、ロッタせんぱーい」
今は会いたくないジャンヌが、プリムローズの心を知らずに微笑んでいた。
「……と、とってなんだよ。
ついでみたいな言い方して、手伝おうと来てやったのにさぁ」
「もう、大人げないったら…。
気になっていたんだけど、行きと着ているものが違うわね」
行きのシンプルながら高価そうなドレスと違って、身に付けているのは町娘に変化している。
二人は階下まで降りていくと、紙の袋がプリムローズの足元に2つ置かれている。
袋が開かれて覗いてみたら、中身は着ていったドレスと靴だった。
「馬車が走れそうになるまで、近くのカフェで時間を潰してました。
ドレスでは目立つので、この服に変えたわけです」
「でしたら、この紙袋を持ちます。
馬車が帰り道で、偶然事故に遭遇したんですってね」
ジャンヌが靴の入った小さい方の紙袋を、当たり前のようにロッタへ押し付ける。
「そう、そうなんです。
農産物を乗せた荷馬車の車輪が、外れかけて脱線してしまったようでした。
荷が道にばら蒔かれて、馬車がまったく通れなくなりました」
「事故があったってことはー。
もしかして、ジャンヌの憧れの騎士様に会えたのかい」
「騎士様でなく、憲兵ですからね。
最近はお会いしていないけど、元気にしているかしらね」
見かけて変装してまで、会話を盗み聞きしていたとは言えない。
それに、ジャンヌに真実は伝えられない。
「事故で混乱して、その場に留まりたくなかったの。
ですから、彼は見かけておりません」
「そっか、ジャンヌ残念だったね」
「だ、か、ら!
なんでそんな風に言うのよ。
どうしているかなって、思っただけです」
頬をうっすら赤くなりロッタと話しているジャンヌの顔を、プリムローズは視線を外して見ないでいた。
残りの紙袋を持って、階段を上がる友人たち。
その後をついていく表情には、ジャンヌと世間を欺く者たちの怒りを含んでいた。
『タルモ殿は、自然に任せろと仰ってたけど…。
それって、正しいことなのかな?!』
優しさからジャンヌ様に、好きな人はいないって仰ったとタルモ殿は考えている。
それは都合よい言葉で、結局は適当に誤魔化そうとしているんじゃない。
本当の優しさは、好きな女性がいるとキッパリ伝えることだと思うんだけどな。
あの男は、ジャンヌ様に好かれて優越感に浸っているだけよ。
彼女の居ないとカフェで、ふたりで嘲笑っていたじゃない。
「あのような者たちは、握り潰して息の根を止めないといけない。
これ以上、害虫が飛び回らないようにー」
明るい話し声と正反対に、紫の瞳が赤く不穏な色へ変化する。
「プリムローズ嬢、なにか仰いました?」
手摺に空いた手を置き、ジャンヌが髪をフワッと靡かせて振り返る。
こうして、気遣ってくれる優しい方。
『こんなに素敵な女性なのに、男運が壊滅的に悪すぎる。
騙されていたことを知ったら、どうなってしまうんだろうか』
「虫が飛んできて、驚いて足を踏み外しそうになっちゃって。
落ちそうになり、危ないところでした」
わざとらしく左手で手摺を握り、右手で何度も存在しない虫を払いのけた。
あの男の鼻の下が伸びた顔を急に浮かんだ。
表情だけは演技でなく、ウザそうに眉間に皺寄せる。
「危なかったじゃない!
落ちなくてよかったわ」
ホッとして軽く息を吐くジャンヌに、ロッタは大袈裟だなって笑いながら言う。
「反射神経が猫並みだ。
落ちそうになったって、プリムローズ嬢なら大丈夫だよ」
「へぇ~、私は猫ですか。
だったら、ロッタ先輩は犬ね。
茶色の毛並みの大型犬で、大食いでよく吠えるワンちゃんです」
「い、いーぬ~。私は犬か!
うん、まぁ悪くないな。
実家で飼っていて、好きだし嫌いではない。
賢くて従順で、なにより可愛いだろう!?
