無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第3章  それぞれの巣立ち

第12話 愛、屋烏に及ぶ

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 机の上には、外国からの手紙や書類が山のように積まれている。
ひとつひとつ、仕事を誠実にこなしてきた成功と呼ぶものでもあった。
それに目を通し、仕事が一段落すると、また未練がましく彼女の顔が頭に浮かんできた。
ある程度、予想はしていた。
しかし、自分を待ってくれているのを期待していたのだ。
彼女をいつか忘れるために、今日も仕事一筋で暮らす日々。

表面には感情を出さない彼の様子を、心配げに見守っていた人たちがいる。
その中には働いている経営者の一人娘で、後継ぎになる長女であった。

『一緒に働いていると気になって、彼を目で追ってしまうわ。
もしかしたら、私はー。
彼を好きなのかしら?』

一心不乱に父の片腕として働いてくれ、知識不足な自分にも、丁寧にあきないの仕方を教えてもらっている。
仕事を通して付き合ううちに、いつしか気付かない間に好感を持つようになっていた。

「娘の熱い視線に気づいたのは、彼ではなく令嬢の父親でした。
自分の後継ぎ相応ふさわしいのは、彼だと前々から目をつけていたそうです」

自分の中では、妹のような感情しかない令嬢。
しかし、恩義ある父親から婚姻こんいんを懇願されてしまい困ってしまう。

「彼と令嬢は、すこし年齢が離れていたそうです。
それに彼は未練が残っていた時期でした。
令嬢とのことは、かなり悩まれていたのではと推測できます」

「フレデリカ様、ふたりはどうなりましたか?
彼女は、彼の過去を知っていましたのでしょう」

思わずプリムローズは、語ってくれていたフレデリカに素直に訊いてくる。

「あくまでも想像ですけど、知っていたと思います。
仕事場が一緒なのです。
本人からでなくとも、父親から彼の話は聞かされていたと思いますよ。
そんな訳ありの男性を、令嬢は気になって見続けていたのでしょう」

「こんな話を聞いたら、誰だって可哀想に思うものです。
私だって、彼を色眼鏡で見てしまうわ。
皆さまも、そう思いますでしょう?!」

赤毛のライラ・へーディン侯爵令嬢は、女性たちに持論の同意を求める。

「でも、結局は商会の娘と婚姻したんだ。
恩義ある人の娘だし、彼からは断れなかったかもしれない。
働いていた商会の実権を、手に入れられるチャンスだしな」

「ヨハン様!
それは、貴方個人の憶測ですよね。
最初はそうでも、心が通じあえた可能性だってあります。
一概にそうだと、決めつけないでください」

父が元王族だったとしても、伯爵令嬢が公爵令息をバッサリと切り捨てた。
驚くほどに肝が据わっていると、同じ身分の公爵令息のオスモは目を大きくする。

『セント・ジョン学園の三大悪女の中で、一番手と称えられただけある。
婚約破棄請負人。
水仙すいせんの毒女、テレーシア・パーレンの名は伊達ではない』

請負人の真実は不誠実な話しをして、その相手が自滅しただけだった。
評判を自分で調査して暴露していたので、破棄した方には裏では感謝されていた。

「うっ!!
確かに、個人の考えだ。
パーレン嬢も、本人じゃないではない。
それなら、君も憶測になるな」

「ですが、話の主役たちが愛し合ったから…。
この地が、人々から愛されているのです」

ライラとフレデリカは、自分達の気持ちを代弁した彼女にパチパチと拍手を送る。
父親に母親と婚姻する前に恋人がいたテレーシアは、この話には敏感に反応してヨハンの考えを否定した。
気まずくなって欲しくないと思っていたら、冷静な口調で割り込む女性の声がー。

「別な考えですが、婚姻するまで互いに会ったこともない場合もあります。
何を言いたいかと言いますと、それを受け入れるか。
出来ないかは、当人たちの気持ちが大事です。
ふたりで、愛は育てていけると思いますわ」

