51 / 113
第3章 それぞれの巣立ち
第11話 去る者は日々に疎し
しおりを挟む
赤と白だけでなく、ピンクに混ざりあった色合いのカメリアも存在している。
それを見ながらプリムローズ立ちが歩いていくと、他の人たちから見たら異彩を放つ団体であった。
服装の質が明らかに違い、見た目もキラキラ髪に瞳も宝石のようだ。
誰もが道の真ん中を、何気なく譲って端に寄ってしまう。
「美しいですね。
ここでしか、カメリアは咲いてないそうですよ」
フレデリカ・チューダー侯爵令嬢はカメリアに手を伸ばし、自分の黒髪に赤いカメリアを飾りたい。
悪い誘惑に襲われて、手を引っ込めて誰か見ていないかと前後左右顔を動かした。
こんな愚かなことをしたら、罪人として捕まってしまう。
普通の花とは違い、国から大切に保護されている。
「いつでも来られると思って、私は今まで訪れてなかったの。
こんなに綺麗なら、毎年訪れたくなります」
「テレーシア様、同じ考えですわ。
ここに立っているだけで、幸せな気持ちになるんですもの」
「来年、また行きましょうよ」
フレデリカがこう言うと、釣られるようにヘイズのご令嬢たちが同時に答える。
全然接点がない三人は、プリムローズによって友情が芽生えた。
頑張ればいつでも行ける距離だと、行かないってあるあるだ。
『エテルネルに帰国したら、いつまたヘイズへ訪れる機会を持てるだろうか。
この時を心に刻み、忘れないようにしよう』
明るく笑い合う令嬢たちの中で、すこし寂しげに微笑んでいるプリムローズ。
一緒にいるだけで平民の男女は、肩身が狭くなり体が縮まってしまう。
同じ平民のメリーだが、こちらはもうすっかり貴族の世界に慣れていた。
気まずそうな態度に気づいたが、どうすれば傷つかないかとメリーは模索する。
繊細とは不似合いなギルが、自分より先に気を使ってくれた。
メリーはギルの時たま見せる優しさを、尊敬から愛情へ変化しているのに気づくのだった。
「お嬢だけでも目立つし、目を引くもんなぁ~。
ああして集まると、まるで大名行列みたいになっているぜ。
大人は大人同士で、後からひっそり付いていこうぜ」
「そう言えば、お二人はここへは初めて来たのですか?」
「はい、ずっと来てみたかったんです。
やっと、休暇が貰えたので…」
ギルとメリーは気まずそうに歩く男女に気さくに接しながら、前を歩くプリムローズたちを警護するように目を離さないでいた。
先を進んでいたプリムローズは、ライラたちから観光地になった由来を訊ねようとしていた。
「キレイなカメリアの花が、壁のように見事に植えてあります。
噂以上の美しさと、規模の大きさで驚きました。
観光など行く機会がなかったから、やっと来られて嬉しいわ」
私もですと、ヘイズの貴族令嬢たちはキャッキャと騒ぐ。
そんな時に、前方から大歓声があがる。
下って歩いてると前方から、大歓声と同時に拍手が鳴り響く。
プリムローズは、何事が起きたのかと不思議そうにする。
そちらに顔を向けると、若い男性がプロポーズしていた。
「あの人、告白を受けたのね!
あんなに大勢の中で、公開プロポーズしているわ。
まぁ~、なんてステキなの!」
テレーシアは興奮気味に、その場で1回転しながら胸に手を当てていた。
その姿に毒女と呼ばれし面影がない。
「勇気あるな。
私なら、照れてしまって出来ない」
「私も二人きりで誰もない場所でないと、うまく気持ちが伝えられないよ」
ベルナドッテ公爵嫡男ヨハンと、未来の国王になるだろうエリアスがどこか頬を赤らめて言う。
「オスモ様は、ここで私にしてくれますか?」
「それは、ちょっと」
この中で婚約しているライラが、婚約者のオスモの腕をとって甘えるように囁く。
そんな恋人たちの雰囲気をぶち壊し、プリムローズが無粋な質問をする。
「でもお話の中の男女は、愛を成就出来なかったのでしょう?!」
エテルネルで他国の彼女は、詳しい内容を知らない。
そのせいで、すぐにでも知りたがり聞きたがる
「プリムローズ様。
この話は、短く子供にも分かるように書かれております。
ですから、結ばれた内容になっています。
真実は、もっと劇的ですのよ」
「テレーシア様の仰る通りで、実は最後には結ばれてます」
「それ本当なの!?