ふーん。
では、ジャンヌはなんなんだろうか?」
プリムローズから犬だと言われることに、彼女は納得しどうやら満足していた。
だったら親友のジャンヌは、どんな動物に当てはまるかが気になるようだった。
「私は人であって、動物じゃないてしょう」
この時、3人はプリムローズの部屋にいた。
こんな奇妙な話は、頭がおかしくなったと思われてしまう。
他人には、あまり聞かせられない内容だ。
「ジャンヌ様は、ヴァンブランに感じが似ていると思います」
「ヴァンブランさんは、プリムローズ嬢の愛馬でしたよね」
「ええ、白馬です。
ジャンヌ様、呼び捨てして構いませんのよ」
公爵令嬢の持ち馬で、名指しをしにくいのだろうか。
思い出せば鷹のピーちゃんを、エリアス殿下は様付けまでしていたっけ。
「あの白馬、綺麗だもんな。
普通のそこらにいるのとは、比べてはいけないレベルだった」
「ロッタ先輩、ヴァンブランは王妃様に献上される馬でした。
それを姉が欲しがって、両親におねだりしたのです。
王家に譲ってくれないかと打診して、かなり強引なやり口で手に入れました」
「ひゃあ~、すごいな!
王妃様のモノになる馬だったのか。
しかし、公爵とはいえ臣下だろう。
そんな事がよくできたな」
ロッタとジャンヌは、プリムローズの実家に呆れてしまう。
貧乏貴族の娘から、素直な感想が口から飛び出してしまった。
ジャンヌもロッタを止めるのを忘れ、目を丸くしていて話を聞いている。
「嘘が時に必要となる場合もある。
まさに、【嘘は世の宝】。
王家にとっても、これは悪い話ではなかったのです」
「なんでだよ。
馬の話で、【嘘は世の宝】って言葉がでてくるんだ」
「……、話が見えない」
頭のなかを疑問でいっぱいにして、プリムローズの表情からヒントを得ようとする。
「この続き話を聞きたい?」
紫の瞳がキラーンと光らせて、前屈みぎみに見ている二人を面白がる。
「聞きたいに決まっている!
ここまで話していて、教えてくれないつもりのかよ」
「乱暴な喋り方をしてはダメよ。
こんな事言う私も、話の続きを聞きたいです」
どうしたものかと両目を瞑ったまま、一度だけウーンって悩ましげに唸る。
「ごめんなさい!
焦らすつもりはありませんが、夕食時に話すことにします。
至急、手紙を書かなくてはなりませんの」
不満そうに唇を尖らせて、ロッタは頭の後ろで腕を組む。
「えー、つまんないの」
「あとで、話してくれるって言っているでしょ。
ほらっ、行くよ。ロッタ!」
背中を押してジャンヌは、彼女を部屋から力ずくで外へ出そうとしている。
ロッタの手綱を操るのは、親友のジャンヌしかいない。
「荷物を運んでくださり、助かりましたわ。
また、食堂で会いましょう」
扉を開けて立ち止まり、ロッタが振り向いて出る前に一言。
「じゃあ、迎えに来る。
急ぎの手紙、早く書きなよ」
「人に命令しなーい!!
また、後ほどね」
ロッタの肩を押して、先に外へ押しやる。
扉を閉じる直前に、軽く頭を下げてから静かに閉めた。
数秒前までは、あんなに騒がしかった部屋がシーンとなった。
「よし、ササッと手紙を書いてしまおう!