同じ毒女と呼ばれていたフレデリカの主旨には、プリムローズたちの胸が熱くなった。

「私たちがそうだよね。
親たちが決めた婚姻でも、幼い頃から出会って仲を深めてきたからね。
ライラ、そうだろう」

「言わなくてもお分かりになるでしょう。
もう、オスモ様ったら」

「あーあ~、聞いてられないわ。
ハイハイ、お話が終わってからイチャイチャしてね。
フレデリカ様、続きをお願いします」

プリムローズが途中でフレデリカの話を中断させ、振り回してから今度は話を急かす。
よくありそうな恋愛の芽生めばえ方だと、プリムローズ以外の10名は黙ってうなづく。
     

    結ばれなかった男女は、それぞれの伴侶はんりょて子供もさずかっていた。

「かつては愛を交わした相手。夫婦になれぬとも、友人として親交を続けたと伝えられてます。
相手の方々も、変な疑問を持たずに友好関係を築きました」

「ふ~ん、互いに夫婦円満だったんだ。
おお、良かったな。
安心したぜ!」

ギルは気にしていたのか、スッキリした口調で話す。
クスクス笑う女性陣に、ギルは何で笑うと口をとがらせる。

「時は過ぎ去り、歳を取る過程かていで悲しい事が起きました。
お互いの相手が、お亡くなりになってしまったのです。
先に亡くなったのは、一番お若い商会の娘でした」

「気の毒に……。
また、彼はひとり残されてしまわれたのね」

テレーシアは持っていたハンカチをグッと握りしめて言うと、女性たちからため息が漏れた。

カメリアの花は、遠い東の国から渡ってきた花。
彼が長く待たせた彼女へ、愛のあかしとして持って帰った花。

「捨てられずにこの屋敷に植えられて、夫婦が大事にされてました。
子供たちも、やがて巣立ち。
この屋敷に、彼がひとりで暮らしておりました」

ライラはフレデリカの話に、ある言葉を口に出してつぶやいていた。

「【愛、屋鳥おくうおよぶ】。
意味は人を愛すれば、その人が住む家の屋根にいる鳥からすまで好きになるです」

ライラに反応するように婚約者のオスモは、彼女の手に自分の手を重ねて言う。

「彼は夫人との思い出の屋敷から、きっと離れたくなかったんだね」

意味がよく理解できない者たちに、冷静に解説するプリムローズ。

「愛する人に関係する全ての物が、好きになることのたとえです」

やがて彼女の夫が亡くなる前に、彼は妻に遺言ゆいごんを残した。

「私が亡くなったら、彼と幸せになりなさい。
前から先に亡くなった彼の奥様と、冗談でこう話していたんだ」

もし、二人が残ってしまったら、婚姻して愛の誓いを果たして欲しいと。

「うっ、おぉー~!
俺、ダメなんだよ。
こういう話、弱いんだ。
イイやつだったんだな~。
奪ったくせに、最後に元カレに返してやるのか」

ボロクソに貶してから持ち上げては、見かけの態度からは想像できない。堪えていた涙を滝のように流すている、カップルの男性。
涙もろい彼に、恋人は彼の目をハンカチで拭ってあげていた。
男女が逆転した方が、絵柄はしっくりくる。
これには、周りも微妙な空気になってしまうのだ。

「残された二人は、互いに友人として家を訪れる日々。
子供らも、二人の婚姻には賛成してました。
最初から、結ばれるはずの男女でしたからね」

周りのすべての人たちは、彼らの婚姻に反対はしなかった。
しかし、頑なに夫婦にはならなかったのだ。
彼女も歳を取るごとに、この丘の屋敷を訪れるのも大変になってきていた。

「婚姻はしなくても、一緒に住んだらどうだと親族が提案ていあんしたそうよ。
誰もとがめたりはしないからと、そう仰って周りは後押したそうです」

こうしてカメリアの花たちを大切に育てながら、晩年を静かに過ごす。
やがて、二人もこの世から旅立ち去っていった。

「だからなのね。
たくさんの人々に愛されていて、大切にされている。
カメリアのご加護かごの意味が、話を聞いて理解できました」

フレデリカの話を終わると、プリムローズは立ち上がり天を見上げて感想をべた。

「素晴らしい話を聞かせて頂き、ありがとうございます。
こんな由来があるとは、思っていませんでした」

エリアスが、長い話を聞かせてくれた彼女にお礼を述べる。

「フレデリカ様、話してくれて有り難うございます。
話を聞き、カメリアが一層いっそうより美しく見えますわ」

プリムローズの温かみのある言葉に、どこかしんみりした雰囲気からパッと明るくなった。

ギルとメリーは話を聞いて、ともに相手を思いやる感情が増してきた。
他のカップルたちは、もっと親密に熱々ぎみになっている。

壁のように隙間なく咲いている満開なカメリアの花を見つつ、一行いっこうはまた緩やかな坂を下っていく。


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