どうやって、結ばれたかを教えて下さいな」
3人の令嬢たちは、視線を後ろから来るカップルに静かに向けた。
「戻って来ない恋人を、彼女は待ち続けました。
けれど、彼の船は遭難してしまったのです。
もう亡くなって、戻っては来ない。
身近にいる人たちは、いい加減諦めるように説得しました」
「彼女はどんな思いをされてたのかしら?
お辛かったでしょう」
話を知らないプリムローズは、周りの友人たちに聞いて感想を口にした。
長い話になるかもしれないと、メリーは気を利かせてる。
「ちょうど空いているテーブル席がございます。
お嬢様、皆さま。
座って話をされたら如何でしょうか?」
「そうしましょう。
おふたりは、ここで別行動しても構わないわよ」
「詳しく知らなかったので、私も話を聞きたいです」
「俺も!観光した場所がどんなところか知りたいぜ」
11人の団体は、ここで休憩を取ることにした。
ライラ、フレデリカ、テレーシアの令嬢たちは、カメリアの屋敷の話を始めるのである。
「あのお屋敷の持ち主は、大商会を立ち上げた商人でございます」
フレデリカが代表してそう話すだした。
屋敷の持ち主のまだ若かりし頃、付き合っていた女性がいた話から始まる。
「この仕事をやり遂げたら、俺と婚姻してくれないか?!」
小高い丘の上で、目の前にいる愛する者に自分の思いを告げる。
「ええ、お待ちします。
ですから、必ず無事に戻って来て下さい。
私の所へー!」
『本当にこの場所で、二人は愛を誓ってましたのね!』
プリムローズはテレーシアの話を聞いていて、当時の二人に思いを馳せていた。
「彼は彼女を残して、危険な航海へ旅立って行きました。
しかし、恋人たちに悲劇が訪れました」
目的地で商談が成立し、荷を積んで帰る帰路で嵐に巻き込まれてしまったのだ。
『荷を捨てないと、船が耐えられそうにない!』
彼は、嵐の中で苦渋の選択に迫られていた。
「命の方が大事だー!
全員がヘイズに生きて戻るのだ。
荷を…、積荷をー!
急いで、海に全部捨てるんだ!!」
責任者の彼は、莫大な損失を受けることを船員たちは知っていた。
荷物を捨てた船は、なんとか港へ辿り着くがー。
その地は、故郷の地でなく商談をした国だった。
新しい船を手に入れる為に、生き残った者たちはその国で働く。
それは、五年もの歳月を費やした。
「ヘイズにー。
国へ連絡は取れなかったの?
助けを呼びにー?!」
「当時、海の向こうは今よりも未開の地でした。
先人たちのお陰で、昔より安心して航海できている」
「そうそう、この話は三百年も前の話だ」
オスモとヨハンは、彼女に新たな情報をもたらした。
「えーーっ!
300年も前の話だったの!?
もうそれって、おとぎ話じゃない!」
「あの屋敷は、そんなに古かったんですね。
きっと、大切にされているから古さを感じさせなかったんだ」
プリムローズとエリアスの素直な反応に、フレデリカたちはクスッとつい笑う。
「戻って来ない恋人を、彼女は何年も待ち続けました。
彼の乗った船は遭難し、きっとこの世に居ないかもしれない。
気の毒だが諦めるようにと、周辺にいる人たちは彼女を説得します」
「その時、どんな気持ちをしてたのかしら?」
「さぁ、分かりません。
そんな彼女を支えたのが、共通の友人たち。
その中の一人の男性と、やがて婚姻されたのです」
「婚姻……、しちゃったんだ」
「結ばれなかったのね。
うん?あれっ?
