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第4章 騎士道を学べ
第10話 同類相憐れむ
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食器がカチャカチャと鳴る音と、それを消すような話し声はなにも知らない新規客。
クレーム事件の決着を見届けるために、興味本位で居残っている常連客。
自分たちのお喋りより、これから起きることに関心がいく。
異なった二つの客層に、ハッキリと分かれていた。
先頭を歩く男性の後を、従業員たちが次々ついて歩く。
「あれを見てよ。
思ったより早く、結果が出たようね」
「な~んだ、つまんない。
やはり、店側の落ち度で手打ちようだわ」
「この店を好きなんだけど、評判がまた悪くなってしまう」
愛着のある常連客たちは、店の信頼がなくなりそうで心配になる。
異様な光景に、知らない客までも注目。
「なにがあったのかしら?」
「身分の高い方でも、店にお見えになったのかもよ。
あの銀髪の方、まるで王女様みたい」
好き勝手に噂して、プリムローズたちの席に近寄る従業員たちを眺める。
「ねっ、ロッタ。
あのウェイトレスさんは、デザートを持ってきてくれた人よね!?」
「ああそうだよ、ジャンヌ。
何処にいたんだろう?」
明るく仕事していたのに、ガックシ両肩を落とし項垂れて列の中にいる。
プリムローズたちへ深々と一礼すると、あの男性が神妙な面持ちで声をかけてきた。
「お客様、当店の対応が不十分のせいでご不快をおかけしました。
従業員一同、お詫び致します」
「「「お客様、たいへん申し訳ありませんでした!!!」」」
ここまで低姿勢で謝罪され、許しませんとは流石に言いづらい。
憮然とするプリムローズたちと違って、「そんなに謝らなくてもいいですから」とジャンヌはついつい言い出してしまう。
「こんなに謝ってくれているから、許してあげてもいいでしょう!?」
「でも、疑われたのよ。
私たちの注文書は、見つかったのよね?」
「そうそう、どこで発見したんだ。
どうしてこうなったのか。
私は経緯を知りたい!」
デザートを出してくれた担当したウェイトレスを、ロッタは睨みながら返事を促す。
「私が最後まで、お客様を接客しなかったから悪かったのです。
言い訳になりますがー」
最初に対応したウェイトレスから聞かされたのは、勤務時間が終わりかけていて別の人に後の接客を頼んだという説明。
「この件の詳細は、私から説明させて頂きます。
お客様のお茶をご用意致しましたので、こちらへお越し下さい」
いくら場所を代えても、会話を見聞きした者の口は止められないであろう。
口の中がカラカラで、プリムローズは限界である。
「わかった、もういいです。
お茶を頂くとしよう。
プリムローズ嬢もいいだろう」
立ち上がるロッタに見下ろされるて、プリムローズはロッタとジャンヌの圧に負けた。
「時間もありませんし、今回だけは謝罪を受け取りましょう」
プリムローズのツンツンして言う姿に、ジャンヌは素直ではないわねと思う。
ロッタはあんなに騒ぎ立てていたのに、別にまあいいかと適当に終わらすようだ。
どうも、ロッタとプリムローズと同じで気分屋の性格らしい。
案内された場所は、さんさんと日差しが降りそそぎ。
2種類の濃淡のレンガ造りの塀と、整えられた芝生は青々している。
周りには南国の鮮やかな花が咲いて、白を基調としたテーブルセットが映えて見えた。
「御用意しましたので、どうぞお飲みください。
こちらは、私からの気持ちです」
こう述べ手で指し示す物は、豪華な見映えよい三段構え。
下にはスコーンと真ん中には焼き菓子、上には小さなケーキを数種類。
待ち望んでいたお茶は、普通の茶葉より格段に良いものだ。
花柄のカップからは、湯気が立ち上っていた。
「綺麗にされていて、素敵な場所ね。
どうして、ここにお客様を入れないのですか?
