無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第3章  それぞれの巣立ち

第10話 牛を馬に乗り換える

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 美しく整えられた芝生には、カメリア柄の敷物を広げて寛ぐ人々。
よく見れば、子供たちが喜びそうな動物たちの物もある。

邪魔な荷物になる敷物を、おもてなしの気持ちから無料で貸し出されていた。
ここまで心配りをしてくれている観光地で、不似合いな男女の言い争いが起きていた。

周辺の人たちが迷惑な顔をしていたら、同年代の男女が突然に現れて仲良くするように促す。
その様子を注視する人は、会話が聞こえないが何となく分かる。
一緒に食事をと誘っているようだが、男女の意見が割れて其々の主張で熱くなる。

のどかな気分を台無しにされ、いい加減にしてくれないかと思い始めていた。
救世主らしい人が、息を弾ませてやってきた。
ひとりの少女が何やら一方的に話すと、彼らを強引に連れて行く。

これからどうなるのか。見ていた者たちは、どうしてもそちらが気になってしまうのだった。

「見かけと話し方からして、家柄が良さそうなお嬢さんみたいね」

「貴族の娘かもな。
あの娘さん、面白かったな。
空腹だからと決めつけて、無理矢理に納得させていた。
やっと、静かになって助かるよ」

「レストランも混んでいて、待ち時間も長くなってきているわ。
去年はここまで、混雑しませんでしたわ」

「カメリアの咲いている時期が、ここの見所だ。
アレコレ言っても、仕方があるまい。
縁結びの御利益で、すっかりこの場所も有名になってしまったからね」

「こんなに混雑するなら、屋敷を増築して改装したらいいのにー。
席数を増やせば、客も待たなくてすむでしょう」

「屋敷の趣を変えたくないのだろう。
しかし、渋滞する道はどうにかして欲しい。
歩いてここまで辿り着けるのも、あと残り何年ぐらいだろうか」

「貴方が、プロポーズしてくれた場所。
また来年また、ふたりで訪れられたらと思います」

中高年の夫婦は、レストランのテラス席で揉めていた若いカップルを眺める。 
その懐かしむ瞳には、昔の若かった頃の自分たちと重ねていた。

     
    空腹が満たされて笑顔が出てきたところで、プリムローズは言い争っていた理由を訊ねてみることにした。
じっくり話を聞いてみると、休みも満足に取れないようで疲労が蓄積していたそうだ。
別々の場所で働いているが、どちらも仕事環境が最悪らしい。

「その仕えている家は、私が辞められないのを知っています。
わざと仕事を多くして、こちらから文句を言わせようと仕向けてくるの。
そして、辞めても構わないっておどしてきます」

不平を述べたことに謝罪する自分に対し、優越感に浸って見下す素振りをされた。

「ふーん、雇い主さん。
聞いてると、相当に意地悪な主人なんだ。
じゃあ~、辞めてウチ来る!?
特に、女性が人手不足なのよ。
ねっ、そうしなさいな!」

「お嬢様、またそのようなことを軽々しく仰って……。 
ウィリアム様のお断りもなく、勝手にしてはなりませんよ」

「ウィル親方は、人手を探す暇がないじゃない。
本来なら、貴女が率先そっせんしてしなくてはならないのよ。
近い将来、女主になるんだから」

「お嬢様、私はまだ正式にはお受けしておりませんよ!」

「そんなに否定するなよ。
俺らは、自分で着替えができる。
掃除と洗濯をしてくれると有り難いんだけど。
お願いできないか!?」

プリムローズとメリーの話している途中で、ギルまでもが会話に割って入ってくる。

「質問しても宜しいかしら?
雇われている家は、貴族なんですか?
随分ずいぶんと、人使いが荒いようですけど…」

後のゲラン侯爵夫人になるメリーが、役目を果たすべく面接を始めた。

「平民の屋敷ですが、商売を営んで裕福です。
ですから、貴族並みに世話を任せてくるので困っております」

「俺の雇い主は人が足りないのを分かって、アレコレと仕事を押し付けてくるんだ」

「貴族様のお屋敷に、平民が働くのは無理ではないでしょうか?」

フレデリカは自分の家も、身元が判明している下級貴族の出身者が給仕していた。
それを思い出して質問してみる。

「ほお~ん、クラレンスの屋敷では平民の領民を雇っているわよ。
べつに仕事をキチンとすれば、身分は構わないでしょう?!」

「プリム…、プリムローズさん!
ここではお話をしない方がいいですわ。
そうですわよね、ヨハン君?」

「ヨハン君?
どうして、君で呼んでいるの?
様子がおかしいですわよ、テレーシア様」

必死に身分を隠そうとしているので、プリムローズとの会話がギクシャクしてしまう。
オスモがもしかしてと、隣に座る婚約者に耳打ちする。

「プリムローズさんたちに、ライラが伝えてくれなかったのか」

「私からは話してません。
フレデリカさんとテレーシアさんが、伝えてくれたと思っておりました」

自分等に視線が行くと、二人して両手をバタバタ振ってして違うと言う。

「「 いいえ、伝えてません!!」」

エリアスとヨハンは、おでこに手を当てたり顔を下にして頭を振って見せる。

「いつもは様や殿呼びなのに、いきなり君にさん呼びになって変なのって思った。
ははぁ~ん、話がみえてきましたわ。
自分等の身分を、この人たちに隠そうとしていたのですね。
ズバリ、そうでございましょう!」