最後は、結ばれたって仰ってませんでしたっけ?」
エリアスがそう言うと、プリムローズもしょんぼりしてから思い出して言い返した。
そう、エリアスもこの話を全く知らないうちの一人。
「それは後からわかります。
続きを話しますね。
五年かけて彼が彼女のもとへ戻ると、彼の代わりに友人がー。
それも、二人の間には子供までいらっしゃいました」
「子まで授かっていたの!?
それでなんで、最後に結ばれるのよ」
これではやり直しが出来ないんではと、プリムローズはますます不思議がる。
「それは、お相手と別れたから…。
もしくは、言いづらいですが、……して再婚したのではないでしょうか?」
「私もそう思いましたけど。
とても不謹慎で、私は口には出せませんでした」
彼女の中では純粋無垢な少年のままで、自分は成長が止まっているのだろうか。
逆らうと脱線しそうだ。
黒髪の立て巻きした髪を、クルクル指でもて遊ぶ。
フレデリカは、話の続きができずに不機嫌そうだった。
『まずい、早くこの場を乗り切ろう』
イヤな空気をエリアスは感じて、プリムローズに折れて謝罪した。
「つい、思いつきで喋ってしまいました。
人が耳にしたら、あまりいい言葉ではありませんね」
「エリアス様には、これから揚げ足を取る人が現れるかもしれませんわ」
自分が平然といつも口にしているのはお構いなしで、彼に母親みたいに細々と注意してくる。
傍観していた者は、お前が言える立場かと思っていたに違いない。
間を取り持ち、冷静にさせたのはギルであった。
「どうやら複雑な話みたいだ。
話し合って意見交換するのは、全部聞いてからにしよう」
珍しく良識あることを言うが、このメンバーでは無意味だった。
語り部のフレデリカは、何度も話を妨害されて、どこまで話したかを忘れそうになる。
「やっと、静かになりましたわね。
では、続きを話します。
彼女は罪悪感と今更の気持ちを、友人に漏らしていたそうですわ」
「無理もございません。
女性には、5年は長すぎます。
もう少し早く戻って来たら、婚姻しないで間に合っていたのかもしれません」
テレーシアは、自分の思った感情を言葉に素直に表す。
「絶望と嫉妬の複雑な気持ちのままに、彼は笑顔で祝福したそうです」
自分が損害を出した同額を持参して、一緒に遭難した仲間を連れ商会に訪れる。
誰もが海で命を失ったと考えていたので、幽霊が現れたのだと勘違いされるほどだった。
「嵐に遭いながらも、船員全員の命を最優先した彼の話を聞く。
聞き終わり感動した商会の代表は、また彼らを雇うことに決めました。
そのお金は受け取らず、彼らと分けるように言われたそうですわ」
フレデリカの話を聞いていた一同は、良かったと口々にだして頷き合う。
「複雑だよな。
責任者でなかったら、さっさと彼女の所へ向かったのかなぁ」
オスモは男の矜持と愛を天秤にかけた男の気持ちを、独り言のように疑問を投げかけた。
「私なら彼と同じことをした。
仲間たちを犠牲にして、責任逃れは出来ぬ」
ヨハンは未来の公爵を継ぐ者として、彼の気持ちが痛いほど解るのだ。
「それだけではありません。
彼は他国の商会と縁を持ち、前の商談よりも大きな利益を持って帰られたのです」
「立派な方です。
彼女を思いつつ、困難の中で人として大きくなったのですね」
「【去る者は日々に疎し】。
彼女は彼を死んだものと思い。
日々が過ぎ去る中で、彼を忘れていったのでしょうか」
ライラとテレーシアは同じ女性として、その時の心情を思いやる。
大人の4人は年下の彼らたちの会話に、それぞれの相手に重ね合わせる。
自分たちが本人だとしたら、どう接するだろう。
その後の主役たちの人生が、どのように進んでいくのか想像してみるのだった。
それを見ながらプリムローズ立ちが歩いていくと、他の人たちから見たら異彩を放つ団体であった。
服装の質が明らかに違い、見た目もキラキラ髪に瞳も宝石のようだ。