庭だけにしているのは、じつに勿体ないわ」
プリムローズは思った事を言うと、にこやかだった男性の顔が一瞬だけ不味いものを食べたような表情になる。
『無銭飲食の現場は、もしやこの場所だった!?』
気づいた時は、もう既に遅い。
言ってから気まずく、プリムローズは僅かに唸り声をあげた。
「以前はこちらでも、たくさんのお客様が楽しまれておりました。
残念ですが、現在は諸事情で閉鎖してます」
『『『ああ、やはり…』』』
同時に、三人はやってしまったと思った。
迷いない流れる所作で、プリムローズたちの空になったカップにお茶を注いでくれる。
その顔は先ほどとは違って、穏やかな笑みに変わっていた。
「美味しく淹れられているといいのですが、久し振りで緊張しております」
ずっと年上の方から言われて、ジャンヌがカップに口をつけてから美味しいと御礼を述べた。
「これは、嬉しい言葉です」
ティーボットの持ち方からして、プリムローズはかなりの実体験をこなしていると見た。
「手慣れているように感じますが、ウェイターもされていたのですか?」
「代々店を継ぐ者は、最低限全てをこなさなくてはなりません。
誰かが急に休んでも、その代わりに入れるようにです。
私の代で、5代目になります」
「それは、またすごい!
長く愛される店になるまで、たくさんの苦労もあったはずだ」
偉そうにロッタから言われても、彼は気にせず謙遜していた。
「いえ、まだまだですよ。
お客様を不快にさせてしまいました。
消えた注文書は、机と机の隙間に落ちておりました」
「まあ、そんな所にー。
たしか、ウェイトレス同士の引き継ぎがうまく出来なかったようでしたね」
疲労で早くあがりたいという気持ちが勝って、注文書を手渡しするのが決まりだった。
テーブルに置いたのでお願いって伝えたが、入ったばかりで忙しさに聞き逃してしまう。
注文書は、偶然にもあり得ない場所へ。
「互いに相手と意思疎通しないのは、よくあることです。
私たちも訓練ではどんなに時間がなくて、必ず顔を会わせて申し伝えをするのを学びます」
「それをすることで、互いの不安を払拭できるんだよ」
セント・ジョン軍学園に通っていると、ジャンヌたちは話を彼に付け加える。
「規律を学び守る君たちを、自分が疑うとは恥ずかしい。
何よりも責任者の私が、そんな目でお客様をみるようになってしまいました。
自分の従業員にも、悪い影響を与えてしまったようです」
売り上げと提供した品物の金額が、1年前から合わなくなったのが始まりだ。
最初は計算を間違ったか、残った品を従業員に持ち帰らせたのだろうと思っていた。
聞き取りして、従業員から否定されて気づく。
愛するお客様に、裏切られたのだとー。
「両方とも違って、無銭飲食をお客様にされていたのですね」
プリムローズは真実を導きだした時、どんなに彼はショックを受けただろう。
エテルネルでこれをされたら、自分ならどうなってしまうの。
「最初はそんなことはなかった。
何度もそう疑って、私たちは信じられなかったのです」
責任者として対処しなくてはと、彼は店で働きながら犯人を探す。
徹底的に客の様子を観察した。
「何が分かったのですか?」
プリムローズは同業者として食い付き、同じテーブルに居た二人も意識が引き寄せられていった。
「無銭飲食していた客がいた場所は、この中庭だったのです」
『そうだろうなぁ』と、彼女らはウンウンと相づちを打っていた。
「出入り口のある店内では、大勢の目がありますもの。
中庭として、どこから出て行かれたのでしょう」
ロッタは端にある小さな建物を見ながら、ここが怪しいと言うそぶりをする。
「おや、勘づきましたか。
あちらの建物は、化粧室で誰でも使用できます」
『『『危機管理がない』』』
堂々と席を外しても、お手洗いなら勘ぐる人はいないだろう。
腰くらいなら乗り越えて、木々の隙間から外へ逃げ出すのも可能だ。
「しかし、それならドレスが木の枝に引っ掛かって破れたりしないか?」
「偶然に、外で出くわす人もいるんじゃない?」
鋭いロッタの疑問に、プリムローズたちも反応した。
「化粧室の裏口に、出入り可能な扉があります。
日に何度も清掃するために、鍵をかけていませんでした」
「ん!?はぁ~?
それ、ダメじゃない。
簡単に食い逃げされちゃう」
「ここから逃げられていると、気がつくのが遅すぎました。
それからは、キチンと鍵をつけることにしたのです」
これは、国民性のせいなのか。
日常的にのんびりしていて、あまり人を疑わない気質のようだ。
その割には、海の向こうの外国には過敏になっていると感じていた。
「最初から、扉に鍵をかけていたら問題なかったのでは?