アゴにさすりながら名探偵になりきり、エリアスたちに人差し指を勢いよく突きつけた。

「そうしませんかと、私から提案しました。
身分を知ったら、萎縮したりすると思ったのです」

この国では、身分が1番高い王族ですもの。
平民以下の暮らしをしていたから、身分差に敏感なのかもしれない。

「この場で食事だけして、サヨナラなら正解です。
雇用関係を結ぶとなると、雇い主の家名を知らせないといけません」

「……、身のふたもない」

ベルナドッテ公爵嫡男ヨハンは、プリムローズの機転の早さに仰る通りだと認めた。
エリアスたちも考えが空回りになって、渇いた笑いで誤魔化すのだった。

「平民の領民とか、まさかあなた方は皆さん。
貴族の方々なんですか?」

「貴族さま、本当に?
だとしたら、とんでもない失礼をしました。
どうか、ご無礼をお許し下さい」

テーブルにぶつかるくらいに、頭を下げて詫びを言い出した。

「おい、やめてくれよ。
内容は聞こえてないが、周りが見ていて変に思うだろう」

「おっと、すまん」

「はい、すみません」

謝りながら頭をあげるが、ふたりの表情は固かった。

「貴族と呼ばれているけどさ。
クラレンスでは、ならず者やおたずね者まで雇っていたからな」

それは悪いことをされた方なのかと、驚きを隠せない人たち。

悪事あくじをしたのは、クラレンスに来る前です。
また悪さでもしたら、お祖父様に首チョンパされちゃうわ。
改心かいしんして良い子にしてます」

首を切る真似をして、ニコニコ顔で怖いことを言ってのける。
そのまま人差し指で男女をすと、プリムローズは命じるようにする。

「新しい主人の息子が、雇用したいと申しているのよ。
【牛を馬に乗りえる】をしなさい!」

    『『牛に馬?』』

急に出てきた言葉に、顔を合わせて互いに考えても意味が分からなそうだ。

おとったものを捨てて、すぐれた方へ乗り換える意味でございます」

手際よくメリー、カップにお茶をそそぎながら答えた。

「ダメな雇い主から、お嬢様のところへ切りえるってことですか?」

「ご名答です~!
同じお金を貰うなら働きやすくて、給金が高いほうが良いでしょう?」

「「もちろんです!」」

息ピッタリに返事して、ニコニコ顔をプリムローズに向けた。

「じゃあ、了承でいいのね。
最初は見習い給金ですが、勤務態度を考慮して金額を増やすわ。
だから、しっかり頑張りなさい」

馬に人参にんじんを、前にぶら下げる作戦。

発破はっぱかけて、ああして思い通りに仕込む。
無意識で、損得勘定そんとくかんじょうするからたちが悪い』

お茶に続いて今度は、デザートを前に置く。

この愛を誓った観光地の屋敷の中庭で、主従しゅじゅうきずなが結ばれた。

新たな使用人たちが、ゲラン侯爵家に迎え入れることになる。
見ず知らずの今日会った者たちを、疑いもせずに簡単に石でも拾うように雇う。

プリムローズとギルの度量どりょうの大きさと、即断そくだんに何故か不安な気持ちがいてこなかった他の者たち。

「おい!働いた分の給金は、しっかり頂いてから来いよ。
親父には、俺とお嬢で話をつけとくからな」

「出し惜しみしたら、私たちに遠慮せずに告げ口しなさい。
取り立て専門をしていた子分に、倍にして回収させます」

貴族とは思えない言葉に、ちょっと前に息巻いていた男は静かにお願いしますと返事する。

「ギル師匠、人手不足だったから来てくれたら助かりますね」

「離縁一歩手前の夫婦、観光地でケンカしていたカップルだけどな。
人選はイマイチだけどよ。
俺たちも、偉そうに言える立場でもないしな」

「人手不足なんだから、贅沢ぜいたく言ってはいけなくてよ!
人は育てるものだと、お祖父様も言っておりました。
ギルとメリーが、面倒見て仕込むのよ。
いい分かったわね」

素晴らしいご託を述べて命じるが、丸投げして人任せにする。
3人で自分等の今後を話し合っているが、聞けば聞くほど新しい雇い主に疑いが増すばかり。

『貴族は嘘で、どこかの悪党なんじゃないか。
顔にキズある男は、どう見ても堅気かたぎじゃない!』

『首チョンパの方に?!
粗相でもして怒らせたらを、この世から消されてしまうかも』

怖がり震えて見える様子に、プリムローズが笑って伝える。

「勘違いしているでしょう。
雇い主はゲラン侯爵で、親父様は私の祖父クラレンス公爵。 
私は大陸にあるエテルネル国からヘイズに留学に来て、現在はゲラン家で厄介になっているの」

男女がホッとした表情を見せると、プリムローズたちを除く全員が笑いだす。
お腹も満足して話も終えると、軽くなった荷物を手に持ち席を立ち上がった。

やっと、お目当てのカメリアを観賞し散策することなるのだった。

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