誰もが道の真ん中を、何気なく譲って端に寄ってしまう。
「美しいですね。
ここでしか、カメリアは咲いてないそうですよ」
フレデリカ・チューダー侯爵令嬢はカメリアに手を伸ばし、自分の黒髪に赤いカメリアを飾りたい。
悪い誘惑に襲われて、手を引っ込めて誰か見ていないかと前後左右顔を動かした。
こんな愚かなことをしたら、罪人として捕まってしまう。
普通の花とは違い、国から大切に保護されている。
「いつでも来られると思って、私は今まで訪れてなかったの。
こんなに綺麗なら、毎年訪れたくなります」
「テレーシア様、同じ考えですわ。
ここに立っているだけで、幸せな気持ちになるんですもの」
「来年、また行きましょうよ」
フレデリカがこう言うと、釣られるようにヘイズのご令嬢たちが同時に答える。
全然接点がない三人は、プリムローズによって友情が芽生えた。
頑張ればいつでも行ける距離だと、行かないってあるあるだ。
『エテルネルに帰国したら、いつまたヘイズへ訪れる機会を持てるだろうか。
この時を心に刻み、忘れないようにしよう』
明るく笑い合う令嬢たちの中で、すこし寂しげに微笑んでいるプリムローズ。
一緒にいるだけで平民の男女は、肩身が狭くなり体が縮まってしまう。
同じ平民のメリーだが、こちらはもうすっかり貴族の世界に慣れていた。
気まずそうな態度に気づいたが、どうすれば傷つかないかとメリーは模索する。
繊細とは不似合いなギルが、自分より先に気を使ってくれた。
メリーはギルの時たま見せる優しさを、尊敬から愛情へ変化しているのに気づくのだった。
「お嬢だけでも目立つし、目を引くもんなぁ~。
ああして集まると、まるで大名行列みたいになっているぜ。
大人は大人同士で、後からひっそり付いていこうぜ」
「そう言えば、お二人はここへは初めて来たのですか?」
「はい、ずっと来てみたかったんです。
やっと、休暇が貰えたので…」
ギルとメリーは気まずそうに歩く男女に気さくに接しながら、前を歩くプリムローズたちを警護するように目を離さないでいた。
先を進んでいたプリムローズは、ライラたちから観光地になった由来を訊ねようとしていた。
「キレイなカメリアの花が、壁のように見事に植えてあります。
噂以上の美しさと、規模の大きさで驚きました。
観光など行く機会がなかったから、やっと来られて嬉しいわ」
私もですと、ヘイズの貴族令嬢たちはキャッキャと騒ぐ。
そんな時に、前方から大歓声があがる。
下って歩いてると前方から、大歓声と同時に拍手が鳴り響く。
プリムローズは、何事が起きたのかと不思議そうにする。
そちらに顔を向けると、若い男性がプロポーズしていた。
「あの人、告白を受けたのね!
あんなに大勢の中で、公開プロポーズしているわ。
まぁ~、なんてステキなの!」
テレーシアは興奮気味に、その場で1回転しながら胸に手を当てていた。
その姿に毒女と呼ばれし面影がない。
「勇気あるな。
私なら、照れてしまって出来ない」
「私も二人きりで誰もない場所でないと、うまく気持ちが伝えられないよ」
ベルナドッテ公爵嫡男ヨハンと、未来の国王になるだろうエリアスがどこか頬を赤らめて言う。
「オスモ様は、ここで私にしてくれますか?」
「それは、ちょっと」
この中で婚約しているライラが、婚約者のオスモの腕をとって甘えるように囁く。
そんな恋人たちの雰囲気をぶち壊し、プリムローズが無粋な質問をする。
「でもお話の中の男女は、愛を成就出来なかったのでしょう?!」
エテルネルで他国の彼女は、詳しい内容を知らない。
そのせいで、すぐにでも知りたがり聞きたがる
「プリムローズ様。
この話は、短く子供にも分かるように書かれております。
ですから、結ばれた内容になっています。
真実は、もっと劇的ですのよ」
「テレーシア様の仰る通りで、実は最後には結ばれてます」
「それ本当なの!?