これも、【嘘は世の宝】の手紙になりそう。
ジャンヌ様の恋を美しい思い出のまま、嘘つき男を消し去ってみせるわ」
真っ直ぐ勉強机に向かって、椅子に座ると机上にあるランプに火をつける。
ペンにインクを浸している間に、油を吸いあげて灯りが周りを照らす。
書く文章を頭で整理し終えてから、一気に文字を走らせる。
偶然に、タルモと見聞きした一部憲兵たちの悪事話。
友人の想い人が、その悪事に関係していた。
何とか彼女に知られないように、終わらせたいやりたいと書き示す。
嘘にも良い悪いがある。
子供の頃に嘘をついてはいけないって、大人に教えられるけど……。
いつから複雑な嘘をつく事が、罪悪なくつけるようになったのだろうか。
「世の中は嘘だらけ。
生きている人は、一度以上は嘘をついて生きているのよ。
ジャンヌ様にとっては、必ずよい【嘘は世の宝】となるでしょう」
インクを乾かす時間を、無駄にしないよう。
大きく両手を広げると、
銀髪の神が月光に照らされ輝く。
紫紺の瞳が月を見上げて、息を大きく肺に納めてから指笛の音が夜空を切り裂くように響き渡るのだ。
守衛の終業時間が迫る。
柱時計の時間を確かめると、男は帰宅準備を始めていた。
しかし、目に写るのは部屋の片隅にある机の上に置かれた荷物たち。
『気を利かせて、部屋の扉前に運んだ方がいいのだろうか。
勝手できないし、困ったな~』
クラレンス公爵令嬢の名前で預かった物を、どうしたらよいか頭を痛くしていた。
そんな時、守衛室の前をバタバタ走る音が聞こえてくる。
出掛けた時と違う服装で、本人がちょうど姿を現してくれた。
「ああ、よかった。
帰ってきてくれて、助かった。
仕事終わりなんで、荷物をどうするかで悩んでいたんだよ」
「遅くなって、ご迷惑お掛けしました。
預かって頂き、ありがとうございました。
荷物はあれですか?」
本の山と紙袋が各々2つずつあるのを、プリムローズは目をやってから頭を下げて預かってくれた礼を言う。
どうやら、彼女に当たりの強い言い方をしてしまったように感じた。
「そんなつもりで、言ったんじゃないじゃないからさ。
ひとりでは大変だろう。
オジさんも、荷物を部屋に運ぶのを手伝おうか?!」
「お言葉に甘えて、階段の下まで一緒に運んでくれますか。
後は、自分でなんとかします」
「そんなんでいいのかい!?
遠慮しなくていいんだよ。
本は重そうだ。
部屋の前まで運ぶよ」
「いえいえ。
ちょっと食べすぎたので、動いてお腹を空かせたいの。
気になさらないでください」
「ああ、そうかい。
階段までは運ぶから、君は手を出さないでくれよ」
「はーい!
よろしくお願いしまーす」
明るく返事し照れ笑いする様子は、自分の子供の姿を重ねた。
公爵とは、貴族の中で一番身分が高い。
愛らしく素直で腰の低いプリムローズに、ますます好印象を持つのである。
階段脇に置かれた荷物を、3往復行き来して部屋にドレスと本を運ぶ。
足腰を鍛えるつもりなら、こんな階段も苦にならないはずだ。
五冊分の本を抱えて2往復し、残りは紙袋に入ったドレスと靴のみ。
腰を拳で叩いていたら、聞き覚えある声が頭上から聞こえる。
ロッタとジャンヌは、2階の階段の手すりからプリムローズに話しかける。
「手伝いに来たぞ~。
君が荷物を運んでいると、聞き急いで来たんだけど……」
「プリムローズ嬢、荷物は何処にあるの?
私も運ぶのを手伝うわ」
「ジャ、ジャンヌ様。
と、ロッタせんぱーい」
今は会いたくないジャンヌが、プリムローズの心を知らずに微笑んでいた。
「……と、とってなんだよ。
ついでみたいな言い方して、手伝おうと来てやったのにさぁ」
「もう、大人げないったら…。
気になっていたんだけど、行きと着ているものが違うわね」
行きのシンプルながら高価そうなドレスと違って、身に付けているのは町娘に変化している。
二人は階下まで降りていくと、紙の袋がプリムローズの足元に2つ置かれている。
袋が開かれて覗いてみたら、中身は着ていったドレスと靴だった。
「馬車が走れそうになるまで、近くのカフェで時間を潰してました。
ドレスでは目立つので、この服に変えたわけです」
「でしたら、この紙袋を持ちます。
馬車が帰り道で、偶然事故に遭遇したんですってね」
ジャンヌが靴の入った小さい方の紙袋を、当たり前のようにロッタへ押し付ける。
「そう、そうなんです。
農産物を乗せた荷馬車の車輪が、外れかけて脱線してしまったようでした。
荷が道にばら蒔かれて、馬車がまったく通れなくなりました」
「事故があったってことはー。
もしかして、ジャンヌの憧れの騎士様に会えたのかい」
「騎士様でなく、憲兵ですからね。
最近はお会いしていないけど、元気にしているかしらね」
見かけて変装してまで、会話を盗み聞きしていたとは言えない。
それに、ジャンヌに真実は伝えられない。
「事故で混乱して、その場に留まりたくなかったの。
ですから、彼は見かけておりません」
「そっか、ジャンヌ残念だったね」
「だ、か、ら!
なんでそんな風に言うのよ。
どうしているかなって、思っただけです」
頬をうっすら赤くなりロッタと話しているジャンヌの顔を、プリムローズは視線を外して見ないでいた。
残りの紙袋を持って、階段を上がる友人たち。
その後をついていく表情には、ジャンヌと世間を欺く者たちの怒りを含んでいた。
『タルモ殿は、自然に任せろと仰ってたけど…。
それって、正しいことなのかな?!』
優しさからジャンヌ様に、好きな人はいないって仰ったとタルモ殿は考えている。
それは都合よい言葉で、結局は適当に誤魔化そうとしているんじゃない。
本当の優しさは、好きな女性がいるとキッパリ伝えることだと思うんだけどな。
あの男は、ジャンヌ様に好かれて優越感に浸っているだけよ。
彼女の居ないとカフェで、ふたりで嘲笑っていたじゃない。
「あのような者たちは、握り潰して息の根を止めないといけない。
これ以上、害虫が飛び回らないようにー」
明るい話し声と正反対に、紫の瞳が赤く不穏な色へ変化する。
「プリムローズ嬢、なにか仰いました?」
手摺に空いた手を置き、ジャンヌが髪をフワッと靡かせて振り返る。
こうして、気遣ってくれる優しい方。
『こんなに素敵な女性なのに、男運が壊滅的に悪すぎる。
騙されていたことを知ったら、どうなってしまうんだろうか』
「虫が飛んできて、驚いて足を踏み外しそうになっちゃって。
落ちそうになり、危ないところでした」
わざとらしく左手で手摺を握り、右手で何度も存在しない虫を払いのけた。
あの男の鼻の下が伸びた顔を急に浮かんだ。
表情だけは演技でなく、ウザそうに眉間に皺寄せる。
「危なかったじゃない!
落ちなくてよかったわ」
ホッとして軽く息を吐くジャンヌに、ロッタは大袈裟だなって笑いながら言う。
「反射神経が猫並みだ。
落ちそうになったって、プリムローズ嬢なら大丈夫だよ」
「へぇ~、私は猫ですか。
だったら、ロッタ先輩は犬ね。
茶色の毛並みの大型犬で、大食いでよく吠えるワンちゃんです」
「い、いーぬ~。私は犬か!
うん、まぁ悪くないな。
実家で飼っていて、好きだし嫌いではない。
賢くて従順で、なにより可愛いだろう!?
ふーん。
では、ジャンヌはなんなんだろうか?」
プリムローズから犬だと言われることに、彼女は納得しどうやら満足していた。
だったら親友のジャンヌは、どんな動物に当てはまるかが気になるようだった。
「私は人であって、動物じゃないてしょう」
この時、3人はプリムローズの部屋にいた。
こんな奇妙な話は、頭がおかしくなったと思われてしまう。
他人には、あまり聞かせられない内容だ。
「ジャンヌ様は、ヴァンブランに感じが似ていると思います」
「ヴァンブランさんは、プリムローズ嬢の愛馬でしたよね」
「ええ、白馬です。
ジャンヌ様、呼び捨てして構いませんのよ」
公爵令嬢の持ち馬で、名指しをしにくいのだろうか。
思い出せば鷹のピーちゃんを、エリアス殿下は様付けまでしていたっけ。
「あの白馬、綺麗だもんな。
普通のそこらにいるのとは、比べてはいけないレベルだった」
「ロッタ先輩、ヴァンブランは王妃様に献上される馬でした。
それを姉が欲しがって、両親におねだりしたのです。
王家に譲ってくれないかと打診して、かなり強引なやり口で手に入れました」
「ひゃあ~、すごいな!
王妃様のモノになる馬だったのか。
しかし、公爵とはいえ臣下だろう。
そんな事がよくできたな」
ロッタとジャンヌは、プリムローズの実家に呆れてしまう。
貧乏貴族の娘から、素直な感想が口から飛び出してしまった。
ジャンヌもロッタを止めるのを忘れ、目を丸くしていて話を聞いている。
「嘘が時に必要となる場合もある。
まさに、【嘘は世の宝】。
王家にとっても、これは悪い話ではなかったのです」
「なんでだよ。
馬の話で、【嘘は世の宝】って言葉がでてくるんだ」
「……、話が見えない」
頭のなかを疑問でいっぱいにして、プリムローズの表情からヒントを得ようとする。
「この続き話を聞きたい?」
紫の瞳がキラーンと光らせて、前屈みぎみに見ている二人を面白がる。
「聞きたいに決まっている!
ここまで話していて、教えてくれないつもりのかよ」
「乱暴な喋り方をしてはダメよ。
こんな事言う私も、話の続きを聞きたいです」
どうしたものかと両目を瞑ったまま、一度だけウーンって悩ましげに唸る。
「ごめんなさい!
焦らすつもりはありませんが、夕食時に話すことにします。
至急、手紙を書かなくてはなりませんの」
不満そうに唇を尖らせて、ロッタは頭の後ろで腕を組む。
「えー、つまんないの」
「あとで、話してくれるって言っているでしょ。
ほらっ、行くよ。ロッタ!」
背中を押してジャンヌは、彼女を部屋から力ずくで外へ出そうとしている。
ロッタの手綱を操るのは、親友のジャンヌしかいない。
「荷物を運んでくださり、助かりましたわ。
また、食堂で会いましょう」
扉を開けて立ち止まり、ロッタが振り向いて出る前に一言。
「じゃあ、迎えに来る。
急ぎの手紙、早く書きなよ」
「人に命令しなーい!!
また、後ほどね」
ロッタの肩を押して、先に外へ押しやる。
扉を閉じる直前に、軽く頭を下げてから静かに閉めた。
数秒前までは、あんなに騒がしかった部屋がシーンとなった。
「よし、ササッと手紙を書いてしまおう!
これも、【嘘は世の宝】の手紙になりそう。
ジャンヌ様の恋を美しい思い出のまま、嘘つき男を消し去ってみせるわ」
真っ直ぐ勉強机に向かって、椅子に座ると机上にあるランプに火をつける。
ペンにインクを浸している間に、油を吸いあげて灯りが周りを照らす。
書く文章を頭で整理し終えてから、一気に文字を走らせる。
偶然に、タルモと見聞きした一部憲兵たちの悪事話。
友人の想い人が、その悪事に関係していた。
何とか彼女に知られないように、終わらせたいやりたいと書き示す。
嘘にも良い悪いがある。
子供の頃に嘘をついてはいけないって、大人に教えられるけど……。
いつから複雑な嘘をつく事が、罪悪なくつけるようになったのだろうか。
「世の中は嘘だらけ。
生きている人は、一度以上は嘘をついて生きているのよ。
ジャンヌ様にとっては、必ずよい【嘘は世の宝】となるでしょう」
インクを乾かす時間を、無駄にしないよう。
大きく両手を広げると、
銀髪の神が月光に照らされ輝く。
紫紺の瞳が月を見上げて、息を大きく肺に納めてから指笛の音が夜空を切り裂くように響き渡るのだ。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした
ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
悪役令嬢は激怒した
松本雀
恋愛
悪役令嬢は激怒した。
必ず、かの厚顔無恥な簒奪者を排除せねばならぬと決意した。
ローザリンデ・フォン・シュヴァルツェンベルクには、政治のことはわからぬ。流行のドレスにも疎い。けれど悪には人一倍敏感であった。なにせ、自分が悪役令嬢だったからである。
◇
悪役令嬢ローザリンデは、王太子に断罪され辺境に追放された。
だが薬草園を耕す日々は存外悪くなく、「悪役令嬢時代より充実してるわ」と満足していた——はずだった。
ある日、社交界に新たな悪役令嬢が君臨し、自分が「先代」呼ばわりされていると知り大激怒。悪役令嬢の座を賭けて王都に殴り込む。
完璧な縦ロール、完璧な高笑い、完璧な紅茶のかけ方。何もかもが洗練された現役悪役令嬢クラリッサを相手に、高笑い対決、ドレスの威圧感対決、嫌味対決と、誰も得をしない真剣勝負が幕を開ける。
力押しの元悪役令嬢と技巧派の現役悪役令嬢。戦いの果てに二人が見つけるものとは……?
必要とされなくても、私はここにいます
あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。
口出ししない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
ただ静かに、そこにいるだけ。
そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。
張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。
何かを勝ち取る物語ではない。
誰かを打ち負かす物語でもない。
それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。
これは、
声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、
何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。