塀も二重にして、もっと高くすれば安心できると考えます」
手厳しいプリムローズを、今度はロッタがズケズケと言い過ぎだと諌める。
「君はそう言うが、ヘイズには善良な国民が多い。
女性客が大半を占めている中で、そんな悪事するとは思わない。
店側が油断してしまうのは、当然だと思うけどな」
「ロッタ先輩はそう申しますが、犯罪者を性別で差別するのは如何なものでしょうか!?
ヘイズは善良の国民が多いって申しますけど、どの国と比較しているんですか?」
島国で他国と隣接していない者に言われたくないと、プリムローズはロッタに反論する。
「細かいことを言わなくてもいいではないか。
君のそういうところが、たまに可愛くないと感じる」
「まあまあ、二人とも!
犯人はまだ捕まっていないから、こうして中庭に客を入れてないと思います。
どの国にも、悪人は必ず存在しますわ」
「私共の店が理由で、仲たがいをしないで下さい。
こちらのお嬢さんが言われた通りで、憲兵には突き出しておりません。
何人か怪しい方を捕まえて、その場で問い詰めました」
「確信があったから、問い詰めたのでしょう。
どうして、捕まえなかったのよ」
とことん追い詰めるプリムローズに、彼は追い詰められる気分になるのだった。
「着ていた服と髪の色、何より顔つきがそっくりでした。
店の出入り口から現場に行った時、中庭の外の道には彼女しか居なかった」
「彼女で決まりだな!」
「そうよねぇ~」
プリムローズも、証拠は十分で決まりと思った。
たがここで、彼が意外なことを言い出す。
「問い詰めた女性に、私たちは誤認だと否定されまして…。」
着ていた服の模様は、当時流行っていて挙って着てました。
それに店にいた時に、つけていなかったはずのショールと帽子をつけていたのです」
「欺くために、きっと変装したのよ。
それだけでも、見た目はガラリと変わりますもの」
「卑怯な!
そこまでして、お茶代を払いたくなかったのか」
悪事を働く愚か者を、ロッタたちは許せないと怒ってくれていた。
「無銭飲した品は、当店で高額なアフタヌーンティーセットだったのです。
これをされたら、1日の利益がぶっ飛んでしまいます」
「ええ、よく分かりますわ。
お茶は原価が安いけど、お菓子はそんなに利益がでないのよね」
「よくご存じでー。
《プリンセスの午後の甘い誘惑》は、1日限定5セットの目玉商品でした。
こちらは現在、メニューに載せておりません」
中庭と同じ理由で、無銭飲食されたから廃止したのだろう。
「【同類相憐れむ】」です。
同じような境遇にある者同士が、互いに親近感を覚えることを意味します。
私も祖国では店を経営しております。
貴方の複雑な心境は、手に取るように理解できます」
「もしや貴女はー。
エテルネルから留学に来られている。
プリムローズ・ド・クラレンス公爵令嬢ですか?」
名前を知っていた責任者に嬉しそうに微笑む彼女を、ロッタは白けた顔で見ていた。
それからのプリムローズは、態度をコロリと変えて責任者と話し出す。
「あら、バレてしまいましたか。
私って、そんなに有名人だったのかしら?
気づかない人が大半なのよ」
「店内でお見かけした時、よく感じが似た方だと思いました。
その方々は、クラレンス公爵夫妻でございます」
その瞬間、耳を切り裂くような驚きの声が中庭に響いた。
二人を無視して菓子を食べていたジャンヌとロッタ、大きな声に驚くと喉を詰まらせそうになっていた。
涙目になりながら、必死にお茶を流し込んだ後に咳き込んだ。
「えーえーー!!
お祖父様とおばあ様が、ここにいらっしゃったの!?」
「有り難いことに、気に入られたようで何度も足を運んで下さいました。
クラレンス公爵は、父の代からのお客様です」
「この店に通われていたのですか。
お祖父様、男性には珍しく甘党ですからね」
祖父母という意外な接点と、経営者としての悩みに共感して打ち解けていった。
店の経営は関係ないと、お菓子を味わうロッタとジャンヌだった。
しかし、これから彼女らの信念が揺らぐ話を耳に挟むのである。
クレーム事件の決着を見届けるために、興味本位で居残っている常連客。
自分たちのお喋りより、これから起きることに関心がいく。
異なった二つの客層に、ハッキリと分かれていた。
先頭を歩く男性の後を、従業員たちが次々ついて歩く。
「あれを見てよ。
思ったより早く、結果が出たようね」
「な~んだ、つまんない。
やはり、店側の落ち度で手打ちようだわ」
「この店を好きなんだけど、評判がまた悪くなってしまう」
愛着のある常連客たちは、店の信頼がなくなりそうで心配になる。
異様な光景に、知らない客までも注目。
「なにがあったのかしら?」
「身分の高い方でも、店にお見えになったのかもよ。
あの銀髪の方、まるで王女様みたい」
好き勝手に噂して、プリムローズたちの席に近寄る従業員たちを眺める。
「ねっ、ロッタ。
あのウェイトレスさんは、デザートを持ってきてくれた人よね!?」
「ああそうだよ、ジャンヌ。
何処にいたんだろう?」
明るく仕事していたのに、ガックシ両肩を落とし項垂れて列の中にいる。
プリムローズたちへ深々と一礼すると、あの男性が神妙な面持ちで声をかけてきた。
「お客様、当店の対応が不十分のせいでご不快をおかけしました。
従業員一同、お詫び致します」
「「「お客様、たいへん申し訳ありませんでした!!!」」」
ここまで低姿勢で謝罪され、許しませんとは流石に言いづらい。
憮然とするプリムローズたちと違って、「そんなに謝らなくてもいいですから」とジャンヌはついつい言い出してしまう。
「こんなに謝ってくれているから、許してあげてもいいでしょう!?」
「でも、疑われたのよ。
私たちの注文書は、見つかったのよね?」
「そうそう、どこで発見したんだ。
どうしてこうなったのか。
私は経緯を知りたい!」
デザートを出してくれた担当したウェイトレスを、ロッタは睨みながら返事を促す。
「私が最後まで、お客様を接客しなかったから悪かったのです。
言い訳になりますがー」
最初に対応したウェイトレスから聞かされたのは、勤務時間が終わりかけていて別の人に後の接客を頼んだという説明。
「この件の詳細は、私から説明させて頂きます。
お客様のお茶をご用意致しましたので、こちらへお越し下さい」
いくら場所を代えても、会話を見聞きした者の口は止められないであろう。
口の中がカラカラで、プリムローズは限界である。
「わかった、もういいです。
お茶を頂くとしよう。
プリムローズ嬢もいいだろう」
立ち上がるロッタに見下ろされるて、プリムローズはロッタとジャンヌの圧に負けた。
「時間もありませんし、今回だけは謝罪を受け取りましょう」
プリムローズのツンツンして言う姿に、ジャンヌは素直ではないわねと思う。
ロッタはあんなに騒ぎ立てていたのに、別にまあいいかと適当に終わらすようだ。
どうも、ロッタとプリムローズと同じで気分屋の性格らしい。
案内された場所は、さんさんと日差しが降りそそぎ。
2種類の濃淡のレンガ造りの塀と、整えられた芝生は青々している。
周りには南国の鮮やかな花が咲いて、白を基調としたテーブルセットが映えて見えた。
「御用意しましたので、どうぞお飲みください。
こちらは、私からの気持ちです」
こう述べ手で指し示す物は、豪華な見映えよい三段構え。
下にはスコーンと真ん中には焼き菓子、上には小さなケーキを数種類。
待ち望んでいたお茶は、普通の茶葉より格段に良いものだ。
花柄のカップからは、湯気が立ち上っていた。
「綺麗にされていて、素敵な場所ね。
どうして、ここにお客様を入れないのですか?