どうやって、結ばれたかを教えて下さいな」
3人の令嬢たちは、視線を後ろから来るカップルに静かに向けた。
「戻って来ない恋人を、彼女は待ち続けました。
けれど、彼の船は遭難してしまったのです。
もう亡くなって、戻っては来ない。
身近にいる人たちは、いい加減諦めるように説得しました」
「彼女はどんな思いをされてたのかしら?
お辛かったでしょう」
話を知らないプリムローズは、周りの友人たちに聞いて感想を口にした。
長い話になるかもしれないと、メリーは気を利かせてる。
「ちょうど空いているテーブル席がございます。
お嬢様、皆さま。
座って話をされたら如何でしょうか?」
「そうしましょう。
おふたりは、ここで別行動しても構わないわよ」
「詳しく知らなかったので、私も話を聞きたいです」
「俺も!観光した場所がどんなところか知りたいぜ」
11人の団体は、ここで休憩を取ることにした。
ライラ、フレデリカ、テレーシアの令嬢たちは、カメリアの屋敷の話を始めるのである。
「あのお屋敷の持ち主は、大商会を立ち上げた商人でございます」
フレデリカが代表してそう話すだした。
屋敷の持ち主のまだ若かりし頃、付き合っていた女性がいた話から始まる。
「この仕事をやり遂げたら、俺と婚姻してくれないか?!」
小高い丘の上で、目の前にいる愛する者に自分の思いを告げる。
「ええ、お待ちします。
ですから、必ず無事に戻って来て下さい。
私の所へー!」
『本当にこの場所で、二人は愛を誓ってましたのね!』
プリムローズはテレーシアの話を聞いていて、当時の二人に思いを馳せていた。
「彼は彼女を残して、危険な航海へ旅立って行きました。
しかし、恋人たちに悲劇が訪れました」
目的地で商談が成立し、荷を積んで帰る帰路で嵐に巻き込まれてしまったのだ。
『荷を捨てないと、船が耐えられそうにない!』
彼は、嵐の中で苦渋の選択に迫られていた。
「命の方が大事だー!
全員がヘイズに生きて戻るのだ。
荷を…、積荷をー!
急いで、海に全部捨てるんだ!!」
責任者の彼は、莫大な損失を受けることを船員たちは知っていた。
荷物を捨てた船は、なんとか港へ辿り着くがー。
その地は、故郷の地でなく商談をした国だった。
新しい船を手に入れる為に、生き残った者たちはその国で働く。
それは、五年もの歳月を費やした。
「ヘイズにー。
国へ連絡は取れなかったの?
助けを呼びにー?!」
「当時、海の向こうは今よりも未開の地でした。
先人たちのお陰で、昔より安心して航海できている」
「そうそう、この話は三百年も前の話だ」
オスモとヨハンは、彼女に新たな情報をもたらした。
「えーーっ!
300年も前の話だったの!?
もうそれって、おとぎ話じゃない!」
「あの屋敷は、そんなに古かったんですね。
きっと、大切にされているから古さを感じさせなかったんだ」
プリムローズとエリアスの素直な反応に、フレデリカたちはクスッとつい笑う。
「戻って来ない恋人を、彼女は何年も待ち続けました。
彼の乗った船は遭難し、きっとこの世に居ないかもしれない。
気の毒だが諦めるようにと、周辺にいる人たちは彼女を説得します」
「その時、どんな気持ちをしてたのかしら?」
「さぁ、分かりません。
そんな彼女を支えたのが、共通の友人たち。
その中の一人の男性と、やがて婚姻されたのです」
「婚姻……、しちゃったんだ」
「結ばれなかったのね。
うん?あれっ?
