無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第4章 騎士道を学べ

第29話 玉の輿に乗る

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 ピー、ピィー~!!

夜の訪れと共に静けさが増すなかで、その音色はウネルマの館に反響していた。
暗闇から白い物体が、交差しながらワルツを踊るかのようにやってくる。
だんだんと羽音が聞こえて、徐々に部屋に近づく。

プリムローズのアメジストの瞳の色が、ラピスラズリ色に変化した目で追っていた。
何処からでも突っ込まれても良いように、窓を全開して待ちかまえる。
もしも、虫でも部屋に入ってきたら捕まえるのは面倒だな。
この子たちに、処分をお願いして食べてもらおう。

「ピーちゃんと、カメリアちゃん。
こんなに早く、飛んできてくれて有り難うね」

仲良く並んで、ベランダに止まって不機嫌そうに鳴いていた。

「ピッピッ、ピィ~!
( 呼ばれるから、近くにいるんだよ!)」

「ぴぃぴぃ!( そうそう )」

人間には理解できないのをいいことに、羽をバタつかせて好き放題に鳴いた。
ピーちゃんたちはここへ来て喜んでいるのだと、プリムローズは都合いい勘違いをしていた。

「私に会えて嬉しいみたいね。
果物でも食べながら、羽を休ませてください」

この待遇たいぐうの良さからして、これは至急の依頼だとピーちゃんたちは察した。
テーブルに用意された果物を、2羽は遠慮なく食いつまむ。

「ピーちゃんは、スクード公爵のイーダさんへ。
カメリアちゃんは、ゲラン侯爵次期侯爵夫人メリーに渡してね。
返事は必ず持って来てね。
宜しくお願いします」

お願いする言葉遣いは低姿勢で、もてなしてくれる主人の気遣いに悪い気はしない。

「「ピー、ピ~!!」」

接待された2羽は、よいお返事と翼を広げて承諾の合図を送る。
足に手紙を巻き付け終えると、
夜空に向けて上昇した。
そして、左右に分かれて違う方角へ飛んで行く。
プリムローズは無事を祈りつつ、見えなくなるまで見送っていた。


   跡形もなく消え去さり、窓を閉めている時に後方から扉を叩く音がする。
ロッタ先輩たちが、夕食のお誘いに来てくれたのだ。

「おーい、迎えに来たぞ。
夕御飯、お得セットをゲットしに行こう!」

「一緒に食堂へ行きましょう、プリムローズ嬢」

扉の向こうからは、ロッタたちの元気のよい声が聞こえてきた。

「はぁ~い!今、参りますわ」

夕食5分前に、食堂の前に待機たいきして場所取りをしないとお得セットは手に入らない。
食堂の扉が開くと同時に、一斉に走り出さないと間に合わないのだ。

大食いの学生たちからは、特に人気がある幻のお得セット。
そう呼ばれいるには、それだけの理由があった。
他の定食のオカズを、寄せ集め構成されている。
それ故、僅か20食分しか用意されない。

これを口に入れるため、学生たちは毎日熾烈しれつな戦いをしている。
戦士たち(学生たち)は、今日は特に態度が荒ぶっていた。

「夕食の準備が遅れたそうよ」

「へぇ~、そうなんですか。
ジャンヌ様、なにがあったのですか!?」

プリムローズはジャンヌへ訊ねたのに、訊いてもいないロッタが返事してくる。

「噂だと、食材が届くのが遅れたそうだよ。
大人数分を作るんだ。
時間が間に合わなくても、文句は言えないと思う」

もしかしなくても、あの馬車が脱線した影響かもしれない。
ばら蒔かれた品々は、学園に納められるはずの食材だった可能性がある。

食堂の扉前とびらまえに、およそ30名が最前列を陣取じんどっていた。
食事の時間が遅れたせいで、腹を空かせて獣のように苛立ってみえる。
餌を狙う猛獣たちの集い。

「殺気だっているわ。
ねぇ、ロッタお得セットは諦めたら?」

「前から思っておりましたが、
ロッタ先輩はお得セットがお好きですよね」

「私だけじゃない。
苦学生たちは、全員そうだと思うぞ。
名だけの貴族は、君みたいに暮らしに余裕はないんだ」

プリムローズは、ロッタの食べ物への執念しゅうねんは理解できた。
自分も、美味しいものには目がない部類だ。

「安くて量があり、なによりも旨い!
育ち盛りの我々には、栄養として必要不可欠ふかけつだ」

ようするに、ロッタは大食いなのよ。
それに、私たちは苦学生。
ちょっとでも家のために、節約しないといけないの」

エテルネルの学園でデラックススペシャルランチを食べていたことを、2人には口がけても言えないプリムローズ。

「家は関係ありません。
私だって、お得は大好きです。
セコいと思われても、もし得するなら節約したいわ」

「君、大金持ちなのにケチそうだもんな」

「有意義な使い方をしてますので、わ・た・しは!」

「お喋りはそこまでにして、食堂の扉が開きそうよ」

ザワついていたのが、ピタリと話し声が止まる。
そして、ピーンと張り詰めた空気に変わった。

「あと1分で、扉が開くぞ」

「おい、後ろの奴は押すなよ」

「転んだりしたら、危ないだろう」

毎度殺気だつが、今晩はすごく尖っていた。
周辺に喧騒し合う学生たちに、プリムローズたちはいつもより余計に胸が高鳴る。

食堂の若い下っ端見習いが、扉の前に立つ役目を仰せ使う。
犠牲者になってもよい人材が、この危険な役目につく。
要は、居なくてもいい余剰人員。

「学生の皆様!
準備が遅くなり申し訳ございません。
お待たせ致しました。
いざ、開場ー!」

これには見習いも命がけで、開けた瞬間に離れないと人波に巻き込まれる。

「ここから別行動だ。
ふたりの健闘けんとうを祈る」 

右側がロッタと左側がジャンヌ、真ん中がプリムローズの持ち場。
1番危険度が高いのを選んだ彼女は、かなりの挑戦者だろう。イノシシのように、猪突猛進で直進しカウンターの縁に両手をつく。

「「「お得セット!!!
一人前、お姉さん(お姉さま)!
注文をたのむ(お願いします)!」」」

「あいよ!
シワクチャでも、お姉さんと呼ばれて嬉しいね。
お得セット、三人前オーダー入ったよ!」

毎回かなり年配のおばちゃんにも、分かりやすい媚びる注文をした。
女性は声が高いので、声変わりした男子学生よりはよく通る。
毎回この声とお姉さま扱いで、おだてられているのは分かっていても反応してしまう。

「よくやった。
ふたりも任務完了したな」

「「まぁね!!」」

ジャンヌとプリムローズは、満足そうに勝利のポーズしてみせた。
次に空席を探し、椅子に座ると食べながら会話を始めた。

戦利品のステーキを切り分けていたら、一番先にロッタが話題を振ってくる。

「プリムローズ嬢、先ほどの話の続きをしてくれ。
王妃様と姉上は、ヴァンブランを取り合ったんだろう」

この言葉からして、ロッタたちは完全に誤解しているようだった。
無言で口を動かしていたジャンヌも、瞳をプリムローズに動かし注目する。

貴族たちは王様に自分たちを覚えて貰いたい為に、領地の特産品とかをよく献上する。
とある目立たない平凡な伯爵家に、雪のような馬体をした美しい子馬が生まれた。

それが、ヴァンブランだった。

「この子馬を献上したら、陛下から目をつけてくれるはずだ」

そして、陛下よりも王妃へ献上した方が注目されると思ったのだ。
話を聞いていたジャンヌは、ひとり頬を赤らめていた。

「美しい白馬に乗って、広大な宮殿の庭を優雅に駆け抜ける。
天上におわす女神が、ペガサスに股がるかのようにー」

臣下たちから称賛を一身に浴びる様子を想像し、自分と王妃の姿を重ね合わせるジャンヌ。

「ウットリしているところ悪いんですけど、王妃は壊滅的な運動音痴よ。
これは秘密にされていて、献上しようとした伯爵も存じませんでした」

夢から現実に戻り、ジャンヌの笑みが一瞬で消え去った。
反対にロッタは、面白がって意見を述べる。

「どうせ献上された馬に乗りたくなかったから、重臣のクラレンス公爵に譲り渡したんだろう」

ロッタとジャンヌは、王妃様を神格化した憧れがあるようだ。
王族たちの愚かな面を見ていたので、現実を教えた方がよいか悩む。

「そんな単純ではないのです。
王妃様と私の母は友人同士で、互いに共通点がありました」

共通点ってなんだろうかと、ジャンヌとロッタは数秒考えて答えをだす。

「王妃様と友人関係になるには、それなりの高い身分がないとなれませんね」

「公爵夫人なら、王妃様からお茶会に招待されて交流できるしな」

左手を腰に置いて、残された右手の人さし指を立てて左右に動かす。
惜しいと2人に言ってから、母親と王妃の共通点を暴露した。

「母と王妃は、女性たちが夢見ている。
【玉の輿に乗る】を、成し遂げた方々なのです。
最後は、輿から転げ落ちてしまったんですけどね」

「それって女性が高い身分や豊かな財産を持つ人と結婚して、自分の地位や生活環境を大幅に向上させることを意味よね」

「はい、ジャンヌ様。
昔の話では、貴族や富裕層は宝石で飾られた美しい輿に乗って移動していました。
それで、この表現が生まれたとされています」

ふぅ~んと唸ると、ロッタは正直な感想を言う。

「プリムローズ嬢の母上は、身分が低かったのかい?」

「母と王妃は、伯爵の娘でした。
ですが、そんなには裕福ではなかったようです」

「伯爵の令嬢なら問題なく、許容できる身分でしょう」

「身分上はギリギリでしたが、教養と素行が悪すぎたのです。
夫たちが無関心を良いことに、表立って天狗になっていました。
この悪影響で、娘の姉が傲慢になってしまったわけです」

姉リリアンヌは、身分を傘に学園ではやりたい放題していた。
姉の取り巻きの友人たちが、伯爵が献上する予定の子馬の話をしてまったのだ。

「王妃様の献上される子馬を、姉君は欲しくなってしまったんだな」

「よく譲ってくれましたね。
伯爵から拒絶されなかったんですか?」

「母が王妃を説得して、父が伯爵に掛け合ったのです」

乗馬ができない事を隠せて、娘に譲ったことで人格者扱いされます。
王妃を持ち上げて、彼女に納得されたのである。
宰相の地位のある父は、これからは伯爵の力になるからと頼み。
最後は伯爵に莫大な金額を払って、娘の欲しがった子馬を手にした。

「ご両親を悪く言って済まないが、かなり娘に甘いようだ」

「反論しません。
父は宰相として多忙で、家族と接する時間がありませんでした。
その後ろめたさから、母の言いなりだったようです」

そこまでして手にしたのに、一度だけの落馬で乗らなくなった。
癇癪持ちの姉のお陰で、
ヴァンブランは自分の馬になりましたと言ってのけた。

「両親が苦労して手に入れたものを、娘は知らずに妹にあげたのか。
位が高いと同じ貴族でも、どうやら思考に開きがある」

「その王妃様とプリムローズ嬢の母上様は、今でも仲良しておられますの?」

「はい、担ぎ上げられた権威を失い。
心の友になれたのでしょう」

ざっくりと現状を話すと、驚きながら聞いてくれていた。
王妃と公爵夫人だった頃は、互いに利用していた存在だった。
何もかも失くしてから、初めての友情が芽生えていったのだろう。

「昔の話です。
両親と姉は、辺境の地で苦労しました。
そのせいで性格すら変化し、心から尊敬できる家族となりました」

「そっか、君も淡々と話しているが大変だったね」

「いえ、私は苦労していませんから……」

辺境の地に送り出した本人が、話していた実の娘プリムローズとは思っていなかった。
事実を教えていたら、ロッタやジャンヌはどう思ったのだろうか。

「あのう、話は全然変わりますがー」

しんみりした空気を明るくしようと、ジャンヌはある提案を2人に持ちかけてきた。
これがアレではないかと、プリムローズは身構えて聞くことになるのだった。
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