庭だけにしているのは、じつに勿体ないわ」
プリムローズは思った事を言うと、にこやかだった男性の顔が一瞬だけ不味いものを食べたような表情になる。
『無銭飲食の現場は、もしやこの場所だった!?』
気づいた時は、もう既に遅い。
言ってから気まずく、プリムローズは僅かに唸り声をあげた。
「以前はこちらでも、たくさんのお客様が楽しまれておりました。
残念ですが、現在は諸事情で閉鎖してます」
『『『ああ、やはり…』』』
同時に、三人はやってしまったと思った。
迷いない流れる所作で、プリムローズたちの空になったカップにお茶を注いでくれる。
その顔は先ほどとは違って、穏やかな笑みに変わっていた。
「美味しく淹れられているといいのですが、久し振りで緊張しております」
ずっと年上の方から言われて、ジャンヌがカップに口をつけてから美味しいと御礼を述べた。
「これは、嬉しい言葉です」
ティーボットの持ち方からして、プリムローズはかなりの実体験をこなしていると見た。
「手慣れているように感じますが、ウェイターもされていたのですか?」
「代々店を継ぐ者は、最低限全てをこなさなくてはなりません。
誰かが急に休んでも、その代わりに入れるようにです。
私の代で、5代目になります」
「それは、またすごい!
長く愛される店になるまで、たくさんの苦労もあったはずだ」
偉そうにロッタから言われても、彼は気にせず謙遜していた。
「いえ、まだまだですよ。
お客様を不快にさせてしまいました。
消えた注文書は、机と机の隙間に落ちておりました」
「まあ、そんな所にー。
たしか、ウェイトレス同士の引き継ぎがうまく出来なかったようでしたね」
疲労で早くあがりたいという気持ちが勝って、注文書を手渡しするのが決まりだった。
テーブルに置いたのでお願いって伝えたが、入ったばかりで忙しさに聞き逃してしまう。
注文書は、偶然にもあり得ない場所へ。
「互いに相手と意思疎通しないのは、よくあることです。
私たちも訓練ではどんなに時間がなくて、必ず顔を会わせて申し伝えをするのを学びます」
「それをすることで、互いの不安を払拭できるんだよ」
セント・ジョン軍学園に通っていると、ジャンヌたちは話を彼に付け加える。
「規律を学び守る君たちを、自分が疑うとは恥ずかしい。
何よりも責任者の私が、そんな目でお客様をみるようになってしまいました。
自分の従業員にも、悪い影響を与えてしまったようです」
売り上げと提供した品物の金額が、1年前から合わなくなったのが始まりだ。
最初は計算を間違ったか、残った品を従業員に持ち帰らせたのだろうと思っていた。
聞き取りして、従業員から否定されて気づく。
愛するお客様に、裏切られたのだとー。
「両方とも違って、無銭飲食をお客様にされていたのですね」
プリムローズは真実を導きだした時、どんなに彼はショックを受けただろう。
エテルネルでこれをされたら、自分ならどうなってしまうの。
「最初はそんなことはなかった。
何度もそう疑って、私たちは信じられなかったのです」
責任者として対処しなくてはと、彼は店で働きながら犯人を探す。
徹底的に客の様子を観察した。
「何が分かったのですか?」
プリムローズは同業者として食い付き、同じテーブルに居た二人も意識が引き寄せられていった。
「無銭飲食していた客がいた場所は、この中庭だったのです」
『そうだろうなぁ』と、彼女らはウンウンと相づちを打っていた。
「出入り口のある店内では、大勢の目がありますもの。
中庭として、どこから出て行かれたのでしょう」
ロッタは端にある小さな建物を見ながら、ここが怪しいと言うそぶりをする。
「おや、勘づきましたか。
あちらの建物は、化粧室で誰でも使用できます」
『『『危機管理がない』』』
堂々と席を外しても、お手洗いなら勘ぐる人はいないだろう。
腰くらいなら乗り越えて、木々の隙間から外へ逃げ出すのも可能だ。
「しかし、それならドレスが木の枝に引っ掛かって破れたりしないか?」
「偶然に、外で出くわす人もいるんじゃない?」
鋭いロッタの疑問に、プリムローズたちも反応した。
「化粧室の裏口に、出入り可能な扉があります。
日に何度も清掃するために、鍵をかけていませんでした」
「ん!?はぁ~?
それ、ダメじゃない。
簡単に食い逃げされちゃう」
「ここから逃げられていると、気がつくのが遅すぎました。
それからは、キチンと鍵をつけることにしたのです」
これは、国民性のせいなのか。
日常的にのんびりしていて、あまり人を疑わない気質のようだ。
その割には、海の向こうの外国には過敏になっていると感じていた。
「最初から、扉に鍵をかけていたら問題なかったのでは?
塀も二重にして、もっと高くすれば安心できると考えます」
手厳しいプリムローズを、今度はロッタがズケズケと言い過ぎだと諌める。
「君はそう言うが、ヘイズには善良な国民が多い。
女性客が大半を占めている中で、そんな悪事するとは思わない。
店側が油断してしまうのは、当然だと思うけどな」
「ロッタ先輩はそう申しますが、犯罪者を性別で差別するのは如何なものでしょうか!?
ヘイズは善良の国民が多いって申しますけど、どの国と比較しているんですか?」
島国で他国と隣接していない者に言われたくないと、プリムローズはロッタに反論する。
「細かいことを言わなくてもいいではないか。
君のそういうところが、たまに可愛くないと感じる」
「まあまあ、二人とも!
犯人はまだ捕まっていないから、こうして中庭に客を入れてないと思います。
どの国にも、悪人は必ず存在しますわ」
「私共の店が理由で、仲たがいをしないで下さい。
こちらのお嬢さんが言われた通りで、憲兵には突き出しておりません。
何人か怪しい方を捕まえて、その場で問い詰めました」
「確信があったから、問い詰めたのでしょう。
どうして、捕まえなかったのよ」
とことん追い詰めるプリムローズに、彼は追い詰められる気分になるのだった。
「着ていた服と髪の色、何より顔つきがそっくりでした。
店の出入り口から現場に行った時、中庭の外の道には彼女しか居なかった」
「彼女で決まりだな!」
「そうよねぇ~」
プリムローズも、証拠は十分で決まりと思った。
たがここで、彼が意外なことを言い出す。
「問い詰めた女性に、私たちは誤認だと否定されまして…。」
着ていた服の模様は、当時流行っていて挙って着てました。
それに店にいた時に、つけていなかったはずのショールと帽子をつけていたのです」
「欺くために、きっと変装したのよ。
それだけでも、見た目はガラリと変わりますもの」
「卑怯な!
そこまでして、お茶代を払いたくなかったのか」
悪事を働く愚か者を、ロッタたちは許せないと怒ってくれていた。
「無銭飲した品は、当店で高額なアフタヌーンティーセットだったのです。
これをされたら、1日の利益がぶっ飛んでしまいます」
「ええ、よく分かりますわ。
お茶は原価が安いけど、お菓子はそんなに利益がでないのよね」
「よくご存じでー。
《プリンセスの午後の甘い誘惑》は、1日限定5セットの目玉商品でした。
こちらは現在、メニューに載せておりません」
中庭と同じ理由で、無銭飲食されたから廃止したのだろう。
「【同類相憐れむ】」です。
同じような境遇にある者同士が、互いに親近感を覚えることを意味します。
私も祖国では店を経営しております。
貴方の複雑な心境は、手に取るように理解できます」
「もしや貴女はー。
エテルネルから留学に来られている。
プリムローズ・ド・クラレンス公爵令嬢ですか?」
名前を知っていた責任者に嬉しそうに微笑む彼女を、ロッタは白けた顔で見ていた。
それからのプリムローズは、態度をコロリと変えて責任者と話し出す。
「あら、バレてしまいましたか。
私って、そんなに有名人だったのかしら?
気づかない人が大半なのよ」
「店内でお見かけした時、よく感じが似た方だと思いました。
その方々は、クラレンス公爵夫妻でございます」
その瞬間、耳を切り裂くような驚きの声が中庭に響いた。
二人を無視して菓子を食べていたジャンヌとロッタ、大きな声に驚くと喉を詰まらせそうになっていた。
涙目になりながら、必死にお茶を流し込んだ後に咳き込んだ。
「えーえーー!!
お祖父様とおばあ様が、ここにいらっしゃったの!?」
「有り難いことに、気に入られたようで何度も足を運んで下さいました。
クラレンス公爵は、父の代からのお客様です」
「この店に通われていたのですか。
お祖父様、男性には珍しく甘党ですからね」
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しかし、これから彼女らの信念が揺らぐ話を耳に挟むのである。
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とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
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