最後は、結ばれたって仰ってませんでしたっけ?」
エリアスがそう言うと、プリムローズもしょんぼりしてから思い出して言い返した。
そう、エリアスもこの話を全く知らないうちの一人。
「それは後からわかります。
続きを話しますね。
五年かけて彼が彼女のもとへ戻ると、彼の代わりに友人がー。
それも、二人の間には子供までいらっしゃいました」
「子まで授かっていたの!?
それでなんで、最後に結ばれるのよ」
これではやり直しが出来ないんではと、プリムローズはますます不思議がる。
「それは、お相手と別れたから…。
もしくは、言いづらいですが、……して再婚したのではないでしょうか?」
「私もそう思いましたけど。
とても不謹慎で、私は口には出せませんでした」
彼女の中では純粋無垢な少年のままで、自分は成長が止まっているのだろうか。
逆らうと脱線しそうだ。
黒髪の立て巻きした髪を、クルクル指でもて遊ぶ。
フレデリカは、話の続きができずに不機嫌そうだった。
『まずい、早くこの場を乗り切ろう』
イヤな空気をエリアスは感じて、プリムローズに折れて謝罪した。
「つい、思いつきで喋ってしまいました。
人が耳にしたら、あまりいい言葉ではありませんね」
「エリアス様には、これから揚げ足を取る人が現れるかもしれませんわ」
自分が平然といつも口にしているのはお構いなしで、彼に母親みたいに細々と注意してくる。
傍観していた者は、お前が言える立場かと思っていたに違いない。
間を取り持ち、冷静にさせたのはギルであった。
「どうやら複雑な話みたいだ。
話し合って意見交換するのは、全部聞いてからにしよう」
珍しく良識あることを言うが、このメンバーでは無意味だった。
語り部のフレデリカは、何度も話を妨害されて、どこまで話したかを忘れそうになる。
「やっと、静かになりましたわね。
では、続きを話します。
彼女は罪悪感と今更の気持ちを、友人に漏らしていたそうですわ」
「無理もございません。
女性には、5年は長すぎます。
もう少し早く戻って来たら、婚姻しないで間に合っていたのかもしれません」
テレーシアは、自分の思った感情を言葉に素直に表す。
「絶望と嫉妬の複雑な気持ちのままに、彼は笑顔で祝福したそうです」
自分が損害を出した同額を持参して、一緒に遭難した仲間を連れ商会に訪れる。
誰もが海で命を失ったと考えていたので、幽霊が現れたのだと勘違いされるほどだった。
「嵐に遭いながらも、船員全員の命を最優先した彼の話を聞く。
聞き終わり感動した商会の代表は、また彼らを雇うことに決めました。
そのお金は受け取らず、彼らと分けるように言われたそうですわ」
フレデリカの話を聞いていた一同は、良かったと口々にだして頷き合う。
「複雑だよな。
責任者でなかったら、さっさと彼女の所へ向かったのかなぁ」
オスモは男の矜持と愛を天秤にかけた男の気持ちを、独り言のように疑問を投げかけた。
「私なら彼と同じことをした。
仲間たちを犠牲にして、責任逃れは出来ぬ」
ヨハンは未来の公爵を継ぐ者として、彼の気持ちが痛いほど解るのだ。
「それだけではありません。
彼は他国の商会と縁を持ち、前の商談よりも大きな利益を持って帰られたのです」
「立派な方です。
彼女を思いつつ、困難の中で人として大きくなったのですね」
「【去る者は日々に疎し】。
彼女は彼を死んだものと思い。
日々が過ぎ去る中で、彼を忘れていったのでしょうか」
ライラとテレーシアは同じ女性として、その時の心情を思いやる。
大人の4人は年下の彼らたちの会話に、それぞれの相手に重ね合わせる。
自分たちが本人だとしたら、どう接するだろう。
その後の主役たちの人生が、どのように進んでいくのか想像してみるのだった。
21
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる